駆出率が保たれた心不全(HFpEF)患者の心血管アウトカムにおけるハイパーポリファーマシーの影響はどのくらい?(TOPCAT試験の事後解析; Circ Heart Fail. 2021)

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駆出率が保たれた心不全(HFpEF)におけるポリファーマシーと心血管アウトカムとの関連性は?

Polypharmacy(ポリファーマシー)とは、5〜6種類以上の薬剤を使用している状態を指しますが、報告によって定義が異なっています。2種類以上の併存疾患を有していたり、循環器疾患を患っている場合は薬剤数が多くなりやすいことから、ポリファーマシー状態を引き起こしやすいことが予測されます。

また、ポリファーマシーは潜在的な不適切処方(PIMs)や処方カスケードと関連しており、高齢者の予後不良と関連していることが報告されています。

駆出率が保たれた心不全(HFpEF)におけるポリファーマシーと心血管アウトカムとの関連についての報告はほとんどありません。そこで今回は、HFpEF患者において、ポリファーマシーと心血管イベントの有害事象との関連性を検討したTOPCAT試験の事後解析結果についてご紹介します。

今回の解析では、TOPCAT試験(Treatment of Preserved Cardiac Function Heart Failure With an Aldosterone Antagonist)の米州地域に登録されたHFpEF患者1,758例を対象に、ベースラインの総投薬数を、非ポリファーマシー(5種類未満)、ポリファーマシー(5~9種類)、ハイパーポリファーマシー(10種類以上)の3つのカテゴリーに分類しています。ポリファーマシーの状態と、主要アウトカム(心血管死、HF入院、心停止)、理由を問わない入院、重篤な有害事象との関係を調べています。

試験結果から明らかになったことは?

5種類以上の薬を服用している患者の割合は92.5%でした(ポリファーマシー 38.7%およびハイパーポリファーマシー 53.8%を含む)。

2.9年の追跡期間(中央値)において、ハイパーポリファーマシーの患者は、ポリファーマシーの患者と比較して、単変量解析では、主要アウトカム、何らかの理由による入院および重篤な有害事象のリスクが上昇したが、死亡率とは有意に関連していませんでした。

人口動態や併存疾患を考慮して多変量解析を行ったところ、ハイパーポリファーマシーは、全入院(ハザード比 1.22[95%CI 1.05〜1.41]、P=0.009)および重篤な有害事象(ハザード比 1.23[95%CI 1.07〜1.42]、P=0.005)のリスク上昇と有意に関連していましたが、主要アウトカムについては統計的に有意ではなくなりました。

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登録されたHFpEF患者1,758例のうち、92.5%がポリファーマシー状態でした。特に10種類以上の薬剤を使用しているハイパーポリファーマシー状態は、ポリファーマシー(5〜9種類)と比較して、全入院や重篤な有害事象の発生リスクの上昇と関連していましたが、死亡率とは関連していませんでした。

ポリファーマシーはあくまでも”薬剤使用数が多い状態”であるため、ポリファーマシーそのものについて議論しても得られる益は少ないように考えます。

ポリファーマシーと関連する薬物相互作用および副作用発生、処方カスケードなどについて、個々の患者で丁寧に評価していくことが肝要であると考えます。折を見て、薬剤レビューを行い、必要な薬が、必要な患者(状態)へ、必要な用量、必要な期間、使用されているのか評価していくことがポリファーマシー是正を実現できるのではないかと考えています。

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✅まとめ✅ 駆出率が保たれている心不全患者(HFpEF)において、ハイパーポリファーマシーは一般的であり、全入院や重篤な有害事象の発生リスクの上昇と関連していたが、死亡率とは関連していなかった。

根拠となった試験の抄録

背景:ポリファーマシーは高齢者の予後不良と関連しているが、駆出率が保たれた心不全(HFpEF)におけるポリファーマシーと心血管アウトカムとの関連についての報告は少ない。本研究では、HFpEF患者において、ポリファーマシーと心血管イベントの有害事象との関連性を検討した。

方法:TOPCAT試験(Treatment of Preserved Cardiac Function Heart Failure With an Aldosterone Antagonist)の米州地域に登録されたHFpEF患者1,758例を対象に、ベースラインの総投薬数を、非ポリファーマシー(5種類未満)、ポリファーマシー(5~9種類)、ハイパーポリファーマシー(10種類以上)の3つのカテゴリーに分類した。ポリファーマシーの状態と、主要アウトカム(心血管死、HF入院、心停止)、理由を問わない入院、重篤な有害事象との関係を調べた。

結果:5種類以上の薬を服用している患者の割合は92.5%であった(ポリファーマシー 38.7%およびハイパーポリファーマシー 53.8%を含む)。
2.9年の追跡期間(中央値)において、ハイパーポリファーマシーの患者は、ポリファーマシーの患者と比較して、単変量解析では、主要アウトカム、何らかの理由による入院および重篤な有害事象のリスクが上昇したが、死亡率とは有意に関連していなかった。
人口動態や併存疾患を考慮して多変量解析を行ったところ、ハイパーポリファーマシーは、理由を問わない入院(ハザード比 1.22[95%CI 1.05〜1.41]、P=0.009)および重篤な有害事象(ハザード比 1.23[95%CI 1.07〜1.42]、P=0.005)のリスク上昇と有意に関連していたが、主要アウトカムについては統計的に有意ではなくなった。

結論:駆出率が保たれている心不全患者において、ハイパーポリファーマシーは一般的であり、理由を問わず入院や重篤な有害事象の発生リスクの上昇と関連していた。ポリファーマシーの状況と死亡率の間には有意な関連はなかった。

キーワード:人口統計学、心不全、入院、ポリファーマシー、予後

引用文献

Association of Hyper-Polypharmacy With Clinical Outcomes in Heart Failure With Preserved Ejection Fraction
Masatoshi Minamisawa et al. PMID: 34674539 DOI: 10.1161/CIRCHEARTFAILURE.120.008293
Circ Heart Fail. 2021 Oct 22;CIRCHEARTFAILURE120008293. doi: 10.1161/CIRCHEARTFAILURE.120.008293. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34674539/

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【ポリファーマシーは必要悪?(BMJ 2013:Free)】

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