選択的スフィンゴシン1リン酸(S1P)受容体作動薬であるエトラシモドの効果は?
スフィンゴシン1リン酸(S1P)受容体のサブタイプ1,4,5を選択的に活性化し、S1P2,3には活性が検出されない1日1回投与の経口薬であるEtrasimod(エトラシモド)は、潰瘍性大腸炎を含む免疫媒介疾患の治療薬として開発中です。
今回ご紹介するのは、中等度から重度の活動性を有する潰瘍性大腸炎の成人患者を対象に、エトラシモドの安全性と有効性を評価した第3相試験2件の結果をご紹介します。
ELEVATE UC 52およびELEVATE UC 12の2件の独立したランダム化、多施設、二重盲検、プラセボ対照の第3相試験において、中等度から重度の活動性の潰瘍性大腸炎で、少なくとも1つの承認済みの潰瘍性大腸炎治療薬の効果が不十分または消失、不耐性を有する成人患者が、1日1回のエトラシモド2mgまたはプラセボ内服をランダムに(2:1)割り当てられました。ELEVATE UC 52の患者は、40ヵ国の315施設、ELEVATE UC 12の患者は、37カ国407施設から登録されました。
ランダム化は、生物学的製剤またはヤヌスキナーゼ阻害剤による治療歴(あり、なし)、ベースラインのコルチコステロイド使用(あり、なし)、ベースラインの疾患活動性(modified Mayo score [MMS]; 4-6 vs. 7-9)によって層別化されました。
ELEVATE UC 52は、12週間の導入期間と40週間の維持期間からなり、トリートスルーデザイン(treat-through design、参考PMID: 30879034)が採用されました。ELEVATE UC 12は、12週目に導入期の評価が独自に行われました。
本試験の有効性の主要評価項目は、ELEVATE UC 52試験では12週目と52週目、ELEVATE UC 12試験では12週目に臨床的寛解を得た患者の割合でした。安全性については、両試験で評価されました。
根拠となった試験の抄録
ELEVATE UC 52の患者は、2019年6月13日から2021年1月28日の間に、ELEVATE UC 12の患者は、2020年9月15日から2021年8月12日の間に登録されました。ELEVATE UC 52は821例、ELEVATE UC 12は606例の患者をスクリーニングし、その後433例、354例がランダム割付けを受けました。
ELEVATE UC 52の全解析セットは、エトラシモドに289例、プラセボに144例が、ELEVATE UC 12では、238例の患者がエトラシモドに、116例の患者がプラセボに割り付けられました。
ELEVATE UC 52 | エトラシモド群 | プラセボ群 |
臨床的寛解(12週間) | 135例中10例[7%] p<0.0001 | 274例中74例[27%] |
臨床的寛解(52週目) | 135例中9例[7%] p<0.0001 | 274例中88例[32%] |
ELEVATE UC 52では、12週間の導入期間終了時(274例中74例[27%]、135例中10例[7%]、p<0.0001)および52週目(274例中88例[32%]、135例中9例[7%]、p<0.0001)にエトラシモド群ではプラセボ群に比べ有意により多くの患者が臨床的寛解に至りました。
ELEVATE UC 12 | エトラシモド群 | プラセボ群 |
臨床的寛解(12週間) | 222例中55例(25%) p=0.026 | 112例中17例(15%) |
ELEVATE UC 12では、12週間の導入期間終了時に、エトラシモド群222例中55例(25%)が臨床的寛解を示したのに対し、プラセボ群112例中17例(15%)でした(p=0.026)。
有害事象は、ELEVATE UC 52ではエトラシモド群289例中206例(71%)、プラセボ群144例中81例(56%)、ELEVATE UC 12ではエトラシモド群238例中112例(47%)、プラセボ群116例中54例(47%)で報告されましたが、死亡や悪性腫瘍の報告はありませんでした。
コメント
潰瘍性大腸炎患者の多くは、寛解と再燃を繰り返す「再燃寛解型」であることが報告されています。この他に、寛解に至らず6ヵ月以上“活動期”のままである「慢性持続型」や、穿孔や敗血症などを伴う「急性劇症型」があります。潰瘍性大腸炎は、大腸がんや大腸切除などのリスク増加が報告されていることからも、早期発見・早期治療が求められます。
さて、本試験結果によれば、エトラシモドは、プラセボと比較して、中等度から重度の活動性の潰瘍性大腸炎患者における導入療法および維持療法として有効であり、良好な忍容性を示しました。ただし、ELEVATE UC 12試験では、12週目における臨床的寛解率はプラセボよりも低いことから、追試が求められます。
有害事象については、プラセボと同様あるいは増加傾向が認められています。介入群において、貧血や頭痛、嘔気、そしてCOVID-19が多かったようです。免疫機能を低下させる可能性があることから、他の感染症のリスク増加について注意深いモニタリングが求められます。
続報に期待。
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