欧米におけるH.pylori感染症に対する除菌効果:ボノプラザン vs. ランソプラゾール
ヘリコバクター・ピロリは、消化性潰瘍、胃腺がん、胃粘膜関連リンパ組織リンパ腫の主要な原因であり(PMID: 27707777)、診療ガイドラインにおいて、ピロリ菌の除菌が推奨されています(PMID: 27707777、PMID: 28071659)。
米国を含む多くの国で、数十年にわたり、H.pylori感染症の治療は、プロトンポンプ阻害薬(PPI)、クラリスロマイシン、アモキシシリンまたはメトロニダゾールの3剤併用療法が主流となっています(PMID: 27707777、PMID: 28071659)。 PPIによる3剤併用療法の除菌率は欧米では80%を下回り、主にクラリスロマイシン耐性率が上昇しているため(PMID: 28071659、PMID: 33577874、PMID: 32958544)、最適な管理方法の確立が急務となっています(PMID: 33577874、PMID: 32958544)。ピロリ菌の抗生物質に対する感受性は、胃内pHの影響を受け、抗生物質の安定性や活性が変化し、ピロリ菌の複製状態に影響を与える抗生物質(PMID: 9044021)の中には、最適な抗菌活性のためにピロリ菌の複製が活発であることを必要とするものがあります(PMID: 28937019)。したがって、胃内pHを持続的に制御すればピロリ菌除菌率を改善することができると考えられます (PMID: 28937019、PMID: 33089598)。
ボノプラザンは、カリウムイオン競合型の胃酸分泌抑制薬で、現在、日本を含む数ヵ国でH.pylori感染症およびその他の酸関連疾患の治療薬として承認されています。本剤は、PPIに比べ胃内pHを迅速かつ強力に上昇させ、その状態を維持することにより、H.pyloriの除菌率を向上させることが知られています(PMID: 31990424)。これまで、ボノプラザンを用いた除菌療法の臨床経験は、東アジアに限られていました。アジアの臨床試験のメタ解析(PMID: 31211144、PMID: 29873436)では、ボノプラザン、アモキシシリン、クラリスロマイシンの3剤併用は、クラリスロマイシン耐性株を含むPPIベースの3剤併用療法よりも有意に高い除菌率を示しました(P<0.001)。さらに日本ではボノプラザンとアモキシシリンの併用により、ボノプラザンベースの3剤併用と同等の除菌率を示しており(PMID: 31434101、PMID: 32666199、PMID: 31915235)、さらなる評価の必要性が示唆されています(PMID: 29337157)。
そこで今回は、ボノプラザンの3剤併用療法および2剤併用療法とPPIによる3剤併用療法のH.pylori除菌効果および有害事象を比較したランダム化比較試験の結果をご紹介します。
試験結果から明らかになったことは?
合計1,046例の患者がランダム化されました。
菌消失率(非耐性株) | 群間差 (95%信頼区間 [CI]) | |
ボノプラザン3剤併用療法 | 84.7% | 5.9% (-0.8 ~ 12.6) 非劣性P<0.001 |
2剤併用療法 | 78.5% | -0.3% (-7.4 ~ 6.8) 非劣性P= 0.007 |
ランソプラゾール3剤併用療法 | 78.8% | Reference |
主要評価項目である菌消失率(非耐性株):ボノプラザン3剤併用療法 84.7%、2剤併用療法 78.5%、ランソプラゾール3剤併用療法 78.8% (いずれも非劣性; 差 5.9%、95%信頼区間 [CI] -0.8 ~ 12.6、P<0.001; 差 -0.3%、95%CI -7.4 ~ 6.8、P= 0.007)。
クラリスロマイシン耐性感染症における菌消失率 | 群間差 (95%信頼区間 [CI]) | |
ボノプラザン3剤併用療法 | 65.8% | 33.9% (17.7 ~ 48.1) 優越性P<0.001 |
2剤併用療法 | 69.6% | 37.7% (20.5 ~ 52.6) 優越性P<0.001 |
ランソプラゾール3剤併用療法 | 31.9% | Reference |
クラリスロマイシン耐性感染症における菌消失率:ボノプラザン3剤併用療法 65.8%、2剤併用療法 69.6%、ランソプラゾール3剤併用療法 31.9%(いずれも優越; 差 33.9%、95%CI 17.7 ~ 48.1、P<0.001; 差 37.7%、95%CI 20.5 ~ 52.6、P<0.001)。
すべての患者 | 群間差 (95%信頼区間 [CI]) | |
ボノプラザン3剤併用療法 | 80.8% | 12.3% (5.7 ~ 18.8) 優越性P<0.001 |
2剤併用療法 | 77.2% | 8.7% (1.9 ~ 15.4) 優越性P=0.013 |
ランソプラゾール3剤併用療法 | 68.5% | Reference |
すべての患者において、ボノプラザン3剤併用療法および2剤併用療法は、ランソプラゾール3剤併用療法よりも優れていました(それぞれ 80.8%、77.2% vs. 68.5%; 差 12.3%、95%CI 5.7 ~ 18.8、P<0.001; 差 8.7%、95%CI 1.9 ~ 15.4、P=0.013)。
治療上緊急の有害事象の全体的な発生頻度は、ボノプラザンとランソプラゾールのレジメン間で同様でした(P>0.05)。
コメント
ピロリ菌感染はアジア人での報告が多いことから、除菌療法の実施もアジアでの報告が多いです。ボノプラザンはカリウムイオン競合型の強力な胃酸分泌抑制薬で、現在、日本をはじめとするアジア諸国で承認販売され、ピロリ菌除菌において中心的な役割を果たしています。一方、米国を含む多くの国においては、数十年にわたり、PPIベースのピロリ感染症の治療が実施されていますが、その除菌率は80%を下回っているようです。また、ボノプラザンベースの除菌療法の効果については明らかとなっていません。
さて、本試験結果によれば、クラリスロマイシン耐性株および試験集団全体において、ボノプラザンをベースとする各レジメン(2剤あるいは3剤併用療法)はいずれもランソプラゾールをベースとする3剤併用療法よりも優れていることが示されました。
あくまでも仮説的な結果ですが、クラリスロマイシン非耐性株においては、ボノプラザンベースの3剤併用療法の方が、2剤併用療法あるいはランソプラゾールベースの除菌レジメンよりも優れていそうです。
2022年7月現在、ボノプラザンの後発医薬品は販売されていないため、治療コストはかかりますが、除菌療法は(7~)14日間と短期間であることから、より除菌効果が高いレジメンを使用した方が合理的であると考えられます。また、ボノプラザンベースの除菌療法は、アジア人集団のみならず、欧米の白人集団においても同様の効果が得られるようです。
☑まとめ☑ クラリスロマイシン耐性株および試験集団全体において、ボノプラザンをベースとするレジメンはいずれもランソプラゾールをベースとする3剤併用療法よりも優れていた。
根拠となった試験の抄録
背景と目的:ヘリコバクター・ピロリ感染症に対する新規で効果的な治療法が必要とされている。本研究では、欧米において、カリウム競合型アシッドブロッカーであるボノプラザンのH.pylori(以下、ピロリ)除菌に対する有効性を標準治療と比較検討した。
方法:ランダム化比較第3相試験において、治療歴のないピロリ感染の成人を、非盲検下でのボノプラザン2剤併用療法(ボノプラザン20mg 1日2回;アモキシシリン1g 1日3回)、または二重盲検下でのボノプラザン3剤併用療法(ボノプラザン20mgまたはランソプラゾール30mg;アモキシシリン1g;クラリスロマイシン500mg)へ1:1:1にて14日間ランダムに割り付けた。
主要評価項目は、クラリスロマイシン耐性株とアモキシシリン耐性株がない患者における菌消失率の非劣性(非劣性マージン 10%)であった。副次的評価項目は、クラリスロマイシン耐性菌感染症および全患者における菌消失率の優劣を評価した。
結果:合計1,046例の患者がランダム化された。主要評価項目である菌消失率(非耐性株):ボノプラザン3剤併用療法 84.7%、2剤併用療法 78.5%、ランソプラゾール3剤併用療法 78.8% (いずれも非劣性; 差 5.9%、95%信頼区間 [CI] -0.8 ~ 12.6、P<0.001; 差 -0.3%、95%CI -7.4 ~ 6.8、P= 0.007)。クラリスロマイシン耐性感染症における菌消失率:ボノプラザン3剤併用療法 65.8%、2剤併用療法 69.6%、ランソプラゾール3剤併用療法 31.9%(いずれも優越; 差 33.9%、95%CI 17.7 ~ 48.1、P<0.001; 差 37.7%、95%CI 20.5 ~ 52.6、P<0.001)。すべての患者において、ボノプラザン3剤併用療法および2剤併用療法は、ランソプラゾール3剤併用療法よりも優れていた(それぞれ 80.8%、77.2% vs. 68.5%; 差 12.3%、95%CI 5.7 ~ 18.8、P<0.001; 差 8.7%、95%CI 1.9 ~ 15.4、P=0.013)。治療上緊急の有害事象の全体的な発生頻度は、ボノプラザンとランソプラゾールのレジメン間で同様であった(P>0.05)。
結論:クラリスロマイシン耐性株および試験集団全体において、ボノプラザンをベースとするレジメンはいずれもランソプラゾールをベースとする3剤併用療法よりも優れていた。
Clinicaltrials.gov:NCT04167670
キーワード:抗菌薬耐性、ヘリコバクター・ピロリ、PPI、ボノプラザン
引用文献
Vonoprazan Triple and Dual Therapy for Helicobacter pylori Infection in the United States and Europe: Randomized Clinical Trial
William D Chey et al. PMID: 35679950 DOI: 10.1053/j.gastro.2022.05.055
Gastroenterology. 2022 Jun 6;S0016-5085(22)00609-6. doi: 10.1053/j.gastro.2022.05.055. Online ahead of print.
— 読み進める pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35679950/
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