変形性膝関節症に対する多血小板血漿と指導付き運動の併用はより良い疼痛緩和と機能改善をもたらすのか?(RCT; Clin Orthop Relat Res. 2024)

woman s hand on a person s knee 11_皮膚・骨格筋系
Photo by MART PRODUCTION on Pexels.com
この記事は約9分で読めます。
ランキングに参加しています!応援してもよいよという方はポチってください!

変形性膝関節症に対するPRP療法の追加の益はどのくらいなのか?

変形性膝関節症は、多額の医療費を伴う身体障害の主要な原因であり、効率的な非外科的治療法が依然として必要とされています。多血小板血漿(PRP)注射と運動療法は米国や英国では臨床で頻繁に用いられていますが、PRPまたはPRPと運動の併用が運動単独よりも効果的かどうかは不明です。

そこで今回は、変形性膝関節症の運動、PRP群、PRP+運動の比較検証を目的に実施されたランダム化比較試験の結果をご紹介します。

試験の目的は、次の2点でした。
(1)変形性膝関節症の疼痛をよりよく緩和する治療はどれか
(2)WOMACスコア、40m速歩試験および階段昇降試験の成績、SF-12健康関連QOLスコアにおいて、PRP単独、運動、PRPと運動の組み合わせのいずれがより良い結果をもたらすか?

このランダム化対照3群間臨床試験において、疼痛に関する11段階の数値評価スケールが3点以上の軽度~中等度(Kellgren-Lawrence Grade IIまたはIII)の変形性膝関節症患者が募集されました。試験期間中、変形性膝関節症と診断された157例の患者がスクリーニングを受け、84例の適格なボランティアが試験に登録され、運動群(28人)、PRP群(28人)、PRP+運動群(28人)のいずれかにランダムに割り付けられました(1:1:1)。フォローアップの割合は、群間で同程度でした(運動群:89%[25]、PRP群:86%[24]、PRP+運動群:89%[25]、p=0.79)。全患者がintention-to-treatで解析されました。年齢、性別、関節炎の重症度、ベースラインの臨床スコア(疼痛、WOMAC、機能的パフォーマンステスト、健康関連QOL)に群間差はみられませんでした。

運動療法群では、筋力強化および機能的エクササイズに焦点を当てた12回の指導付き個人セッションからなる6週間の構造化プログラムが実施されました。一方、PRP群には白血球の少ない新鮮なPRPが週3回注射されました。PRP+運動群には、両方の介入を組み合わせた治療が行われました。

本試験の主要評価項目は、24週間にわたる膝関節痛であり、11段階の疼痛評価尺度(0~10の範囲で、0は疼痛なし、10は最悪の疼痛を表し、臨床的に重要な最小差[MCID]は2)で測定されました。副次的評価項目は、WOMAC指数(0~100の範囲で、スコアが低いほど障害の程度が低いことを示し、MCIDは12)、40m速歩試験と階段昇降試験の持続時間、SF-12健康関連QOLスコアなどでした。

試験結果から明らかになったことは?

24週時点運動単独群PRP単独群PRP+運動群平均差
(PRP+運動群 vs. 運動群)
疼痛改善度(10点満点で2点以上と定義)1.9±0.73.8±1.81.4±0.6平均差 -0.5
(95%信頼区間 -1.2 ~ 0.4
p=0.69
WOMACスコア10±926±207±6平均差 -3
(95%信頼区間 -12 ~ -5
p=0.97

24週時点で、運動単独群とPRP単独群、PRP+運動群を比較した場合、疼痛の改善(10点満点で2点以上と定義)に臨床的に重要な差は認められませんでした(1.9±0.7 vs. 3.8±1.8 vs. 1.4±0.6;PRP+運動群と運動群の平均差 -0.5、95%信頼区間 -1.2 ~ 0.4;p=0.69)。

同様に、運動単独群とPRP単独群、PRP+運動群を比較した場合、追跡24週時点のWOMACスコアに差は認められませんでした(10±9 vs. 26±20 vs. 7±6;PRP+運動群と運動群の平均差 -3、95%信頼区間 -12 ~ -5;p=0.97)。

PRP+運動群と運動群では、その他の副次的転帰指標に差はみられませんでした。

コメント

PRP療法は、Platelet Rich Plasmaの略であり、日本語では多血小板血漿と訳されます。再生医療の一つとして、美容外科やスポーツ医学で使用されています(日本においては保険外使用)。

血小板は血液に含まれる成分のひとつであり、組織修復能力のある成長因子が含まれています。この血小板を遠心分離機で濃縮して採取したものがPRPであり、患部に注入された場合、PRPに含まれている成長因子等の働きで、損傷した組織の修復や疼痛の軽減効果があることが報告されています。このため、変形性膝関節症でも使用されています。

変形性関節症に対する薬物療法としては、鎮痛薬やヒアルロン酸注射等が行われていますが、すべての患者に有効とは限りません。一方、これらの既存治療が無効であった症例に対しても、PRPの関節内注射により疼痛緩和が得られることが報告されています。さらに、PRPは自己血を使用することから、薬物治療のように副作用を起こすことは滅多になく、比較的安全性の高い治療であることが知られています。しかし、運動療法と併用した場合の有効性・安全性については充分に検証されていません。

さて、ランダム化比較試験の結果、軽度から中等度の変形性膝関節症患者において、PRPは運動単独群と比較して、24週間の追跡時点で疼痛を改善しませんでした。さらに、機能および健康関連QOLの身体的要素を考慮すると、運動単独群はPRP単独群よりも臨床的に優れているとのことでした。

疼痛スコアだけで見れば、PRP単独療法が最も優れているように受け取れますが、MCIDは2点であることを踏まえると、実臨床におけるPRP単独療法の効果は、それほど大きくないと考えられます。

対象患者は、Kellgren-Lawrence Grade IIまたはIIIであったことから、特にグレードIIIの患者集団においては膝の軟骨下骨の損傷が進んでいた可能性が高いと考えられます。そのため、病態における炎症期から侵害受容期に移行しているために、薬剤の効果が得られなかったものと考えられます。また運動療法群においては、関節周りの筋力強化により、関節同士の物理的な摩擦が抑えられ、疼痛緩和につながったものと考えられます。そのため、PRP療法が影響する余地がなかったものと推察されます。

より早期の患者にPRP療法を使用した場合の効果検証が求められます。

続報に期待。

a close up shot of letter cutouts

✅まとめ✅ ランダム化比較試験の結果、軽度から中等度の変形性膝関節症患者において、PRPは運動単独群と比較して、24週間の追跡時点で疼痛を改善しなかった。さらに、機能および健康関連QOLの身体的要素を考慮すると、運動単独群はPRP単独群よりも臨床的に優れていた。

根拠となった試験の抄録

背景:変形性膝関節症は、多額の医療費を伴う身体障害の主要な原因であり、効率的な非外科的治療法が依然として必要とされている。多血小板血漿(PRP)注射と運動療法は臨床で頻繁に用いられている。PRPまたはPRPと運動の併用が運動単独よりも効果的かどうかは不明である。

質問・目的:(1)変形性膝関節症の疼痛をよりよく緩和する治療はどれか: (2)WOMACスコア、40m速歩試験および階段昇降試験の成績、SF-12健康関連QOLスコアにおいて、PRP単独、運動、PRPと運動の組み合わせのいずれがより良い結果をもたらすか?

方法:このランダム化対照3群間臨床試験において、疼痛に関する11段階の数値評価スケールが3点以上の軽度~中等度(Kellgren-Lawrence Grade IIまたはIII)の変形性膝関節症患者を募集した。試験期間中、変形性膝関節症と診断された157例の患者がスクリーニングを受け、84例の適格なボランティアが試験に登録された。患者は、運動群(28人)、PRP群(28人)、PRP+運動群(28人)のいずれかにランダムに割り付けられた(1:1:1)。フォローアップの割合は、群間で同程度であった(運動群:89%[25]、PRP群:86%[24]、PRP+運動群:89%[25]、p=0.79)。全患者をintention-to-treatで解析した。年齢、性別、関節炎の重症度、ベースラインの臨床スコア(疼痛、WOMAC、機能的パフォーマンステスト、健康関連QOL)に群間差はみられなかった。運動療法群では、筋力強化および機能的エクササイズに焦点を当てた12回の指導付き個人セッションからなる6週間の構造化プログラムが実施された。一方、PRP群には白血球の少ない新鮮なPRPを週3回注射した。PRP+運動群には、両方の介入を組み合わせた治療が行われた。
主要評価項目は、24週間にわたる膝関節痛で、11段階の疼痛評価尺度(0~10の範囲で、0は疼痛なし、10は最悪の疼痛を表し、臨床的に重要な最小差[MCID]は2)で測定された。副次的評価項目は、WOMAC指数(0~100の範囲で、スコアが低いほど障害の程度が低いことを示し、MCIDは12)、40m速歩試験と階段昇降試験の持続時間、SF-12健康関連QOLスコアなどであった。
アプリオリのサンプルサイズ計算では、主要アウトカム変数として24週時点の疼痛に対する数値評価スケールスコアを用いた。評価尺度のMCIDは2点、標準偏差は2.4と推定された。
サンプルサイズの計算に基づくと、1群24例のサンプルは、p=0.05の有意水準でこのサイズの群間効果を検出する80%の検出力を提供する。

結果:24週時点で、運動単独群とPRP単独群、PRP+運動群を比較した場合、疼痛の改善(10点満点で2点以上と定義)に臨床的に重要な差は認められなかった(1.9±0.7 vs. 3.8±1.8 vs. 1.4±0.6;PRP+運動群と運動群の平均差 -0.5、95%信頼区間 -1.2 ~ 0.4;p=0.69)。同様に、運動単独群とPRP単独群、PRP+運動群を比較した場合、追跡24週時点のWOMACスコアに差は認められなかった(10±9 vs. 26±20 vs. 7±6;PRP+運動群と運動群の平均差 -3、95%信頼区間 -12 ~ -5;p=0.97)。PRP+運動群と運動群では、その他の副次的転帰指標に差はみられなかった。

結論:軽度から中等度の変形性膝関節症患者において、PRPは運動単独群と比較して、24週間の追跡時点で疼痛を改善しなかった。さらに、機能および健康関連QOLの身体的要素を考慮すると、運動単独群はPRP単独群よりも臨床的に優れていた。PRP製剤に関する追加費用と努力にもかかわらず、PRPと運動の併用は運動単独と差がなかった。このランダム化比較試験の結果は、軽度から中等度の変形性膝関節症と診断された患者の治療におけるPRP注射の使用を支持するものではない。その結果、この期間を通じて疼痛を軽減し機能を増強するためには、運動単独での治療が推奨される。

エビデンスレベル:レベルI、治療研究

引用文献

Does the Combination of Platelet-rich Plasma and Supervised Exercise Yield Better Pain Relief and Enhanced Function in Knee Osteoarthritis? A Randomized Controlled Trial
Sezen Karaborklu Argut et al. PMID: 38323999 DOI: 10.1097/CORR.0000000000002993
Clin Orthop Relat Res. 2024 Feb 6. doi: 10.1097/CORR.0000000000002993. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38323999/

コメント

タイトルとURLをコピーしました