試験の概要
PICOTSL
- P:スタチンの服用中止を検討または過去3年間に筋肉症状のためにスタチン服用を中止した患者
- I :アトルバスタチン(20mg)
- C:プラセボ
- O:自己申告による筋症状(痛み、脱力感、圧痛、硬直、痙攣のいずれかの強さ)
各治療期間の最後の7日間、有効な視覚的アナログスケール(0~10、スコア0=症状なし、
5=中程度の症状、10=最悪の症状)を用いて毎日測定 - T:ランダム化、二重盲検、並行群間比較N-of-1試験(治療期間2ヵ月を6回、各3回実施)
- S:イングランドとウェールズの一般診療所50施設、試験期間:2016年12月〜2018年4月、
追跡期間1年 - L:アトルバスタチン20mg以外のスタチン及び用量には外挿性が低い
選択基準
主要組入基準
- あらゆる種類のスタチンをあらゆる用量で服用
- スタチンの服用中止を検討している患者(診察中に症状を訴えた際に日和見的に募集)または過去3年間に筋肉症状のためにスタチンの服用を中止した患者(医療記録を検索して適格な患者を特定し、手紙でスクリーニング訪問に招待した)
主要除外基準
- 血清アラニンアミノトランスフェラーゼ値が正常値上限の3倍以上
- 全身の原因不明かつ持続的な筋肉痛がある患者(スタチン使用との関連性の有無は問わない)
- クレアチンキナーゼ値が正常値上限の5倍以上
- アトルバスタチン20mgが禁忌
- 一般開業医が本試験への参加に適さないと判断した患者
批判的吟味
- 盲検化されているか?
→⭕️ 少なくとも二重盲検(患者、医師)である。測定者、データ分析者の盲検についてMethodsには記載がない。 - ランダム割り付けされているか?
→⭕️ されている。 - 割り付けは隠蔽化(コンシールメント)されているか?
→⭕️ StatinWISE試験管理チームおよび一般開業医の外科スタッフに対して隠蔽化されていた。 - 患者背景に群間差はあったか?
→不明:試験終了後の患者データがないため(N-of-1試験であることから意義は低いかもしれない)。試験参加者は平均年齢 69.1歳(標準偏差9.5)、115/200例(58%)は男性、140/200例(70%)は心血管疾患の既往歴を有していた。総コレステロール濃度の中央値は5.3mmol/L(205.11 mg/dL)。 - ITT解析か?結果を覆すほどの脱落があるのか?
→🔺 主要解析には200例のうち151例が組み入れられた。参加者の86/200例(43%)は試験全体を完了しなかった(死亡2例、追跡調査不能4例、試験辞退80例)。ただし、脱落率は当初の見積もり通り。 - 症例数は充分か?
→⭕️ I型誤差を5%と仮定し、40%の参加者の追跡調査不能を考慮して、視覚的アナログスケール(VAS)で少なくとも1単位の治療効果を検出するための約90%の検出力を得るために、参加者200例の募集を計画した。
結果は?
主要解析対象となった参加者151例は、スタチン投与期間392回で症状スコアが2638回、プラセボ投与期間383回で症状スコア2576回を測定しました。
参加者1人当たりの平均スコア数は34.5点(範囲8~42点)であり、第1期では、82%(164/200例)の被験者が、視覚的アナログスケール(VAS)で筋肉症状を毎日1回以上報告しましたが、第2期では75%(149/200例)、第3期では58%(115/200例)に減少しました。
主要評価項目
VASによる筋肉症状の平均スコアにおいて、スタチン投与期間はプラセボ投与期間よりも低いことが明らかになりました(下表)。
スタチン投与期間 | プラセボ投与期間 | |
VASによる筋肉症状の平均スコア (標準偏差, SD) | 1.68 (2.57) | 1.85 (2.74) |
さらに、スタチン投与期間とプラセボ投与期間では、筋肉症状スコアの平均値に差は認められませんでした。
☆平均差(スタチン-プラセボ): -0.11(95%CI -0.36~0.14)、P=0.40
副次評価項目
スタチン投与期間、プラセボ投与期間に1回以上の二次アウトカム測定を行った参加者152例において、筋肉症状全体)、または他の原因に起因しない筋肉症状に対するスタチンの影響は認められませんでした。
例数(%) | 例数(%) | オッズ比(99%CI) | |
スタチン投与期間 | プラセボ投与期間 | ||
筋肉症状 | 248/397(62.5) | 239/388(61.6) | 1.11(0.62〜1.99) |
他の原因に起因しない筋肉症状 | 216/397(54.4) | 200/388(51.6) | 1.22(0.77〜1.94) |
その他の副次評価項目(一般的な活動、気分、歩行能力、通常の仕事、他人との関係、睡眠、生活の楽しみ)について、VASで測定した症状スコアは、スタチン投与期間とプラセボ投与期間の間で差は認められませんでした。
症状の発生部位は、筋肉症状の報告が97.6%(481/493例)で、そのうち64.9%(312/481例)が下肢でした。
スタチン継続使用に関する参加者の意思決定
治療期間6回を完了した参加者114例のうち、113例(ランダム化された200例のうち57%)が試験終了時のディスカッションで結果を受け取りました(1例は結果を受け取らなかった)。
この参加者113例のうち、99例(88%)が試験は有益であったと答え、74例(66%)がすでにスタチンの服用を再開、または再開するつもりであると回答しました。
113例のうち、17例(15%)は、スタチン投与期間中の筋肉症状の平均スコアがプラセボ投与期間中よりも1ユニット以上高く、スタチンが筋肉症状の原因になっている可能性が示されました。この17例のうち、9例(53%)がスタチン投与を再開する予定であると回答しました。スタチンが筋肉症状に関与している可能性は低いと説明を受けた残りの96例のうち、65例(68%)がスタチン治療を再開する予定であると回答しました。
試験からの脱落
脱落者80例のうち、34例(43%)がスタチン投与期間中に、39例(49%)がプラセボ投与期間中に、そして7例(9%)がランダム化後、試験薬の服用前に発生しました。全体として、筋肉症状を理由に脱落した参加者は少なかったようです。
スタチン投与期間では、不耐応の症状のために18例(9%)、プラセボ投与期間では13例(7%)が試験を中止しました。
試験開始前に脱落しなかった193例のうち、多項式モデルにおいて、スタチン投与期間中に脱落する確率は、プラセボ投与期間中と差がないことが示されました。
☆試験全体の脱落(vs. プラセボ):リスク比 0.87、95%CI 0.55〜1.38、P=0.56
☆不耐応の筋肉症状による脱落(vs. プラセボ):1.38、0.66〜2.83、P=0.56
アドヒアランス
参加者から報告されたアドヒアランスは、返却された薬物治療パックに残っている錠剤の数を確認することで確認しています。各期間において参加者の80%以上が治療薬を「毎日」または「ほとんど毎日」服用したと報告されました。
有害事象
試験期間中、重篤な有害事象13件のが記録されましたが、いずれも試験薬治療に起因するものとは考えられませんでした。致死的な事象が2件(スタチン投与期間に1件、投与終了後に1件)、非致死的な事象が11件(スタチン投与期間に5件、プラセボ投与期間に6件)認められました。
✅まとめ✅ スタチン服用時に重度の筋肉症状を報告したことのある参加者において、アトルバスタチン20mgは、プラセボと比較して、重度ではない筋肉症状の発生に差は認められなかった
根拠となった論文の抄録
BMJ. 2021 Feb 24;372:n135. doi: 10.1136/bmj.n135.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33627334/
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