― 運動誘発性高体温に対する冷却部位を比較したクロスオーバー試験(Wilderness Environ Med. 2015)
臨床疑問(Clinical Question)
運動による高体温(exercise-induced hyperthermia)に対して、一般的に推奨されている「首・腋窩・鼠径部」の冷却よりも、「頬・手のひら・足裏(無毛皮膚表面)」への保冷剤(CCP)による冷却の方が、体温をより速く低下させるのでしょうか?
研究の背景
熱中症(Heat-related illness)は毎年多くの患者が発症し、重症例では多臓器障害や死亡に至ることもある重要な疾患です。
熱中症の基本治療は迅速な体温低下であり、特に重症熱中症では冷却速度が予後を左右するとされています。
病院前医療やスポーツ現場では、首、腋窩、鼠径部など、大血管の走行部位へ保冷剤(Chemical Cold Packs:CCP)を当てる方法が古くから推奨されてきました。しかし、この方法を支持する十分な科学的根拠はこれまで示されていませんでした。
一方、頬や手のひら、足裏といった無毛皮膚(glabrous skin)には動静脈吻合(arteriovenous anastomoses)が豊富に存在し、熱交換効率が高い可能性が指摘されています。
本研究では、従来の冷却部位と無毛皮膚への冷却を直接比較し、どちらがより効率的に深部体温を低下させるかを検証しました。
PICO
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| P(Patients) | 運動誘発性高体温となった健常成人男性 |
| I(Intervention) | 頬・手のひら・足裏(glabrous skin)へのケミカルコールドパック |
| C(Comparison) | 首・腋窩・鼠径部へのケミカルコールドパック |
| O(Outcome) | 食道温(Tes)の冷却速度 |
試験デザイン
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 研究デザイン | ランダム化クロスオーバー試験 |
| 対象 | 健常成人男性10名 |
| 環境 | 40±0.5℃の高温室 |
| 運動 | トレッドミル歩行 |
| 終了条件 | 食道温39.2℃到達 |
| 比較条件 | ①冷却なし ②従来冷却 ③無毛皮膚冷却 |
| 介入 | 保冷剤(CCP) |
| 評価項目 | 食道温(Tes)の低下速度 |
介入方法
従来冷却
- 首
- 腋窩
- 鼠径部
無毛皮膚表面
- 頬
- 手のひら
- 足裏
試験結果から明らかになったことは?

食道温低下速度
| 群 | 食道温変化(ΔTes/10分) |
|---|---|
| 冷却なし | +0.12 ± 0.07℃ |
| 従来冷却 | -0.17 ± 0.04℃ |
| 無毛皮膚表面の冷却 | -0.30 ± 0.06℃ |
統計解析
| 比較 | 結果 |
|---|---|
| 従来冷却 vs 冷却なし | P<0.001 |
| 無毛皮膚表面の冷却 vs 冷却なし | P<0.001 |
| 無毛皮膚表面の冷却 vs 従来冷却 | P<0.001 |
無毛皮膚への冷却は、従来の冷却部位より有意に速い深部体温低下を示しました。
研究結果まとめ
| 評価項目 | 結果 |
|---|---|
| 冷却なし | 体温はほぼ維持された |
| 首・鼠径部・腋窩冷却(従来冷却) | 有意に体温低下 |
| 頬・手掌・足底冷却(無毛皮膚表面の冷却) | さらに速い体温低下 |
| 最も高い冷却効率 | 無毛皮膚表面の冷却 |
著者らの結論
頬・手のひら・足裏などの無毛皮膚(glabrous skin)への冷却材による冷却は、従来推奨されてきた首や腋窩、鼠径部への冷却よりも効果的でした。
病院前救護やスポーツ現場における熱中症初期対応の補助的冷却法として有用である可能性があります。
試験の限界(批判的吟味)
① 対象者は健常成人男性10名のみ
参加者は10名の健常成人男性に限られており、女性、高齢者、小児、基礎疾患を有する患者への一般化には限界があります。
② 運動誘発性高体温であり、重症熱中症患者ではない
本研究は人工的に運動で高体温を誘発したモデルであり、実際の熱中症患者(特に中等症・重症例)において同様の効果が得られるかは不明です。
③ 評価項目は食道温のみ
主要評価項目は深部体温(食道温)の変化であり、死亡率、臓器障害、入院期間、神経学的転帰などの臨床アウトカムは評価されていません。
④ 比較した冷却法はケミカルコールドパックのみ
本研究ではケミカルコールドパックを用いた局所冷却のみを比較しており、現在重症熱中症で推奨される全身冷水浸漬(cold-water immersion)などとの比較は行われていません。そのため、本研究の結果を「最良の冷却法」と解釈することはできません。
⑤ 冷却時間は短時間
評価は急性期の冷却速度に限られており、長時間の冷却や体温の再上昇については検討されていません。
⑥ 実際の救急現場とは条件が異なる
40℃に管理された実験室環境で実施されており、屋外や救急現場など環境条件が大きく異なる状況で同様の効果が得られるかは検証されていません。
実臨床への応用
本研究は、頬・手のひら・足裏といった無毛皮膚(glabrous skin)への保冷剤による冷却が、従来推奨されてきた首・腋窩・鼠径部への冷却よりも深部体温を速く低下させることを示しました。これらの部位には動静脈吻合が豊富に存在し、熱交換効率が高いことが一因と考えられます。
ただし、本研究は健常成人男性を対象とした運動誘発性高体温モデルであり、重症熱中症患者を対象とした試験ではありません。また、重症熱中症に対する第一選択の冷却法として推奨される全身冷水浸漬と比較した研究でもありません。
そのため、本研究の結果は「首や鼠径部を冷やすより、頬・手のひら・足裏を冷やした方が効率的である可能性」を示すものであり、現行ガイドラインの推奨を置き換えるものではありません。一方で、冷水浸漬が利用できない病院前救護やスポーツ現場では、無毛皮膚への冷却を追加・優先することが補助的戦略として有望であることを示唆する重要な知見といえます。
まとめ
- 健常成人男性10名を対象とした無作為化クロスオーバー試験
- 頬・手のひら・足裏(glabrous skin)へのケミカルコールドパックは、首・腋窩・鼠径部への冷却よりも深部体温を速く低下させた
- 食道温低下速度は、従来冷却(−0.17℃/10分)より無毛皮膚冷却(−0.30℃/10分)が有意に優れていた(P<0.001)
- 対象は運動誘発性高体温モデルであり、重症熱中症患者や他の冷却法との比較は行われていない
- 冷水浸漬が困難な場面では、無毛皮膚への局所冷却が有望な補助的冷却法となる可能性が示された
やや古い研究結果ではありますが、参考になるデータです。いわゆる太い血管のある部位を冷やすよりも、無毛皮膚表面を冷やす方が、より効果的に体温を低下できそうです。
ただし、試験参加者は19~45歳の健康成人です。他の年齢層でも同様の結果が得られるのかはわかりません。また冷却後30分までのデータしかありません。より長期的な効果が得られるのか、冷却間隔の設定は何分毎が適しているのか等、再現性の確認を含めて更なる検証が求められます。
続報に期待。

✅まとめ✅ 無毛皮膚表面(頬、手のひら、足裏)への化学冷却パックの適用は、従来部位(首、鼠径部、腋窩の太い血管を覆う皮膚)への化学冷却パック冷却療法よりも運動誘発性熱ストレスの治療に効果的であった。
根拠となった試験の抄録
目的: 熱中症は、罹患率と死亡率が高い一般的な疾患です。有効性が証明されていないにもかかわらず、首、鼠径部、腋窩の太い血管を覆う皮膚に化学冷却パック(CCP)を適用することは、従来から推奨されている冷却方法です。本研究の目的は、運動誘発性高体温症において、これらの従来から推奨されている部位に適用したCCPの冷却速度と、頬、手のひら、足の裏の無毛皮膚表面に適用したCCPの冷却速度を比較することでした。
方法: 健康な成人男性ボランティア10名が、断熱性のある軍用上着を着用して、加熱された部屋(40°±0.5°C)内のトレッドミルで、食道温度(Tes)が39.2°Cに達するまで歩行した。各参加者は、別々の日に3回の熱ストレス試験を受けた。試験内容は、無処置、続いてランダムな順序で従来の冷却(首、鼠径部、腋窩)と無毛皮膚冷却であった。
結果: 無処置の場合、Tesは熱試験の最初の5分後も安定していた(ΔTes=0.12°±0.07°C/10分)。従来の冷却では直線的に低下した(ΔTes=0.17°±0.04°C/10分、P<.001)。無毛冷却は、より急激な低下によって治療効果を高めた(ΔTes=0.30°±0.06°C/10分、P<.001)。これは、2要因分散分析により従来の冷却と有意に異なっていた(P<.001)。
結論: 無毛皮膚表面へのCCPの適用は、従来のCCP冷却療法よりも運動誘発性熱ストレスの治療に効果的であった。この新しい冷却技術は、病院前救護現場における熱中症の補助療法として有用である可能性がある。
キーワード: 化学冷却パック、冷却、運動、無毛、熱中症、高体温症
引用文献
Novel application of chemical cold packs for treatment of exercise-induced hyperthermia: a randomized controlled trial
John B Lissoway et al. PMID: 25771030 DOI: 10.1016/j.wem.2014.11.006
Wilderness Environ Med. 2015 Jun;26(2):173-9. doi: 10.1016/j.wem.2014.11.006. Epub 2015 Mar 12.
― 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25771030/

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