乳児のRSウイルスによる入院予防にニルセビマブは有効ですか?(実用的試験; HARMONIE試験; N Engl J Med. 2023)

mother holding a child next to the sitting father 01_ワクチン vaccine
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モノクローナル抗体であるニルセビマブによるRSウイルス感染予防効果は?

呼吸器合胞体ウイルス(Respiratory syncytial virus, RSV)は年齢を問わず、顕性感染を引き起こすことが知られています。特に乳幼児期においては非常に重要な病原ウイルスであり、生後数週〜数ヵ月の期間にもっとも重症な症状を引き起こします。これまでRSVに対するワクチンはありませんでした。

モノクローナル抗体であるニルセビマブ(nirsevimab)は、開発中のRSVワクチンであり、安全性および健常乳児に投与した場合のRSV関連下気道感染症による入院に対する効果は不明です。

そこで今回は、実用的試験(pragmatic trial)において、フランス、ドイツ、または英国において、生後12ヵ月以下で、妊娠週数29週以上で出生し、最初のRSVシーズンを迎える乳児を、RSVシーズン前またはシーズン中にニルセビマブの単回筋肉内注射を受ける群と標準治療(介入なし)を受ける群に1:1の割合でランダムに割り付け、ワクチンの有効性・安全性を検証したHARMONIE試験の結果をご紹介します。

本試験の主要エンドポイントは、RSV関連下気道感染による入院であり、入院とRSV陽性の検査結果と定義されました。重要な副次的エンドポイントは超重症RSV関連下気道感染とし、RSV関連下気道感染による入院で酸素飽和度が90%未満であり、補助酸素が必要である場合と定義されました。

試験結果から明らかになったことは?

合計8,058例の乳児がニルセビマブ投与群(4,037例)と標準治療群(4,021例)にランダムに割り付けられました。

ニルセビマブ群標準治療群ニルセビマブの有効性
RSV関連下気道感染による入院11例(0.3%)60例(1.5%)83.2%
(95%CI 67.8~92.0
P<0.001

ニルセビマブ群では11例(0.3%)、標準治療群では60例(1.5%)がRSV関連下気道感染症で入院し、ニルセビマブの有効性は83.2%(95%信頼区間[CI] 67.8~92.0; P<0.001)でした。

非常に重症のRSV関連下気道感染症は、ニルセビマブ群では5例(0.1%)、標準治療群では19例(0.5%)に発現し、ニルセビマブの有効性は75.7%(95%CI 32.8~92.9; P=0.004)でした。

RSV関連下気道感染による入院に対するニルセビマブの有効性は、フランスで89.6%(調整後95%CI 58.8~98.7; 多重度調整後P<0.001)、ドイツで74.2%(調整後95%CI 27.9~92.5; 多重度調整後P=0.006)、英国で83.4%(調整後95%CI 34.3~97.6; 多重度調整後P=0.003)でした。

治療関連の有害事象(副反応)はニルセビマブ群の乳児86例(2.1%)に発現しました。

コメント

2024年1月現在、RSウイルスに対するワクチン接種(パリビズマブ、商品名:シナジス)の対象は以下であり、低体重や基礎疾患を有さない乳幼児に対しては保険適応がありません。

  • 在胎期間28週以下の早産で、12ヵ月齢以下の新生児および乳児
  • 在胎期間29週~35週の早産で、6ヵ月齢以下の新生児および乳児
  • 過去6ヵ月以内に気管支肺異形成症(BPD)の治療を受けた24ヵ月齢以下の新生児、乳児および幼児
  • 24ヵ月齢以下の血行動態に異常のある先天性心疾患(CHD)の新生児、乳児および幼児
  • 24ヵ月齢以下の免疫不全を伴う新生児、乳児および幼児
  • 24ヵ月齢以下のダウン症候群の新生児、乳児および幼児

さて、実環境に近似した条件下において、モノクローナル抗体であるニルセビマブは、RSウイルス関連下気道感染による入院および超重症RSウイルス関連下気道感染から乳幼児を保護することが示されました。症例数は充分であると考えられますが、やや区間推定値が広いことからワクチンの改良や追試が求められます。とはいえ、これまでワクチンを使用できなかった対象に対してもワクチン接種を行える可能性が示されたことは非常に有用です。

続報に期待。

happy family with little daughter

✅まとめ✅ 実環境に近似した条件下において、モノクローナル抗体であるニルセビマブは、RSウイルス関連下気道感染による入院および超重症RSウイルス関連下気道感染から乳幼児を保護した。

根拠となった試験の抄録

背景:モノクローナル抗体ニルセビマブ(nirsevimab)の安全性および健常乳児に投与した場合の呼吸器合胞体ウイルス(RSV)関連下気道感染症による入院に対する効果は不明である。

方法:実用的試験(pragmatic trial)において、フランス、ドイツ、または英国において、生後12ヵ月以下で、妊娠週数29週以上で出生し、最初のRSVシーズンを迎える乳児を、RSVシーズン前またはシーズン中にニルセビマブの単回筋肉内注射を受ける群と標準治療(介入なし)を受ける群に1:1の割合でランダムに割り付けた。
主要エンドポイントは、RSV関連下気道感染による入院であり、入院とRSV陽性の検査結果と定義した。重要な副次的エンドポイントは超重症RSV関連下気道感染とし、RSV関連下気道感染による入院で酸素飽和度が90%未満であり、補助酸素が必要であると定義した。

結果:合計8,058例の乳児がニルセビマブ投与群(4,037例)と標準治療群(4,021例)にランダムに割り付けられた。ニルセビマブ群では11例(0.3%)、標準治療群では60例(1.5%)がRSV関連下気道感染症で入院し、ニルセビマブの有効性は83.2%(95%信頼区間[CI] 67.8~92.0; P<0.001)であった。非常に重症のRSV関連下気道感染症は、ニルセビマブ群では5例(0.1%)、標準治療群では19例(0.5%)に発現し、ニルセビマブの有効性は75.7%(95%CI 32.8~92.9; P=0.004)であった。RSV関連下気道感染による入院に対するニルセビマブの有効性は、フランスで89.6%(調整後95%CI 58.8~98.7; 多重度調整後P<0.001)、ドイツで74.2%(調整後95%CI 27.9~92.5; 多重度調整後P=0.006)、英国で83.4%(調整後95%CI 34.3~97.6; 多重度調整後P=0.003)であった。治療関連の有害事象はニルセビマブ群の乳児86例(2.1%)に発現した。

結論:実環境に近似した条件下において、モノクローナル抗体であるニルセビマブは、RSV関連下気道感染による入院および超重症RSV関連下気道感染から乳幼児を保護した。

資金提供:サノフィ社、アストラゼネカ社

試験登録番号:ClinicalTrials.gov number. NCT05437510

引用文献

Nirsevimab for Prevention of Hospitalizations Due to RSV in Infants
Simon B Drysdale et al. PMID: 38157500 DOI: 10.1056/NEJMoa2309189
N Engl J Med. 2023 Dec 28;389(26):2425-2435. doi: 10.1056/NEJMoa2309189.
— 読み進める https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38157500/

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