COVID-19 ICU患者に対する中間用量と標準用量の予防的抗凝固療法の効果は?(INSPIRATION試験の90日後の結果; Thromb Haemost. 2021)

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COVID-19での血栓塞栓症に対するエノキサパリンの効果は?

COVID-19患者において、血栓塞栓症のリスク増加が報告されています。これはサイトカインストームと呼ばれる免疫の異常反応により引き起こされていると考えられています。

サイトカインストーム発生の機序としては、次のように考えられています;
ウイルスや細菌感染のみならず外傷により引き起こされる肺の損傷はACE2-AngII-AT1Rシグナルを活性化するとともに、自然免疫系を活性化し、その結果としてTNFα/IL-1β-NF-kBとIL-6-STAT3が相乗的に働きIL-6 アンプ活性化を介して制御されないサイトカイン産生を誘導してサイトカインストームに至ると考えられています。

これまでの報告を踏まえると、抗凝固薬の投与によりCOVID-19の血栓イベントや重症化リスク、死亡リスクの抑制が期待できます。しかし、最適な抗凝固薬の用量については不明でした。そこで実施されたのがINSPIRSTION試験(PMID: 33734299)です。中間解析の結果では、30日死亡率などについて、エノキサパアリンの用量による差は認められませんでした。また大出血について、中間用量群は、標準用量群と比較して非劣性を示せませんでした。

今回は、INSPIRATION試験の最終結果(90日後)をご紹介します。

試験結果から明らかになったことは?

ランダム化された600例のうち、562例が修正intention-to-treat解析の対象となり(年齢中央値[Q1,Q3]:62[50,71]歳、女性 237例[42.2%])、そのうち336例(59.8%)が退院まで生存しました。

主要評価項目(静脈または動脈血栓症、体外式膜酸素供給ECMOによる治療、または全死亡の複合)が発生したのは、エノキサパリン中間用量の予防的抗凝固療法に割り付けられた132例(47.8%)と標準用量の予防的抗凝固療法に割り付けられた130例(45.4%)でした。
★ハザード比[HR] 1.21、95%信頼区間[CI] 0.95~1.55、p=0.11

その他の有効性についても同様の結果が得られ、31日目から90日目までのランドマーク解析でも同様の結果が得られました。
★HR 1.59、95%CI 0.45〜5.06

大出血イベントは、中間用量群で7件(2.5%)(うち3件は致死的)、標準用量群で4件(1.4%)(うち1件は致死的)でした。
HR 1.82、95%CI 0.53〜6.24

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INSPIRATION試験の90日フォローアップの結果が公表されました。結果としては、予防的抗凝固療法の中間用量は、標準用量と比較して死亡、ECMOによる治療、静脈または動脈血栓症の複合項目を減少させられませんでした。また大出血イベントについても差が認められませんでした。とはいえ、いずれも区間推定値は増加傾向です。特に大出血イベントが減少するわけではないことから、エノキサパリンを予防投与する際には、標準用量を用いた方が良いと考えられます。

そもそもプラセボ対照試験ではないことから、抗凝固薬の予防的投与により、死亡、ECMOによる治療、静脈または動脈血栓症のリスク低下が認められるのかについては不明です。

過去の報告では、抗凝固薬の予防的投与と比較して、治療的投与の方が安全であることが示されています。今後の研究結果に期待。

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✅まとめ✅ エノキサパリン標準用量の予防的抗凝固療法に比べて、中間用量の予防的抗凝固療法は、90日後のフォローアップにおいて、死亡、ECMOによる治療、静脈または動脈血栓症の複合項目を減少させなかった

根拠となった試験の抄録

背景:コロナウイルス感染症2019(COVID-19)の主な肺外症状の一つに血栓性合併症が考えられている。これらの患者における予防的な抗血栓療法の最適な種類と期間はまだ不明である。

方法:本論文は、Intermediate versus Standard-dose Prophylactic anticoagulation In cRitically-ill pATIents with COVID-19(INSPIRATION)の90日の最終結果を報告するものである。
集中治療室に入院したCOVID-19患者を、退院の状況にかかわらず、30日間、予防的抗凝固療法を行うために、中用量と標準用量にランダム割り付けした。
有効性の主要評価項目は、静脈または動脈血栓症、体外式膜酸素供給(ECMO)による治療、または全死亡の複合とした。安全性の主要評価項目は大出血でした。

結果:ランダム化された600例のうち、562例が修正intention-to-treat解析の対象となり(年齢中央値[Q1,Q3]:62[50,71]歳、女性 237例[42.2%])、そのうち336例(59.8%)が退院まで生存した。
主要評価項目が発生したのは、中間用量の予防的抗凝固療法に割り付けられた132例(47.8%)と標準用量の予防的抗凝固療法に割り付けられた130例(45.4%)であった(ハザード比[HR] 1.21、95%信頼区間[CI] 0.95~1.55、p=0.11)。その他の有効性についても同様の結果が得られ、31日目から90日目までのランドマーク解析でも同様の結果が得られた(HR 1.59、95%CI 0.45〜5.06)。
大出血イベントは、中間用量群で7件(2.5%)(うち3件は致死的)、標準用量群で4件(1.4%)(うち1件は致死的)であった(HR 1.82、95%CI 0.53〜6.24)。

結論:標準用量の予防的抗凝固療法に比べて中間用量の予防的抗凝固療法は、90日後のフォローアップにおいて、死亡、ECMOによる治療、静脈または動脈血栓症の複合項目を減少させなかった。

引用文献

Intermediate-Dose versus Standard-Dose Prophylactic Anticoagulation in Patients with COVID-19 Admitted to the Intensive Care Unit: 90-Day Results from the INSPIRATION Randomized Trial
Behnood Bikdeli et al. PMID: 33865239 DOI: 10.1055/a-1485-2372
Thromb Haemost. 2021 Apr 17. doi: 10.1055/a-1485-2372. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33865239/

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