― オーストラリアで実施されたランダム化比較試験(FAST試験; BMJ. 2026)
臨床疑問
脳卒中後の地域在住患者に対して、運動療法、転倒リスク環境調整、外出支援を組み合わせた在宅介入は、転倒を減少させるのか?
研究の背景
脳卒中後患者では、バランス障害、歩行障害、筋力低下、自信喪失などにより、転倒リスクが高いことが知られています。
転倒は、骨折、活動制限、再入院、QOL低下につながるため、脳卒中後ケアにおいて重要な問題です。
しかし、これまでの研究では、単独運動療法、短期リハビリが中心であり、「在宅生活全体を含めた多職種介入」の有効性は十分検証されていませんでした。
そこで本研究では、習慣形成を促す運動、家庭内の危険要因の低減、地域社会における移動支援を組み合わせた個別対応型介入が検討されました。
情報元:PubMed論文ページ
PICO
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| P(患者) | 脳卒中後5年以内の地域在住患者 |
| I(介入) | 在宅多職種介入 |
| C(比較) | 通常ケア |
| O(評価項目) | 転倒率 |
試験デザイン
本研究は、オーストラリア3州で実施された2群ランダム化比較試験です。
対象は、50歳超、脳卒中後5年以内、地域生活中、10m歩行可能な患者でした。
一方、中等度〜重度受容性失語、歩行速度 >1.4 m/s かつ過去1年転倒なしの患者は除外されました。
介入期間は6か月でした。
理学療法士(PT)と作業療法士(OT)のペアチームが協働し、機能的運動、家庭内での転倒リスク低減、目標指向型移動能力指導を提供しました。
主要評価項目
主要評価項目は、12か月間の転倒率でした。
副次評価項目として、転倒経験者割合、地域社会への参加、自己効力感、移動能力、バランス、身体活動、ADL、うつ、QOLなどが評価されました。
患者数
2019年8月〜2023年12月に、370例が登録されました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 総患者数 | 370例 |
| 対象 | 脳卒中後地域在住患者 |
| 介入期間 | 6か月 |
| 追跡期間 | 12か月 |
試験結果から明らかになったことは?

主な結果
12か月時点で、介入群では転倒率が有意に低下しました。
| 評価項目 | 発生率比 IRR(95%CI) |
|---|---|
| 転倒率 | IRR 0.67(0.48–0.94) P=0.02 |
つまり、転倒率33%減少が示されました。
ただし「転倒した人の割合」は減らなかった
興味深い点として、少なくとも1回転倒した人の割合については、有意差がありませんでした。
| 評価項目 | 絶対リスク減少 ARR(95%CI) |
|---|---|
| 転倒した割合の群間差 | ARR 0.03(-0.07–0.13) P=0.52 |
つまり、「転倒する人をゼロにした」というより、「頻回転倒を減らした」可能性があります。
特に「移動能力」と「自己効力感」が改善
介入群では、自己効力感、地域参加、移動能力、バランスも改善しました。
自己効力感
| 項目 | 平均差(95%CI) |
|---|---|
| 自己効力感 | 0.6(0.2–1.0) P=0.004 |
早歩き速度
| 項目 | 平均差(95%CI) |
|---|---|
| 早歩き速度 | 平均差 0.13 m/s(0.06-0.19) P<0.001 |
好みの歩行速度
| 項目 | 平均差(95%CI) |
|---|---|
| 好みの歩行速度 | 0.06 m/s(0.02–0.10) P=0.02 |
バランス(ステップテスト)
| 項目 | 平均差(95%CI) |
|---|---|
| バランス(ステップテスト) | 0.06 steps/s(0.01–0.12) P=0.03 |
なぜ転倒率が改善した可能性があるのか?
本研究では、運動、環境調整、移動支援が組み合わされていました。
つまり「筋力改善」だけではなく、行動習慣、家屋環境、外出時行動、自信回復など多面的介入が行われています。
著者らは、自己効力感の向上、運動機能の改善、バランス能力の改善が転倒減少を支えた可能性を示唆しています。
試験の限界(批判的吟味)
本研究は非常に実践的なRCTですが、いくつか重要な限界があります。
まず、介入内容が多要素であり「どの要素が最も有効だったのか」は明確ではありません。
また、盲検化は困難であり、試験参加者や治療者バイアスを完全には排除できません。
さらに、歩行可能患者のみを対象としており、重度脳卒中患者、非歩行患者への一般化は困難です。
加えて、本研究はオーストラリア医療システム下で実施されており、他国で同様介入が再現可能かは不明です。
また、「転倒率」は減少した一方、「転倒経験者割合」自体は減少していない点も重要です。
まとめ
今回のRCTでは、脳卒中後地域在住患者に対する多職種在宅介入によって、転倒率、移動能力、自己効力感、バランス、地域社会への参加が改善しました。
特に「転倒予防は筋力だけではなく、生活全体支援が重要」である可能性を示した点が重要です。
一方で、どの介入要素が最重要か、重症患者でも有効かなどは今後の課題です。
それでも本研究は「在宅生活に根差したリハビリ」の重要性を示す、実臨床的に非常に興味深い研究と言えます。
脳卒中の既往を有する患者に対して、サポートする人材をどのように確保するのかも求められるでしょう。また、サポートする側の教育も必要と考えられます。
続報に期待。

✅まとめ✅ ランダム化比較試験の結果、個別化された介入により、地域在住で歩行可能な脳卒中患者の転倒を予防できた。転倒率の低下は、自己効力感、移動能力、地域参加、バランスといった臨床的に意義のある改善によって支えられていた。
根拠となった試験の抄録
目的: 脳卒中後の転倒を減らすための、多職種連携による在宅ベースの個別化介入の効果を調査する。
試験デザイン: 2群ランダム化比較試験。
試験設定: オーストラリアの3つの州。
試験参加者: 脳卒中発症後5年以内、50歳以上、正式なリハビリテーションを終えて地域社会に退院し、補助具の有無にかかわらず平地を10メートル歩行できる人。中等度から重度の受容性失語症、または歩行速度が1.4メートル/秒を超え、過去1年間に転倒歴のない人は除外した。
介入: 実験群は6か月間にわたり、習慣形成のための機能的運動、家庭内での転倒リスク軽減、および目標指向型の地域移動指導を受けました。対照群は通常のケアを受けました。理学療法士と作業療法士の2人1組のチームが協力して介入を実施しました。
主な評価項目: 主要評価項目は12か月間の転倒率でした。副次評価項目は、転倒を経験した参加者の割合、地域社会への参加、自己効力感、バランス、移動能力、身体活動、日常生活動作、抑うつ、および健康関連の生活の質でした。
結果: 2019年8月から2023年12月の間に、脳卒中患者370人が登録されました。12か月後、転倒率において群間差が有意であり、実験群の方が転倒が33%減少しました(発生率比0.67、95%信頼区間(CI)0.48~0.94、P=0.02)。転倒した参加者数においては、群間差は有意ではありませんでした(絶対リスク減少0.03、95% CI -0.07~0.13、P=0.52)。実験群に有利な主な群間差は、コミュニティ参加(Late Life Function and Disability Instrumentの障害制限:平均差3%(95%信頼区間1%~6%)、P=0.02)、自己効力感(平均差0.6(0.2~1.0)、P=0.004)、移動能力(速歩速度:平均差0.13(0.06~0.19)m/s(P<0.001)、好みの歩行速度:0.06(0.02~0.10)m/s(P=0.02))、バランス(ステップテスト:平均差0.06(0.01~0.12)歩/秒、P=0.03)であった。
結論: 個別化された介入により、地域在住で歩行可能な脳卒中患者の転倒を予防できた。転倒率の低下は、自己効力感、移動能力、地域参加、バランスといった臨床的に意義のある改善によって支えられていた。
治験登録: オーストラリア・ニュージーランド臨床試験登録機関 ACTRN12619001114134
引用文献
Home based, tailored intervention to reduce rate of falls after stroke (FAST): randomised trial
Lindy Clemson et al. PMID: 41876122 PMCID: PMC13010266 DOI: 10.1136/bmj-2025-085519
BMJ. 2026 Mar 24:392:e085519. doi: 10.1136/bmj-2025-085519.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41876122/

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