― 韓国13万人超のリアルワールド研究でアスピリンとクロピドグレルを比較(JACC Asia. 2026)
臨床疑問
PCI後にDAPT(dual antiplatelet therapy:二重抗血小板療法)を終了した安定期患者において、長期単剤療法としてクロピドグレルとアスピリンのどちらを選択すべきなのだろうか?
研究の背景
経皮的冠動脈インターベンション(PCI)後の患者では、ステント血栓症予防、心筋梗塞再発予防、脳梗塞予防を目的としてDAPTが行われます。
現在のガイドラインでは、一定期間のDAPT終了後は単剤抗血小板療法(SAPT)へ移行することが推奨されています。
しかし、「長期単剤療法として何を選ぶべきか」については依然として議論が続いています。
これまでアスピリンが標準治療として広く用いられてきましたが、近年ではHOST-EXAM試験をはじめとしてクロピドグレル単剤療法の有効性が報告されています。
一方、ランダム化比較試験(RCT)は選択された患者集団を対象としており、実臨床においても同様の結果が得られるかは十分明らかではありませんでした。また、白人と比較して高頻度にCYP2C19遺伝子多型を有するアジア人における有効性・安全性の検証は充分ではありませんでした。
そこで本研究では韓国全国規模データベースを用いて、PCI後安定期患者におけるクロピドグレル単剤療法とアスピリン単剤療法を比較しました。
PICO

| 項目 | 内容 |
|---|---|
| P | PCI後にDAPTを終了し単剤療法へ移行した患者 |
| I | クロピドグレル単剤療法 |
| C | アスピリン単剤療法 |
| O | MACE、大出血、心血管死、心筋梗塞、虚血性脳卒中 |
試験デザイン
研究デザイン
- 全国規模後ろ向きコホート研究
- リアルワールドデータ解析
- IPTW(inverse probability of treatment weighting)解析
データベース
韓国全国保険請求データベースおよび健康診断データベース
登録期間
2009年~2019年
対象患者
DAPT終了後に単剤療法へ移行した患者
総数133,454例
クロピドグレル群: 67,652例
アスピリン群: 65,802例
治療期間
| 項目 | 中央値 |
|---|---|
| DAPT期間 | 1.0年 |
| 単剤療法期間 | 3.3年 |
主要評価項目
共同主要評価項目
MACE
以下の複合アウトカム
- 心血管死
- 心筋梗塞
- 虚血性脳卒中
大出血
試験結果から明らかになったことは?

共同主要評価項目
| 評価項目 | HR | 95%CI | P値 (クロピドグレル vs アスピリン) |
|---|---|---|---|
| MACE | 0.759 | 0.733–0.785 | <0.0001 |
| 大出血 | 0.895 | 0.848–0.945 | <0.0001 |
クロピドグレル群では、MACEが約24%低下、大出血が約10%低下した。
個別アウトカム
| 評価項目 | HR | 95%CI | P値 (クロピドグレル vs アスピリン) |
|---|---|---|---|
| 心血管死 | 0.605 | 0.573–0.638 | <0.0001 |
| 心筋梗塞 | 0.921 | 0.877–0.968 | 0.0011 |
| 虚血性脳卒中 | 0.674 | 0.624–0.729 | <0.0001 |
サブグループ解析
効果は以下にかかわらず一貫していた。
- 年齢
- 性別
- 併存疾患
- DAPT期間
著者らは、事前規定された全サブグループで同様の傾向を認めたと報告している。
この研究から何が言えるか?
本研究は13万人を超えるPCI後患者を対象とした大規模リアルワールド研究です。その結果、クロピドグレル単剤療法はアスピリン単剤療法と比較して心血管イベント、虚血性脳卒中、心筋梗塞、心血管死を減少させました。
さらに興味深いことに、出血リスクも低下していました。
一般的には抗血小板作用が強いほど出血リスクが増加すると考えられますが、本研究ではクロピドグレルが有効性と安全性の両面で優れていました。
この結果は、先行研究であるHOST-EXAM試験の結果とも整合しており、PCI後安定期の長期管理においてクロピドグレル単剤療法を支持するエビデンスがさらに強化されたと考えられます。
HOST-EXAM試験との比較
HOST-EXAM試験では、PCI後にDAPTを完了した患者を対象に、クロピドグレル単剤療法がアスピリン単剤療法よりも優れていることが報告されました。
本研究はRCTではないものの、実臨床下でも同様の結果が確認された点に価値があります。
すなわち、RCTで観察された利益がリアルワールドでも再現された可能性を示しています。
加えて、CYP2C19遺伝子多型を有しやすいアジア人でも、先行研究と同様の結果が示された点は大きな利点です。
批判的吟味(研究の限界)
① ランダム化比較試験ではない
最大の限界は観察研究である点。IPTW解析によって背景因子は調整されていますが、未測定交絡を完全に除去することはできません。
そのため因果関係を証明するものではありません。
② 処方選択バイアス
医師がクロピドグレルを選択した理由は不明です。例えば、出血リスク、消化管疾患、過去のイベント歴などが処方選択に影響している可能性があります。
この点を試験デザインで考慮することは困難であり、完全に調整することはできません。
③ CYP2C19遺伝子多型を評価できない
クロピドグレルの効果はCYP2C19活性に依存します。しかし保険データベースでは遺伝子情報を取得できません。
特に東アジア人ではCYP2C19機能低下型アレルの頻度が高く、この影響を評価できない点は重要です。
とはいえ、実臨床におけるクロピドグレル単独治療による有益性が示された点は大きいでしょう。
④ 服薬アドヒアランスは不明
処方データから解析されており、実際に服用していたかは保証されません。
⑤ 韓国人集団での結果
本研究は韓国人中心であり、欧米人へ直接外挿できるかは不明です。一方で、日本人には比較的近い集団と考えられることから、結果の外挿性は高いといえます。
薬剤師への臨床的示唆
近年、PCI後の長期抗血小板療法は大きく変化しています。従来は「アスピリンが標準」と考えられていましたが、本研究は「クロピドグレル単剤療法が有効性・安全性の両面で優れている可能性」を示しました。
今後、PCI後安定期患者ではアスピリン継続、クロピドグレル継続の選択について再評価が進む可能性があります。プラスグレルの後発医薬品が販売されていることから、アスピリン+プラスグレルのDAPTからプラスグレル単剤(SAPT)継続の選択肢もあり、個人的な印象ですが、処方量は増えていると考えられます。
薬剤師としても、長期フォロー中の患者で抗血小板薬の選択理由を理解しておくことが重要でしょう。
まとめ
✅ 韓国全国データベースを用いた13万人超のリアルワールド研究
✅ PCI後安定期患者を対象
✅ クロピドグレル単剤療法はMACEを24%低下
✅ 大出血も約10%低下
✅ 心血管死、心筋梗塞、虚血性脳卒中も有意に減少
✅ HOST-EXAM試験の結果を実臨床で支持
✅ ただし観察研究であり因果関係は証明できない
日本人やCYP2C19遺伝子多型(PM、UPM)を有する患者において、どのような結果が示されるのか気にかかるところです。
再現性の確認を含めて更なる検証が求められます。
続報に期待。

✅まとめ✅ 韓国のデータベース研究の結果、PCI後の安定期において、長期予防のためには、その有効性と安全性から、アスピリン単独療法よりもクロピドグレル単独療法が推奨される可能性がある。
根拠となった試験の抄録
背景:経皮的冠動脈インターベンション(PCI)後のガイドライン推奨される二重抗血小板療法(DAPT)終了後、長期的な抗血小板単剤療法が推奨されているが、実際の臨床現場における最適な薬剤は依然として不明確である。
目的:著者らは、PCI後の安定患者を対象に、クロピドグレル単剤療法とアスピリン単剤療法の有効性および安全性を比較することを目的とした。
方法:韓国の全国保険請求および健康診断データベースを用いて、2009年から2019年の間にPCI治療を受け、その後クロピドグレルまたはアスピリン単剤療法を継続した患者を同定した。共同主要評価項目は、主要心血管イベント(心血管死、心筋梗塞、虚血性脳卒中の複合エンドポイント)および主要出血とした。
結果:DAPTを受けている133,454人の患者のうち、67,652人(50.7%)がクロピドグレル単独療法を継続し、65,802人(49.3%)がアスピリン単独療法を継続した。DAPTおよび単剤療法の期間の中央値は、それぞれ1.0年(四分位範囲:0.8~1.2)および3.3年(四分位範囲:1.3~6.2)であった。安定化された逆治療確率重み付けの後、クロピドグレル単剤療法は、アスピリン単剤療法と比較して、主要な心血管系有害事象(HR:0.759、95% CI:0.733-0.785、P < 0.0001)および主要な出血(HR:0.895、95% CI:0.848-0.945、 P < 0.0001)が認められた。クロピドグレル単独療法は、アスピリン単独療法と比較して、心血管死(HR:0.605;95% CI:0.573-0.638;P < 0.0001)、心筋梗塞(HR:0.921;95% CI:0.877-0.968; P = 0.0011)、および虚血性脳卒中(HR:0.674;95% CI:0.624-0.729;P < 0.0001)のリスクが低かった。治療効果は、事前に設定されたサブグループおよびDAPTの期間を問わず一貫して認められた。
結論:PCI後の安定期において、長期予防のためには、その有効性と安全性から、アスピリン単独療法よりもクロピドグレル単独療法が推奨される可能性がある。
キーワード:アスピリン;心血管イベント;クロピドグレル;二重抗血小板療法;経皮的冠動脈インターベンション
引用文献
Clopidogrel Vs Aspirin Monotherapy for Secondary Prevention After Percutaneous Coronary Intervention: A Nationwide Cohort Study
Jun Hwan Cho et al. PMID: 42283668 DOI: 10.1016/j.jacasi.2026.03.041
JACC Asia. 2026 Jun 10:S2772-3747(26)00276-0. doi: 10.1016/j.jacasi.2026.03.041. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42283668/


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