飲酒は薄毛の原因なのか?

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― オーストラリア男性1,390人を対象とした男性型脱毛症(AGA)の疫学研究(Br J Dermatol. 2003)

臨床疑問

男性型脱毛症(Androgenetic Alopecia:AGA)は遺伝だけで決まるのだろうか?

飲酒や喫煙、体格、性的活動などの生活習慣はAGA発症に関係しているのだろうか?


研究の背景

男性型脱毛症(AGA)は最も一般的な脱毛症であり、男性では加齢とともに有病率が増加することが知られています。

AGAの発症にはアンドロゲン(特にDHT)、遺伝要因が強く関与することが明らかになっています。その一方で、喫煙、飲酒、肥満、性活動、前立腺肥大症などの環境要因については研究結果が一貫しておらず、明確な結論は得られていませんでした。

そこで本研究では、オーストラリアの一般男性を対象に、AGAの有病率と非遺伝的危険因子について検討した。


PICO

項目内容
P40~69歳のオーストラリア人男性 1,390名
I飲酒、喫煙、体格、性的活動などの環境要因
C各曝露因子の有無や程度
OAGA(前頭部型、頭頂部型、全体型)の有病率および関連因子

試験デザイン

研究デザイン

  • 集団ベース症例対照研究の対照群解析
  • 横断研究に近い疫学解析
  • 面接調査
  • 直接観察によるAGA評価

対象

オーストラリア男性(前立腺がんの集団ベースの症例対照研究の対照群) n=1,390

年齢40~69歳


AGA分類

被験者は以下に分類された。

No AGA 脱毛なし

Frontal AGA 前頭部型脱毛

Vertex AGA 頭頂部型脱毛

Full AGA 前頭部+頭頂部脱毛


統計解析

ロジスティック回帰分析

調整因子:年齢、教育歴、出生国


試験結果から明らかになったことは?

AGA有病率

頭頂部型+全体型AGA

年齢とともに増加した。

年齢有病率
40~55歳31%
65~69歳53%

前頭部型AGA

興味深いことに、前頭部型脱毛のみの割合は年齢による差がほとんどなかった。

年齢有病率
40~69歳31~33%

飲酒との関連

本研究で最も注目された結果です。

飲酒は、前頭部型AGAおよび頭頂部型AGAのリスク上昇が認められました。

一方、前頭部+頭頂部AGAとの有意な関連は認められませんでした。

著者らは飲酒とAGAとの関連を示唆したが、因果関係は不明であるとしている。


喫煙との関連

過去には「喫煙が薄毛を進行させる」という仮説が提唱されていました。

しかし本研究の集団では、現在喫煙とは関連なしでした。また、喫煙期間とも関連はありませんでした。


性活動との関連

射精頻度

AGA群と非AGA群で差なし


女性パートナー数

頭頂部型AGA男性では少ない傾向がみられた。しかし因果関係は不明である。


体格との関連

21歳時点の体重、除脂肪体重(Lean Body Mass)が大きい男性ほど、頭頂部型脱毛が少ないことと関連していました(傾向のP<0.05)


関連が認められなかった因子

以下についてはAGAとの関連を認めなかった。

因子結果
思春期成長スパート
(第二次性徴)
関連なし
ニキビ歴関連なし
面接時の体格関連なし
婚姻状況関連なし
喫煙(再掲)関連なし
喫煙期間(再掲)関連なし
排尿症状スコア関連なし

この研究から何が言えるか?

本研究は、AGAの主因は依然として遺伝的要因であることを支持する結果でした。

著者らも、環境因子の影響は“very slight”(極めて小さい)と結論しています。

一方で、飲酒、若年時の体格・除脂肪体重については新たな関連が示唆されました。

ただし、これらは探索的結果であり、他研究による再現が必要であるといえます。


批判的吟味(研究の限界)

① 横断研究である

最大の限界は因果関係を証明できない点である。飲酒が脱毛を引き起こしたのか、あるいは別の因子が影響したのかは不明である。


② リコールバイアス

21歳時点の体重や体格は自己申告であり、回答者の記憶に依存している。したがって、誤分類が生じた可能性がある。


③ オーストラリア男性のみ

対象は主に白人男性であり、日本人やアジア人に直接適用できるとは限らない。


④ 多重比較の問題

多数の危険因子を探索しているため、偶然有意差が検出された可能性もある。交絡因子が介在していることを踏まえ、更なる検証が求められる。


⑤ 遺伝情報が評価されていない

AGAの最大の危険因子は遺伝であるとされている。本研究では遺伝子解析が行われておらず、遺伝的背景の影響を十分評価できていない。


薬剤師への臨床的示唆

薬局では、「お酒を飲むと薄毛になりますか?」、「タバコは薄毛の原因ですか?」という相談を受けることがあります。

少なくとも本研究から言えることは、喫煙についてAGAとの関連は確認されなかった、ということです。一方、飲酒については一部のAGAとの関連が示唆されましたが、因果関係まで述べることは困難であり、現状不明という結論です。

つまり、現時点でAGA予防のために禁酒を推奨できるレベルのエビデンスではありません。

AGAの発症には依然として遺伝、アンドロゲン感受性が中心的役割を果たしていると考えられます。


まとめ

✅ オーストラリア男性1,390人を対象とした疫学研究

✅ 頭頂部型・全体型AGAは加齢とともに増加した

✅ 飲酒は前頭部型および頭頂部型AGAと関連した

✅ 喫煙とAGAとの関連は認められなかった

✅ 射精頻度とAGAとの関連は認められなかった

✅ 若年時の除脂肪体重が大きい男性では頭頂部型AGAが少なかった

✅ 環境因子の影響は小さく、AGAの主因は依然として遺伝的要因と考えられる


薄毛をはじめとするAGA(Androgenetic Alopecia)は、非常に関心の高い分野です。特に白人は、比較的AGA罹患率が高く(より正確にはランダム化比較試験での報告数が多い)、これは遺伝子やホルモンに影響されていることが報告されています。

日本人をはじめとするアジア人であっても同様の結果が示されるのか、国や地域の特性がみられるのか、その因子には何があるのかなど、更なる検証が求められます。

続報に期待。

man wearing striped shirt and eyeglasses

✅まとめ✅ オーストラリアの横断研究の結果、AGAリスクとアルコール摂取量あるいは21歳時の除脂肪体重との関連性が示唆された。

根拠となった試験の抄録

背景: 男性型脱毛症(AGA)の疫学は完全には解明されていない。遺伝的要因が強く関与していることは以前から指摘されているものの、非遺伝的要因についてはほとんど分かっていない。

目的: オーストラリアの40~69歳の男性におけるAGAの有病率を推定し、その危険因子を特定すること。

方法: 前立腺がんの集団ベースの症例対照研究の対照群として、選挙人名簿から男性(n = 1390)を無作為に募集した。全員に直接インタビューを行い、AGAの直接観察を行った。男性は、AGAなし、前頭部AGA、頭頂部AGA、および完全AGA(前頭部と頭頂部のAGA)の4つのカテゴリーに分類した。これらの男性から収集した疫学的データを用いて、年齢、教育、出生国を調整した無条件ロジスティック回帰により、AGAカテゴリーを応答変数として、各AGAカテゴリーのリスク因子を分析した。

結果: 頭頂部および完全なAGAの有病率は、年齢とともに31%(40~55歳)から53%(65~69歳)に増加した。一方、前頭部のみのAGAの男性の割合は、すべての年齢層でほぼ同じであった(31~33%)。思春期の成長スパートやニキビ、面接時の成人体格の報告、尿路症状スコア、婚姻状況、現在の喫煙状況または喫煙期間と、あらゆる形態のAGAのリスクとの間に関連性は見られなかった。アルコール摂取は、前頭部および頭頂部のAGAのリスクの有意な増加と関連していたが、完全なAGAのリスクとは関連していなかった。頭頂部AGAの男性は女性の性的パートナーが少なかったが、平均射精頻度はAGAの異なるカテゴリーの男性間で差がなかった。約21歳で成熟期を迎えた時点での体重と除脂肪体重は、頭頂部の脱毛症とは負の相関関係にあったが(傾向検定P<0.05)、前頭部のAGAや全身のAGAとは相関関係がなかった。

結論: AGAに対する環境要因の影響を示す証拠は依然として非常に乏しい。本研究では、喫煙と良性前立腺肥大症との関連性について、これまで報告または仮説として提唱されてきたものを確認することはできなかった。アルコール摂取量と21歳時の除脂肪体重との関連性については、他の研究で再現できれば、さらなる研究に値するだろう。

引用文献

Androgenetic alopecia in men aged 40-69 years: prevalence and risk factors
G Severi et al. PMID: 14674898 DOI: 10.1111/j.1365-2133.2003.05565.x
Br J Dermatol. 2003 Dec;149(6):1207-13. doi: 10.1111/j.1365-2133.2003.05565.x.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/14674898/

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