リン吸着剤により心血管イベントの発生は抑制できるのか?
以前の研究結果から、ステージ3b/4のCKD患者において、炭酸ランタンを96週間投与しても、プラセボと比較して動脈硬化や大動脈石灰化に影響はないことが示されました(IMPROVE-CKD試験、PMID: 32917784)。ただし、動脈硬化の指標として用いられたのは頸動脈-大腿脈波伝播速度であり、心血管イベント発生への影響については明らかになっていません。さらに本試験の患者は、血清リンの値が正常値範囲内であることから、リン吸着剤の予防投与を検証したものと考えられます。
血液透析実施中の高リン血症を有するCKD患者におけるリン吸着剤の効果については充分に検討されていません。
そこで今回は、血液透析を受けている日本人CKD患者に対する炭酸ランタン(ホスレノール®️)と炭酸カルシウム(カルタン®️)の効果を検証したLANDMARK試験の結果をご紹介します。
試験結果から明らかになったことは?
ランダム化された患者 2,309例(年齢中央値 69歳、女性 40.5%)のうち、1,851例(80.2%)が試験を完了しました。
追跡期間(中央値)3.16年後、心血管イベント*は炭酸ランタン群 1,063例中147例、炭酸カルシウム群 1,072例中134例に発生しました(発生率 4.80 vs. 4.30/100人・年、差 0.50/100人・年[95%CI -0.57〜1.56]、ハザード比[HR] 1.11[95%CI 0.88〜1.41]、P=0.37)。
全死亡(差 0.43/100人・年[95%CI -0.63 ~ 1.49]、HR 1.10[95%CI 0.88~1.37]、P=0.42)および股関節骨折(差 0.10/100人・年[95%CI -0.26~0.47]、HR 1.21[95%CI 0.62~2.35]、P=0.58)について、有意な差はありませんでした。
*心血管死、非致死性心筋梗塞または脳卒中、不安定狭心症、一過性脳虚血発作、心不全または心室性不整脈による入院の複合
イベント (発生率・数) | 炭酸ランタン (n=1,067) | 炭酸カルシウム (n=1,072) |
心血管死 | 33.3%(49) | 23.9%(32) |
非致死性心筋梗塞 | 6.1%(9) | 6.7%(9) |
非致死性脳卒中 | 23.8%(35) | 24.6%(33) |
不安定狭心症 | 14.3%(21) | 24.6%(33) |
一過性脳虚血発作 | 0%(0) | 0%(0) |
心不全による入院 | 20.4%(30) | 21.6%(29) |
心室性不整脈による入院 | 2.7%(4) | 0%(0) |
総計 | 147 | 134 |
炭酸ランタン群では、心血管死亡(差 0.61/100人年[95%CI 0.02~1.21]、HR 1.51[95%CI 1.01~2.27]、P=0.045)および二次性副甲状腺機能亢進症(差 1.34[95%CI 0.49~2.19]、HR 1.62[95%CI 1.19~2.20]、P=0.002)のリスクの高さが示されました。
有害事象は、炭酸ランタン群では282例(25.7%)、炭酸カルシウム群では259例(23.4%)に発生しました。
イベント (発生率・数) | 炭酸ランタン (n=1,067) | 炭酸カルシウム (n=1,072) |
1例以上に認められたイベント数の総計 | 25.7%(282) | 23.4%(259) |
消化器系疾患 | 63.8%(180) | 48.6%(126) |
感染症及び寄生虫症 | 16.0%(45) | 13.9%(36) |
皮膚及び皮下組織障害 | 14.5%(41) | 17.0%(44) |
代謝及び栄養障害 | 10.6%(30) | 18.5%(48) |
良性、悪性及び非特定の新生物 | 6.4%(18) | 7.3%(19) |
血管疾患 | 6.0%(17) | 5.0%(13) |
傷害毒及び手術に伴う合併症 | 5.3%(15) | 9.3%(24) |
筋骨格系及び結合組織障害 | 5.7%(16) | 6.6%(17) |
心疾患 | 5.0%(14) | 5.8%(15) |
神経系疾患 | 6.0%(17) | 3.9%(10) |
肝胆膵臓疾患 | 1.8%(5) | 5.4%(14) |
等 |
コメント
本試験の結果から、治療的なリン吸着剤の投与は、カルシウムの有無により差は認められませんでした。ただしプラセボ対象試験ではないため、高リン血症を呈する血液透析患者において、そもそもリン吸着剤による心血管イベントの発生抑制効果が認められるのかについては不明です。今のところは、カルシウム含有製剤と非含有製剤に差はなさそうですが、炭酸ランタンは、炭酸カルシウムと比較して、副次評価項目ではあるものの、心血管死亡および二次性副甲状腺機能亢進症のリスク増加の可能性が示されている点には注意が必要です。今後も注視した方が良いアウトカムであると考えます。
ちなみにではありますが、2018年に発表されたコクランレビュー(PMID: 30132304)において、CKD G5D(透析)患者におけるセベラマー使用は、カルシウム系リン吸着剤と比較して、死亡(全死因)を低下させ、治療関連の高カルシウム血症が少ない可能性が示されています。
そもそも高リン血症と心血管イベントとの関係性は明らかになっていません。リンとマグネシウムのバランスが心血管イベント発生に関与している可能性も報告されています。今後のエビデンス集積が待たれる分野であると考えます。
✅まとめ✅ 高リン酸血症で血管石灰化の危険因子が1つ以上ある血液透析患者において、炭酸ランタンによる高リン酸血症の治療は、炭酸カルシウムと比較して、複合心血管イベントに有意な差をもたらさなかった。炭酸ランタンにより、心血管死亡および二次性副甲状腺機能亢進症のリスク増加の可能性が示された。
根拠となった試験の抄録
試験の重要性:透析を受けている高リン血症患者において、カルシウム系以外のリン酸塩結合剤がカルシウム系結合剤よりも心血管イベントの抑制に有効であるかどうかは不明である。
目的:血液透析を受けている血管石灰化のリスクがある高リン血症患者において、炭酸ランタン(ホスレノール®️)が炭酸カルシウム(カルタン®️)と比較して心血管イベントを減少させるかどうかを検討する。
試験デザイン、設定及び参加者:日本国内の血液透析施設 273施設の慢性腎臓病患者 2,374例を対象に、盲検下でエンドポイント判定を行う非盲検ランダム化並行群間臨床試験を実施した。
対象は高リン血症と1つ以上の血管石灰化の危険因子(65歳以上、閉経後、糖尿病など)を有する患者。登録は2011年11月から2014年7月まで行われ、追跡調査は2018年6月に終了した。
介入:患者を炭酸ランタン(n=1,154)または炭酸カルシウム(n=1,155)のいずれかにランダムに割り付け、血清リン酸値が3.5mg/dL~6.0mg/dLになるように滴定した。
主要評価項目と測定:主要アウトカムは複合心血管イベント(心血管死、非致死性心筋梗塞または脳卒中、不安定狭心症、一過性脳虚血発作、心不全または心室性不整脈による入院)とした。
副次評価項目は、全生存期間、二次性副甲状腺機能亢進症のない生存期間、股関節骨折のない生存期間、有害事象などであった。
結果:ランダム化された患者 2,309例(年齢中央値 69歳、女性 40.5%)のうち、1,851例(80.2%)が試験を完了した。追跡期間(中央値)3.16年後、心血管イベントは炭酸ランタン群 1,063例中147例、炭酸カルシウム群 1,072例中134例に発生した(発生率 4.80 vs. 4.30/100人・年、差 0.50/100人・年[95%CI -0.57〜1.56]、ハザード比[HR] 1.11[95%CI 0.88〜1.41]、P=0.37)。
全死亡(差 0.43/100人・年[95%CI -0.63 ~ 1.49]、HR 1.10[95%CI 0.88~1.37]、P=0.42)および股関節骨折(差 0.10/100人・年[95%CI -0.26~0.47]、HR 1.21[95%CI 0.62~2.35]、P=0.58)について、有意な差はなかった。
炭酸ランタン群では、心血管死亡(差 0.61/100人年[95%CI 0.02~1.21]、HR 1.51[95%CI 1.01~2.27]、P=0.045)および二次性副甲状腺機能亢進症(差 1.34[95%CI 0.49~2.19]、HR 1.62[95%CI 1.19~2.20]、P=0.002)のリスクが高かった。
有害事象は、炭酸ランタン群では282例(25.7%)、炭酸カルシウム群では259例(23.4%)に発生した。
結論と関連性:高リン酸血症で血管石灰化の危険因子が1つ以上ある血液透析患者において、炭酸ランタンによる高リン酸血症の治療は、炭酸カルシウムと比較して、複合心血管イベントに有意な差をもたらさなかった。ただし、イベント発生率は低く、この知見はリスクの高い患者には当てはまらない可能性がある。
試験の登録:ClinicalTrials.gov Identifier NCT01578200;UMIN臨床試験登録識別子UMIN000006815
引用文献
Effect of Treating Hyperphosphatemia With Lanthanum Carbonate vs Calcium Carbonate on Cardiovascular Events in Patients With Chronic Kidney Disease Undergoing Hemodialysis: The LANDMARK Randomized Clinical Trial
Hiroaki Ogata et al. PMID: 34003226 PMCID: PMC8132143 (available on 2021-11-18) DOI: 10.1001/jama.2021.4807
JAMA. 2021 May 18;325(19):1946-1954. doi: 10.1001/jama.2021.4807.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34003226/
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