― 106報・356万人超を解析した最新システマティックレビューから見えてきた高リスク薬剤とは?(Brain Behav. 2025)
- はじめに
- この研究の規模はどれくらい大きい?
- せん妄はなぜ起こるのか?
- 最も多く報告されていた薬剤クラス
- オピオイドは最も多く報告された
- 睡眠薬は少量でも “せん妄リスク要注意”
- 抗うつ薬も無視できない
- ステロイドは15mg/日が一つの目安
- 意外に見落とされる循環器薬
- 抗菌薬は特定薬より「クラス全体」に注意
- 薬剤の組み合わせも重要
- 抗精神病薬は本当に有効なのか?
- 今後期待される治療薬
- 認知症患者ではどうか?
- 薬剤師としての視点
- 試験の限界
- まとめ
- ✅まとめ✅ システマティックレビューの結果、いくつかの薬剤で “せん妄リスク” が示唆された。ただし、薬剤使用だけでなく、患者背景によりリスクが異なるようであった。各薬剤を含めて総合的な処方レビューが求められる。
- 根拠となった試験の抄録
- 引用文献
はじめに
高齢患者が突然、落ち着きがなくなる、夜間に興奮する、幻覚を訴える、会話が成立しなくなる、こうした状態は「せん妄(delirium)」として知られています。
せん妄は感染症や手術だけでなく、薬剤によっても誘発されます。実際、認知症患者においては薬剤が原因となるせん妄が12~39%を占めるとの報告もあります。
しかし、「どの薬が危険なのか」、「どのくらいの用量で危険性が上がるのか」については十分整理されていませんでした。
今回紹介する論文は、薬剤関連せん妄について2000年以降の文献を網羅的に調査した、現時点で最も包括的なシステマティックレビューです。
情報元:PubMed論文ページ
この研究の規模はどれくらい大きい?
研究者らは、
- PubMed
- Cochrane Library
- Scopus
- Web of Science
- Google Scholar
など多数のデータベースを検索しました。
その結果、3,867報の文献が見つかりました。重複研究の除外後、106報が最終解析対象となりました。
内訳は、原著研究 35報、システマティックレビュー・ナラティブレビュー 28報、症例報告・症例集積 44報でした。
さらに驚くべきことに、解析対象患者数は356万人超(3,563,243人)に及びます。認知症または軽度認知障害患者も15,546人が含まれていました。
せん妄はなぜ起こるのか?
本レビューでは薬剤性せん妄の機序として、以下の3点に注目しています。
神経伝達物質の異常
神経伝達物質の異常として、
- アセチルコリン低下
- GABA異常
- ヒスタミン異常
- オピオイドペプチド異常
が挙げられています。
特に高齢者では「抗コリン負荷」が重要視されています。
脳内移行性の増加
加齢に伴い血液脳関門が脆弱化すると、通常は脳に入りにくい薬剤でも中枢神経症状を起こしやすくなります。
神経炎症
オピオイドでは、炎症性サイトカインの増加、ミクログリア活性化、神経細胞アポトーシスなどが報告されています。
最も多く報告されていた薬剤クラス
研究で抽出された薬剤は158種類、20薬効群に及びました。特に報告数が多かったのは以下です。
| 薬剤群 | 報告数 |
|---|---|
| オピオイド | 24 |
| 抗精神病薬 | 23 |
| 睡眠薬・抗不安薬 | 19 |
| 抗うつ薬 | 18 |
| ステロイド | 16 |
| 循環器薬 | 16 |
| コリンエステラーゼ阻害薬 | 13 |
| 抗菌薬 | 11 |
オピオイドは最も多く報告された
22報の論文で、オピオイドはせん妄の重要な危険因子とされました。特に注目すべきなのは用量依存性です。
ICU患者では、モルヒネ換算7.2~18.6mg/日でOR 9.20という強い関連が報告されています。また、メサドン(商品名:メサペイン)では80mg/日超でリスク増加、150mg/日超でさらに増加、200mg/日超で再度増加していました。
一方で、オキシコドン(商品名:オキシコンチン)は半減期が約3時間と短く、フェンタニル(商品名:フェントス、デュロテップなど)より予測しやすい可能性が指摘されています。
睡眠薬は少量でも “せん妄リスク要注意”
ベンゾジアゼピン系では、累積2mg超でHR 2.04、累積5mg超でOR 3.5が報告されています。
また、ゾルピデム(商品名:マイスリー)、ゾピクロン(商品名:アモバン)などのZ薬でも幻覚、興奮、見当識障害が報告されています。
さらに、ベンゾジアゼピン離脱そのものも、せん妄リスクでした。
抗うつ薬も無視できない
抗うつ薬では、三環系抗うつ薬(TCA)、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)が報告されています。
なかでも、パロキセチン(商品名:パキシル)はSSRIの中で最も頻繁に危険薬として言及されていました。
これは比較的強い抗コリン作用を持つことと整合します。
ステロイドは15mg/日が一つの目安
261人の入院がん患者研究では、プレドニゾロン換算15mg/日超でHR 2.67が報告されています。
ステロイド誘発性精神障害(ステロイドサイコーシス)だけでなく、せん妄にも注意が必要です。
意外に見落とされる循環器薬
本レビューで興味深かったのは循環器系薬です。特に、ジゴキシン(商品名:ジゴシン)、クロニジン(商品名:カタプレス)、メチルドパ(商品名:アルドメット)、プロプラノロール(商品名:インデラル)、キニジンなど中枢移行性を持つ薬剤が挙げられています。
ジゴキシンは、神経毒性、低カリウム血症、低マグネシウム血症を介してせん妄リスクを高める可能性があります。
抗菌薬は特定薬より「クラス全体」に注意
抗菌薬については明確な結論は得られていません。
しかし、キノロン系、マクロライド系で報告が多いことが示されました。
症状は、幻覚、不眠、不穏、妄想、構音障害など多彩でした。
薬剤の組み合わせも重要
本レビューで特に価値が高いのは、薬剤併用リスクまで評価している点です。28,503人の高齢者研究では、クエチアピン+フロセミドでMOR* 3.74、フェンタニル曝露でMOR 5.31、ハロペリドール単独でMOR 3.74、ハロペリドール+ドキュセート(ドクセート、ジオクチルソジウムスルホサクシネート)+アセトアミノフェンでOR 6.06が報告されました。
また、抗うつ薬+降圧薬、オピオイド+降圧薬、睡眠薬+降圧薬も高頻度でした。
つまり、「単剤より併用療法」で問題になりやすいことが改めて示されています。
*MOR:時間的傾向を調整したマッチングオッズ比
抗精神病薬は本当に有効なのか?
せん妄治療として最も頻繁に使われるのは抗精神病薬です。しかし本レビューでは、複数のメタ解析で「せん妄の期間短縮」、「重症度改善」を証明できていませんでした。
さらに、Beers Criteria、STOPPFallでは、高齢者への漫然投与は推奨されていません。
著者らは「抗精神病薬は自傷他害リスクが高い場合など限定的に使用すべき」と述べています。
今後期待される治療薬
レビューでは、デクスメデトミジン()による、せん妄の改善効果の可能性が示されていました。
また、スボレキサント(商品名:ベルソムラ)、レンボレキサント(商品名:デエビゴ)などオレキシン受容体拮抗薬について、予防効果を示唆する報告が紹介されています。
これはDORA研究を行っている先生方にとっても興味深い示唆でしょう。
認知症患者ではどうか?
認知症患者では、薬剤性せん妄が12~39%を占めるとされています。
特に報告が多かった薬剤は、ドネペジル(商品名:アリセプト)、メマンチン(商品名:メマリー)、リバスチグミン(商品名:リバスタッチ、イクセロン)などでした。
ドネペジルでは5mg超との関連を示す報告もあります。
ただし、症例報告が中心であり、因果関係が確立しているわけではありません。
薬剤師としての視点
このレビューから読み取れる最も重要なメッセージは「せん妄を起こす薬」を探すことではありません。
むしろ、高齢者では抗コリン薬、睡眠薬、オピオイド、降圧薬の増量や併用が積み重なることでリスクが増大するという点です。
実臨床では、薬剤数、抗コリン負荷、中枢移行性を総合的に評価することが重要です。
試験の限界
本研究は非常に包括的なレビューですが、原著研究だけでなく、症例報告、ナラティブレビューも含まれています。
また、薬剤ごとの定量的比較を目的としたメタ解析ではありません。
そのため、「最も危険な薬剤」を決定することはできません。
さらに、せん妄診断基準も文献間で統一されておらず、異質性は大きいと考えられます。
まとめ
356万人超を対象にした本システマティックレビューでは、オピオイド、ベンゾジアゼピン系、抗精神病薬、抗うつ薬、ステロイド、循環器薬など幅広い薬剤がせん妄と関連していました。
特に重要なのは、単剤ではなく薬剤併用によるリスク上昇です。
高齢者や認知症患者では、薬剤追加時だけでなく既存処方全体を見直し、抗コリン負荷や中枢神経作用を評価することが、せん妄予防につながると考えられます。
日本でも同様の結果が示されるのか、再現性の確認を含めて更なる検証が求められます。
続報に期待。

✅まとめ✅ システマティックレビューの結果、いくつかの薬剤で “せん妄リスク” が示唆された。ただし、薬剤使用だけでなく、患者背景によりリスクが異なるようであった。各薬剤を含めて総合的な処方レビューが求められる。
根拠となった試験の抄録
はじめに: 成人患者におけるせん妄に関連する薬剤については十分に理解されておらず、素因因子と誘発因子の両方が考えられています。処方に関する助言も不足しています。本システマティックレビューは、医療現場における処方決定と患者安全を支援するため、認知症の有無にかかわらず成人患者におけるせん妄の原因と治療に関連する薬剤リスクに関するエビデンスを収集することを目的としています。これには、メカニズム、治療法、および治療の代替手段が含まれます。
方法: CNIAHL、IPA、APA PsycArticles、PubMed、Cochrane Library、SAGE Education、Science Direct、SCOPUS、Web of Science Core Collection、National Grey Literature Collection、Google Scholar、Ovid、Open Access Theses and Dissertationsの文献レビューを2000年以降に英語で発表された論文を対象に実施した。対象としたのは、成人患者(18歳以上)における薬剤関連せん妄リスクに焦点を当てた、査読済みの原著論文、メタアナリシス、システマティックレビュー、ナラティブレビュー、症例報告、解説、社説、科学論文である。タイトル、抄録、全文のスクリーニングは2名のレビュー担当者が独立して行った。報告の質の評価にはCASP、MMAT、JBI、SANARツールを使用した。本プロトコルは国際システマティックレビュー登録簿(PROSPERO)に登録した(ID:CRD42022366020)。
結果: 特定された3867件の論文のうち、106件が対象となった。20種類の異なる薬剤クラスに関する情報が報告されていた。質の高い評価にもかかわらず、提供された薬剤の詳細情報には、作用機序、個々のリスク、投与量、症状、および回避可能な薬剤併用に関する具体性が欠けている場合が多かった。認知症患者のせん妄に関連する基礎的なメカニズム、薬物療法、併用療法、治療の代替手段、および薬剤に関する詳細情報が抽出された。
結論: 本要約は、認知症の有無にかかわらず、せん妄患者における薬剤関連情報を最も詳細にまとめたものであり、処方決定を支援するものである。詳細な結果は、せん妄ケアへの多角的アプローチを支持するだけでなく、せん妄を明確な病因サブグループに分類すべきであるという提言も裏付けている。薬剤が腸内細菌叢の多様性と構成に及ぼす影響も考慮すべきである。
キーワード: せん妄;認知症;薬物療法管理;リスク評価と管理
引用文献
Medication Causes and Treatment of Delirium in Patients With and Without Dementia
Anita Elaine Weidmann et al. PMID: 40686036 PMCID: PMC12277658 DOI: 10.1002/brb3.70706
Brain Behav. 2025 Jul;15(7):e70706. doi: 10.1002/brb3.70706.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40686036/

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