複雑な経皮的冠動脈インターベンション後のDAPT実施期間は1~3ヵ月でも良い?(メタ解析; Sidney-2; J Am Coll Cardiol. 2023)

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複雑なPCI後におけるDAPT期間短縮は可能なのか?

狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患は、冠動脈が細くなったり詰まったりする状態です。これに対する治療は、血管の狭くなった部分を広げて、血液のスムーズな流れを取り戻すことが目的となります。血管拡張の方法として、薬物治療、経皮的冠動脈インターベンション(PCI)、冠動脈バイパス手術(CABG)の3つがあります。

経皮的冠動脈インターベンション(PCI)は、脚の付け根や腕、手首などの血管からカテーテルを通していき、冠動脈の狭くなった部分を治療する方法です。先端にバルーン(風船)を取り付けたカテーテルでバルーンを内側から膨らませて血管を押し広げる方法(バルーン療法)が基本であり、再狭窄を防ぐために薬剤溶出ステント(DES)の留置が行われます。

ステントの留置後に、血小板などの凝集によりステント閉塞が引き起こされることがあり、これを防ぐために抗血小板療法二重(2剤)併用療法が行われます。しかし、複雑なPCI後、P2Y12阻害薬単独療法がDAPTと比較して出血リスクを抑制しつつ虚血保護を維持できるかどうかは、依然として不明です。

そこで今回は、1~3ヵ月のDAPT後のP2Y12阻害薬単剤療法と標準的なDAPTの効果を、PCIの複雑性に関連して評価したメタ解析の結果をご紹介します。

本試験では、冠動脈再灌流術後の中央判定によるアウトカムについて、P2Y12阻害薬単剤療法と標準的なDAPTを比較したランダム化対照試験から患者レベルのデータがプールされました。

複雑なPCIの定義として次の6つの基準が用いられた:
①3ヵ所の血管を治療、
②3つ以上のステントを留置、
③3ヵ所以上の病変を治療、
④2つのステントを留置した分岐部、
⑤ステント総長60mm以上、
⑥慢性完全閉塞

本試験の有効性の主要評価項目は、全死亡、心筋梗塞、脳卒中でした。安全性の主要エンドポイントはBleeding Academic Research Consortium(BARC)3または5の出血でした。

試験結果から明らかになったことは?

5件の試験でPCIを受けた患者22,941例中、複雑なPCIを受けた4,685例(20.4%)で虚血性イベントの発生率が高くなりました。

主要評価項目(全死亡、心筋梗塞、脳卒中)の
ハザード比 HR
複雑なPCIを受けた患者HR 0.87
(95%CI 0.64~1.19
非複雑なPCIを受けた患者HR 0.91
(95%CI 0.76~1.09
交互作用のP=0.770

主要評価項目は、複雑なPCIを受けた患者(HR 0.87、95%CI 0.64~1.19)と非複雑なPCIを受けた患者(HR 0.91、95%CI 0.76~1.09、交互作用のP=0.770)でP2Y12阻害剤単独療法とDAPTで同等でした。この治療効果は、複雑なPCIの定義のすべての構成要素で一貫していました。

BARC3または5の出血の
ハザード比 HR
複雑なPCIを受けた患者HR 0.51
(95%CI 0.31~0.84
非複雑なPCIを受けた患者HR 0.49
(95%CI 0.37~0.64
交互作用のP=0.920

DAPTと比較して、P2Y12阻害剤単剤療法は、複雑なPCI患者(HR 0.51、95%CI 0.31~0.84)および非複雑なPCI患者(HR 0.49、95%CI 0.37~0.64、交互作用のP=0.920)のBARC3または5の出血を恒常的に低減させました。

コメント

冠動脈の状態により複雑性、非複雑性に分けられます。低~中等度の複雑性を有する左冠動脈主幹部病変に対して、経皮的冠動脈インターベンション(PCI)と冠動脈バイパス術(CABG)の5年死亡リスクは同等であることがメタ解析で示されています。一方、ベイジアン解析における死亡リスクの比較では、PCIよりCABGの方が低いと報告されています(PMID: 34793745)。PCIはCABGと比較して侵襲性が低いことから臨床でより選択されていますが、病変が複雑な患者におけるエビデンスは充分ではありません。さらにPCI後のDAPT期間と患者転帰に関する検証はほとんどなされていません。

さて、本試験結果によれば、5件のRCTのメタ解析で、1~3ヵ月のDAPT後のP2Y12阻害薬単剤投与は、PCIの複雑性にかかわらず、標準的なDAPTと比較して致命的イベント(全死亡、心筋梗塞、脳卒中)と虚血イベントの発生率が同等であり、大出血のリスクも低いことが示されました。

1~3ヵ月のDAPT後のP2Y12阻害薬単剤による患者転帰への効果は、PCIの複雑性にかかわらず得られるようです。ただし、試験数は5件であり出版バイアスが残存していること、得られた結果の異質性及び個々の試験のバイアス評価結果について抄録にきさいされていないため、結果の解釈が困難です。続報に期待したいところです。

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☑まとめ☑ 1~3ヵ月のDAPT後のP2Y12阻害薬単剤投与は、PCIの複雑性にかかわらず、標準的なDAPTと比較して致命的イベントと虚血イベントの発生率が同等であり、大出血のリスクも低いことが示された。

根拠となった試験の抄録

背景:複雑な経皮的冠動脈インターベンション(PCI)後、P2Y12阻害薬単独療法が二重抗血小板療法(DAPT)と比較して出血リスクを抑制しつつ虚血保護を維持できるかどうかは、依然として不明である。

目的:1~3ヵ月のDAPT後のP2Y12阻害薬単剤療法と標準的なDAPTの効果を、PCIの複雑性に関連して評価することを目指した。

方法:冠動脈再灌流術後の中央判定によるアウトカムについて、P2Y12阻害薬単剤療法と標準的なDAPTを比較したランダム化対照試験から患者レベルのデータをプールした。複雑なPCIは6つの基準のいずれかと定義した:①3ヵ所の血管を治療、②3つ以上のステントを留置、③3ヵ所以上の病変を治療、④2つのステントを留置した分岐部、⑤ステント総長60mm以上、⑥慢性完全閉塞。
有効性の主要評価項目は、全死亡、心筋梗塞、脳卒中であった。安全性の主要エンドポイントはBleeding Academic Research Consortium(BARC)3または5の出血であった。

結果:5件の試験でPCIを受けた患者22,941例中、複雑なPCIを受けた4,685例(20.4%)で虚血性イベントの発生率が高くなった。主要評価項目は、複雑なPCIを受けた患者(HR 0.87、95%CI 0.64~1.19)と非複雑なPCIを受けた患者(HR 0.91、95%CI 0.76~1.09、交互作用のP=0.770)でP2Y12阻害剤単独療法とDAPTで同等であった。この治療効果は、複雑なPCIの定義のすべての構成要素で一貫していた。DAPTと比較して、P2Y12阻害剤単剤療法は、複雑なPCI患者(HR 0.51、95%CI 0.31~0.84)および非複雑なPCI患者(HR 0.49、95%CI 0.37~0.64、交互作用のP=0.920)のBARC3または5の出血を恒常的に低減させた。

結論:1~3ヵ月のDAPT後のP2Y12阻害薬単剤投与は、PCIの複雑性にかかわらず、標準的なDAPTと比較して致命的イベントと虚血イベントの発生率が同等であり、大出血のリスクも低いことが示された。

試験登録:PROSPERO [P2Y12 Inhibitor Monotherapy Versus Standard Dual Antiplatelet Therapy After Coronary Revascularization(冠動脈血行再建術後のP2Y12阻害薬単剤療法と標準的な二重抗血小板療法の比較。Individual Patient Data Meta-Analysis of Randomized Trials]; CRD42020176853)。

キーワード:DAPT、P2Y(12)阻害薬、複雑なPCI、メタアナリシス、経皮的冠動脈インターベンション

引用文献

P2Y12 Inhibitor Monotherapy or Dual Antiplatelet Therapy After Complex Percutaneous Coronary Interventions
Felice Gragnano et al. PMID: 36754514 DOI: 10.1016/j.jacc.2022.11.041
J Am Coll Cardiol. 2023 Feb 14;81(6):537-552. doi: 10.1016/j.jacc.2022.11.041.
— 読み進める pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36754514/

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