ワクチン接種後の心筋炎の発症リスク増加はCOVID-19ワクチンに限ったことではない?
世界では、2022年3月現在、100億回以上のCOVID-19ワクチンが投与されています(ジョンズホプキンス大学)。ワクチンの副反応は通常軽度で自己限定的ですが、COVID-19ワクチン接種後に心筋炎が発生したとの報告が増えています(PMID: 34432976)。ワクチンに含まれるmRNAが異常な自然免疫反応や獲得免疫反応を活性化し、全身反応の一部として心筋炎を誘発する可能性が想定されています。
多くのメカニズムが示唆されていますが、ワクチン接種後の心筋炎発症の実際のメカニズムは確立されていません(PMID: 35023954、PMID: 34887571、PMID: 34895937、PMID: 34856634、Future Virol. 2021、PMID: 34938983、PMID: 34998242)。心筋炎はウイルスワクチン接種の合併症としては稀であり、これまで天然痘ワクチン接種との関連しか指摘されていません(PMID: 32278359)。しかし、イスラエルで行われた研究では、mRNA COVID-19ワクチンは、特に男性および16〜39歳において心筋炎のリスクを著しく高めることが示唆されています(PMID: 34706169)。さらに、COVID-19を接種した人の心筋炎に関する多くの症例報告やシリーズが発表されている(PMID: 34356586、PMID: 34185045)。
これらの知見が発生率の真の増加を反映しているのか、それとも単に報告や想起バイアスが改善されただけなのか、まだ結論は出ていません(PMID: 34521646)。そこで今回は、COVID-19ワクチン接種後の心筋炎発生率を他の疾患に対するワクチン接種後と比較する系統的レビューおよびメタ解析を行った試験の結果をご紹介します。
試験結果から明らかになったことは?
22件の研究(405,272,721回接種) | 心筋炎発生率 (100万回接種当たり) |
全体 | 33.3例(95%CI 15.3〜72.6) |
COVID-19ワクチンを接種した集団 | 18.2例(95%CI 10.9〜30.3) 11研究[395,361,933回接種] 確実性が高いエビデンス |
非COVID-19ワクチンを接種した集団 | 56.0例(95%CI 10.7〜293.7) 11研究[9,910,788 回接種] 確実性が中程度のエビデンス p=0.20(vs. COVID-19ワクチン接種) |
天然痘ワクチンを接種した集団 | 132.1例(95%CI 81.3〜214.6) p<0.0001(vs. COVID-19ワクチン接種) |
天然痘以外の各種ワクチンを接種した集団 | 57.0例(95%CI 1.1〜3,036.6) p=0.58(vs. COVID-19ワクチン接種) |
インフルエンザワクチンを接種した集団 | 1.3例(95%CI 0.0〜884.1) p=0.43(vs. COVID-19ワクチン接種) |
22件の研究(405,272,721回接種)から得られた全体の心筋炎発生率は、100万回接種あたり33.3例(95%CI 15.3〜72.6)で、COVID-19ワクチンを接種した集団(18.2例[10.9〜30.3]、11研究[395,361,933回]、確実性が高いエビデンス)と非COVID-19ワクチンを接種した集団の間で有意差は認められませんでした(56.0例[10.7〜293.7]、11研究[9,910,788 回]、確実性が中程度のエビデンス、p=0.20)。
COVID-19ワクチン接種と比較して、天然痘ワクチン接種後の心筋炎発生率は有意に高かったが(132.1例[81.3〜214.6]、p<0.0001)、インフルエンザワクチン接種後(1.3例[0.0〜884.1]、p=0.43)、天然痘以外の各種ワクチン接種について報告している研究では有意差はなかった(57.0例[1.1〜3,036.6]、p=0.58)。
COVID-19ワクチンを接種した集団のうち、心筋炎の発生率は、男性(vs. 女性)、30歳未満(vs. 30歳以上)、mRNAワクチン接種後(vs. 非mRNAワクチン)、2回目のワクチン接種後(vs. 1、3回目の接種)で有意に高いことが示された。
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SARS-CoV-2による感染拡大によりCOVID-19患者数の増加しています。SARS-CoV-2感染者数は増加と減少を繰り返しており、終息の兆しはみえません。感染予防対策の一つにワクチン接種がありますが、特に有効性が高いmRNA COVID-19ワクチンでは、若年男性層における心筋炎や心膜炎リスク増加が示されています。しかし、この心筋炎リスクがCOVID-19以外のワクチンと比較して、大きいのかについては検証されていません。
さて、本試験結果によれば、COVID-19ワクチン接種後の心筋炎の全体的なリスクは低いことが示されました。ただし、これまでの報告と同様に若年男性においては、mRNAワクチン接種後に心筋炎の発生率が高いことが示されました。心筋炎の発症リスクは天然痘ワクチン接種後が最も高く、COVID-19ワクチン接種と天然痘以外のワクチン接種を比較すると、心筋炎の発生リスクに差はありませんでした。
これまでCOVID-19ワクチンに関心が高いことから、副反応である心筋炎リスクに注目が集まっていましたが、ワクチン接種全体と比較すると、COVID-19ワクチン接種による全体のリスクは低いことが示されました。COVID-19を発症した集団では、ワクチン接種後と比較して、心筋炎・心膜炎のリスクが増加することも報告されていることから、心筋炎リスクのみを取り上げ、mRNA COVID-19ワクチン接種を忌避することで、むしろ心筋炎リスクが増加する可能性があります。基本的な感染対策予防として、ワクチン接種が必要であると考えます。
✅まとめ✅ COVID-19ワクチン接種後の心筋炎の全体的なリスクは低い。若年男性では、特にmRNAワクチン接種後に心筋炎の発生率が高くなる。ただし、心筋炎の発症リスクは天然痘ワクチン接種後が最も高く、COVID-19ワクチン接種と天然痘以外のワクチン接種を比較すると発生リスクに差はなかった。
根拠となった試験の抄録
背景:心筋炎はワクチン接種によるまれな合併症である。しかし、COVID-19ワクチン接種後に心筋炎を発症したとの報告が、特に青年・若年成人において増加している。我々は、COVID-19ワクチン接種後の心筋炎の発生率を明らかにし、COVID-19以外のワクチン接種と比較することを目的とした。
方法:1947年1月1日から2021年12月31日までの間に、ワクチン接種後の心筋炎の発生率(主要アウトカム)について報告した英語の研究を4つの国際データベースで検索し、系統的レビューとメタ解析を行った。ワクチン接種と時間的に関連して心筋炎を発症した一般集団の人々について報告した研究を対象とし、特定の亜集団の患者に関する研究、非ヒト研究、接種回数が報告されていない研究は除外した。ランダム効果メタ解析(DerSimonian and Laird)を行い、研究内バイアスリスク(Joanna Briggs Instituteチェックリスト)、エビデンスの確かさ(Grading of Recommendations, Assessment, Development and Evaluations approach)を評価した。ワクチンの種類(COVID-19 vs. 非COVID-19)および年齢層(成人 vs. 小児)で層別化し、亜集団間の心筋炎発生率の差を分析した。COVID-19の接種では、ワクチンの種類(mRNAまたは非mRNA)、性別、年齢、接種量が心筋炎の発生率に及ぼす影響について検討した。本研究はPROSPEROに登録された(CRD42021275477)。
所見:22件の研究(405,272,721回接種)から得られた全体の心筋炎発生率は、100万回接種あたり33.3例(95%CI 15.3〜72.6)で、COVID-19ワクチンを接種した人(18.2例[10.9〜30.3]、11研究[395,361,933回]、確実性が高いエビデンス)と非COVID-19ワクチンを接種した人の間で有意差はなかった(56.0例[10.7〜293.7]、11研究[9,910,788 回]、中程度の確実性、p=0.20)。COVID-19ワクチン接種と比較して、天然痘ワクチン接種後の心筋炎発生率は有意に高かったが(132.1[81.3〜214.6]例、p<0.0001)、インフルエンザワクチン接種後(1.3例[0.0〜884.1]、p=0.43)、天然痘以外の各種ワクチン接種について報告している研究では有意差はなかった(57.0例、[1.1〜3,036.6]、p=0.58)。COVID-19ワクチンを接種した人のうち、心筋炎の発生率は、男性(vs. 女性)、30歳未満(vs. 30歳以上)、mRNAワクチン接種後(vs. 非mRNAワクチン)、2回目のワクチン接種後(vs. 1、3回目の接種)で有意に高かった。
解釈:COVID-19ワクチン接種後の心筋炎の全体的なリスクは低い。しかし、若年男性では、特にmRNAワクチン接種後に心筋炎の発生率が高くなる。しかしながら、このような稀な有害事象のリスクは、COVID-19感染(心筋炎を含む)のリスクとバランスをとる必要がある。
資金提供:なし
引用文献
Myopericarditis following COVID-19 vaccination and non-COVID-19 vaccination: a systematic review and meta-analysis
Ryan Ruiyang Ling et al.
Lancet Respiratory Medicine 2022. Published:April 11, 2022 DOI:https://doi.org/10.1016/S2213-2600(22)00059-5
— 続きを読む www.thelancet.com/journals/lanres/article/PIIS2213-2600(22)00059-5/fulltext
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