抗凝固療法の中止や再開はどのように行えば良いのか?
抗凝固療法は血栓塞栓症の治療・予防のために使用されています。抗凝固療法のなかでも直接経口抗凝固薬(DOAC, OAC)は、従来使用されてきたビタミンK拮抗薬(VKA)よりも使用量が増えています。VKAであるワルファリンの管理については、プロトロンビン時間-国際標準比(PT-INR)2.0〜3.0を指標に、治療と出血の管理を行うのが一般的です。一方、DOACについては、確立されたモニタリング方法はありません。
米国心臓病学会(American College of Cardiology, ACC)は、心血管(CV)治療に関連する臨床的および非臨床的な話題について会員にガイダンスを提供するための文書(例えば、決定方法、医療政策声明、適切な使用基準)を作成してきました。
そこで今回は、出血の評価と管理、DOACの中止や再開について、2020年に公表されたACCの指針をご紹介します。
出血の評価・管理、DOACの中止・再開についての指針
出血部位 | 詳細 |
頭蓋内出血 (intracranial hemorrhage, ICH) | 頭頂葉内出血、硬膜下出血、硬膜外出血、くも膜下出血を含む |
その他の中枢神経系出血 | 眼内出血、軸内出血、軸外出血を含む |
心タンポナーデ | – |
気道 | 後鼻部を含む |
血胸、腹腔内出血、後腹膜出血 | |
四肢の出血 | 筋肉内出血、関節内出血を含む |
追加情報:モニタリング指標について
いずれも開発中、検証中の指標ではありますが、OACのモニタリング指標について報告がありましたのでまとめておきます。
ダビガトラン
標的因子:トロンビン
可能性の高いモニタリング指標:aPTT(活性化部分トロンボプラスチン時間)
aPTTは、出血している患者では過度の抗凝固作用を判断する目安となる可能性がある。日本人を含む第III相国際共同試験においては、トラフ時aPTTが80秒を超える場合は大出血が多かった(プラザキサ®️添付文書より)。
aPTTの課題:施設ごとに値が異なる可能性が高いです。また採血時間により、ピークあるいはトラフで評価する必要があるようです。
アピキサバン、エドキサバン、リバーロキサバン
標的因子:第Xa因子
可能性の高いモニタリング指標:該当なし
PT-INRは本剤の抗凝固作用について標準化された指標でなく、aPTT等の凝固能検査は、本剤の抗凝固作用をモニタリングする指標として推奨されない(イグザレルト®️、エリキュース®️添付文書より)。
海外の報告(PMID: 23216682)において、リバーロキサバンではプロトロンビン時間(PT)が有用な可能性、アピキサバンでは変更PT時間が有用な可能性が報告されています。また第Xa因子を標的としている抗凝固薬においては、抗第X因子活性アッセイが有用であることも報告されています。
引用文献
2020 ACC Expert Consensus Decision Pathway on Management of Bleeding in Patients on Oral Anticoagulants: A Report of the American College of Cardiology Solution Set Oversight Committee
Gordon F Tomaselli et al. PMID: 32680646 DOI: 10.1016/j.jacc.2020.04.053
J Am Coll Cardiol. 2020 Aug 4;76(5):594-622. doi: 10.1016/j.jacc.2020.04.053. Epub 2020 Jul 14.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32680646/
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