― MASCC/ISOOガイドライン更新(Support Care Cancer. 2020)
臨床疑問
がん治療を受ける患者において、蜂蜜、ハーブ製剤、唾液分泌刺激薬、プロバイオティクスなどの自然・補完的介入は、口腔粘膜炎の予防または治療に有効なのでしょうか?
本レビューで新たにガイドラインが示された介入に絞ると、臨床疑問は次の2点です。
- 頭頸部がんに対する放射線療法中に蜂蜜を局所および全身投与すると、口腔粘膜炎を予防できるか
- 化学療法を受ける小児がん患者にチューインガムを使用すると、口腔粘膜炎を予防できるか
研究の背景
口腔粘膜炎(oral mucositis:OM)は、抗がん薬治療、頭頸部への放射線療法、造血幹細胞移植前の大量化学療法などによって発生する有害事象です。
口腔粘膜の発赤や潰瘍だけでなく、強い疼痛、嚥下困難、栄養摂取量の低下を引き起こし、重症例ではがん治療の中断や入院期間の延長につながることがあります。
蜂蜜やハーブ製剤などの自然由来製品は、比較的入手しやすいことから、口腔粘膜炎に対して数多く研究されてきました。しかし、製品の種類、投与方法、がん治療の内容、対象患者が研究ごとに異なり、そのエビデンスは一貫していませんでした。
そこでMASCC/ISOOのMucositis Study Groupは、2014年版ガイドライン以降に公表された研究を系統的に評価し、臨床状況と投与経路ごとにガイドラインを更新しました。
ガイドライン用語の意味
MASCC/ISOOでは、エビデンスの程度に基づいて結論を次の3段階に分類しています。
| 区分 | 概要 |
|---|---|
| Recommendation | 強いエビデンスに基づく推奨 |
| Suggestion | 限定的なエビデンスに基づく提案 |
| No Guideline Possible | エビデンスが不足または不一致であり、診療ガイドラインを提示できない |
したがって、本論文の“Suggestion”は、一般的な意味での「強く推奨する」ではなく、限定的な根拠に基づき使用を提案できるという位置付けです。
PICO①:蜂蜜
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| P:患者 | 放射線療法単独または化学放射線療法を受ける頭頸部がん患者 |
| I:介入 | 蜂蜜の局所塗布と全身投与を組み合わせた方法 |
| C:比較 | 通常ケア、プラセボ、蜂蜜を使用しない対照など |
| O:アウトカム | 口腔粘膜炎の発症または重症度 |
ここで重要なのは、診療ガイドラインの対象が単なる「蜂蜜の局所塗布」ではなく、口腔内への局所使用と全身投与を組み合わせた方法であることです。
PICO②:チューインガム
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| P:患者 | 化学療法を受ける血液がんまたは固形がんの小児患者 |
| I:介入 | チューインガム |
| C:比較 | チューインガムを使用しない対照 |
| O:アウトカム | 口腔粘膜炎の予防 |
この結論は、唾液分泌や口腔内の爽快感などではなく、あくまで口腔粘膜炎の予防効果を評価したものです。
試験デザイン
本研究は、個別のランダム化比較試験ではなく、系統的レビューとガイドライン更新です。
文献検索と評価方法
- 検索期間:2011年1月1日~2016年6月30日
- データベース:PubMed、Web of Science、EMBASE
- 2名の独立したレビュー担当者が論文を評価
- 標準化された電子フォームでデータを抽出
- Somerfield基準によりエビデンスレベルを評価
- Hadorn基準により研究上の欠陥を評価
- 2014年版ガイドラインで評価済みの研究と統合
介入ごとに、以下を分けてガイドラインが作成されました。
- 予防か治療か
- 放射線療法、化学療法、化学放射線療法、造血幹細胞移植前処置のいずれか
- 局所投与か全身投与か
- 成人か小児か
- がんの種類
文献選択
| 文献選択段階 | 論文数 |
|---|---|
| データベース検索で抽出 | 2,653報 |
| 本セクションの対象として評価 | 78報 |
| 本論文Part 2に組み入れ | 49報 |
| 前回ガイドラインから統合 | 9報 |
| Part 2で評価された介入 | 26種類 |
残りの29報は、ビタミン、ミネラル、栄養補助食品を扱ったPart 1で評価されました。
試験結果から明らかになったことは?

ガイドラインとして新たに示された結論
| 介入 | 対象・治療状況 | 目的 | 診療ガイドライン | エビデンスレベル |
|---|---|---|---|---|
| 蜂蜜:局所+全身投与 | 放射線療法または化学放射線療法を受ける頭頸部がん患者 | OM予防 | 使用を提案する | LoE III |
| 蜂蜜:局所投与のみ | 放射線療法または化学放射線療法を受ける頭頸部がん患者 | OM予防 | ガイドライン提示不能 | LoE II |
| チューインガム | 化学療法を受ける血液がんまたは固形がんの小児患者 | OM予防 | 使用しないことを提案する | 2件のRCTに基づく |
| その他の評価対象 | 複数のがん・治療状況 | OM予防・治療 | 原則としてガイドライン提示不能 | エビデンス不足・不一致 |
本レビューでは介入間の統合効果量や、口腔粘膜炎の絶対リスク差は提示されていません。そのため、「蜂蜜により何%予防できる」と定量的に結論することはできません。
蜂蜜に関する結果
局所投与と全身投与の併用
頭頸部がんに対して放射線療法または化学放射線療法を受ける患者では、複数のRCTで蜂蜜による口腔粘膜炎予防効果が示されました。
このため、MASCC/ISOOは次の結論を示しました。
蜂蜜の局所塗布と全身投与を組み合わせた方法を、口腔粘膜炎の予防に使用することを提案する。
ただし、これはLoE IIIに基づく“Suggestion”であり、強い推奨ではありません。
局所投与だけでは結論が異なる
蜂蜜の局所投与のみを評価したRCTは4件ありましたが、結果は一貫していませんでした。
- 2件のRCT:有効性を示した
- 2件のRCT:有効性を示さなかった
- 否定的な2件ではマヌカハニーを使用
- 有効性を示した研究にも小規模研究という問題があった
このため、局所投与のみについては、エビデンスレベルがLoE IIであってもNo Guideline Possibleとされました。
エビデンスレベルが比較的高くても、結果が不一致であれば推奨を作成できないことを示しています。
チューインガムに関する結果
化学療法を受ける血液がんまたは固形がんの小児患者を対象とした2件のRCTでは、チューインガムによる口腔粘膜炎の予防効果が認められませんでした。
そのため、MASCC/ISOOはこの臨床状況において、チューインガムを口腔粘膜炎予防に使用しないことを提案しました。
ただし、この結論は以下を意味するものではありません。
- 成人でも無効である
- 放射線療法による口腔粘膜炎にも無効である
- 唾液分泌促進に使用してはいけない
- 口腔内の爽快感や嗜好目的で使用してはいけない
対象は、あくまで化学療法を受ける小児がん患者の口腔粘膜炎予防に限定されています。
その他の介入
本レビューでは、蜂蜜やチューインガム以外にも多数の介入が検討されました。
- ハーブ製剤
- プロポリス
- カモミール
- クルクミン
- 半夏瀉心湯
- Traumeel(ドイツのHeel社が開発した、植物および鉱物由来の成分を含むホメオパシー(同種療法)に基づく医薬品・自然派レメディ)
- プロバイオティクス
- 唾液分泌刺激薬
- 人工加湿
- その他の自然・補完的介入
しかし、研究数の不足、小規模研究、結果の不一致、対象や投与方法の違いなどにより、これらについては診療ガイドラインを提示できませんでした。
「ガイドライン提示不能」は、無効であることを意味しません。有効とも無効とも判断できるだけの根拠がないという意味です。
批判的吟味:研究の限界
1.検索期間が2016年6月までである
論文は2020年に公表されていますが、文献検索は2016年6月30日までです。そのため、それ以降に公表されたRCTや系統的レビューは反映されていません。
この論文は現在も重要なガイドライン資料ですが、「最新の全エビデンス」を直接表しているとは限りません。
2.定量的なメタ解析ではない
研究結果は介入と臨床状況ごとに評価されていますが、統合リスク比、平均差、絶対リスク差などは示されていません。
そのため、蜂蜜の効果の大きさや、治療必要数(NNT)は判断できません。
3.蜂蜜の種類が研究間で大きく異なる
研究では次のように異なる由来の蜂蜜が使用されていました。
- 一般的な天然蜂蜜
- ローヤルゼリー
- 茶植物由来の蜂蜜
- タイムやレンゲ類由来の蜂蜜
- クローバー由来の蜂蜜
- マヌカハニー
- 由来が明記されていない蜂蜜
蜂蜜は原料植物、加工方法、濃度などによって成分が異なるため、ある研究の結果を市販されているすべての蜂蜜に適用することはできません。
4.投与方法が標準化されていない
局所への接触時間、1回量、使用回数、飲み込むタイミング、放射線照射との時間関係などが研究間で異なります。
したがって、「蜂蜜をどの程度、どのように使うのが最適か」は確立していません。
5.対象患者とがん治療が混在している
蜂蜜の研究には、放射線療法単独の患者と化学放射線療法の患者が混在していました。口腔粘膜炎の発生リスクや重症度は治療内容によって異なります。
異質性が大きいため、MASCC/ISOOも“Recommendation”ではなく“Suggestion”にとどめています。
6.小規模なRCTが多い
複数の研究でサンプルサイズが小さく、偶然による結果や効果の過大評価を否定できません。
また、蜂蜜は味や粘度が特徴的であるため、患者や医療者の盲検化が難しく、疼痛や摂食状況などの主観的アウトカムにバイアスが生じる可能性があります。
7.局所使用と局所・全身併用を混同できない
ガイドラインが肯定的なSuggestionを示したのは、局所塗布と全身投与を組み合わせた方法です。
蜂蜜を口腔内に塗るだけの局所投与については、結果が不一致でガイドラインを提示できませんでした。したがって、「蜂蜜を塗れば口腔粘膜炎を予防できる」と単純化するのは不正確です。
8.有害事象の評価が十分ではない
蜂蜜を用いた研究では、う蝕に関するデータが報告されていませんでした。
蜂蜜は糖分を含み歯に付着しやすいため、反復して使用する場合にはう蝕リスクが問題になります。原著でも、蜂蜜を使用する患者には厳格な口腔衛生管理が必要と指摘されています。
9.チューインガムの結論は適用範囲が狭い
チューインガムに否定的なSuggestionが出されたのは、化学療法を受ける小児の血液がん・固形がん患者における口腔粘膜炎予防です。
成人、別のがん治療、唾液分泌促進などへ結論を拡大することはできません。
10.出版バイアスの可能性がある
自然由来製品の小規模試験では、有効だった研究の方が公表されやすい可能性があります。原著では統合的な出版バイアス評価が提示されておらず、蜂蜜の有効性が過大評価されている可能性を完全には除外できません。
実臨床への応用
蜂蜜を検討できる患者
本ガイドラインから使用を検討できるのは、主に次の患者です。
- 頭頸部がん患者
- 放射線療法または化学放射線療法を受けている
- 目的が口腔粘膜炎の予防
- 局所使用と全身投与を組み合わせられる
- 適切な口腔衛生管理を実施できる
ただし、標準的な口腔ケアや、他のエビデンスに基づく予防法を蜂蜜に置き換えるという意味ではありません。蜂蜜はあくまで、対象を限定した補助的選択肢として位置付けるべきです。
実施時に確認したい点
- 使用する蜂蜜の種類と衛生管理
- 患者が摂取可能か
- 糖質摂取への配慮が必要か
- 口腔内の清掃状態
- う蝕リスク
- がん治療チームの方針
- 他の口腔粘膜炎予防策との併用状況
まとめ
MASCC/ISOOの系統的レビューでは、頭頸部がんに対して放射線療法または化学放射線療法を受ける患者について、蜂蜜の局所塗布と全身投与を組み合わせた方法を口腔粘膜炎予防に使用することがSuggestionとして提示されました。
一方、蜂蜜の局所投与だけでは研究結果が一致せず、診療ガイドラインを提示できませんでした。
また、化学療法を受ける小児がん患者では、チューインガムは口腔粘膜炎を予防しないとして、使用しないことがSuggestionとして示されました。
ただし、蜂蜜の研究には小規模試験、製品と投与方法の不均一性、盲検化の困難さ、有害事象情報の不足などの限界があります。
「自然由来だから安全」、「蜂蜜なら何でも有効」とは判断せず、適用対象と投与方法を限定して解釈する必要があります。
いずれも内的妥当性の高い研究が限られていることから、再現性の確認を含めて更なる検証が求められます。とはいえ、難治性や治療困難な口腔粘膜炎に対して、補助療法として蜂蜜が有効である可能性があります。患者背景を踏まえて、試してみるのも一つの選択肢でしょう。
続報に期待。

✅まとめ✅ 口腔粘膜炎の治療には、数多くの天然物やハーブ療法が研究されてきた。本系統的レビューで検討された薬剤のうち、蜂蜜(局所投与と全身投与の併用)については推奨ガイドラインが作成され、患者によっては有効である可能性がある。
根拠となった試験の抄録
目的: 多国籍がん支持療法協会/国際口腔腫瘍学会(MASCC/ISOO)が作成した口腔粘膜炎(OM)の管理に関する臨床診療ガイドラインを更新すること。本稿では、蜂蜜、ハーブ製剤、唾液分泌促進剤、プロバイオティクス、およびその他の薬剤に焦点を当てる。
方法: MASCC/ISOOの粘膜炎研究グループが系統的レビューを実施した。各臨床現場における各介入に関するエビデンスレベルを算出した。その結果を、2014年版MASCC/ISOO臨床診療ガイドラインの作成に使用したデータベースに追加した。エビデンスレベルに基づき、推奨、提案、ガイドライン作成不可のいずれかのガイドラインを決定した。
結果: このセクションの範囲内で合計78件の論文が特定され、そのうち49件が今回のレビューに含まれ、前回のガイドライン更新で報告された9件の出版物と統合されました。放射線療法(化学療法併用または非併用)を受けている頭頸部がん患者の口腔粘膜炎予防のために、蜂蜜(局所投与と全身投与の併用)に関する新たな提案がなされました。化学療法を受けている血液がんまたは固形がんの小児患者の口腔粘膜炎予防には、ガムを噛むことは効果がないことが新たな提案で明らかにされました。その他の介入については、ガイドラインを作成することができませんでした。
結論: 口腔粘膜炎の治療には、数多くの天然物やハーブ療法が研究されてきた。本系統的レビューで検討された薬剤のうち、蜂蜜(局所投与と全身投与の併用)については推奨ガイドラインが作成された一方、チューインガムについては推奨されないガイドラインが作成された。他の治療法の可能性を明らかにするためには、さらなる研究が必要である。
キーワード: がん; 補完療法; ハーブ; 管理; 自然; 口腔粘膜炎; 伝統的
引用文献
Systematic review of natural and miscellaneous agents, for the management of oral mucositis in cancer patients and clinical practice guidelines – part 2: honey, herbal compounds, saliva stimulants, probiotics, and miscellaneous agents
Noam Yarom et al.
Support Care Cancer. 2020 May;28(5):2457-2472. doi: 10.1007/s00520-019-05256-4. Epub 2020 Feb 13.
― 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32056010/

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