2型糖尿病患者および非2型糖尿病患者における主要な心血管疾患の予防のための血圧コントロールはどのくらいが良いですか?(個人データのメタ解析; BPLTTC試験; Lancet Diabetes Endocrinol. 2022)

a healthcare worker measuring a patient s blood pressure using a sphygmomanometer 05_内分泌代謝系
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心血管リスク低下のための血圧コントロールは2型糖尿病の有無で異なるのか?

糖尿病は、世界中で死亡、心血管合併症、医療負担の主要な原因となっています。合併症を引き起こし、医療費負担を増大させています(PMID: 32901098)。高血圧を有する2型糖尿病患者は、主要な心血管イベントによる罹患および死亡のリスクが高いとされています(PMID: 25466521)。しかし、血圧低下治療の有益性が2型糖尿病患者とそうでない患者で異なるかどうかを判断するためのランダム化比較試験のデータは充分ではありません。同様に、特に正常または正常より高い血圧の患者において、特定の血圧の閾値で血圧降下療法を開始することに関しても不確実性があります。これらの不確実性は、2型糖尿病患者を対象としたAction to Control Cardiovascular Risk in Diabetes (ACCORD) trial(PMID: 20228401)とSystolic Blood Pressure Intervention Trial (SPRINT) (PMID: 26551272)の異なる知見に起因するものです。

SPRINT試験では、収縮期血圧を140mmHg未満と比較して120mmHg未満にすることで、ベースラインで2型糖尿病を有していない(特定されていない)集団の心血管疾患リスクを有意に低下させることが報告されました(PMID: 26551272)。一方、同じ血圧低下目標と同様の介入を行ったACCORD試験では、2型糖尿病患者における明確な予防効果は認められなかったと報告されています(PMID: 20228401)。その後、2型糖尿病患者100,354例を含むランダム化比較試験のデータ集計メタ解析でも、血圧低下治療が主要な心血管疾患および全死亡リスクを全体として低下させますが、ベースラインの収縮期血圧が140mmHg以上の患者において相対効果がより強いと報告されました(PMID: 25668264)。

Blood Pressure Lowering Treatment Trialists Collaboration(BPLTTC)の第3サイクルは35万人以上の参加者から構成されており、2型糖尿病のランダム化参加者の既知の最大のデータセットを用いて、ベースライン時の2型糖尿病の状態および収縮期血圧カテゴリーによる効果の不均一性を同時に調査することが可能でした。そこで今回は、主要なランダム化比較試験の参加者個人レベルのデータを解析し、2型糖尿病患者と非患者における血圧低下治療が主要な心血管イベントのリスクに及ぼす影響、およびベースラインの収縮期血圧のレベルによる影響を検討したメタ解析の結果をご紹介します。

試験結果から明らかになったことは?

1981年から2014年の間に発表された、358,533例(男性 58%)が参加した51件のランダム化比較試験のデータを対象とし、そのうち103,325例(29%)はベースラインで2型糖尿病が判明していました。2型糖尿病患者および非2型糖尿病患者のベースライン平均収縮期/拡張期血圧は、それぞれ149/84mmHg(SD 19/11)および153/88mmHg(SD 21/12)でした。

主要な心血管イベントのリスク
2型糖尿病患者RR 0.89
(95%CI 0.87~0.92
非2型糖尿病患者HR 0.94
(95%CI 0.91~0.98
交互作用p=0.0013

4.2年の追跡期間(IQR 3.0~5.0)において、収縮期血圧を5mmHg低下させると、両群とも主要な心血管イベントのリスクが低下しましたが、2型糖尿病患者における相対的治療効果は、非2型糖尿病患者(HR 0.89 [95%CI 0.87~0.92)と比べて弱いことが示されました(HR 0.94 [95%CI 0.91~0.98]; 交互作用p=0.0013)。しかし、2型糖尿病の参加者では心血管リスクの絶対値が高いため、絶対的なリスク低減は2型糖尿病集団と非2型糖尿病集団の間で大きな差はありませんでした。

ベースラインの収縮期血圧による治療効果の異質性を示す信頼できる証拠は、いずれのグループでも見いだせませんでした。層別ネットワークメタ解析による解析でも、主要な知見と同様に、調査したどの薬効分類においても、2型糖尿病患者と非2型糖尿病患者の間で相対的な治療効果に大きな差があることを示すエビデンスは得られませんでした。

コメント

2型糖尿病や高血圧は心血管リスクが高く、脳卒中や心筋梗塞の発症予防のための血圧コントロールが求められます。診療ガイドラインでは2型糖尿病を合併している場合、血圧コントロールをより厳格に行うことが推奨されています(推奨の強さ 2、エビデンスの強さ B)。

縮期血圧の到達目標値
高血圧140mmHg
高血圧+2型糖尿病130mmHg

しかし、本推奨の根拠となった試験はJ-DOIT3のみであり、推奨できるほどのエビデンスはありません。

さて、本試験結果によれば、主要な心血管イベントに対する血圧降下の相対的な有益効果は、2型糖尿病患者においては、非2型糖尿病患者よりも弱いことが明らかとなりましたが、絶対的な効果は同等でした。つまり、2型糖尿病患者と非2型糖尿病患者で血圧の閾値、血圧降下の強さ、使用する薬物クラスに差を設けることは正当化されません。ただし、本試験の収縮期血圧値の平均は150mmHg前後であることから、より降圧した場合の影響については不明です。また組み入れられた研究は、1981年から2014年の間に発表されたものです。現在の環境とは異なる可能性が高いことから追試が求められます。

続報に期待。

a sphygmomanometer on white surface

☑まとめ☑ 主要な心血管イベントに対する血圧降下の相対的な有益効果は、2型糖尿病患者においては、非2型糖尿病患者よりも弱かったが、絶対的な効果は同等であった。

根拠となった試験の抄録

背景:2型糖尿病患者と非患者で血圧低下治療の閾値が異なるべきかどうかについては議論がある。我々は、2型糖尿病の状態、収縮期血圧のベースライン値別に、血圧低下治療が主要な心血管イベントのリスクに及ぼす影響を調査することを目的とした。

方法:Blood Pressure Lowering Treatment Trialists’ Collaborationのデータセットを用いて、主要なランダム化比較試験の1段階の個人参加者レベルのデータメタ解析を行った。ベースライン時に2型糖尿病の状態に関する情報を有する試験で、血圧低下薬とプラセボまたは他のクラスの血圧低下薬、あるいは集中的な血圧低下戦略と標準的な血圧低下戦略を比較し、各群で少なくとも1,000人・年以上の追跡を報告した試験を対象とした。心不全患者のみを対象とした試験や、短期間の治療、急性心筋梗塞などの急性期を対象とした試験は除外した。
主要アウトカムとして、致死的または非致死的な脳卒中または脳血管疾患,致死的または非致死的な虚血性心疾患、死亡または入院を必要とする心不全の初発と定義した主要心血管イベントの発生リスクに対する収縮期血圧5mmHg低下あたりの治療効果を表わした。試験ごとに層別化したCox比例ハザードモデルを用いて、ベースラインの2型糖尿病の状態別にハザード比(HR)を推定し、さらに収縮期血圧のベースラインのカテゴリー(120mmHg未満から170mmHg以上まで10mmHg刻み)別に層別化した。絶対的なリスク減少を推定するために、追跡期間にわたってポアソン回帰モデルを使用した。アンギオテンシン変換酵素阻害薬、アンギオテンシンII受容体拮抗薬、β遮断薬、カルシウム拮抗薬、サイアザイド系利尿薬を含む5つの主要な血圧低下薬クラスのそれぞれの効果は、ネットワークメタ解析という枠組みで推定された。本研究は、PROSPERO、CRD42018099283に登録されている。

所見:1981年から2014年に発表された、358,533例(男性 58%)が参加した51件のランダム化比較試験のデータを対象とし、そのうち103,325例(29%)はベースラインで2型糖尿病が判明していた。2型糖尿病患者および非2型糖尿病患者のベースライン平均収縮期/拡張期血圧は、それぞれ149/84mmHg(SD 19/11)および153/88mmHg(SD 21/12)であった。4.2年の追跡期間(IQR 3.0~5.0)において、収縮期血圧を5mmHg低下させると、両群とも主要な心血管イベントのリスクが低下したが、2型糖尿病患者における相対的治療効果は、2型糖尿病患者でない患者(HR 0.89 [95%CI 0.87~0.92)と比べて弱かった(HR 0.94 [95%CI 0.91~0.98]; 交互作用p=0.0013)。しかし、2型糖尿病の参加者では心血管リスクの絶対値が高いため、絶対的なリスク低減は2型糖尿病集団と非2型糖尿病集団の間で大きな差はなかった。ベースラインの収縮期血圧による治療効果の異質性を示す信頼できる証拠は、いずれのグループでも見いだせなかった。層別ネットワークメタ解析による解析でも、主要な知見と同様に、調査したどの薬効分類においても、2型糖尿病患者と非2型糖尿病患者の間で相対的な治療効果に大きな差があることを示すエビデンスは得られなかった。

解釈:主要な心血管イベントに対する血圧降下の相対的な有益効果は、2型糖尿病患者においては、非2型糖尿病患者よりも弱かったが、絶対的な効果は同等であった。相対的なリスク軽減の差は、ベースラインの血圧や異なる薬物クラスへの割り付けとは無関係であった。したがって、2型糖尿病患者と非患者で血圧の閾値、血圧降下の強さ、使用する薬物クラスに差を設けることは正当化されない。

資金提供:British Heart Foundation、UK National Institute for Health Research、Oxford Martin School

引用文献

Blood pressure-lowering treatment for prevention of major cardiovascular diseases in people with and without type 2 diabetes: an individual participant-level data meta-analysis
Milad Nazarzadeh et al. PMID: 35878651 DOI: 10.1016/S2213-8587(22)00172-3
Lancet Diabetes Endocrinol. 2022 Jul 22;S2213-8587(22)00172-3. doi: 10.1016/S2213-8587(22)00172-3. Online ahead of print.
— 続きを読む pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35878651/

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