日本人2型糖尿病患者における低用量アスピリンの使用はアテローム性動脈硬化症の初発を予防できますか?(JAMA 2008: JPAD trial; Free)

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Low-dose aspirin for primary prevention of atherosclerotic events in patients with type 2 diabetes: a randomized controlled trial. PMID: 18997198 ClinicalTrials.gov No: NCT00110448 改訂あり:テーブル内の数値に誤りがあり、2017年2月までに本文修正が 2回あったようです。

背景

糖尿病は心血管イベントの強力な危険因子である。Framingham Heart Study において、糖尿病は男女それぞれ 1.5と 1.8の冠動脈疾患のオッズ比と関連し、男性と女性の脳卒中の相対リスクはそれぞれ 1.4と 1.7であると報告されている。 糖尿病患者は、健常人よりも心血管イベントを発症するリスクが 2〜4倍高いことも報告されている。    過去の報告では、心血管イベントの二次予防戦略としてアスピリン療法が確立されており、研究成果がいくつか報告されている。また臨床ガイドラインでは、冠状動脈疾患の危険因子を有するヒトは、一次予防および二次予防のためにアスピリンを投与することが推奨されている。    米国糖尿病学会は、特に心血管リスクが高い(40歳以上、冠状動脈疾患、高血圧、喫煙、脂質異常症、またはアルブミン尿症等の家族歴など、リスク要因を有する)糖尿病患者の一次予防戦略として、アスピリンが禁忌で無い限り、積極的な使用を推奨している。しかし一次予防におけるアスピリンの臨床試験データは限られている。    アスピリンの一次予防効果については、いくつかの大規模臨床試験のサブグループ解析で報告されている。しかし糖尿病のサブグループ解析においては、パワー不足、つまり症例数が不十分であるため心血管イベントの有意な抑制効果は示されていない。したがって、糖尿病患者を対象に、アスピリンの一次予防効果を検討する試験が求められている。    The Japanese Primary Prevention of Atherosclerosis With Aspirin for Diabetes (JPAD) 試験は、2型糖尿病患者における低用量アスピリン使用が、アテローム性動脈硬化症の一次予防に有用であるか否かを検討した。  

結論

日本人 2型糖尿病患者のアテローム性動脈硬化症に対するアスピリンの一次予防効果は無かった。


組入基準 30~80歳の 2型糖尿病でインフォームド・コンセントを得られた患者

除外基準

心電図で ST低下や ST上昇、または病理学的 Q波; 冠状動脈造影で冠動脈心疾患の病歴; 脳梗塞、くも膜下出血、くも膜下出血、および一過性虚血発作からなる脳血管疾患の病歴; 治療を必要とする動脈硬化性疾患の病歴; 心房細動; 妊娠; アスピリン、チクロピジン、シロスタゾール、ジピリダモール、トラピジル、ワルファリン、およびアルガトロバンの使用; 重度の胃または十二指腸潰瘍の病歴; 重度の肝機能障害; 重度の腎機能障害、およびアスピリンに対するアレルギーを有す患者

PICOT

P: 30~85歳の 2型糖尿病患者 2539例(男女、BMI:24、日本の163施設) I : 81 mg あるいは 100 mg アスピリン 1日 1回投与(1262例) C: 無し(1277例) →なぜプラセボ対象ではないのか?後述します。 O: Primary — アテローム性動脈硬化症(①突然死;  ②冠状動脈あるいは脳血管、胸部大動脈を原因とする死亡;  ③非致死的な急性心筋梗塞; 不安定狭心症;  新規の労作性狭心症;  ④非致死的な虚血性あるいは出血性脳卒中;  ⑤一過性脳虚血発作;  ⑥非致死的な大動脈あるいは末梢血管疾患(閉塞性動脈硬化疾患や大動脈乖離、腸管膜動脈血栓症   上記 6つの複合  Key Secondary — Primary endopointを含めたあらゆる原因による死亡;  有害事象(胃腸障害および出血性脳卒中以外の全ての出血イベント) T: ランダム化比較試験(PROBE法)、 予防効果、試験期間 4.37 年 (95%CI 4.35~4.39)

批判的吟味

RobotReviewerによる Risk of Bias評価

f:id:noir-van13:20170314002728p:plain Additional Figure : Risk of Bias Table made by the RobotReviewer: Automating evidence synthesis

ランダム割り付けされているか?(観察者バイアスはないか?)

乱数表を用いた非層別単純ランダム割り付けが行われている(コンピュータを用いた疑似乱数だが問題無しと判断した)。

ブラインドされているか?(マスキングにより観察者バイアスは抑えられているか?)

オープンラベル。アウトカムは第 3者委員会により評価された。狭心症や TIAのイベント数が気になる。

隠蔽化されているか?(選択バイアスはないか?)

封筒法を採用。隠蔽化concealment されていると判断した(封筒が透けていないことを祈る)。

プライマリーアウトカムは真か?明確か?

真であると判断した。ただし複合エンドポイントである点を考慮する必要がある。

 

交絡因子は網羅的に検討されているか?

Table 1及び本文より、可能な範囲で検討されていると判断した。使用薬剤は以下の通り。

f:id:noir-van13:20170319150733p:plain (本文より一部抜粋)  

Baseline は同等か?

→Table 1 より概ね同等であると判断した。 (個人的には糖尿病罹患期間と神経障害関連疾患にやや偏りがあると感じた)

ITT 解析されているか?

されている。Table 1、Figure 1、Figure 2の数字も問題なし。

追跡率(脱落)はどのくらいか?結果を覆す程か?

脱落数は両群とも同様。ITT解析の為、追跡率は100%と判断。結果については後述。

(per protocol analysis の場合の追跡率は以下の通り。一応算出。)

アスピリン投与群:1165/1262 =92.3% (7.7%)

対照群:1181/1277 =92.5% (7.5%)

サンプルサイズは充分か?

計算されており、2539例と症例数も充分。

The incidence of cardiovascular death, myocardial infarction, and cerebrovascular events were 7.5, 7.5, and 8.0 events per 1000 Japanese diabetic patients per year, respectively.

Based on a 2-sided level of .05, a power of 0.95, an enrollment period of 2 years, and a follow-up period of 3 years after the last enrollment, we estimated that 2450 patients would need to be enrolled to detect a 30% relative risk reduction for an occurrence of atherosclerotic disease by aspirin.

結果は?

本文より以下、Table 2および Figure 2を引用 f:id:noir-van13:20170319135246p:plain f:id:noir-van13:20170319135316p:plain

Primary endpoint

アテローム性動脈硬化症のイベント数  アスピリン投与群 68例5.4%;13.6例/1000人・年)、対照群 86例6.7%;17.0例/1000人・年)で両群間に有意差は認められなかった。  ハザード比は 0.80(95% CI: 0.58~1.10, p=0.16)    致死的な冠動脈+脳血管イベント アスピリン投与群で 1例(脳卒中)、対照群で 10例(心筋梗塞 5例;  脳卒中 5例)。  ハザード比は 0.1095% CI: 0.01~0.79, p=0.0037)。   冠動脈疾患(致死的+非致死的)

アスピリン投与群で 28例、対照群で 35例。

 ハザード比は 0.8195% CI: 0.49~1.33, p=0.40)。

致死的な心筋梗塞

アスピリン投与群で 0例、対照群で 5例。

 ハザード比は計算できず

   

非致死的な心筋梗塞

アスピリン投与群で 12例、対照群で 9例。

 ハザード比は 1.3495% CI: 0.57~3.19, p=0.50)

不安定狭心症

アスピリン投与群で 4例、対照群で 10例。

 ハザード比は 0.495% CI: 0.13~1.29, p=0.13)

安定狭心症stable angina

(ここは誤字だと思われる。Methodsでは newly developed exertional anginaで、試験中新たに増悪した労作性狭心症である。)

アスピリン投与群で 12例、対照群で 11例。

 ハザード比は 1.195% CI: 0.49~2.50, p=0.82)

脳血管疾患(致死的+非致死的)

アスピリン投与群で 28例、対照群で 32例。

 ハザード比は 0.8495% CI: 0.53~1.32, p=0.44)

致死的な脳卒中

アスピリン投与群で 1例、対照群で 5例。

 ハザード比は 0.2095% CI: 0.024~1.740, p=0.15)

非致死的な脳卒中

①虚血性

アスピリン投与群で 22例、対照群で 24例。

 ハザード比は 0.9395% CI: 0.52~1.66, p=0.80)

②出血性

アスピリン投与群で 5例、対照群で 3例。

 ハザード比は 1.6895% CI: 0.40~7.04, p=0.48)

一過性脳虚血発作

アスピリン投与群で 5例、対照群で 8例。

 ハザード比は 0.6395% CI: 0.21~1.93, p=0.42)

末梢血管疾患

アスピリン投与群で 7例、対照群で 11例。

 ハザード比は 0.6495% CI: 0.25~1.65, p=0.35)

全死亡 (本文に記載あり) アスピリン投与群で 34例、対照群で 38例。  ハザード比は 0.90(95%CI:0.57~1.14, p=0.67)

有害事象

脳出血と胃腸出血は両群同様であった、との記載が本文中にあるが、どう見てもトータルのイベント数はアスピリン投与群の方が多い(本文より Table 3を引用)。 f:id:noir-van13:20170319150025p:plain   サブ解析 65歳以上(両群の合計 1363例: アスピリン投与群 719例、対照群 644例)において、アテローム性動脈硬化症は、アスピリン投与群で 45例(6.3%)、対照群で 59例(9.2%)と両群間に有意な差があった。一方、65歳未満では有意差はなかった。  ハザード比は 0.68(95%CI: 0.46~0.99, p=0.047)。

コメント

日本人 2型糖尿病患者のアテローム性動脈硬化症に対するアスピリンの一次予防効果は認められなかった。    サブ解析にて 65歳以上に有用である可能性が示唆されたが、あくまで仮説生成。    本試験はプラセボ対象ではない。理由は本文に記載されていた(The Japanese Pharmaceutical Affairs Law limits the use of placebo in physician-initiated studies because it is an unapproved medicine. )。医師主導の治験においては、薬事法(現:薬機法)で承認されていないプラセボ薬は使用できなかったとのこと。    アスピリン投与群で 97例、対照群で 96例の脱落があった。また各アウトカムのイベント数は、海外と比較するとかなり少ない。したがって脱落した症例が試験を完遂した場合、結果を覆す可能性は充分にあると考えられるが、脱落しなかったとしても、このぐらいのイベント数かもしれない。あるいは Baseの治療薬の影響が大きいのかもしれない。    血圧は、アスピリン投与群で平均 136±15 / 77±9、対照群で 134±15 / 76±9 とコントロール良好。脂質パラメータは、総コレステロール(アスピリン投与群 202 vs. 対照群 200) 、中性脂肪(135 vs. 134)、HDL-cho(55 vs. 55)、どれも両群間で同様。上記の値をもとに算出した LDL-cho(120 vs. 118.2)、LH比(2.18 vs. 2.15)も同様であった。    オープンラベルであるが狭心症をはじめとするソフトエンドポイントに差異は無かった。    個人的には JPAD2や他の国内臨床試験と比較してみたい試験である。    

-Evidence never tells you what to do-




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