症候性および無症候性のCOVID-19入院妊婦の発生率、特徴、転帰について(英国の人口ベース前向きコホート研究; UKOSS試験; PLoS One. 2021)

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COVID-19で入院した妊婦における発生率、特徴、転帰について症候性と無症候性で違いはあるのか?

2020年3月、世界保健機関は新型コロナウイルス感染症(SARS-CoV-2)の世界的パンデミックを宣言しました。妊娠中の女性とその児におけるSARS-CoV-2感染の危険因子、発生率、影響に関するエビデンスは急速に拡大しており、ガイダンスや政策を計画する上で欠かせないものとなっています。

世界保健機関(WHO)によるliving システマティックレビューでは、SARS-CoV-2感染は、女性にとって集中治療室への入室リスクの増加、乳児にとっては早産および新生児治療室への入室リスクの増加と関連すると結論づけています(PMID: 32873575)。医学的合併症の既往を有する女性、高齢、高BMI(body mass index)、黒人・アジア人・少数民族の女性は、入院や重篤な転帰のリスクが高いと報告されています。しかし、これまでに行われた研究の大半は、症例報告、ケースシリーズ、施設や登録機関での非集団ベースのコホート研究であり、正確な発生率や、特徴や転帰を偏りなく説明するための集団レベルのデータが不足しています。

そこで今回は、英国で入院した症候性および無症候性のSARS-CoV-2感染妊婦の発生率、特徴、転帰を、SARS-CoV-2感染していない妊婦と比較した前向きコホート研究の結果をご紹介します。

試験結果から明らかになったことは?

全体で1,148例の入院女性が妊娠中にSARS-CoV-2が確認され、そのうち63%が症状を呈していました。

症状のあるSARS-CoV-2による入院の推定発生率は、1,000産婦あたり2.0(95%CI 1.9~2.2)、無症状のSARS-CoV-2は1,000産婦あたり1.2(95%CI 1.1~1.4)でした。

症状あり無症状
SARS-CoV-2による入院の推定発生率
(1,000産婦あたり)
2.0
(95%CI 1.9~2.2)
1.2
(95%CI 1.1~1.4)

SARS-CoV-2を発症していない妊婦と比較して、症状のあるSARS-CoV-2で入院した女性は、体重過多または肥満、黒人、アジア人、その他の少数民族、関連する医学的合併症を有する可能性が高いことがわかりました。

症状のあるSARS-CoV-2入院女性の特徴オッズ比
(95%CI)

vs. 無症状
体重過多1.86
(1.39〜2.48)
肥満2.07
(1.53〜2.29)
黒人6.24
(3.93〜9.90)
アジア人4.36
(3.19〜5.95)
その他の少数民族12.95
(4.93〜34.01)
関連する医学的合併症1.83
(1.32〜2.54)

症状のあるSARS-CoV-2で入院した妊婦は、集中治療室に収容される可能性が高かったが(aOR 57.67、7.80〜426.70)、予後不良の絶対的リスクは低かったようです。

症状の有無にかかわらず、帝王切開での出産や新生児室への入室が増加しました(調整後オッズ比 aOR、95%CIについては下表を参照)。

症状あり無症状
帝王切開での出産aOR 2.60
(95%CI 1.97〜3.42)
2.02
(1.52〜2.70)
新生児室への入室3.08
(1.99〜4.77)
1.84
(1.12〜3.03)

一方で、死産や新生児死亡のリスクは、症状の有無にかかわらず、有意に増加しませんでした。

コメント

SARS-CoV-2感染によるCOVID-19では、無症候性(不顕生)感染が症例の半数以上で報告されています。また妊婦においては、非妊娠社と比較して、母子ともに重症化しやすいことが報告されていますが、症状の有無による違いについては明らかにされていませんでした。

さて、本試験結果によれば、症状を有する妊婦において、集中治療室(ICU)に収容される可能性の高さが示されましたが、他のアウトカム(帝王切開での出産や新生児室への入室、死産、新生児死亡リスクなど)について、症状の有無により大きな差は認められませんでした

さらに、症状を有する妊婦における特徴として「体重過多」または「肥満」、「黒人」、「アジア人」、「その他の少数民族」、「関連する医学的合併症」を有している可能性が明らかになりました。

現時点においては、症状の有無により、ICU入室リスク以外のアウトカムに違いはないようです。

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✅まとめ✅ 大多数の女性が妊娠中にSARS-CoV-2による重篤な合併症を経験していないようであった

根拠となった試験の抄録

背景:妊婦とその児におけるSARS-CoV-2感染の危険因子、発生率、影響については、集団レベルのデータが不足している。本研究の主な目的は、英国で入院した症候性および無症候性のSARS-CoV-2感染妊婦の発生率、特徴、転帰を、SARS-CoV-2感染していない妊婦と比較して記述することであった。

方法:2020年03月01日から2020年08月31日までにSARS-CoV-2が確認されたすべての入院妊婦を対象に、英国産科サーベイランスシステムを用いて全国規模の前向きコホート研究を行った。罹患率は国の出産データを用いて推定した。

結果:全体で1,148例の入院女性が妊娠中にSARS-CoV-2が確認され、そのうち63%が症状を呈していた。症状のあるSARS-CoV-2による入院の推定発生率は、1,000産婦あたり2.0(95%CI 1.9~2.2)、無症状のSARS-CoV-2は1,000産婦あたり1.2(95%CI 1.1~1.4)であった。SARS-CoV-2を発症していない妊婦と比較して、症状のあるSARS-CoV-2で入院した女性は、体重過多または肥満(調整後OR 1.86、95%CI 1.39〜2.48およびaOR 2.07、1.53〜2.29)、黒人(aOR 6.24、3.93〜9.90)、アジア人(aOR 4.36、3.19〜5.95)、その他の少数民族(aOR 12.95、4.93〜34.01)、関連する医学的合併症(aOR 1.83、1.32〜2.54)があることがわかった。
症状のあるSARS-CoV-2で入院した妊婦は、集中治療室に収容される可能性が高かったが(aOR 57.67、7.80〜426.70)、予後不良の絶対的リスクは低かった。症状の有無にかかわらず、帝王切開での出産や新生児室への入室が増加した(症状ありの場合:aOR 2.60、1.97〜3.42、aOR 3.08、1.99〜4.77、無症状の場合:aOR 2.02、1.52〜2.70、aOR 1.84、1.12〜3.03)。死産や新生児死亡のリスクは、症状の有無にかかわらず、有意に増加しなかった。

結論:妊娠中の症候性および無症候性SARS-CoV-2のリスクを高める要因を特定した。臨床医は、大多数の女性が妊娠中にSARS-CoV-2による重篤な合併症を経験していないことに安心してよいだろう。

引用文献

The incidence, characteristics and outcomes of pregnant women hospitalized with symptomatic and asymptomatic SARS-CoV-2 infection in the UK from March to September 2020: A national cohort study using the UK Obstetric Surveillance System (UKOSS)
Nicola Vousden et al. PMID: 33951100 DOI: 10.1371/journal.pone.0251123
PLoS One. 2021 May 5;16(5):e0251123. doi: 10.1371/journal.pone.0251123. eCollection 2021.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33951100/

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