利尿薬治療を受けている急性代償性心不全患者におけるエンパグリフロジンの早期投与の効果とは?
急性非代償性心不全(acute decompensated heart failure: ADHF)とは、慢性心不全症状の急性増悪を指し、急激な肺うっ血を来すことが多い疾患です。大半のADHF症例は先行する心不全症状を伴っており、心不全と診断され ていなかった症例は20%以下であることが報告されています。
ADHF患者に対する有効な利尿療法としてループ利尿薬が用いられますが、その使用は腎機能悪化の進展によりしばしば制限されます。ナトリウムグルコースコトランスポーター(SGLT)2阻害剤は、安定した心不全患者において、腎保護作用を有する糖尿とナトリウム排泄を誘導しますが、ADHFにおけるその役割は不明です。
そこで今回は、ADHF患者に対して、ループ利尿薬を含む標準的なうっ血除去治療に加え、エンパグリフロジン25mg/日またはプラセボを使用した場合の有効性・安全性について検証した単施設前向き二重盲検プラセボ対照ランダム化試験の結果をご紹介します。本試験の主要評価項目は、5日間の累積尿量でした。
試験結果から明らかになったことは?
60例の患者が急性心不全の入院後12時間以内にランダム化されました。
エンパグリフロジン追加群 | プラセボ追加群 | グループ差 | |
5日間の累積尿量 (中央値) | 10.8L | 8.7L | 2.2L (95%CI 8.4 〜 3.6) P=0.003 |
急性心不全の標準的な内科治療にエンパグリフロジンを追加したところ、5日間の累積尿量が25%増加しました(中央値10.8 vs. プラセボ 8.7L、推定グループ差2.2L、95%CI 8.4 〜 3.6;P=0.003)。
エンパグリフロジンは、プラセボと比較して利尿効率を高め(尿14.1mL/フロセミド換算1mg、95%CI 0.6~27.7; P=0.041)、腎機能のマーカー(推定糸球体ろ過量 51±19 vs. 54±17mL/min/1.73m²;P=0.599)や障害の程度(総尿蛋白:492±845 vs. 503±847mg/g クレアチニン;P=0.599 、尿中α1-ミクログロブリン:55.4±38.6 vs. 31.3±33.6 mg/g クレアチニン;P=0.066)は変化させませんでした。一方、NT-proBNPはエンパグリフロジン群でプラセボ群と比較して顕著に低下しました(投与5日後の勾配角:-1,861 vs. -727.2pg/mL;0.89、95%CI 0.83〜0.95;P<0.001)。
安全性イベントの発生率に群間差はありませんでした。
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急性非代償性心不全(acute decompensated heart failure: ADHF)のうっ血に対して、有効な利尿療法としてループ利尿薬が用いられますが、その使用は腎機能悪化の進展によりしばしば制限されます。SGLT2阻害薬は糖尿病の他、慢性腎臓病や心不全にも適応を有していることから、ADHF患者のうっ血改善に有用である可能性があります。
さて、本試験結果によれば、ADHF患者において、標準的な利尿薬療法にエンパグリフロジンを早期に追加することにより、プラセボと比較して、腎機能に影響を与えることなく尿量が増加しました。推定グループ差は2.2Lと、かなりの量です。単施設の小規模な検討結果ではありますが、設定されたアウトカムからすると充分なサンプルサイズであると考えられます。うっ血を呈するADHF患者において、ループ利尿薬の増量が困難な場合は、SGLT2阻害薬であるエンパグリフロジンの追加を考慮してみても良いのかもしれません。同様の立ち位置にトルバプタンがありますが、利尿作用が強いこと、薬価が比較的高いことから、最終的な治療選択肢として温存しておいた方が良いと考えられます。
✅まとめ✅ 急性代償性心不全患者において、標準的な利尿薬療法にエンパグリフロジンを早期に追加することにより、腎機能に影響を与えることなく尿量が増加した。
根拠となった試験の抄録
背景:急性非代償性心不全患者においてループ利尿薬を用いた有効な利尿療法は、腎機能悪化の進展によりしばしば制限される。ナトリウムグルコースコトランスポーター(SGLT)2阻害剤は、安定した心不全患者において、腎保護作用を有する糖尿とナトリウム排泄を誘導するが、急性非代償性心不全におけるその役割は不明であった。
方法:本単施設前向き二重盲検プラセボ対照ランダム化試験において、急性非代償性心不全患者をループ利尿薬を含む標準的なうっ血除去治療に加え、エンパグリフロジン25mg/日またはプラセボにランダムに割り付けまた。
主要評価項目は、5日間の累積尿量とした。副次的評価項目は、利尿効果、腎機能および腎障害のマーカーの動態、NT-proBNP(N-terminal pro-B-type natriuretic peptide)であった。
結果:60例の患者が急性心不全の入院後12時間以内にランダム化された。急性心不全の標準的な内科治療にエンパグリフロジンを毎日追加したところ、5日間の累積尿量が25%増加した(中央値10.8 vs. プラセボ 8.7L、推定グループ差2.2L 、95%CI 8.4 〜 3.6;P=0.003)。エンパグリフロジンは、プラセボと比較して利尿効率を高め(尿14.1mL/フロセミド換算1mg、95%CI 0.6~27.7; P=0.041)、腎機能のマーカー(推定糸球体ろ過量 51±19 vs. 54±17mL/min/1.73m²;P=0.599)や障害の程度(総尿蛋白:492±845 vs. 503±847mg/g クレアチニン;P=0.599 、尿中α1-ミクログロブリン:55.4±38.6 vs. 31.3±33.6 mg/g クレアチニン;P=0.066)は変化させなかった。NT-proBNPはエンパグリフロジン群でプラセボ群と比較して顕著に低下した(投与5日後の勾配角:-1,861 vs. -727.2pg/mL;0.89、95%CI 0.83〜0.95;P<0.001)。安全性イベントの発生率に群間差はなかった。
結論:急性代償性心不全患者において、標準的な利尿薬療法にエンパグリフロジンを早期に追加することにより、腎機能に影響を与えることなく尿量を増加させることができた。
Clinicaltrials: gov; Unique identifier: NCT04049045
キーワード:利尿剤、心不全、腎臓
引用文献
Effects of Early Empagliflozin Initiation on Diuresis and Kidney Function in Patients With Acute Decompensated Heart Failure (EMPAG-HF)
P Christian Schulze et al. PMID: 35766022 DOI: 10.1161/CIRCULATIONAHA.122.059038
Circulation. 2022 Jun 29;101161CIRCULATIONAHA122059038. doi: 10.1161/CIRCULATIONAHA.122.059038. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35766022/
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