非小細胞肺がんに対するニボルマブとドセタキセルの効果はどのくらいですか?(CheckMate 057)

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Nivolumab versus Docetaxel in Advanced Nonsquamous Non-Small-Cell Lung Cancer. Borghaei H et al. N Engl J Med. 2015 Oct 22;373(17):1627-39 PMID: 26412456 Funding: Bristol-Myers Squibb ClinicalTrials.gov number: NCT01673867 (プロトコールの途中変更あり→  Appendix より計 3 回変更、優越性が認められたため早期中止)

背景

非扁平上皮性の非小細胞肺癌(NSCLC)患者における効果的な選択肢は、初回化学療法後に病態が進行する患者に限定されている。 (参照→ EBMの手法による肺癌診療ガイドライン2015年版:ガイドライン上の一次治療はプラチナ製剤やチロシンキナーゼ阻害薬が推奨されている。個々のエビデンスの吟味はできていない、というか時間かかりそうなので今回は勘弁) (セカンドラインにおける)ドセタキセル推奨は、最善のサポートケアではなく生存期間の延長に基づいて進行性 NSCLC の治療の第 2 選択として承認された。 ドセタキセル(商品名:タキソール微小管重合阻害薬)よりも良好な副作用プロファイルを有するペメトレキセド(商品名:アリムタジヒドロ葉酸レダクターゼ阻害薬)およびエルロチニブ(商品名:タルセバ上皮成長因子受容体 EGFR 阻害薬)のような比較的新しい薬剤はドセタキセルよりも劣っている、あるいはセカンドラインとして使用された場合に全生存期間においてドセタキセルに対し優位性を示せなかった(非劣性)。 活性化T細胞上に発現する Programmed Death 1PD-1)受容体は、腫瘍に発現したリガンド PD-L1 および PD-L2 が結合することにより、T細胞活性化がダウンレギュレーションされ、腫瘍は免疫逃避immune escape を促進する(つまり腫瘍細胞は免疫系による認識および排除を免れる)。 完全ヒト IgG4 PD-1 免疫チェックポイント阻害抗体であるニボルマブ(商品名:オプジーボ)は、PD-1 媒介シグナル伝達を破壊し、T 細胞の抗腫瘍免疫を回復させる可能性がある(低下した抗腫瘍作用を回復させる)。 1相試験では、ニボルマブ単剤療法は耐久性のある抗腫瘍活性を示し、NSCLC サブタイプ全てにおいて生存率を向上させた(①Phase I study of single-agent anti-programmed death-1 (MDX-1106) in refractory solid tumors: safety, clinical activity, pharmacodynamics, and immun… – PubMed – NCBI、②Safety, activity, and immune correlates of anti-PD-1 antibody in cancer. – PubMed – NCBI、③Overall Survival and Long-Term Safety of Nivolumab (Anti-Programmed Death 1 Antibody, BMS-936558, ONO-4538) in Patients With Previously Treated Adv… – PubMed – NCBI)。 重度前治療を受けている進行性非扁平上皮性 NSCLC 患者のうち、nivolumab17.6の反応率と関連しており、(投与後)1年で 42%、2年で 23%、3年で 16の全生存率、および(投与後)1年で無増悪生存率 18%を示した(上記文献結果)。 今回、進行性非扁平上皮性 NSCLC 患者において、ニボルマブとドセタキセルを比較した無作為化オープンラベル国際共同第相試験の結果を報告する。

結論

ドセタキセルに比べ、ニボルマブは進行性非扁平上皮性 NSCLC 患者の全生存率が優れていた。絶対リスク減少率は12%NNT9であった。

組み入れ基準

→ECOG 0 あるいは 1 の患者。 十分な血液学的、肝臓および腎機能を有する。 中枢神経系への転移を有する患者は、転移が治療され安定していれば組み入れた。 治療開始前に得られた腫瘍組織は、バイオマーカー分析に使用するのみで患者の選択には使用されなかった。 NSCLC IIIB期または IV、放射線照射後の再発性非扁平上皮癌治療、外科的切除後の再発、進行期間中、以前にプラチナベースの 2 剤併用化学療法レジメンを 1 度だけ受けた患者。 EGFR 変異または ALK 転座が既知の患者は、チロシンキナーゼ阻害剤療法の追加あるいは追加治療の選択、およびペメトレキセド、ベバシズマブ、またはエルロチニブへの治療切り替えは全ての患者に認められた。

除外基準

自己免疫疾患、症候性間質性肺疾患、全身性免疫抑制、チェックポイント標的薬剤を含む免疫刺激性抗腫瘍剤による前治療、およびドセタキセルの事前使用。

PECOT

P非扁平上皮性 NSCLC 平均 62 歳(range: 21-85)の男女 582 I:ニボルマブ 3 mg/kg2 週間毎に投与(最大投与可能回数:約 26 /年), i.v. C:ドセタキセル 75 mg/m23 週間毎に投与(最大投与可能回数: 17 /年), i.v. Oprimary – 全生存期間 secondary – 治験担当者が評価した奏効率、無増悪生存率、腫瘍 PD-L1 発現レベルによる有効性、および患者が報告したアウトカム T:ランダム化比較試験(オープンラベル)

批判的吟味

ランダム割付が隠蔽化されているか?(selection bias は無いか?)

以前に受けていた治療の影響が本試験結果に反映される可能性が高いため、以下 2 因子についての層別化を実施(この2因子については両群で同条件になるよう努めている)。Concealment については IVRSを採用しているため中央割付の可能性が高い。 以前の維持療法(Yes vs. No)および②治療ライン(2ndライン vs. 3rdライン)
Randomization was stratified according to prior maintenance treatment (yes vs. no) and line of therapy (second line vs. third line).

マスキングされているか?(ブラインドか否か?)

オープンラベル open-label 疾患からブラインドで行うことは困難であり、費用面からも不適と考えられる。また薬剤によって投与期間が異なる。リアルワールドで肺がん患者がどんな治療を受けるか知らないことはほぼ無いだろう。 治療薬による副作用の早期発見および早期治療、個々の薬剤毎に副作用が異なるためにオープンで実施したとの記載あり。

プライマリーアウトカムは真か?

真(全生存期間)

Baseline は同等か?

同等(インバランスについても記載有り)
→The baseline characteristics were balanced between the treatment groups, with slight between-group imbalances in the percentages of male patients (二ボルマブ 52% vs. ドセタキセル 58%) and patients younger than 65 years of age. (←ここは 75歳未満の間違いかな?と思いましたが、 appendix 65歳未満の組み入れ数の記載もありました。二ボルマブ:37-84歳、65歳以上-75歳未満 88人、65歳未満 184 vs. ドセタキセル:21-85歳、同 112人、同 155)

交絡因子は網羅的に記載されているか?

記載されている(他にもあるかも 大項目で 14 因子:年齢(中央値・範囲)、75歳以上の割合、性別(男性の割合)、人種(白人、アジア人、黒人、その他)、ECOG performance‑status score、肺がんステージ(ⅢB、Ⅳ)、喫煙歴Current or former smokerNever smokedUnknown)、EGFR 変異有り、ALK 変異有り、KRAS 変異有り、以前の維持療法、治療ライン、前治療レジメン(白金ベース、ALK 阻害薬、EGFR チロシンキナーゼ阻害薬)、最良効果判定(完全あるいは部分奏効、安定、進行、不明あるいは報告無し)

ITT 解析されているか?

されている。本文に記載有り。part of intention-to-treat

追跡率(脱落)はどのくらいか?脱落率は結果を覆す程か?

Table 3 以外はニボルマブ 292 vs. ドセタキセル 290 例で解析。なので Figure 1 の結果については、脱落無しの追跡率100% で問題ないと考えられます。 また以下の項目も追記いたします。 追跡率は両群ともに 90% を超えているため問題ないと判断した。 二ボルマブ:追跡率 287/292 = 98.29%(脱落 5 例、1.71% (脱落の内訳:試験薬とは無関係な有害事象 1 例、組入基準から逸脱 4 例) ドセタキセル:追跡率 268/290 =  92.41%(脱落 22 例、7.59% (脱落の内訳:患者希望により治療中止 4 例、同意撤回 12 例、追跡不能 1 例、組入基準から逸脱 5 例)

サンプルサイズは充分か?

403 例の死亡時点で解析し優越性があれば中止。抗がん剤の場合、途中解析・優越性示唆による早期中止を想定しているため、推定必要例数に到達した時点で統計解析する(解析回数も予め設定している)。近年では The O’Brien–Fleming alpha-spending functionを用いることが多いようである。途中解析を実施し最終解析にて P= 0.0408 未満で優越性が示されている(403 例死亡後に P= 0.047 未満であれば優越性有り)。 ドセタキセルの過去の試験結果から、262 例の死亡時点における有意差は両側 5%power= 90、ハザード比= 0.72 と推定している。また 403 例の死亡が認められるであろう推定必要期間は約 25 ヶ月とのこと。本試験では中央値 12.2 ヶ月時点において設定死亡数に達したものと考えられる。two-sided  5%  significance  level  sequential  test  procedure  with  one interim  analysis  after  262  deaths  (65%  of  total  deaths)  will  have  90%  power  if the  median  OS  times  in docetaxel and BMS-936558 are 8 and 11.1 months (HR=0.72).

結果は?

Primary outcome である薬剤投与 1 年後の全生存期間については統計学的有意差有り。 ◯追跡期間中央値: 12.2 ヶ月(95% confidence interval [CI] 9.7-15.0 ◯全生存率: 二ボルマブ51% (95% CI 45-56) vs. ドセタキセル39% ( 33-45) ◯ハザード比(Hazard ratio, HR): 0.7395% CI 0.59-0.89; P = 0.002本文では96%になってる。間違い? Secandary outcome ◯治験担当者が評価した奏効率 二ボルマブ19%95% CI, 15-24vs. ドセタキセル12%95% CI, 9-17 P = 0.02 (完全奏効:ニボルマブ 4 vs. ドセタキセル 1 人) ◯無増悪生存率・期間(投与 1 年後): 二ボルマブ19%95% CI, 14-23vs. ドセタキセル8%95% CI, 5-12P = 0.02 二ボルマブ 2.3 months95% CI, 2.2-3.3vs. ドセタキセル4.295% CI, 3.5-4.9 HR = 0.9295% CI, 0.77-1.1; P= 0.39 ◯腫瘍 PD-L1 発現レベルによる有効性(582 例中 455 例、78% がデータ有り): PD-L1 の発現度合いにより治療効果が異なっている。サプリのデータだが、個人的には重要であると捉え掲載した。これを踏まえていれば CheckMate-026 fail は無かったのではなかろうか。 ◯患者が報告したアウトカム: 現在進行中との記載有り。Safety  was  assessed  by  an  evaluation  of  the  incidence  of clinical adverse events and laboratory variables, which  were  graded  according  to  the  National Cancer  Institute  Common  Terminology  Criteria for  Adverse  Events,  version  4.0.  Select  adverse events (those with a potential immunologic cause) were grouped according to prespecified categories. Analyses  of  patient-reported  outcomes  are  ongoing.

考察

Figure 1 の結果から、二ボルマブは投与開始 9 ヶ月後よりドセタキセルとの差が開き始めており、12 ヶ月後には有意な差を持って 27% 死亡リスクを低下させた。しかし、癌の進行割合においてはドセタキセルの方が少なかった。 Primary outcome についてもう少し詳しく見ていくと、 ◯相対リスク RR51/39 = 1.308(生存率なので 1 より大きい方が良い) ◯相対リスク減少率 RRR:(39-51/39 = 0.30830.8% ◯絶対リスク減少率 ARR51-39 = 12% ◯治療必要数 NNT1/0.12 = 8.333 = 8 9 人(ここは切り上げでした。御指摘ありがとうございます) ◯治療期待オッズ(N 先生の受売り):1.27 という結果であった。Figure 1A の結果から、末期 NSCLC 患者へのニボルマブ投与により(ドセタキセル投与と比べ)2.8 ヶ月間寿命が延長する。ただし 24 ヶ月後にはニボルマブ投与群で 9 人、ドセタキセル投与群で 5 人の生存に留まった。ちなみに有害事象はドセタキセルに比べて二ボルマブの方が少なかった。 最後にコスト面(2017 1月時点における薬価ベース:窓口での負担額では無い)についてだが、仮に身長 164 cm、体重 60 kg の成人に両薬剤を投与した場合、 ◯ニボルマブ(商品名:オプジーボ)※ 20mg/2mL→ 150,200円(75,100/mL 100mg/10mL→ 729,899円(72,989/mL 3500万円/年(2017 2月には、この値より半額) ◯ドセタキセル(商品名:タキソール) 20mg/mL19,660円(ジェネリック医薬品 20mg/2mL12,552円) 80mg/4mL67,304円(ジェネリック医薬品 80mg/8mL43,164円) 178万円/年(ジェネリック医薬品:約 113万円)DuBois を使用 1.651m2

コメント

末期 NSCLC 患者を対象としているため、個人的にはコストベネフィットは低く、やはりニボルマブは高価であるなという印象(セカンドラインであることも留意)。ここは患者背景により異なるため、ニボルマブ使用の是非を問いたいわけではありません。また抗がん剤治療は 2 剤以上の併用療法が多く、今後ニボルマブも併用療法に組み込まれる可能性は充分あると思っています。 ただし、その場合、薬価をさらに下げなければ皆保険制度は崩壊しかねない(すでに崩壊しかけているかも?)。薬価下げすぎると採算が取れなくなりメーカーが販売中止するので困る。 報酬制度の見直しが迫られているのではなかろうか。それにしても抗がん剤はよく分からん。勉強を続けます。

追加情報※

① Eastern Cooperative Oncology Group (ECOG) performance-status score

Score 定義
0 全く問題なく活動できる。 発病前と同じ日常生活が制限なく行える。
1 肉体的に激しい活動は制限されるが、歩行可能で、軽作業や座っての作業は行うことができる。 例:軽い家事、事務作業
2 歩行可能で自分の身の回りのことはすべて可能だが作業はできない。 日中の50%以上はベッド外で過ごす。
3 限られた自分の身の回りのことしかできない。日中の50%以上をベッドか椅子で過ごす。
4 全く動けない。 自分の身の回りのことは全くできない。 完全にベッドか椅子で過ごす。
日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG:Japan Clinical Oncology Groupより表を引用 原著:Common Toxicity Criteria, Version2.0 Publish Date April 30, 1999 https://ctep.cancer.gov/protocolDevelopment/electronic_applications/docs/ctcv20_4-30-992.pdf

② O’ Brien-Fleming 法

抗がん剤のような、市場から効果と承認スピードを求められている薬剤の場合、最終評価項目の解析を研究終了前に行い、予想以上の効果が観測された場合には研究を早期終了し、承認申請手続きに移行することがある。 Pocock 法等、他の方法より解析総数に依存せず、推定最終解析時における有意水準が比較的 0.05 に近く設定される。これにより他の方法に比べ最終解析における有意差が出やすくなるという利点がある。しかし研究開始に近い時点の中間解析では(早期であれば早期であるほど)有意水準が厳しく設定されることになるため試験の早期終了は期待できない。これは試験早期の小規模なデータのみで新薬を有効とする妥当性を担保することは困難であることと、小規模データのみでは医師等、専門家からの試験結果に対する支持を得られにくい為である。

③喫煙歴

Current smoker:現在、毎日喫煙あるいは特定の頻度で数日は喫煙している Former smoker:過去100本以上吸ったが、現在は吸っていない Never smoked:現在吸っていない(過去吸った本数100本未満

④奏効率

腫瘍の直径が半分以下になる患者割合。RECIST では長径が 70以下と定義。 

⑤DuBois 式

⑥ IVRS (Interactive Voice Response System)

中央コンピュータにて割付をコントロールし、組み入れ患者は電話にて治療薬等の指示を受ける。選択バイアスやブラインド保持等、様々な試験方法に用いられている。またコスト削減や、患者情報をリアルタイムに入手できる等のメリットもある。 →   似た方法に Interactive Web Response System (IWRS) があり、こちらは Web site で指示を受ける

-Evidence never tells you what to do-



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