心不全入院後の退院患者におけるトラセミドとフロセミド、どちらが死亡リスクを低下できますか?(Open-RCT; TRANSFORM-HF試験; JAMA. 2023)

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ループ利尿薬であるトルセミド(トラセミド)とフロセミドはどちらが優れているのか?

フロセミドは心不全患者に最もよく使用されるループ利尿薬ですが、作用時間の違いや心不全入院リスク低減効果の観点からトルセミド(トラセミド)の有用性を示唆する研究もあります。しかし、非盲検や観察研究などの制限があり、質の高いランダム化比較試験の実施が求められます。

そこで今回は、心不全で入院した患者において、トルセミドがフロセミドと比較して死亡率を低下させるかどうかを明らかにしたTRANSFORM-HF試験の結果をご紹介します。

TRANSFORM-HF試験は、米国の60施設の病院で心不全(駆出率を問わない)で入院した2,859例の参加者を募集したオープンラベルのプラグマティック・ランダム化試験です。募集は2018年6月から2022年3月まで行われ、死亡については30ヵ月、入院については12ヵ月までフォローアップが行われました。フォローアップデータ収集の最終日は2022年7月でした。本試験において、トルセミド(n=1,431)またはフロセミド(n=1,428)によるループ利尿薬戦略を治験責任者が選択した用量で実施されました。

本試験の主要アウトカムはtime-to-event解析で全死亡とされました。副次的アウトカムは5つあり、総死亡または総入院、12ヵ月間の総入院が最も高い順位で評価されました。事前に主要仮説として、トルセミドはフロセミドと比較して全死亡を20%減少させると設定されました。

試験結果から明らかになったことは?

TRANSFORM-HFは2,859例の参加者をランダム化し、年齢中央値は65歳(IQR 56~75)、36.9%が女性、33.9%が黒人でした。追跡期間中央値17.4ヵ月の間に、合計113例(トルセミド群53例[3.7%]、フロセミド群60例[4.2%])が試験終了前に同意を取りやめました。

トルセミド群
(1,431例)
フロセミド群
(1,428例)
ハザード比 HR
または率比 RR
(95%CI)
死亡373例(26.1%)374例(26.2%)HR 1.02
0.89~1.18
総死亡または総入院677例(47.3%)704例(49.3%)HR 0.92
0.83~1.02
総入院件数536例 940件577例 987件RR 0.94
0.84~1.07

死亡は、トルセミド群1,431例中373例(26.1%)、フロセミド群1,428例中374例(26.2%)に発生しました(ハザード比 1.02、95%CI 0.89~1.18)。ランダム化後12ヵ月間に、総死亡または総入院は、トルセミド群677例(47.3%)、フロセミド群704例(49.3%)で発生しました(ハザード比、0.92、95%CI 0.83~1.02)。トルセミド群536例における総入院件数は940件、フロセミド群577例における総入院件数は987件でした(率比 0.94、95%CI 0.84~1.07)。

結果は、駆出率低下、軽度低下、または維持の患者を含む、事前に指定されたサブグループ間で同様でした。

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以前の前臨床および臨床研究において、トルセミドにはフロセミドよりも一定のバイオアベイラビリティ、より持続的な利尿効果、フロセミドが有していない抗アルドステロン作用や抗線維化効果などのいくつかの利点を有している可能性が示されています。しかし、これらの違いが死亡リスク低減を含むより良い臨床転帰につながるのか否か日本ついては充分に検討されていません。多くの医師は、フロセミドに反応しなかった患者に対して、トルセミドに切り替える(あるいは併用する)という実臨床の経験を有していることからも、トルセミドとフロセミド、どちらが優れているのかについて検証が求められていました。

さて、本試験結果によれば、非盲検ランダム化比較試験の結果、心不全で入院した後に退院した患者における12ヵ月間の総死亡率は、トルセミドとフロセミドで差がありませんでした。また総入院についても差がありませんでした。

試験を実施したロバート・メンツ医師の発現に基づくと、本試験では、LVEFに基づく制限がなく募集され、試験参加者のほとんど(64%)は駆出率が40%以下に低下しており、かつ他の心不全治療薬で充分に治療されていたようです。ほとんどの参加者がβ遮断薬(82%)とACE阻害剤/ARB/ARNI(68%)を服用しており、44% がミネラルコルチコイド受容体(MR)拮抗薬、8%がナトリウム-グルコース共輸送体2(SGLT2)阻害剤を服用していたようです。

ちなみに各ループ利尿薬の投与用量については抄録に明記されていません。事前登録時のデータではトラセミド:フロセミド=1mg:2mgの用量比で投与されていますが、最大投与量や平均投与量については記載されていません。オープンラベルであること、ループ利尿薬による利尿作用には個人差が大きく影響すること、基本的に用量・効果は青天井であることから、投与用量についてはあまり制限に当たらないのかもしれません。

新型コロナウイルス感染症やクロスオーバー、服薬アドヒアランス、そして追跡率が影響していることが考えられますが、少なくとも現段階ではトルセミドがフロセミドよりも優れているとは言えないと考えられます。

本試験では、生活の質とうつ病に関するデータについても収集しているようです。続報に期待。

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☑まとめ☑ 心不全で入院した後に退院した患者における12ヵ月間の総死亡率および総入院率は、トルセミドとフロセミドで差がなかった。

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