COVID後遺症はワクチン接種で防げますか? (コホート研究; Nature Medicine 2022)

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COVID後遺症の発症リスクに対するワクチンの効果はどのくらい?

SARS-CoV-2感染後の急性期以降の後遺症(post-acute sequelae of COVID-19, Long COVIDとも呼ばれる)は、その特徴が明らかになっています(PMID: 33887749)。ワクチン接種者がブレイクスルー感染(Breakthrough SARS-CoV-2感染)(PMID: 34506735PMID: 34077641)の結果、COVID-19と診断されるケースが増えています。しかし、ブレイクスルー感染した人が急性期以降の後遺症を経験するかどうかは明らかではありません。この知識のギャップに対処することは、公衆衛生政策および急性期以降のCOVID-19ケア戦略を導くために重要であると考えられます。

そこで今回は、米国退役軍人省の電子医療データベースの広さと深さを活用して、COVID-19ブレイクスルー患者が急性期後の後遺症を発症するかどうか検証したコホート研究の結果をご紹介します。本試験では、ワクチン接種終了後にブレイクスルー感染を経験した集団のコホート全体と急性期の医療環境別(つまり、陽性反応後最初の30日間に入院しなかったか、入院したか、集中治療室(ICU)に入院したか)に、あらかじめ指定した転帰のリスクと6ヵ月間の負担の特徴を明らかにしています。また、ブレイクスルー感染とSARS-CoV-2感染者、ワクチン接種歴のない集団のリスクの大きさを比較評価し、ブレイクスルー感染による入院者と季節性インフルエンザで入院した人を分けて評価していました。

試験結果から明らかになったことは?

ブレイクスルー患者
vs. 同時期の対照(感染後6ヵ月の時点)
ハザード比
(95%CI)
死亡HR 1.75
(95%CI 1.59〜1.93
急性期以降の後遺症HR 1.50
(95%CI 1.46〜1.54

感染後6ヵ月の時点で、同時期の対照群と比較して、ブレイクスルー患者は、発症後30日を超えて、死亡(ハザード比(HR) 1.75、95%信頼区間(CI)1.59〜1.93)および心血管、凝固・血液、胃腸、腎臓、精神衛生、代謝、筋骨格および神経障害を含む急性期以降の後遺症(HR 1.50、95%CI 1.46〜1.54)のリスクが高いことが示されました。この結果は、感染歴とワクチン接種を受けた対照群との比較でも一貫しましていた。

ブレイクスルー患者
vs. ワクチン接種歴のないSARS-CoV-2感染者
ハザード比
(95%CI)
死亡HR 0.66
(95%CI 0.58〜0.74
急性期以降の後遺症HR 0.85
(95%CI 0.82〜0.89

ワクチン接種歴のないSARS-CoV-2感染者(113,474例)と比較して、ブレイクスルー感染者では死亡(HR 0.66、95%CI 0.58〜0.74) および急性期以降の後遺症(HR 0.85、95%CI 0.82〜0.89)の発生リスクがより低いことが示されました。

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Withコロナ時代となり、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)とどのように共生していくかが課題となっています。そのための戦略の一つとしてワクチンがありますが、ワクチンを接種してもCOVID-19を発症する集団も認められています(ブレイクスルー感染)。SARS-CoV-2感染後の急性期以降の後遺症(post-acute sequelae of COVID-19, Long COVIDとも呼ばれる)とブレイクスルー感染との関連性についての検証は充分ではありません。

さて、本試験結果によれば、SARS-CoV-2感染前のワクチン接種は急性期以降において部分的な防御にしかならないことが示唆されました。やはりCOVID-19を発症してしまうと、非感染者と比較して、死亡およびCOVID後遺症のリスクが高くなるようです。一方、ワクチン接種歴のないSARS-CoV-2感染者と比較して、ブレイクスルー感染者では死亡およびCOVID後遺症の発生リスクがより低いことが示されました。したがって、ワクチン接種により得られる恩恵は、COVID後遺症に対しても大きいと考えられます。とはいえ、本試験はコホート研究であり、あくまでも相関関係が示されたに過ぎません。より長期的なデータも含めて追試が求められます。

続報に期待。

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✅まとめ✅ SARS-CoV-2感染前のワクチン接種は急性期以降において部分的な防御にしかならないことが示唆されたものの、ワクチン接種歴のないSARS-CoV-2感染者と比較して、ブレイクスルー感染者では死亡およびCOVID後遺症の発生リスクがより低いことが示された。

根拠となった試験の抄録

背景:重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2型(SARS-CoV-2)感染の急性期後の後遺症(long COVIDとも呼ばれる)が報告されている。ワクチン接種集団のSARS-CoV-2ブレイクスルー感染(BTI)が急性期後の後遺症を引き起こすかどうかは明らかではない。

方法:本研究では、米国退役軍人省の全国医療データベースを用いて、BTI患者33,940例と、SARS-CoV-2感染の証拠がない複数の対照者(同時期の対照 4,983,491例、感染歴 5,785,273例、ワクチン接種者 2,566,369例)をコホート化し、その結果を報告した。

結果:感染後6ヵ月の時点で、同時期の対照群と比較して、BTI患者は、発症後30日を超えて、死亡(ハザード比(HR) 1.75、95%信頼区間(CI)1.59〜1.93)および心血管、凝固・血液、胃腸、腎臓、精神衛生、代謝、筋骨格および神経障害を含む急性期以降の後遺症(HR 1.50、95%CI 1.46〜1.54)のリスクが高いことが示された。この結果は、感染歴とワクチン接種を受けた対照群との比較でも一貫していた。ワクチン接種歴のないSARS-CoV-2感染者(113,474例)と比較して、BTI感染者は死亡(HR 0.66、95%CI 0.58〜0.74) および急性期以降の後遺症(HR 0.85、95%CI 0.82〜0.89)の発生リスクがより低いことが示された。

考察:以上のことから、SARS-CoV-2感染前のワクチン接種は急性期以降において部分的な防御にしかならないことが示唆される。したがって、唯一の緩和戦略としてワクチン接種に依存しても、SARS-CoV-2感染による長期的な健康被害を最適に軽減できない可能性がある。今回の知見は、BTIの一次予防のための戦略を引き続き最適化する必要性を強調するとともに、BTI感染者の急性期後のケアパスの開発の指針となるであろう。

引用文献

Long COVID after breakthrough SARS-CoV-2 infection
Ziyad Al-Aly et al.
Nature Medicine (2022) Published: 
— 続きを読む www.nature.com/articles/s41591-022-01840-0

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