急速な腎機能低下の発生とSGLT-2阻害薬使用との関連性は?
ほとんどの2型糖尿病(T2DM)患者において腎機能は徐々に低下することが知られています。多くの患者は進行性の慢性腎臓病(CKD)を発症しますが、一部の患者では腎機能が急速に低下し、腎不全や心血管疾患のリスクが高くなることも報告されています。
EMPA-REG OUTCOME試験において、エンパグリフロジンは腎臓病の進行を遅らせることと関連していました。しかし、SGLT-2阻害薬であるエンパグリフロジンが、急激な腎機能低下を抑制できるのかについては充分に検証されていません。
そこで今回は、年間推定糸球体濾過量(eGFR)低下が3mL/min/1.73m2を超える「rapid decliner」表現型の有病率に対するエンパグリフロジン(プール用量)の効果を評価した事後解析結果をご紹介します。
本試験は、T2DMを有し、心血管疾患が確立し、eGFRが30mL/分/1.73m2以上の成人を対象とした大規模ランダム化二重盲検プラセボ対照試験であるEMPA-REG OUTCOMEの探索的解析です。連続したeGFRデータが得られた6,967例(99.2%)が解析対象でした。
患者は標準治療に加えてエンパグリフロジン10mg、25mg、プラセボにランダムに割り付けられました(1:1:1)。
本試験の評価項目は、治療維持期(4週目~治療最終値)におけるeGFRの年次変化であり、線形回帰モデルにより算出されました。治療群間の急激な低下の差を調べるためにロジスティック回帰分析が用いられました。
試験結果から明らかになったことは?
試験期間中、プラセボ投与群188例(9.5%)、エンパグリフロジン投与群134例(3.4%)で急速な低下表現型が観察されました。
オッズ比 OR (95%CI) | |
eGFR低下が3mL/min/1.73m2超 | OR 0.32 (0.25〜0.40) P<0.001 |
eGFR低下が5mL/min/1.73m2超 | OR 0.47 (0.31〜0.72) P<0.001 |
他の危険因子で調整した結果、エンパグリフロジン投与群ではプラセボ投与群に対してオッズが3分の2に減少しました(OR 0.32、95%CI 0.25〜0.40;P<0.001)。5mL/min/1.73m2/年を超えるeGFR低下の閾値を用いても、同等のリスク低下が観察されました(エンパグリフロジン vs. プラセボ;43例[1.1%] vs. 44例[2.2%];OR 0.47、95%CI 0.31〜0.72;P<0.001)。
コメント
2型糖尿病患者では慢性腎臓病(CKD)の発生リスクが高く、一部の患者において腎機能が急速に低下し、腎不全や心血管疾患のリスクが高くなることも報告されています。SGLT-2阻害薬であるエンパグリフロジンが、この急速な腎機能低下を抑制する可能性がありますが、充分に検証されていません。
さて、二重盲検ランダム化比較試験の探索的事後解析の結果、エンパグリフロジンを投与された患者は、中央値2.6年の試験薬投与期間中にeGFRが急速に低下する可能性が有意に低いことが示されました。eGFR低下が3mL/min/1.73m2超の発生リスクについて、母集団のサンプルサイズが大きく、かつ区間推定値の幅が小さいことから、結果の信頼性はある程度保たれていると考えられます。とはいえ、あくまでも事後解析の結果であることから、更なる検証が求められます。
続報に期待。
✅まとめ✅ EMPA-REG OUTCOME試験の事後解析の結果、エンパグリフロジンを投与された患者は、中央値2.6年の試験薬投与期間中にeGFRが急速に低下する可能性が有意に低かった。
根拠となった試験の抄録
理由と目的:ほとんどの2型糖尿病(T2DM)患者において腎機能は徐々に低下する。多くの患者は進行性の慢性腎臓病(CKD)を発症するが、一部の患者では腎機能が急速に低下し、腎不全や心血管疾患のリスクが高くなる。EMPA-REG OUTCOMEにおいて、エンパグリフロジンは腎臓病の進行を遅らせることと関連していた。本ポストホック解析では、年間推定糸球体濾過量(eGFR)低下が3mL/min/1.73m2を超える「rapid decliner」表現型の有病率に対するエンパグリフロジン(プール用量)の効果を評価した。
研究デザイン:本試験は、T2DMを有し、心血管疾患が確立し、eGFRが30mL/分/1.73m2以上の成人を対象とした大規模ランダム化二重盲検プラセボ対照試験であるEMPA-REG OUTCOMEの探索的解析である。
設定と参加者:連続したeGFRデータが得られた6,967例(99.2%)を対象とした。
介入:患者は標準治療に加えてエンパグリフロジン10mg、25mg、プラセボにランダムに割り付けられた(1:1:1)。
アウトカム:治療維持期(4週目~治療最終値)におけるeGFRの年次変化を線形回帰モデルを用いて算出した。治療群間の急激な低下の差を調べるためにロジスティック回帰分析を用いた。
結果:試験期間中、プラセボ投与群188例(9.5%)、エンパグリフロジン投与群134例(3.4%)で急速な低下表現型が観察された。他の危険因子で調整した結果、エンパグリフロジン投与群ではプラセボ投与群に対してオッズが3分の2に減少した(OR 0.32、95%CI 0.25〜0.40;P<0.001)。5mL/min/1.73m2/年を超えるeGFR低下の閾値を用いても、同等のリスク低下が観察された(エンパグリフロジン vs. プラセボ;43例[1.1%] vs. 44例[2.2%];OR 0.47、95%CI 0.31〜0.72;P<0.001)。
限界:これはT2DMとCVDを有する参加者を対象に行われた試験の事後分析である。他の環境における知見の一般化はまだ確立されていない。
結論:エンパグリフロジンを投与された患者は、中央値2.6年の試験薬投与期間中にeGFRが急速に低下する可能性が有意に低かった。
引用文献
Empagliflozin and Rapid Kidney Function Decline Incidence in Type 2 Diabetes: An Exploratory Analysis From the EMPA-REG OUTCOME Trial
Samy Hadjadj et al. PMID: 38419787 PMCID: PMC10900108 DOI: 10.1016/j.xkme.2023.100783
Kidney Med. 2023 Dec 18;6(3):100783. doi: 10.1016/j.xkme.2023.100783. eCollection 2024 Mar.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38419787/
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