― 中等度OSA患者を対象としたランダム化比較試験(ERJ Open Res. 2025)
臨床疑問(Clinical Question)
中等症の閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)患者において、ほら貝(Shankh:Conch shell)を吹く呼吸筋トレーニングは、日中の眠気や睡眠の質、無呼吸低呼吸指数(AHI)を改善するのでしょうか?
研究の背景
閉塞性睡眠時無呼吸症候群(Obstructive Sleep Apnoea:OSA)は、睡眠中の上気道閉塞を特徴とし、日中の眠気、生活の質の低下、心血管疾患リスクの増加と関連する疾患です。
現在の標準治療は持続陽圧呼吸療法(CPAP)ですが、装着感や不快感などから長期継続が難しい患者も少なくありません。
近年では、呼吸筋や上気道筋のトレーニングによってOSA症状を改善できる可能性が注目されています。
インドでは古くから宗教儀式などで用いられてきた ほら貝(Shankh)を吹く動作は、強い呼気と呼吸筋活動を必要とするため、上気道筋や呼吸筋のトレーニング効果が期待されています。
そこで本研究では、中等症OSA患者を対象として、ほら貝を吹く訓練がOSA関連症状を改善するかを検証しました。
PICO
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| P(Patients) | 日中の眠気を有する新規診断の中等症OSA患者 |
| I(Intervention) | ほら貝(Shankh)を吹く呼吸筋トレーニング(6か月) |
| C(Comparison) | シャム介入(深呼吸運動) |
| O(Outcome) | ESS、PSQI、AHI |
試験デザイン
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 研究デザイン | 前向き、オープンラベル、ランダム化比較試験 |
| 割付 | 並行群間比較 |
| 対象患者 | 30例 |
| 介入群 | 14例 |
| 対照群 | 16例 |
| 介入期間 | 6か月 |
| 解析方法 | Linear mixed-effects model |
評価項目
主要評価項目
日中の眠気
- エプワース眠気尺度( Epworth sleepiness Scale;ESS )
- 11点以上だと睡眠時無呼吸症候群の疑いが強い
副次評価項目
- Pittsburgh Sleep Quality Index(PSQI:ピッツバーグ睡眠質問票)
- 6点以上(5.5点または6点を境にする)だと睡眠障害や睡眠の質の低下が疑われる
- Apnoea-Hypopnoea Index(AHI:無呼吸低呼吸指数)
- AHIが5以上だと睡眠時無呼吸症候群と診断される
- 重症度は次のように分類されます。
- 5~15:軽症
- 15~30:中等症
- 30以上:重症
- 重症度は次のように分類されます。
- AHIが5以上だと睡眠時無呼吸症候群と診断される
試験結果から明らかになったことは?

① 日中の眠気(ESS)
| 項目 | 結果 |
|---|---|
| ESS変化量(介入群) | −5.0点(95%CI −8.06 ~ −1.93) |
| ESS改善率 | 34%減少 |
| 群間差 | −4.69点(95%CI −8.39 ~ −1.007) |
| P値 | 0.0145 |
ほら貝トレーニング群ではESSスコアが有意に改善しました。
② 睡眠の質(PSQI)
| 項目 | 結果 |
|---|---|
| PSQI変化量(介入群) | −1.8点(95%CI −3.3 ~ −0.26) |
| 群間差 | −3.1点 |
睡眠の質も介入群で改善しました。
※抄録では群間差の95%信頼区間およびP値は記載されていません。
③ 無呼吸低呼吸指数(AHI)
| 項目 | 結果 |
|---|---|
| AHI変化量(介入群) | −4.4回/時間(95%CI −7.6 ~ −1.2) |
| 群間差 | −5.62回/時間 |
AHIも介入群で改善しました。
※抄録では群間差の95%信頼区間およびP値は記載されていません。
研究結果まとめ
| 評価項目 | 結果 |
|---|---|
| ESS | ✅ 有意に改善 |
| PSQI | 改善 |
| AHI | 改善 |
著者らの結論
ほら貝を吹く呼吸筋トレーニングは、日中の眠気、睡眠の質、AHIを改善しました。
著者らは、呼吸筋トレーニングとしてのほら貝吹奏は、OSA症状を改善する新たな治療選択肢となる可能性があると結論しています。
臨床的意義
本研究は、楽器を用いた呼吸筋トレーニングがOSAに有効である可能性を示した興味深いRCTです。
これまでにも、ディジュリドゥ(Didgeridoo:オーストラリアの先住民アボリジニの伝統的な管楽器)、口腔・咽頭筋トレーニング(oropharyngeal exercises)などがOSA改善に有効であることが報告されています。
本研究は、それらに加えてほら貝吹奏という比較的簡便な方法でも同様の効果が期待できる可能性を示しました。
試験の限界(批判的吟味)
① サンプルサイズが非常に小さい
対象は30例(介入14例、対照16例)と少なく、推定値の精度や結果の再現性には限界があります。
② オープンラベル試験
介入内容を参加者・研究者ともに把握できるデザインであり、ESSやPSQIのような主観的評価項目では期待効果(プラセボ効果)や報告バイアスが影響した可能性があります。
③ シャム介入が完全なプラセボではない
対照群では深呼吸運動が実施されましたが、深呼吸自体も呼吸筋機能に影響を及ぼす可能性があり、介入効果が過小評価または過大評価された可能性があります。
④ 中等症OSAのみを対象としている
軽症OSA、重症OSA、CPAP治療中患者への一般化はできません。
⑤ 長期予後は評価されていない
介入期間は6か月であり、心血管イベント、OSA進行、CPAP導入回避、長期アドヒアランスなどへの影響は不明です。
⑥ AHI改善の臨床的意義は限定的
AHIは改善しましたが、抄録からは正常化したかどうか、あるいは臨床的に十分な改善幅であったかは判断できません。また、群間差の95%信頼区間やP値は抄録に記載されておらず、効果の精度評価には本文の確認が必要です。
実臨床への応用
本研究は、中等症OSA患者において、ほら貝を吹く呼吸筋トレーニングが日中の眠気(ESS)、睡眠の質(PSQI)、AHIを改善する可能性を示しました。特にESSでは群間差が統計学的に有意であり、患者が自覚する眠気の改善につながる可能性があります。
一方で、本試験は30例という小規模なオープンラベルRCTであり、主観的評価項目への期待効果や、シャム介入として実施された深呼吸運動の影響を完全には排除できません。また、CPAPとの直接比較や長期予後への影響も検討されていません。
したがって、ほら貝吹奏をCPAPの代替治療と考える根拠は現時点では十分ではありません。しかし、CPAPが使用できない患者や補助的な呼吸筋トレーニングとしては、今後さらに大規模試験で検証される価値のあるアプローチと考えられます。
まとめ
- 中等症OSA患者30例を対象とした前向きオープンラベルRCT
- 6か月間のほら貝吹奏と深呼吸運動を比較
- ESSは34%改善し、群間差も有意(−4.69点、P=0.0145)
- PSQIおよびAHIも介入群で改善した
- 呼吸筋トレーニングとしてのほら貝吹奏はOSA症状改善の可能性を示した
- 小規模・オープンラベル試験であり、CPAPの代替治療として位置付けるにはさらなる大規模研究が必要である
より大規模かつ長期的な前向き試験の実施が求められます。
続報に期待。

✅まとめ✅ 非盲検ランダム化比較試験の結果、日中の眠気、睡眠の質、AHIの改善が観察されたことから、ほら貝を吹くことによる呼吸筋トレーニングは、将来的にOSAの症状を管理するための新しい治療選択肢として登場する可能性がある。
根拠となった試験の抄録
目的: 中等度の閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)患者におけるシャンク(ホラ貝)を吹くことが睡眠関連の転帰に及ぼす影響を明らかにすること。
方法: 本研究は、日中の眠気と最近中等度の閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)と診断された被験者を対象とした、並行群を用いた前向き非盲検無作為化比較試験である。参加者は、6か月間、シャンクを吹く介入、または偽処置(深呼吸運動)のいずれかを受けた。主要評価項目は日中の眠気(エプワース眠気尺度;ESS)であり、副次評価項目として睡眠の質(ピッツバーグ睡眠の質指数;PSQI)と無呼吸低呼吸指数(AHI)の2つを設定した。結果の評価には、線形混合効果モデルを用いた。
結果: 中等度のOSA患者30名のうち、16名を無作為化により対照群に、14名を介入群に無作為に割り付けた。介入群の参加者は、ESSスコアが34%減少(変化量-5.0ポイント、95%信頼区間-8.06~-1.93)し、眠気の改善がより顕著であった。また、介入終了時のESSスコアの平均差は有意に変化した(-4.69ポイント、95%信頼区間-8.39~-1.007、p=0.0145)。睡眠の質(PSQIスコア;変化量、-1.8ポイント、95%信頼区間 -3.3- -0.26)およびAHI(変化量、-4.4イベント・h -1、95 %信頼区間 -7.6- -1.2)は、6か月後には介入群でより低下しており、PSQIスコアの平均群間差は-3.1ポイント、AHIの平均群間差は-5.62イベント・h -1であった。
結論: 日中の眠気、睡眠の質、AHIの改善が観察されたことから、シャンクを吹くことによる呼吸筋トレーニングは、将来的にOSAの症状を管理するための新しい治療選択肢として登場する可能性がある。
引用文献
Efficacy of shankh blowing on moderate sleep apnoea: a randomised control trial
Krishna K Sharma et al. PMID: 41346934 PMCID: PMC12673929 DOI: 10.1183/23120541.00258-2025
ERJ Open Res. 2025 Dec 1;11(6):00258-2025. doi: 10.1183/23120541.00258-2025. eCollection 2025 Nov.
― 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41346934/

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