新型コロナウイルス感染症に対する3つ目の治療薬が承認された
厚生労働省の部会は2021年4月21日、関節リウマチ薬として承認されている「バリシチニブ(オルミエント®️)」を、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療薬として使用することを了承しました。
COVID-19に対するJAK阻害薬であるバリシチニブの有効性と安全性はどの程度なのでしょうか。
そこで今回は、海外で実施されたACTT-2試験の結果をご紹介します。
試験結果から明らかになったことは?
合計1,033例の患者がランダム化を受け、515例が併用療法に、518例が対照に割り当てられました。
回復までの期間:併用療法群 7日(95%信頼区間[CI] 6~8) vs. 対照群 8日(95%CI 7~9)
回復率比 1.16、95%CI 1.01~1.32;P=0.03
15日目の臨床状態が改善するオッズ比 1.3、95%CI 1.0~1.6
登録時に高流量酸素または非侵襲的人工呼吸を受けていた患者の回復までの期間:
併用療法 10日 vs. 対照群 18日
回復率比 1.51、95%CI 1.10~2.08
28日後の死亡率:併用療法群 5.1% vs. 対照群 7.8%
死亡のハザード比 0.65、95%CI 0.39~1.09
重篤な有害事象の発生頻度は、併用群が対照群よりも低く(16.0% vs. 21.0%;差 -5.0%ポイント;95%CI -9.8 ~ -0.3;P=0.03)、新規感染症の発生頻度も低いことが明らかとなりました(5.9% vs. 11.2%;差 -5.3%ポイント;95%CI -8.7 ~ -1.9;P=0.003)。
コメント
主要評価項目である回復までの期間は、バリシチニブ+レムデシビル併用群で7日、プラセボ+レムデシビル群で8日でした。有意差はありますが、絶対差は1日であり、有益性は低いと考えられます。
一方、登録時に高流量酸素または非侵襲的人工呼吸を受けていた患者においては、バリシチニブ+レムデシビル併用群で10日、vs. プラセボ+レムデシビル群で18日でした。あくまでも副次評価項目ですが、絶対差は8日であり、さらに死亡リスクも有意に低下していました。
28日後の死亡率の絶対差:2.7%(NNT 38)
死亡のハザード比 0.65、95%CI 0.39~1.09
やや過度に期待されている感が否めませんが、COVID-19に対する治療薬が少ないこと、重篤な有害事象や新規感染症の発生頻度はバリシチニブ+レムデシビル併用群で少ないことから、レムデシビル単独よりもリスクベネフィットに優れていると考えられます。ただし追試は必須であると考えます。続報に期待。
✅まとめ✅ バリシチニブとレムデシビルの併用は、COVID-19患者、特に高流量酸素または非侵襲的人工呼吸を受けている患者の回復時間を短縮し、臨床状態の改善を促進する上で、レムデシビル単独よりも優れていた。
根拠となった論文の抄録
背景:重症コロナウイルス感染症2019(COVID-19)は、炎症の制御不全と関連している。ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害剤であるバリシチニブとレムデシビルの併用療法の効果は知られていない。
方法:成人のCOVID-19入院患者を対象に、バリシチニブとレムデシビルの併用を評価する二重盲検ランダム化プラセボ対照試験を実施した。すべての患者に、レムデシビル(10日間以下)と、バリシチニブ(14日間以下)またはプラセボ(対照)を投与した。
主要評価項目は、回復までの期間であった。主要な副次評価項目は、15日目の臨床状態であった。
結果:合計1,033例の患者がランダム化を受けた(515例が併用療法に、518例が対照に割り当てられた)。
バリシチニブを投与された患者の回復までの期間(中央値)は7日(95%信頼区間[CI] 6~8)であり、対照群の8日(95%CI 7~9)と比較して(回復率比 1.16;95%CI 1.01~1.32;P=0.03)、15日目の臨床状態が改善するオッズが30%高かった(オッズ比 1.3;95%CI 1.0~1.6)。
登録時に高流量酸素または非侵襲的人工呼吸を受けていた患者の回復までの期間は、併用療法では10日、対照療法では18日であった(回復率比 1.51;95%CI 1.10~2.08)。
28日後の死亡率は、併用療法群で5.1%、対照群で7.8%であった(死亡のハザード比 0.65;95%CI 0.39~1.09)。
重篤な有害事象の発生頻度は、併用群が対照群よりも低く(16.0% vs. 21.0%;差 -5.0%ポイント;95%CI -9.8 ~ -0.3;P=0.03)、新規感染症の発生頻度も低かった(5.9% vs. 11.2%;差 -5.3%ポイント;95%CI -8.7 ~ -1.9;P=0.003)。
結論:バリシチニブとレムデシビルの併用は、COVID-19患者、特に高流量酸素または非侵襲的人工呼吸を受けている患者の回復時間を短縮し、臨床状態の改善を促進する上で、レムデシビル単独よりも優れていた。また、この併用療法では、重篤な有害事象が少なかった(資金提供:米国国立アレルギー・感染症研究所、ClinicalTrials.gov番号:NCT04401579)。
引用文献
Baricitinib plus Remdesivir for Hospitalized Adults with Covid-19
Andre C Kalil et al. PMID: 33306283 PMCID: PMC7745180 DOI: 10.1056/NEJMoa2031994
N Engl J Med. 2021 Mar 4;384(9):795-807. doi: 10.1056/NEJMoa2031994. Epub 2020 Dec 11.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33306283/
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