エンシトレルビルはコロナ後遺症のリスクを低減できますか?(探索的評価; 学会報告; CROI2023)

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エンシトレルビル(商品名:ゾゴーバ)はコロナ後遺症のリスクを低減できるのか?

2023年2月22日、塩野義製薬株式会社が、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬エンシトレルビル フマル酸(商品名:ゾコーバ錠125mg、以下「エンシトレルビル」)について、第2/3相臨床試験のPhase 3 partより新たに得られた結果を第30回 Conference on Retroviruses and Opportunistic Infections(CROI)2023にて発表しました。

これをきっかけに、ニュースなどではエンシトレルビルをコロナ後遺症に対する”特効薬” ともてはやすような報道がなされています。しかし、試験結果の課題解釈は人類に不利益をもたらします。

そこで今回は、学会報告に関するプレスリリースの内容を踏まえ、コロナ後遺症(Long COVID)に対するエンシトレルビルの効果について考察します。

本試験の主要評価項目はオミクロン株感染時に特徴的な5症状(鼻水または鼻づまり、喉の痛み、咳の呼吸器症状、熱っぽさまたは発熱、けん怠感 (疲労感))が消失するまでの時間でした。

試験結果から明らかになったことは?

Phase 3 partは、エンシトレルビル(125mg、250mgの2用量)を1日1回、5日間経口投与した際の臨床症状の改善効果を検証することを主目的に、軽症/中等症患者を対象に実施されました。本試験では、日本、韓国、ベトナムにおいて重症化リスク因子の有無、またワクチン接種の有無にかかわらず(組入時、9割以上が接種済みだった)、発症から120時間以内の患者1,821例が登録されました。

主要評価項目:オミクロン株感染時に特徴的な5症状(鼻水または鼻づまり、喉の痛み、咳の呼吸器症状、熱っぽさまたは発熱、けん怠感 (疲労感))が消失するまでの時間

エンシトレルビル125mg群プラセボ群
症状消失までの時間
(中央値)
167.9時間
p=0.0407
192.2時間

発症から72時間未満に割付けられた患者集団において、エンシトレルビル125mg投与は、プラセボ群と比較して、オミクロン株感染時に特徴的な5症状が消失するまでの時間が有意に短縮し、症状に対する改善効果が確認されました(p=0.0407)。症状消失までの時間の中央値は、本薬125mg投与群では167.9時間、プラセボ群では192.2時間でした。

主要な副次評価項目:感染性を有するSARS-CoV-2ウイルス(ウイルス力価)の陰性化が最初に確認されるまでの時間

エンシトレルビル125mg群プラセボ群
ウイルス力価の陰性化までの時間
(中央値)
36.2時間65.3時間

エンシトレルビル125mg投与により、感染性を有するSARS-CoV-2ウイルス(ウイルス力価)の陰性化が最初に確認されるまでの時間は、プラセボ群と比較して有意に短縮しました(p<0.0001)。力価陰性化までの時間の中央値は、本薬125mg投与群では36.2時間、プラセボ群では65.3時間でした。投与4日目(3回投与後)において、ウイルス力価陽性の患者の割合はプラセボ群との比較で87%減少し、96%の患者がすでに力価陰性となりました。

その他、主要な副次評価項目として、エンシトレルビルは、投与4日目におけるウイルスRNA量を有意に減少させることが示されました(4日目におけるベースラインからのウイルスRNA変化量はプラセボとの比較で1.4 log10 copies/mL以上の差;p<0.0001)。

安全性評価

忍容性は良好であり、両用量ともに重篤な副作用や死亡例の報告はありませんでした。125mg投与群で比較的高頻度に見られた副作用は、高比重リポ蛋白の減少および血中トリグリセリドの上昇でした。

探索的評価項目:Long COVIDの発現リスクに対する効果

(COVID-19に特徴的な14症状)エンシトレルビル125mg群プラセボ群
Long COVID患者割合14.5%
p<0.05
26.3%

投与開始時のCOVID-19症状スコアが中央値以上の患者集団において、エンシトレルビル125mg投与は、COVID-19に特徴的な咳や喉の痛み、倦怠感、味覚、嗅覚異常など14症状のいずれかの長期持続を認める患者の割合を、プラセボ群と比較して有意に減少させました(本薬125mg投与群14.5%、プラセボ群26.3%が症状の発現を報告a、プラセボ比で45%の相対リスク低下;p<0.05)。

(神経系の4症状)エンシトレルビル125mg群プラセボ群
Long COVID患者割合29.4%
p<0.05
44.0%

Long COVIDの発現リスクに対する効果(神経系の4症状):エンシトレルビル125mg投与は、罹患後症状として報告の多い4つの神経症状(課題解決力、集中力・思考力の低下、物忘れ、不眠)の発現を認める患者の割合を、プラセボ群と比較して有意に減少させました(本薬125mg投与群の29.4%、プラセボ群の44.0%が症状の発現を報告b、プラセボ比で33%の相対リスク低下;p<0.05)。
a) 患者日誌の最終観測時点(例 Day 21)からDay 169までに、同一症状で軽度以上の症状が2回以上連続して確認される
b) Day 85またはDay 169の少なくとも一時点で軽度以上の症状が1つ以上確認される

全体の患者集団においても、エンシトレルビル125mg投与はCOVID-19に特徴的な14症状、神経系の4症状に対して同様のリスク低下傾向を示しました。14症状に対する相対リスクはプラセボ比で25%低下(p=0.1774)、神経系4症状に対しては26%の有意な低下でした(p<0.05)。今回公表した結果は中間解析データであり、今後12ヵ月時点(Day 337)までフォローアップが継続されるとのことです。

コメント

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は2019年の最初の報告から現在まで発症報告が継続しており、一向に終息の兆しは見えません。ワクチンを含めた基本的な感染予防対策がとられ、疾患の重症化リスクや死亡リスクの低減が報告されています。COVID-19罹患後、3ヵ月以上の長期間にわたって咳や喉の痛み、倦怠感、味覚、嗅覚異常、課題解決力、集中力・思考力の低下、物忘れ、不眠などの症状が持続するコロナ後遺症が課題となっています。したがって、このコロナ後遺症(Long COVID)に対する予防・治療戦略の確立が急務となっています。

さて、本試験結果によれば、学会報告レベルかつ探索的な評価において、エンシトレルビル(商品名:ゾゴーバ)は、プラセボと比較して、コロナ後遺症(Long-COVID)の発現リスクを有意に低下させました。ただし、Long COVIDについては探索的評価項目であり、かつ投与開始時のCOVID-19症状スコアが中央値以上の患者集団において認められた結果にすぎません。本試験結果のみで、エンシトレルビル(商品名:ゾゴーバ)がLong COVIDに有効であると結論付けられません。

あくまでも可能性が示されたにすぎず、質の高いランダム化比較試験での追試が求められます。

続報に期待。

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☑まとめ☑ 学会報告レベルかつ探索的な評価において、エンシトレルビル(商品名:ゾゴーバ)は、プラセボと比較して、コロナ後遺症(Long-COVID)の発現リスクを有意に低下させた。あくまでも可能性が示されたにすぎず、質の高いランダム化比較試験での追試が求められる。

根拠となった試験の抄録

塩野義製薬株式会社が、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬エンシトレルビル フマル酸(日本での製品名:ゾコーバ錠125mg、以下「エンシトレルビル」)について、第2/3相臨床試験のPhase 3 partより新たに得られた結果を第30回 Conference on Retroviruses and Opportunistic Infections(CROI)2023にて発表した。

Phase 3 partは、エンシトレルビル(125mg、250mgの2用量)を1日1回、5日間経口投与した際の臨床症状の改善効果を検証することを主目的に、軽症/中等症患者を対象に実施された。本試験では、日本、韓国、ベトナムにおいて重症化リスク因子の有無、またワクチン接種の有無(9割以上が接種済み)にかかわらず、発症から120時間以内の患者1,821例が登録された。

主要評価項目:発症から72時間未満に割付けられた患者集団において、エンシトレルビル125mg投与は、オミクロン株感染時に特徴的な5症状(鼻水または鼻づまり、喉の痛み、咳の呼吸器症状、熱っぽさまたは発熱、けん怠感 (疲労感))が消失するまでの時間をプラセボ群との比較で有意に短縮し、症状に対する改善効果が確認された(p=0.0407)。症状消失までの時間の中央値は、本薬125mg投与群では167.9時間、プラセボ群では192.2時間でした。
主要な副次評価項目:エンシトレルビル125mg投与により、感染性を有するSARS-CoV-2ウイルス(ウイルス力価)の陰性化が最初に確認されるまでの時間を、プラセボ群と比較して有意に短縮した(p<0.0001)。力価陰性化までの時間の中央値は、本薬125mg投与群では36.2時間、プラセボ群では65.3時間でした。投与4日目(3回投与後)において、ウイルス力価陽性の患者の割合はプラセボ群との比較で87%減少し、96%の患者がすでに力価陰性となった。
安全性:忍容性は良好であり、両用量ともに重篤な副作用や死亡例の報告はなかった。125mg投与群で比較的高頻度に見られた副作用は、高比重リポ蛋白の減少および血中トリグリセリドの上昇だった。その他、主要な副次評価項目として、エンシトレルビルは、投与4日目におけるウイルスRNA量を有意に減少させることが示された(4日目におけるベースラインからのウイルスRNA変化量はプラセボとの比較で1.4 log10 copies/mL以上の差;p<0.0001)。
Long COVIDの発現リスクに対する効果(COVID-19に特徴的な14症状):投与開始時のCOVID-19症状スコアが中央値以上の患者集団において、エンシトレルビル125mg投与は、COVID-19に特徴的な咳や喉の痛み、倦怠感、味覚、嗅覚異常など14症状のいずれかの長期持続を認める患者の割合を、プラセボ群と比較して有意に減少させた(本薬125mg投与群14.5%、プラセボ群26.3%が症状の発現を報告a、プラセボ比で45%の相対リスク低下;p<0.05)。
Long COVIDの発現リスクに対する効果(神経系の4症状):エンシトレルビル125mg投与は、罹患後症状として報告の多い4つの神経症状(課題解決力、集中力・思考力の低下、物忘れ、不眠)の発現を認める患者の割合を、プラセボ群と比較して有意に減少させた(本薬125mg投与群の29.4%、プラセボ群の44.0%が症状の発現を報告b、プラセボ比で33%の相対リスク低下;p<0.05)。
a) 患者日誌の最終観測時点(例 Day 21)からDay 169までに、同一症状で軽度以上の症状が2回以上連続して確認される
b) Day 85またはDay 169の少なくとも一時点で軽度以上の症状が1つ以上確認される

 全体の患者集団においても、エンシトレルビル125mg投与はCOVID-19に特徴的な14症状、神経系の4症状に対して同様のリスク低下傾向を示した。14症状に対する相対リスクはプラセボ比で25%低下(p=0.1774)、神経系4症状に対しては26%の有意な低下(p<0.05)でした。今回公表した結果は中間解析データであり、今後12ヵ月時点(Day 337)までフォローアップが継続される。

引用文献

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬 エンシトレルビル フマル酸によるウイルス力価の 早期陰性化ならびに罹患後症状(Long COVID)の発現リスクに対する低減効果について ―国際学会CROI 2023において新規データを発表―
塩野義製薬プレスリリース

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