軽度の虚血性脳卒中および一過性脳虚血発作患者におけるアスピリンベースのDAPTレジメンを比較すると?
クロピドグレル(プラビックス®️)とアスピリンによる二重抗血小板療法(DAPT)は、軽度の虚血性脳卒中や一過性脳虚血発作(TIA)後の脳卒中再発予防に有効であることが報告されています。クロピドグレルよりも新しい抗血小板薬であるチカグレロル(ブリリンタ®️)とアスピリンの使用に関するエビデンスも集積してきています。しかし、2つのDAPTレジメンを直接比較した試験報告は充分ではありません。
そこで今回は、急性軽症虚血性脳卒中またはTIA患者において、脳卒中再発または死亡の予防を目的として、チカグレロル+アスピリンをクロピドグレル+アスピリンと比較したネットワークメタ解析の結果をご紹介します。
試験結果から明らかになったことは?
合計4,014件の引用文献をスクリーニングし、5件のランダム化臨床試験が含まれました。クロピドグレルとアスピリン群5,517例、チカグレロルとアスピリン群5,859例、アスピリン群10,722例を含む22,098例のデータが分析されました。
クロピドグレル+アスピリン vs. アスピリン | チカグレロル+アスピリン vs. アスピリン | クロピドグレル+アスピリン vs. チカグレロル+アスピリン | |
脳卒中の再発と 死亡の予防 | HR 0.74 (95%CrI 0.65〜0.84) | HR 0.79 (95%CrI 0.68〜0.91) | HR 0.94 (95%CrI 0.78〜1.13) |
機能障害のリスク | HR 0.82 (95%CrI 0.74〜0.91) | – | HR 0.85 (95%CrI 0.75〜0.97) |
クロピドグレル+アスピリン(HR 0.74、95%CrI 0.65〜0.84) とチカグレロル+アスピリン(HR 0.79、95%CrI 0.68〜0.91) はともに脳卒中の再発と死亡の予防においてアスピリンより優れていました。クロピドグレル+アスピリンはチカグレロル+アスピリンに比べ、統計的に有意な差はなかった(HR 0.94、95%CrI 0.78〜1.13)。どちらのDAPTレジメンもアスピリン単独投与に比べ、大出血の発生率が高いことが示されました。
クロピドグレル+アスピリンは、アスピリン単独(HR 0.82、95%CrI 0.74〜0.91) およびチカグレロル+アスピリン(HR 0.85、95%CrI 0.75〜0.97)と比較して機能障害のリスク低下と関連していました。
コメント
急性軽症虚血性脳卒中またはTIA患者において、脳卒中の再発と死亡の予防のために抗血小板薬の二重併用療法が実施されています。基本的にはエビデンスが豊富かつ安価であるアスピリンがベースとなっています。
さて、本試験結果によれば、アスピリンとチカグレロルまたはクロピドグレルを併用したDAPTはアスピリン単独より優れていることが示されましたが、主要アウトカムに関してレジメン間に統計学的有意差はみられませんでした。ただし、クロピドグレルとアスピリン併用は、アスピリン単独およびチカグレロル+アスピリンと比較して機能障害のリスク低下と関連していることが示されています。
有効性・安全性、そして薬価から、クロピドグレルの使用が禁忌あるいは使用困難な患者において、まずはクロピドグレルとアスピリン併用療法を実施した方が良いと考えられます。
続報に期待。
✅まとめ✅ アスピリンとチカグレロルまたはクロピドグレルを併用したDAPTはアスピリン単独より優れていたが、主要アウトカムに関してレジメン間に統計学的有意差はみられなかった。
根拠となった試験の抄録
試験の重要性:クロピドグレルとアスピリンによる二重抗血小板療法(DAPT)は、軽度の虚血性脳卒中や一過性脳虚血発作(TIA)後の脳卒中再発予防に有効である。しかし、チカグレロルとアスピリンの使用に関するエビデンスも出てきており、2つのDAPTレジメンを直接比較したことはない。
目的:急性軽症虚血性脳卒中またはTIAの患者において、脳卒中再発または死亡の予防を目的として、チカグレロル+アスピリンをクロピドグレル+アスピリンと比較すること。
データソース:データベース開設から2021年2月までのMEDLINE、Embase、Cochrane
研究の選択:急性軽症虚血性脳卒中またはTIAの成人を登録し、症状発現から72時間以内に前述の介入を行い、最低30日間のフォローアップを行ったランダム化臨床試験を対象とした。
データの抽出と統合:ネットワークメタ解析のためのPRISMAガイドラインに従った。2名の査読者が独立してデータを抽出し、バイアスのリスクを評価した。固定効果モデルは、ネットワークメタ解析のベイジアンアプローチを使用して適合させた。群間比較は、95%信頼区間(95%CrI)を有するハザード比(HR)を用いて推定された。累積順位曲線下面図が作成された。
主要アウトカムと測定法:主要アウトカムは90日後までの脳卒中再発または死亡の複合とした。副次的アウトカムは大出血、死亡率、有害事象、機能障害など。感度分析は主要アウトカムに対して30日後に行った。
結果:合計4,014件の引用文献をスクリーニングし、5件のランダム化臨床試験が含まれた。クロピドグレルとアスピリン群5,517例、チカグレロルとアスピリン群5,859例、アスピリン群10,722例を含む22,098例のデータが分析された。
クロピドグレル+アスピリン(HR 0.74、95%CrI 0.65〜0.84) とチカグレロル+アスピリン(HR 0.79、95%CrI 0.68〜0.91) はともに脳卒中の再発と死亡の予防においてアスピリンより優れていた。クロピドグレル+アスピリンはチカグレロル+アスピリンに比べ、統計的に有意な差はなかった(HR 0.94、95%CrI 0.78〜1.13)。どちらのDAPTレジメンもアスピリン単独投与に比べ、大出血の発生率は高かった。クロピドグレル+アスピリンは、アスピリン単独(HR 0.82、95%CrI 0.74〜0.91) およびチカグレロル+アスピリン(HR 0.85、95%CrI 0.75〜0.97) と比較して機能障害のリスク低下と関連していた。
結論と関連性:アスピリンとチカグレロルまたはクロピドグレルを併用したDAPTはアスピリン単独より優れていたが、主要アウトカムに関してレジメン間に統計学的有意差はみられなかった。
引用文献
Comparison of Ticagrelor vs Clopidogrel in Addition to Aspirin in Patients With Minor Ischemic Stroke and Transient Ischemic Attack: A Network Meta-analysis
Ronda Lun et al. PMID: 34870698 PMCID: PMC8649906 (available on 2022-12-06) DOI: 10.1001/jamaneurol.2021.4514
JAMA Neurol. 2021 Dec 6;e214514. doi: 10.1001/jamaneurol.2021.4514. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34870698/
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