向精神薬の投与回数で有効性や安全性に差はあるのか?
精神疾患に対する向精神薬は、多種類を併用するケースが多く、これは薬剤の半減期によります。向精神薬の中でもベンゾジアゼピン系薬の処方数は多く、やや古い報告ではありますが、日本人成人のうち20人に1人が服用していることが示されています(Reports published by the International Narcotics Control Board in 2010)。
抗うつ薬は用法として分割投与、2〜3回、1〜3回、1回投与の薬剤があり、患者の状態に合わせて用法を決定しています。しかし、服用回数による薬剤の有効性・安全性については充分に検討されていません。
そこで今回は、向精神薬の1日1回投与と1日複数回投与による有効性・安全性を比較したメタ解析の効果をご紹介します。
試験結果から明らかになったことは?
患者 3,142例を対象とした研究 32件(34件のペア比較)が適格基準を満たし、メタ分析の対象となりました。内訳として、抗うつ薬(22件)、抗精神病薬(7件)、ベンゾジアゼピン系薬剤(2件)、気分安定薬(2件)、抗うつ薬とベンゾジアゼピン系薬剤の併用(1件)などがあり、さまざまな種類の向精神薬が検討されました。
その結果、全原因による試験中止(30比較、N=2,883、リスク比[RR]=1.01、95%CI 0.94~1.09、P=0.77)、有効性の欠如(22比較、N=2,307、RR=1.06、95%CI 0.84~1.33、P=0.62)、または有害事象(25件の比較、N=2,571、RR=0.93、95%CI=0.75~1.14、P=0.47)がSingle-DD群とMultiple-DD群の間で認められた。精神病理の変化(8比較、N=1,337、標準化平均差=0.00、95%CI -0.11~0.11、P=0.99)については、2群間で有意な差は認められませんでした。また、これらの結果は、向精神薬の種類を問わずに認められました。
Single-DD群のリスク比(RR) (vs.Multiple-DD群 | |
全原因による試験中止 | RR 1.01、95%CI 0.94~1.09 (P=0.77) |
有効性の欠如 | RR 1.06、95%CI 0.84~1.33 (P=0.62) |
有害事象 | RR 0.93、95%CI=0.75~1.14 (P=0.47) |
精神病理の変化 | 標準化平均差=0.00、95%CI -0.11~0.11 (P=0.99) |
一方、TEAEに関しては、不安(4比較、N=347、RR 0.53、95%CI 0.33〜0.84、P=0.007)と眠気(3比較、N=934、RR 0.82、95%CI 0.68〜0.99、P=0.04)において、Single-DD群で有意な低下が認められました。
コメント
向精神薬については、服用回数が3〜4と多い”印象”です。これは薬剤の半減期にもよりますが、1日を通して精神状態、気持ちをある程度一定に保つために、血中濃度を維持させる必要があるためです。しかし実際には、飲み忘れたり、服用回数を誤ったりすることがあります。服用回数が少ない方が、これらのリスクを低減できる可能性が高いと考えられます。
さて、今回の試験結果によれば、1日1回の投与は、1日複数回の投与と比較して、全原因による試験中止、有効性の欠如、有害事象、精神病理の変化に差は認められませんでした。これらの結果は、向精神薬の種類を問わずに認められたようです。一方、副作用について、不安と眠気については、1日1回投与でリスクの減少が認められています。非常に貴重な結果であると考えます。薬剤の種類(半減期)によらないところが不思議です。
試験の内的妥当性として、リスクオブバイアス(RoB)テーブルで、質の低い試験が3〜7件含まれているのが気になります。しかし、異質性は低いため、これらの試験を除いても結果は変わらないかもしれません。
✅まとめ✅ 精神疾患患者における向精神薬の1日1回投与は、複数回投与と比較して、全原因による試験中止、有効性の欠如、有害事象、精神病理の変化に差は認められず、不安や眠気といった有害事象を減らせるかもしれない。
根拠となった試験の抄録
目的:向精神薬の1日1回投与(Single-DD)と1日複数回投与(Multiple-DD)のレジメンの有効性と安全性を比較するために、システマティックレビューとメタアナリシスを行った。
データソース:投与法や向精神薬に関連するキーワードでMEDLINEおよびEmbaseの系統的な文献検索を行った(最終検索:2019年12月30日)。
研究の選択:精神疾患患者を対象に、同じ向精神薬の同剤形のSingle-DDとMultiple-DDの臨床アウトカムを比較したランダム化比較試験を対象とした。
データの抽出:試験の中止、精神病理、治療上の有害事象(TEAE)に関するデータを抽出した。
結果:患者 3,142例を対象とした研究 32件(34件のペア比較)が適格基準を満たし、メタ分析の対象となった。抗うつ薬(22件)、抗精神病薬(7件)、ベンゾジアゼピン系薬剤(2件)、気分安定薬(2件)、抗うつ薬とベンゾジアゼピン系薬剤の併用(1件)など、さまざまな種類の向精神薬が検討された。
全原因による試験中止(30比較、N=2,883、リスク比[RR]=1.01、95%CI 0.94~1.09、P=0.77)、有効性の欠如(22比較、N=2,307、RR=1.06、95%CI 0.84~1.33、P=0.62)、または有害事象(25件の比較、N=2,571、RR=0.93、95%CI=0.75~1.14、P=0.47)がSingle-DD群とMultiple-DD群の間で有意差は認められなかった。
精神病理の変化(8比較、N=1,337、標準化平均差=0.00、95%CI -0.11~0.11、P=0.99)については、2群間で有意な差は認められなかった。また、これらの結果は、向精神薬の種類を問わずに当てはまった。
一方、TEAEに関しては、不安(4比較、N=347、RR=0.53、95%CI 0.33〜0.84、P=0.007)と眠気(3比較、N=934、RR=0.82、95%CI 0.68〜0.99、P=0.04)において、Single-DD群に有意な差があった。
結論:今回の結果は、一般的な精神疾患患者において、向精神薬の種類にかかわらず1日1回を臨床的に採用できることを示唆するものであった。
引用文献
Single Versus Multiple Daily Dosing Regimens of Psychotropic Drugs for Psychiatric Disorders: A Systematic Review and Meta-Analysis – PubMed
Yuhei Kikuchi et al. PMID: 33988935 DOI: 10.4088/JCP.20r13503
J Clin Psychiatry. 2021 Feb 23;82(2):20r13503. doi: 10.4088/JCP.20r13503.
— 続きを読む pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33988935/
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