― 閉経後骨粗鬆症女性におけるラロキシフェンの有効性・安全性を検証した二重盲検ランダム化比較試験MORE試験JAMA. 1999)
SERMであるラロキシフェンの作用とは?
ラロキシフェンは、閉経後骨粗鬆症に用いられる選択的エストロゲン受容体モジュレーター(selective estrogen receptor modulator:SERM)です。SERMは、骨においてエストロゲン様作用を示す一方、乳腺組織では抗エストロゲン作用を示すという特徴があります。
では、骨粗鬆症治療のためにラロキシフェンを使用すると、乳癌の発症にも影響するのでしょうか?
この疑問を検討した代表的なランダム化比較試験がMORE(Multiple Outcomes of Raloxifene Evaluation)試験です。
臨床疑問
骨粗鬆症を有する閉経後女性において、ラロキシフェン投与はプラセボと比較して浸潤性乳癌の発症リスクを低下させるか?
また、乳癌のエストロゲン受容体(ER)によって効果は異なるのか?
さらに、乳癌予防というベネフィットと、静脈血栓塞栓症(VTE)などの有害事象とのバランスはどうか?
研究の背景
ラロキシフェンはSERMに分類され、組織によって異なるエストロゲン作用を示します。乳腺や子宮内膜組織では抗エストロゲン作用を示す一方、骨や脂質代謝などにはエストロゲン様作用を示します。
そのため、「骨粗鬆症に対する作用を保ちながら、乳腺ではエストロゲン作用を抑制できるのではないか」という点が注目されました。
MORE試験は、もともと閉経後骨粗鬆症女性を対象としてラロキシフェンの効果を検討した大規模ランダム化比較試験(RCT)です。
今回取り上げる1999年の報告では、その参加者に発生した乳癌を病理組織学的に確認し、ラロキシフェン投与によって乳癌リスクが低下するかが検討されました。
PICO
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| P:患者 | 骨粗鬆症を有する81歳未満の閉経後女性 |
| I:介入 | ラロキシフェン 60 mg/日または120 mg/日 |
| C:比較 | プラセボ |
| O:評価項目 | 新規乳癌(病理組織学的に確認)、ER別乳癌、VTE、子宮内膜癌など |
試験デザイン
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 研究名 | MORE試験 |
| 研究デザイン | 多施設共同、ランダム化、二重盲検試験 |
| 対象者数 | 7,705人 |
| 平均年齢 | 66.5歳 |
| 対象 | 閉経後骨粗鬆症女性 |
| ラロキシフェン群 | 5,129人 |
| プラセボ群 | 2,576人 |
| 実施施設 | 25カ国・180施設 |
| 実施期間 | 1994~1998年 |
| 追跡期間中央値 | 40カ月 |
| 人種 | 96%が白人 |
| 乳癌既往 | 除外 |
| エストロゲン使用者 | 除外 |
骨粗鬆症は、椎体骨折の存在、または大腿骨頸部もしくは脊椎のT-scoreが若年健常女性平均より少なくとも2.5 SD低いことなどによって定義されました。
介入
参加者は、以下の3群に割り付けられました。
① ラロキシフェン120 mg/日
② ラロキシフェン60 mg/日
③ プラセボ
乳癌についてはラロキシフェン群を統合して解析しており、ラロキシフェン群5,129人、プラセボ群2,576人として比較されています。
試験結果から明らかになったことは?

結果① 乳癌リスクは大きく低下
確認された乳癌は、ラロキシフェン群13例/5,129人、プラセボ群27例/2,576人でした。
| 乳癌 | ラロキシフェン | プラセボ |
|---|---|---|
| 乳癌発症 | 13/5,129人 | 27/2,576人 |
| 相対リスク(RR) | 0.24 | Reference |
| 95%CI | 0.13~0.44 | ― |
| P値 | <0.001 | ― |
RR 0.24(95%CI 0.13~0.44)であり、ラロキシフェン群では乳癌リスクが相対的に76%低下しました。
これは非常に大きな相対リスク低下です。ただし、ここで相対効果だけを見るべきではありません。
NNTは126人
論文では、乳癌1例を予防するために126人を治療する必要があると報告されています。つまり、NNT=126です。
「76%減少」という相対リスクだけを見ると極めて大きな効果に見えますが、もともとの乳癌発症頻度がそれほど高くないため、絶対的なベネフィットはこれより小さくなります。
したがって、RR 0.24と、NNT 126の両方を提示することが重要です。
結果② ER陽性乳癌は90%減少
さらに興味深いのが、エストロゲン受容体による違いです。
ER陽性乳癌について、RR 0.10(95%CI 0.04~0.24)でした。
つまり、ラロキシフェン群ではER陽性乳癌のリスクが90%低下しました。
一方、ER陰性浸潤性乳癌については、RR 0.88(95%CI 0.26~3.0)でした。95%CIは非常に広く1をまたいでいます。
したがって、ER陰性浸潤性乳癌のリスク低下は示されませんでした。
ラロキシフェンの効果はER陽性乳癌に集中している
ここはMORE試験を理解するうえで重要です。
| 乳癌アウトカム | RR | 95%CI | 結果の解釈 |
|---|---|---|---|
| 乳癌全体 | 0.24 | 0.13~0.44 | リスク低下 |
| ER陽性乳癌 | 0.10 | 0.04~0.24 | 大幅なリスク低下 |
| ER陰性浸潤性乳癌 | 0.88 | 0.26~3.0 | 明確なリスク低下を示さず |
この結果は、乳腺組織におけるラロキシフェンの抗エストロゲン作用とも整合的です。ただし、ER陰性乳癌については95%CIが0.26~3.0と非常に広いため、「ER陰性乳癌には絶対に効果がない」とまで証明されたわけではありません。
より正確には、「本試験ではER陰性浸潤性乳癌のリスク低下を示すことができなかった」と表現すべきでしょう。
結果③ 静脈血栓塞栓症は増加
乳癌に対する大きなベネフィットの一方で、重要な有害事象も認められました。ラロキシフェンでは、静脈血栓塞栓症(venous thromboembolic disease:VTE)のリスクが増加しました。
RR 3.1(95%CI 1.5~6.2)です。
| アウトカム | RR | 95%CI |
|---|---|---|
| 乳癌 | 0.24 | 0.13~0.44 |
| ER陽性乳癌 | 0.10 | 0.04~0.24 |
| ER陰性浸潤性乳癌 | 0.88 | 0.26~3.0 |
| 静脈血栓塞栓症 | 3.1 | 1.5~6.2 |
| 子宮内膜癌 | 0.8 | 0.2~2.7 |
したがって、乳癌リスク低下だけを見てラロキシフェンのbenefit–riskを判断することはできません。VTEリスクとのトレードオフを考慮する必要があります。
結果④ 子宮内膜癌は増加しなかった
子宮内膜癌については、RR 0.8(95%CI 0.2~2.7)でした。本試験ではラロキシフェンによる子宮内膜癌リスク増加は示されませんでした。
ただし、95%CIは非常に広いため、「子宮内膜癌リスクがないことを証明した」とまでは言えません。
あくまで、約3年間のMORE試験では明確な増加を認めなかったと解釈するのが適切です。
この研究から何が分かった?
MORE試験では、骨粗鬆症を有する閉経後女性において、約3年間のラロキシフェン投与により乳癌リスクが、RR 0.24(95%CI 0.13~0.44)と低下しました。
特にER陽性乳癌では、RR 0.10(95%CI 0.04~0.24)と非常に大きなリスク低下が認められています。
一方、ER陰性浸潤性乳癌については、RR 0.88(95%CI 0.26~3.0)であり、明確なリスク低下は示されませんでした。
さらにVTEは、RR 3.1(95%CI 1.5~6.2)と増加しました。
したがって、「ラロキシフェンは乳癌を予防するから投与した方がよい」という単純な結論ではありません。
批判的吟味―この研究の限界
① 乳癌予防を主目的として開始された試験ではない
MORE試験を解釈するうえで特に重要なポイントです。
MOREは閉経後骨粗鬆症女性を対象とした試験であり、乳癌発症はその試験から得られた重要なアウトカムです。
したがって、最初から乳癌高リスク女性を集めて乳癌予防効果だけを検証するために設計された試験とは性格が異なります。
とはいえ、ランダム化・二重盲検というデザイン上の強みがあり、乳癌症例は病理組織学的に確認されています。
② 乳癌イベント数そのものは少ない
参加者は7,705人と大規模ですが、乳癌は、13例 vs 27例でした。つまり解析の基礎となった乳癌イベントは合計40例です。
RR 0.24という大きな効果が認められていますが、サブグループに分けるほどイベント数はさらに少なくなります。
特にER陰性乳癌では、95%CI 0.26~3.0と非常に不精確です。したがって、ER陰性乳癌について「効果なし」と断定することは避けるべきです。
③ 相対リスク76%減少だけを強調すると効果を過大評価しやすい
「乳癌を76%減少」という数字は非常に印象的です。しかし絶対的には乳癌イベント自体が少なく、NNT=126でした。したがって患者への説明では、相対リスク減少76%だけでなく、約3年間で乳癌1例を予防するためのNNTは126人という絶対効果も合わせて考える必要があります。
④ 対象は「骨粗鬆症を有する閉経後女性」
結果をすべての女性へ一般化することはできません。対象者は、閉経後、平均66.5歳、骨粗鬆症あり、81歳未満、乳癌既往なし、エストロゲン使用なし、という集団です。
したがって、若年女性や閉経前女性、骨粗鬆症のない女性に同じ効果量が得られるとは、この試験だけからは判断できません。
⑤ 96%が白人
参加者の96%が白人でした。したがって、日本人を含む他の人種・民族集団への一般化には注意が必要です。これは日本の臨床へ適用する際には特に考慮すべき外的妥当性の問題です。
⑥ 追跡期間は約3年
追跡期間中央値は40カ月でした。乳癌は長期間にわたって発症する疾患です。したがって、この解析だけでは、10年、20年という長期間の乳癌予防効果を判断できません。
また長期投与時のリスクベネフィットについても、この約3年間の解析だけで確定することはできません。
なお、その後MORE試験では4年間の追跡結果も報告され、乳癌リスク低下が引き続き観察されていますが、これは今回の1999年論文とは別の報告です(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15231013/)。
⑦ VTEとのトレードオフを無視できない
ラロキシフェンは乳癌リスクを低下させましたが、VTEについて、RR 3.1(95%CI 1.5~6.2)でした。したがって、乳癌予防というベネフィットだけではなく、患者個々のVTEリスクを考える必要があります。
特に薬物療法の価値を考える場合には「乳癌が何例減るか」だけでなく、「その代わりにどのような有害事象が増えるか」というリスクベネフィットが重要です。
「乳癌を76%予防する薬」と単純化してよい?
ここには注意が必要です。
MORE試験の副次的評価項目の結果から「骨粗鬆症を有する閉経後女性では、約3年間のラロキシフェン投与によって浸潤性乳癌リスクが低下した」ことはRCTとして支持されます。
しかし、「女性ならラロキシフェンを飲めば乳癌を76%予防できる」という一般化はできません。
対象は閉経後骨粗鬆症女性であり、効果は主としてER陽性乳癌に認められ、さらにVTEリスク増加という代償があります。
したがって、この結果は、骨粗鬆症治療薬を選択する際に、乳癌リスク低下という付加的なベネフィットをどのように評価するかという文脈で考えると理解しやすいでしょう。
まとめ
MORE試験は、骨粗鬆症を有する閉経後女性7,705人を対象とした、多施設共同二重盲検ランダム化比較試験です。
約3年間の追跡で乳癌は、ラロキシフェン群で13/5,129人、プラセボ群で27/2,576人となり、RR 0.24(95%CI 0.13~0.44)でした。つまり、ラロキシフェンによって乳癌リスクは相対的に76%低下しました。
乳癌1例を予防するためのNNT=126でした。さらにER陽性乳癌では、RR 0.10(95%CI 0.04~0.24)と90%の相対リスク低下が認められました。
一方、ER陰性浸潤性乳癌では、RR 0.88(95%CI 0.26~3.0)であり、リスク低下は示されませんでした。
安全性の評価については、VTEのRR 3.1(95%CI 1.5~6.2)とリスク増加が認められました。
子宮内膜癌は、RR 0.8(95%CI 0.2~2.7)で、明確な増加は示されませんでした。
したがってMORE試験は「ラロキシフェンは閉経後骨粗鬆症女性において、特にER陽性乳癌の発症リスクを大きく低下させる一方、VTEリスクを増加させる」ことを示した重要なRCTです。
ただし対象集団、イベント数、追跡期間、VTEとのトレードオフを踏まえると、「ラロキシフェンを乳癌予防目的で広く使用すべき」とこの研究だけから結論することはできません。
むしろ、骨粗鬆症治療によるベネフィットに加えて乳癌リスク低下というメリットを得られる可能性がある一方、VTEリスクを患者ごとに慎重に評価する必要がある、という個別化されたリスクベネフィット評価が重要でしょう。
その後、乳がんに対するラロキシフェンの有効性安全性評価の臨床試験は実施されていません。2026年9月時点の適応症も踏まえると、ラロキシフェンを乳がん治療に応用することは困難でしょう。あくまでも閉経後骨粗鬆症患者に対する治療薬です。
続報に期待。

✅まとめ✅ 二重盲検ランダム化比較試験の結果、骨粗鬆症の閉経後女性において、ラロキシフェンによる3年間の治療期間中に浸潤性乳がんのリスクは76%減少した。
根拠となった試験の抄録
背景: 塩酸ラロキシフェンは選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)であり、乳房および子宮内膜組織に対して抗エストロゲン作用を示し、骨、脂質代謝、および血液凝固に対してエストロゲン作用を示す。
目的: ラロキシフェンを服用している女性は、浸潤性乳がんのリスクが低いかどうかを判断する。
試験デザインと設定: ラロキシフェンの多面的アウトカム評価(MORE)は、多施設共同、無作為化、二重盲検試験であり、1994年から1998年にかけて、主に米国とヨーロッパの25か国の地域医療施設と診療所からなる180の臨床センターで、ラロキシフェンまたはプラセボを服用した女性を中央値40か月(標準偏差3年)追跡調査した。
試験参加者: 閉経後女性7705名(平均年齢66.5歳)で、椎体骨折の有無、または大腿骨頸部もしくは脊椎のTスコアが若年健常女性の平均値より2.5標準偏差以上低い骨粗鬆症と診断された。参加者のほぼ全員(96%)は白人であった。乳がんの既往歴がある女性、またはエストロゲンを服用している女性は除外された。
介入: ラロキシフェン60mgを1日2錠服用する。または、ラロキシフェン60mgを1日1錠服用し、プラセボ錠を1錠服用する。または、プラセボ錠を2錠服用する。
主要評価項目: 組織病理学的検査で確認された乳がんの新規症例。1781名の女性を対象に、経腟超音波検査を用いてラロキシフェンの子宮内膜への影響を評価した。深部静脈血栓症または肺塞栓症は、診療記録のレビューによって判定した。
結果: ラロキシフェンを投与された5129人の女性のうち13例の乳がんが確認されたのに対し、プラセボを投与された2576人の女性のうち27例が確認された(相対リスク[RR]、0.24;95%信頼区間[CI]、0.13~0.44;P<.001)。乳がん1例を予防するには、126人の女性を治療する必要がある。ラロキシフェンはエストロゲン受容体陽性乳がんのリスクを90%減少させた(RR、0.10;95% CI、0.04~0.24)が、エストロゲン受容体陰性浸潤性乳がんのリスクは減少させなかった(RR、0.88;95% CI、0.26~3.0)。ラロキシフェンは静脈血栓塞栓症のリスクを増加させた(相対リスク3.1、95%信頼区間1.5~6.2)が、子宮内膜癌のリスクは増加させなかった(相対リスク0.8、95%信頼区間0.2~2.7)。
結論: 骨粗鬆症の閉経後女性において、ラロキシフェンによる3年間の治療期間中に浸潤性乳がんのリスクは76%減少した。
引用文献
The effect of raloxifene on risk of breast cancer in postmenopausal women: results from the MORE randomized trial. Multiple Outcomes of Raloxifene Evaluation
S R Cummings et al. PMID: 10376571 DOI: 10.1001/jama.281.23.2189
JAMA. 1999 Jun 16;281(23):2189-97. doi: 10.1001/jama.281.23.2189.
― 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10376571/


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