大うつ病または双極性障害の退役軍人における自殺関連の反復予防のためのリチウム治療は有効か?(DB-RCT; Li+ plus試験; JAMA Psychiatry. 2021)

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大うつ病または双極性障害に対するリチウム追加治療は有効か?

自殺と自殺未遂は、持続的かつ増加傾向にある公衆衛生上の問題です。観察研究やランダム化臨床試験のメタ解析では、リチウムが双極性障害やうつ病の患者の自殺を予防する可能性が示唆されています。

しかし、大うつ病または双極性障害の自殺関連イベントに対するリチウム追加による効果は不明です。

そこで今回は、最近自殺関連イベントを経験した大うつ病または双極性障害の退役軍人を対象に、通常のケアにリチウムを追加する場合とプラセボを追加する場合とを比較した二重盲検ランダム化比較試験(Li+ plus試験)の結果をご紹介します。

本試験では、通常の治療に対するリチウムの増強が、最近自殺関連イベントを経験した双極性障害またはうつ病の参加者における自殺関連事象の繰り返しのエピソード(繰り返しの自殺未遂、中断された未遂、自殺防止のための入院、自殺による死亡)の割合を減少させるかどうかを評価しました。

試験結果から明らかになったことは?

退役軍人519例(平均[SD]年齢42.8[12.4]歳、男性437例[84.2%])がランダムに割り付けられ、255例がリチウム、264例がプラセボに割り付けられた後、試験は無益のため中止されました。

3ヵ月後の平均リチウム濃度は、双極性障害の患者では0.54mEq/L、大うつ病の患者では0.46mEq/Lでした。

自殺関連イベントの繰り返しについては、治療法間で全体的な差は認められませんでした(ハザード比 1.10、95%CI 0.77〜1.55)。

予期せぬ安全性の問題は認められなかった。合計127例(24.5%)の参加者が自殺関連のアウトカムを得ました。リチウム群で65例、プラセボ群で62例であり、死亡はリチウム群で1例、プラセボ群で3例でした。

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リチウムは様々な機序により躁状態の改善や抗うつ薬の作用増強などに用いられます。さらに、リチウム使用により双極性障害やうつ病患者の自殺を予防する可能性が示されていることから、質の高いランダム化比較試験の実施が求めらレていました。

さて、今回の試験結果によれば、最近自殺関連イベントを経験した大うつ病または双極性障害の退役軍人において、通常のケアにリチウムを追加すると、プラセボ追加と比較して、自殺関連イベント(自殺未遂、中断された未遂、自殺防止のために特別に行われた入院、自殺による死亡を含む、最初に繰り返される自殺関連事象までの時間)の発生率に差が認められませんでした。

ただし、本試験の対象は退役軍人であることから、男性率が高いと考えられます。また体格が大きい可能性が高いことから、一般的な双極性障害や大うつ病の集団と乖離していると考えられます。したがって、女性率の高い一般集団を対象としたランダム化比較試験の実施が求められます。

続報に期待。

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✅まとめ✅ 退役軍人局の通常の精神医療にリチウムを追加しても、最近自殺イベントを経験した大うつ病または双極性障害の退役軍人の自殺関連イベントの発生率は低下しなかった。

根拠となった試験の抄録

試験の重要性:自殺と自殺未遂は、持続的かつ増加傾向にある公衆衛生上の問題である。観察研究やランダム化臨床試験のメタ解析では、リチウムが双極性障害やうつ病の患者の自殺を予防する可能性が示唆されている。

目的:通常の治療に対するリチウムの増強が、最近の自殺関連イベントを乗り越えた双極性障害またはうつ病の参加者における自殺関連事象の繰り返しのエピソード(繰り返しの自殺未遂、中断された未遂、自殺防止のための入院、自殺による死亡)の割合を減少させるかどうかを評価する。

試験デザイン、設定および参加者:この二重盲検プラセボ対照ランダム化臨床試験では、最近の自殺関連イベントを生き延びた双極性障害またはうつ病の退役軍人を対象に、通常のケアにリチウムを追加する方法とプラセボを追加する方法を評価した。2015年7月1日から2019年3月31日の間に、6か月以内に自殺行動のエピソードまたは自殺防止のための入院を経験した退役軍人がVA医療センター29施設でスクリーニングされた。

介入:参加者は炭酸リチウム徐放製剤を投与する群(600 mg/日から開始)と、プラセボを投与する群にランダムに割り付けられた。

主要アウトカムと測定法:自殺未遂、中断された未遂、自殺防止のために特別に行われた入院、自殺による死亡を含む、最初に繰り返される自殺関連事象までの時間。

結果:退役軍人519例(平均[SD]年齢42.8[12.4]歳、男性437例[84.2%])がランダムに割り付けられ、255例がリチウム、264例がプラセボに割り付けられた後、試験は無益のため中止された。
3ヵ月後の平均リチウム濃度は、双極性障害の患者では0.54mEq/L、大うつ病の患者では0.46mEq/Lであった。自殺関連イベントの繰り返しについては、治療法間で全体的な差は認められなかった(ハザード比 1.10、95%CI 0.77〜1.55)。予期せぬ安全性の問題は認められなかった。合計127例(24.5%)の参加者が自殺関連のアウトカムを得た。リチウム群で65例、プラセボ群で62例であった。死亡はリチウム群で1例、プラセボ群で3例であった。

結論と関連性:このランダム化臨床試験では、退役軍人局の通常の精神医療にリチウムを追加しても、最近自殺イベントを経験した大うつ病または双極性障害の退役軍人の自殺関連イベントの発生率は低下しなかった。したがって、既存の薬物療法にリチウムを追加するだけでは、気分障害や実質的な併存疾患の治療を積極的に受けている患者の広範な自殺関連事象の予防に効果があるとは考えられない。

試験の登録 臨床試験登録:ClinicalTrials.gov Identifier: NCT01928446

引用文献

Lithium Treatment in the Prevention of Repeat Suicide-Related Outcomes in Veterans With Major Depression or Bipolar Disorder: A Randomized Clinical Trial
Ira R Katz et al. PMID: 34787653 PMCID: PMC8600458 (available on 2022-11-17) DOI: 10.1001/jamapsychiatry.2021.3170
JAMA Psychiatry. 2021 Nov 17;e213170. doi: 10.1001/jamapsychiatry.2021.3170. Online ahead of print.

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