DOAC間で院内死亡率に差はあるのか?
静脈血栓塞栓症(VTE)に対する直接経口抗凝固薬(DOAC)の選択は医師の裁量によります。しかし、DOACの臨床データの特徴や差を知ることは、医師の選択の参考になります(他の薬剤との相互作用や適応症については、別の記事でまとめてありますので、そちらをご参照ください)。しかし、実臨床における院内死亡率においてDOAC間で差があるのかは明らかにされていません。
そこで今回は臨床現場におけるリバーロキサバン、エドキサバン、アピキサバンの使用に伴う死亡率を比較することを目的とした日本のコホート研究の結果をご紹介します。
日本心臓血管データベース(JROAD-DPC)のDiagnosis Procedure CombinationデータベースからVTEで初回入院した患者38,245例が同定されました。本試験では、患者をDOAC別に3群(リバーロキサバンとエドキサバン群、リバーロキサバンとアピキサバン群、エドキサバンとアピキサバン群)に分類し、各群の傾向スコア(PS)マッチングにより院内死亡率および出血リスクを比較検討しました。
【高齢心房細動患者の経口抗凝固薬による急性腎障害のリスクはVKAとDOACで異なりますか?(人口ベースコホート研究; Clin J Am Soc Nephrol. 2021)】
【DOACとの薬物-薬物相互作用においてベッドサイドで簡単に実施できる推奨事項とは?(※校正前版; AJM2021)】
試験結果から明らかになったことは?
リバーロキサバン vs. アピキサバン | |
総院内死亡率 | 1.2% vs. 2.1% オッズ比[OR]0.55、p=0.012 |
21日以内の院内死亡率 | 0.4% vs. 1.0% OR 0.41、p=0.020 |
28日以内の院内死亡率 | 0.7% vs. 1.3% OR 0.53、p=0.042 |
PSマッチング後、リバーロキサバン使用患者はアピキサバン使用患者に比べ、院内総死亡率(1.2% vs. 2.1%、オッズ比[OR]0.55、p=0.012)、21日以内の院内死亡率(0.4% vs. 1.0%、OR 0.41、p=0.020)、28日以内の院内死亡率(0.7% vs. 1.3%、OR 0.53、p=0.042)が有意に低いとされました。
サブ解析では、80歳未満の患者、肺塞栓症の患者、心不全のない患者においてのみ、有意差が認められました。
その他の群では院内死亡率、出血イベントの発生率に3群間で有意差は認められませんでした。
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日本のデータベース(JROAD-DPC)を用いた傾向スコアマッチコホート研究において、DOAC別に3群(リバーロキサバンとエドキサバン群、リバーロキサバンとアピキサバン群、エドキサバンとアピキサバン群)の比較が実施されました。この3群のうち、リバーロキサバンとアピキサバンの比較においてのみ差が認められました。したがって、両薬剤とエドキサバンに差はなさそうです。
さて、試験結果によれば、アピキサバンと比較して、リバーロキサバン使用により、院内死亡リスクの低下が認められました。ただし、死亡リスクの高い患者においてアピキサバンが使用されていた可能性もあり、未知の交絡因子が残存している可能性が高いです。試験デザインから、患者背景については概ね調整されていると推測されますが、併用薬や腎機能(CcrあるいはeGFR)について、より詳細な情報を得たいところです。
本試験は、日本における院内死亡リスクとDOAC間の差を検証した点において貴重な結果であると考えられますが、本試験結果からのみでは結論づけられません。日本におけるエビデンス集積が待たれます。
今後の試験結果に期待。
✅まとめ✅ 日本のPSマッチコホート研究において、リバーロキサバンはアピキサバンよりも院内死亡リスクが低いかもしれない。
根拠となった試験の抄録
背景:静脈血栓塞栓症(VTE)に対する直接経口抗凝固薬(DOAC)の選択は医師の裁量による。しかし、DOACの臨床データの違いを知ることは、医師の選択の参考になる。
目的:臨床現場におけるリバーロキサバン、エドキサバン、アピキサバンの使用に伴う死亡率を比較することを目的とした。
方法:日本心臓血管データベース(JROAD-DPC)のDiagnosis Procedure CombinationデータベースからVTEで初回入院した患者38,245例を同定した。患者をDOAC別に3群(リバーロキサバンとエドキサバン群、リバーロキサバンとアピキサバン群、エドキサバンとアピキサバン群)に分類し、各群の傾向スコア(PS)マッチングにより院内死亡率および出血リスクを比較検討した。
結果:PSマッチング後、リバーロキサバン使用患者はアピキサバン使用患者に比べ、院内総死亡率(1.2% vs. 2.1%、オッズ比[OR]0.55、p=0.012)、21日以内の院内死亡率(0.4% vs. 1.0%、OR 0.41、p=0.020)、28日以内の院内死亡率(0.7% vs. 1.3%、OR 0.53、p=0.042)は有意に低いとされた。サブ解析では、80歳未満の患者、肺塞栓症の患者、心不全のない患者においてのみ、有意差が認められた。その他の群では院内死亡率、出血イベントの発生率に3群間で有意差は認められなかった。
結論:PSマッチング解析では、特にリバーロキサバン群、アピキサバン群で院内死亡率に差が認められた。各DOACに関連する患者の臨床的特徴や予後を明らかにすることは、VTEの治療戦略を決定する上で有用であろう。
引用文献
Comparison of Direct Oral Anticoagulants for Acute Hospital Mortality in Venous Thromboembolism
Yuichiro Okushi et al. PMID: 34927214 DOI: 10.1007/s40256-021-00514-5
Am J Cardiovasc Drugs. 2021 Dec 20. doi: 10.1007/s40256-021-00514-5. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34927214/
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