左室血栓症治療における直接経口抗凝固薬の使用は推奨できますか?(ブログ管理者によるナラティブレビュー; 最終更新日: 2020年6月21日)

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左室血栓症治療における直接経口抗凝固薬の適応外使用が増えている?

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左室(内)血栓症においては、国内外の診療ガイドラインでビタミンK拮抗薬(ワルファリン)が推奨されています。一方、直接作用型経口抗凝固薬(Direct Oral AntiCoagulants, DOACs)については、左室内血栓症に対する明確な有効性が示されておらず、診療ガイドラインでの推奨はありません。ただし国内の診療ガイドラインは2009年版、海外の診療ガイドラインは2013年版であり、その後更新されていません。

つまり、左室血栓については、情報が更新されていないと言えます。また今日まで、前向きランダム化比較試験は実施されておらず、症例報告や症例シリーズを統合したメタ解析の結果に止まっています。

過去の報告によれば、左室内血栓症に対するDOACsの有効性(血栓溶解、心筋梗塞発症の抑制など)が示されている研究もあれば、効果が得られなかったとする研究もあります。また、これらを統合した結果においても、左室内血栓症に対するDOACsの使用を推奨する結論もあれば、推奨できないとする結論もあります。

さて、それぞれのメタ解析に組み入れられた臨床試験および試験参加者、サンプルサイズを見ていくと、いずれも小規模な症例対照研究がメインであり、研究数も少ないことから、結果にバラツキが見られます。一方、論文5として紹介した研究は、3施設のコホート研究ではありますが、他の研究と比較して、単研究での症例数としては多いと考えられます。

いずれの試験の結果も相関関係であるため、結論を出すまでには至っていませんが、少なくとも現時点においては、左室内血栓症に対するDOACsの有益性は少ない(あるいはほとんどない)と考えられます。論文の著者達が述べている通り、左室内血栓症に対するDOACsとワルファリンの直接比較試験(前向き、ランダム化)を実施する必要があると考えます。

診療ガイドライン

国内:循環器疾患における抗凝固・抗血小板療法に関するガイドライン(2009年改訂版)

発症予防

  • クラスI
  1. 心筋梗塞の既往を有する症例における抗血小板薬の投与
  2. 心筋梗塞の既往に加えて、心房細動、左室内血栓、もしくは左室機能低下を有する症例におけるPT-INR値2.0~3.0でのワルファリン投与( 非弁膜性心房細動で70歳以上はPT-INR値1.6~2.6を目標とする)。
  • クラスIIa
  1. 無症候性内頸動脈中等度もしくは高度狭窄を有する症例における血管イベント抑制のための低用量アスピリン投与

海外:欧州心臓病学会(ESC)/米国心臓病学会(ACC)/米国心臓協会(AHA)ガイドライン2013年

  • 急性心筋梗塞後のLVTを有する入院患者に対して、少なくとも3~6ヶ月間、出血のリスクが増加しない無期限のVKA投与を推奨。
  • 一次PCI時代には、急性心筋梗塞患者には長期の二重抗血小板療法(DAPT)が行われる。

✅まとめ✅ 現時点においては、左室血栓症治療における直接経口抗凝固薬の使用は推奨できない


論文1: Use of Direct Oral Anticoagulants in the Treatment of Left Ventricular Thrombi, a Systematic Review(システマティック・レビュー)

Ramy Sedhom, MD, MS et al.

THE AMERICAN JOURNAL of MEDICINE 2020

Published:June 18, 2020 DOI:https://doi.org/10.1016/j.amjmed.2020.05.012

Funding: None

Keywords: direct oral anticoagulants, DOACs, left ventricular thrombi

背景

左室血栓症に対する直接経口抗凝固薬の適応外使用は、投与の簡便性、国際標準化比(INR)モニタリングの必要がないこと、食事制限がないことなどから、近年増加しているが、安全性、有効性のエビデンスは相反するものである。

方法

我々は、2009年1月1日から(2020年)4月25日までの期間に、左室血栓に対する経口抗凝固薬の直接投与に関する研究をPubMedおよびGoogle Scholarで系統的に検索した。

結果

・論文53件(患者1,168例)が我々の研究への組み入れ基準を満たしていた。

・これらの研究の結果は相反するものであり、我々の知見によれば、左室血栓症の治療に抗凝固薬を日常的に使用することは推奨できないことがわかった。

結論

左室血栓に対する最も安全で効果的な治療法を決定するためには、十分なパワーを有するランダム化比較試験が必要である。

まとめ

  • 左室血栓症に対する直接経口抗凝固薬(DOAC)の適応外使用がここ数年で増加しているが、その安全性と有効性のエビデンスは矛盾している。
  • 左室血栓症の治療にDOACsまたはワルファリンを用いたランダム化比較試験の報告はない。
  • 我々のレビュー結果に基づき、左室血栓の治療にDOACを日常的に使用することは推奨できない。

論文2: Use of Direct Oral Anticoagulants in the Treatment of Left Ventricular Thrombus: Systematic Review of Current Literature(システマティック・レビュー)

Marvin Kajy et al.

Am J Ther. 2019 Jan 29. doi: 10.1097/MJT.0000000000000937. Online ahead of print.

PMID: 30730331

DOI: 10.1097/MJT.0000000000000937

背景

左室血栓(LVT)は、特に急性心筋梗塞後の収縮期機能障害において重要な合併症である。現在のガイドラインでは、LVTの治療にはビタミンK拮抗薬であるワルファリンが推奨されている。

不確実性の領域と研究上の疑問

直接経口抗凝固薬(DOAC)は、それを支持するランダム化試験やその有効性に関する知識が不足しているにもかかわらず、この実体の管理のために使用されることが増えている。我々は LVTの治療におけるDOACsの使用頻度と有効性を評価することを目的とした。

データソース

任意の治療法でDOACsが導入されてから2018年4月までにGoogle Scholar、PubMed、MEDLINE、Embaseで公開された論文を検索した。

LVTと診断され、DOACによる治療を受けた患者を記載した報告を検討した。患者の特徴、併存疾患、薬理学的治療、転帰を収集した。

本研究の主要エンドポイントは血栓溶解と溶解までの時間であった。その他のエンドポイントは出血および血栓塞栓イベントであった。

結果

・患者41例を記載した論文30件が解析された。

・LVT形成の最も一般的な危険因子は、男性、虚血性心疾患、低駆出率であった。

・大半の患者はリバロキサバン(51.2%)で治療され、次いでアピキサバン(26.8%)、ダビガトラン(22%)の順であった。

・治療はDOAC単独(46.3%)、DOACとアスピリン(12.2%)、DOACとクロピドグレル(2.4%)、3剤併用(39%)であった。

・血栓溶解成功率はリバロキサバンが81%、アピキサバンが100%、ダビガトランが88.9%であった。血栓溶解までの期間の中央値は、リバロキサバンが40日、アピキサバンが36日、ダビガトランが24日であった。DOAC投与中に非致死的出血イベントが1件、脳卒中イベントが1件報告された。

結論

LVTの管理においてDOACの使用は、ビタミンK拮抗薬に代わる合理的な選択肢である。


論文3: Direct Oral Anticoagulants for the Treatment of Left Ventricular Thrombus-A New Indication? A Meta-summary of Case Reports(システマティック・レビュー)

Daniela Tomasoni et al.

J Cardiovasc Pharmacol. 2020 Jun;75(6):530-534. doi: 10.1097/FJC.0000000000000826.

PMID: 32187166

DOI: 10.1097/FJC.0000000000000826

背景

左室血栓(LVT)は、駆出率の低下した心不全や急性心筋梗塞などの心疾患の結果として生じることがある。現在、ガイドラインでは、この病態の治療にワルファリンの使用が推奨されています。しかし、いくつかの理由から、LVT患者に直接経口抗凝固薬(DOACs)を投与する報告が増えている。

我々は、このアプローチの安全性と有効性を評価するために、利用可能な文献をレビューすることを目的とした。

方法

患者の特徴、治療法、転帰、追跡調査に焦点を当てて、文献に含まれる論文34件から外挿した52例を分析した。

結果

・最も多く使用されたDOACはリバロキサバンであり、次いでアピキサバンが使用された。

・LVTの診断および経過観察は主に経胸腔エコー検査で行われた。

・血栓が消失したのは49例中45例(92%)であり(3例の転帰に関するデータはない)、DOACで治療した4例では消失しなかった。消失期間の中央値は32日であった。

結論

DOACsはLVTの治療法として妥当かつ有効な選択肢であることが示されている。本研究は、前向きランダム化比較試験の根拠を提供する。


論文4: Efficacy of Direct Acting Oral Anticoagulants in Treatment of Left Ventricular Thrombus(単施設・症例シリーズ)

Adam M Fleddermann et al.

Am J Cardiol. 2019 Aug 1;124(3):367-372. doi: 10.1016/j.amjcard.2019.05.009. Epub 2019 May 8.

PMID: 31126539

DOI: 10.1016/j.amjcard.2019.05.009

背景

左室(LV)血栓の治療において、ビタミンK拮抗薬に代わる適応外の経口抗凝固薬(DOAC)の使用が増加している。しかし、有効性のデータは小規模な症例シリーズと1件の症例報告のメタアナリシスに限られている。

我々は、経胸腔心エコー検査(TTE)と臨床転帰を用いて、左室血栓治療におけるDOACの有効性と安全性を検討することを目的とした。

方法

LV血栓に対してDOACを投与された52例(平均年齢 64歳、男性 71%)を同定した(アピキサバン 26例、リバロキサバン 24例、ダビガトラン 2例)。

52例中35例がDOAC開始後にフォローアップTTEを受けた。

主要エンドポイントは、LV血栓の消失(その後のTTEがあった患者では)、死亡、輸血を必要とする大出血、頭蓋内出血、虚血性脳卒中、末梢塞栓と定義した。

経験豊富な心エコー専門医(M.L.M.)が、タイムポイントや臨床データを知らずに、LV血栓の有無についてすべてのTTEを審査した。

結果

・フォローアップTTEを受けた35例(83%)のうち29例でLV血栓が消失しており、その期間は平均264日であった。

・試験集団全体のうち、DOAC開始から52日後に心血栓性イベント(一過性脳虚血発作)が1件、輸血を必要とする消化管出血が3件、輸血を必要とする出血の患者が1件であった。

・出血性合併症を起こした患者はすべて抗血小板療法を併用していた。

結論

DOAC療法はLV血栓の治療に有望と思われる。これらの結果を確認するためには、より大規模な前向き研究が必要である。

論文5: Off-label Use of Direct Oral Anticoagulants Compared With Warfarin for Left Ventricular Thrombi(前向きコホート研究)

Austin A Robinson et al.

JAMA Cardiol. 2020 Apr 22;5(6):685-692. doi: 10.1001/jamacardio.2020.0652. Online ahead of print.

PMID: 32320043

PMCID: PMC7177639 (available on 2021-04-22)

DOI: 10.1001/jamacardio.2020.0652

試験の重要性

左室(LV)血栓は虚血性心筋症および非虚血性心筋症の患者で発生する可能性がある。抗凝固療法は脳卒中または全身性塞栓症(stroke or systemic embolism, SSE)のリスクを減少させると考えられているが、この適応における直接経口抗凝固薬(direct oral anticoagulants, DOAC)の有効性に関する質の高いデータはない。

目的

LV血栓の治療におけるDOAC使用とワルファリン使用に関連する転帰を比較する。

試験デザイン、設定、参加者

2013年10月1日から2019年3月31日までの間に心エコーでLV血栓と診断された対象患者514例を対象に、三次ケア学術医療センター3施設でコホート研究を実施した。

フォローアップは試験期間終了まで実施した。

曝露

抗凝固薬使用の種類と期間。

主要アウトカムおよび測定法

臨床的に明らかなSSE。

結果

・LV血栓を有する合計514人の患者(男性 379例;平均[SD]年齢 58.4[14.8]歳)が同定され、そのうち300例がワルファリンを投与され、185例がDOACを投与された(患者64例がこれらの群間で治療を切り替えた)。

・患者コホート全体の追跡期間中央値は351日(四分位範囲、51~866日)であった。

・無調整解析では、DOAC vs. ワルファリン(ハザード比[HR] 2.71、95%CI 1.31~5.57;P=0.01)およびSSEの既往(HR =2.13、95%CI 1.22~3.72;P=0.01)がSSE発生と関連していた。多変量解析では、DOACとワルファリンによる抗凝固療法(HR、2.64;95%CI、1.28~5.43;P = 0.01)および以前のSSE(HR、2.07;95%CI、1.17~3.66;P = 0.01)は依然としてSSEと有意に関連していた。

結論および関連性

LV血栓に対する抗凝固戦略に関するこの多施設コホート研究では、DOAC治療はワルファリン使用と比較して、他の因子を調整した後でもSSEのリスクが高かった。

これらの結果は、LV血栓に対するDOACとワルファリンとの同等性の仮定に疑問を投げかけ、LV血栓に対する最も効果的な治療戦略を決定するための前向きランダム化臨床試験の必要性を強調している。


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