急性心筋梗塞におけるサクビトリル-バルサルタン vs. ラミプリル(RCT; PARADISE-MI試験; N Engl J Med. 2021)

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急性心筋梗塞患者に対するARNI使用はACE阻害薬よりも優れているのか?

動脈硬化により冠動脈の閉塞が進むと狭心症、心筋梗塞が引き起こされます。心筋梗塞の大半は急性心筋梗塞であり、突然襲われる胸痛発作が特徴的です。心筋梗塞発症後、通常2〜14週以後に、発熱、胸痛とともに心膜炎、胸膜炎、肺臓炎などを併発する原因不明の症候群が引き起こされることが報告されます。これを心筋梗塞症候群、あるいはドレスラー症候群(Dressler syndrome)と呼ばれます。この 心筋梗塞(ドレスラー)症候群に高率に併発する症候群として “心不全” が挙げられます。

症候性心不全患者において、アンジオテンシン受容体-ネプリライシン阻害薬(Angiotensin Receptor-neprilysin inhibitor, ARNI)であるサクビトリル-バルサルタンは、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬であるラミプリルよりも効果的に入院や心血管疾患による死亡のリスクを減少させることが報告されています。しかし、急性心筋梗塞患者において、これらの薬剤の効果を比較した試験はまだ行われていません。

そこで今回は、急性心筋梗塞患者において、サクビトリル-バルサルタンとラミプリルを比較検討したPARADISE-MI試験の結果をご紹介します。本試験では、左室駆出率の低下、肺うっ血、またはその両方を合併した心筋梗塞患者を、推奨される治療(標準治療)に加えて、サクビトリル-バルサルタン(サクビトリル97mg・バルサルタン103mgを1日2回投与)またはラミプリル(5mgを1日2回投与)のいずれかにランダムに割り付けました。主要評価項目は、心血管疾患による死亡または心不全の発生(外来での症状のある心不全または入院に至った心不全)のいずれか早い方とされました。

試験結果から明らかになったことは?

合計5661例の患者がランダム化され、2,830例がサクビトリル-バルサルタン投与群、2,831例がラミプリル投与群に割り付けられました。

サクビトリル-バルサルタン群ラミプリル群ハザード比
(95%CI)
P値
主要アウトカムイベント*338例(11.9%)373例(13.2%)0.90
0.78~1.04
P=0.17
心血管疾患による死亡または
心不全による入院
308例(10.9%)335例(11.8%)0.91
0.78~1.07
心血管疾患による死亡168例(5.9%)191例(6.7%)0.87
0.71~1.08
全死亡213例(7.5%)242例(8.5%)0.88
0.73~1.05
*心血管疾患による死亡または心不全の発生(外来での症状のある心不全または入院に至った心不全)のいずれか早い方

中央値22ヵ月の間に主要アウトカムイベントが発生したのは、サクビトリル-バルサルタン群では338例(11.9%)、ラミプリル投群では373例(13.2%)でした(ハザード比 0.90、95%信頼区間[CI] 0.78~1.04、P=0.17)。

心血管疾患による死亡または心不全による入院は、サクビトリル-バルサルタン群では308例(10.9%)、ラミプリル群では335例(11.8%)であった(ハザード比 0.91、95%CI 0.78~1.07)、心血管疾患による死亡がそれぞれ168例(5.9%)と191例(6.7%)(ハザード比 0.87、95%CI 0.71~1.08)、あらゆる原因による死亡がそれぞれ213例(7.5%)と242例(8.5%)(ハザード比 0.88、95%CI 0.73~1.05)でした。

有害事象により治療を中止したのは、サクビトリル-バルサルタン群では357例(12.6%)、ラミプリル群では379例(13.4%)でした。

コメント

比較的新しい降圧薬であるARNIは、アンギオテンシン受容体1拮抗薬(ARB)とネプリライシン阻害薬として二重に作用し、より効率的に血圧を低下することができるため、古くから使用されているACE阻害薬やARBよりも、よりハードイベント発生を低下できる可能性があります。

さて、本試験結果によれば、急性心筋梗塞患者を対象にARNIとACE阻害薬を比較した結果、心血管疾患による死亡や心不全の発生率に差は認められませんでした。

これまでの臨床試験の結果や治療コストを考慮すると、ARNIではなくラミプリルで充分であると考えられます。今後は、どのような患者集団でARNIを優先して使用した方が良いのか検証した方が良いと考えます。

続報に期待。

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✅まとめ✅ 急性心筋梗塞患者において、サクビトリル-バルサルタンはラミプリルと比較して、心血管疾患による死亡や心不全の発生率を有意に低下させることはなかった。

根拠となった試験の抄録

背景:症候性心不全患者において、サクビトリル-バルサルタンは、アンジオテンシン変換酵素阻害薬よりも効果的に入院や心血管疾患による死亡のリスクを減少させることがわかっている。急性心筋梗塞患者において、これらの薬剤の効果を比較した試験はまだ行われていない。

方法:左室駆出率の低下、肺うっ血、またはその両方を合併した心筋梗塞患者を、推奨される治療に加えて、サクビトリル-バルサルタン(サクビトリル97mg・バルサルタン103mgを1日2回投与)またはラミプリル(5mgを1日2回投与)のいずれかにランダムに割り付けた。
主要評価項目は、心血管疾患による死亡または心不全の発生(外来での症状のある心不全または入院に至った心不全)のいずれか早い方とした。

結果:合計5661例の患者がランダム化され、2,830例がサクビトリル-バルサルタン群、2,831例がラミプリル群に割り付けられた。中央値22ヵ月の間に主要アウトカムイベントが発生したのは、サクビトリル-バルサルタン投与群では338例(11.9%)、ラミプリル投与群では373例(13.2%)であった(ハザード比 0.90、95%信頼区間[CI] 0.78~1.04、P=0.17)。心血管疾患による死亡または心不全による入院は、サクビトリル-バルサルタン群では308例(10.9%)、ラミプリル群では335例(11.8%)であった(ハザード比 0.91、95%CI 0.78~1.07)、心血管疾患による死亡がそれぞれ168例(5.9%)と191例(6.7%)(ハザード比 0.87、95%CI 0.71~1.08)、あらゆる原因による死亡がそれぞれ213例(7.5%)と242例(8.5%)(ハザード比0.88、95%CI 0.73~1.05)であった。
有害事象により治療を中止したのは、サクビトリル-バルサルタン群では357例(12.6%)、ラミプリル群では379例(13.4%)であった。

結論:急性心筋梗塞患者において、サクビトリル-バルサルタンはラミプリルと比較して、心血管疾患による死亡や心不全の発生率を有意に低下させることはなかった。

資金提供:ノバルティス社

PARADISE-MI ClinicalTrials.gov番号:NCT02924727

引用文献

Angiotensin Receptor-Neprilysin Inhibition in Acute Myocardial Infarction
Marc A Pfeffer et al. PMID: 34758252 DOI: 10.1056/NEJMoa2104508
N Engl J Med. 2021 Nov 11;385(20):1845-1855. doi: 10.1056/NEJMoa2104508.
— 続きを読む pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34758252/

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