― ステロイドを使わずにICI関連皮膚炎を治療できるか?ウパダシチニブを検証した第II相試験(JAMA Oncol. 2026)
臨床疑問
Grade 3~4の重症免疫チェックポイント阻害薬(ICI)関連皮膚炎に対して、JAK1阻害薬ウパダシチニブ(Upadacitinib)はステロイドを使用せずに症状を改善できるのだろうか?
研究の背景
免疫チェックポイント阻害薬(ICI)は、非小細胞肺癌、胃癌、食道癌、胆道癌、肝癌など多くの固形癌において標準治療となっています。
一方で免疫関連有害事象(immune-related adverse events:irAEs)は大きな課題であり、その中でも皮膚障害は最も頻度の高い有害事象の一つです。
重症(Grade 3~4)のICI関連皮膚炎に対する標準治療は全身性ステロイドですが、治療期間には中央値55日間かかることが報告されています。ステロイド使用により、重症感染症のリスク増加の他、消化管出血、高血糖、筋力低下などの有害事象を引き起こされる可能性があります。
さらにステロイドは抗腫瘍免疫を抑制し、ICIの抗腫瘍効果を減弱させる懸念も指摘されています。
ウパダシチニブは選択的JAK1阻害薬であり、関節リウマチ、アトピー性皮膚炎、円形脱毛症などで使用されています。
本研究では「ステロイドを使用せずにウパダシチニブ単独で重症ICI関連皮膚炎を治療できるか」を検証しました。
PICO
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| P | Grade 3~4のICI関連皮膚炎を発症した固形癌患者 |
| I | ウパダシチニブ 15 mg/日 経口投与(28日間) |
| C | 対照群なし(単群試験) |
| O | 皮膚炎改善率、安全性、ICI継続率、掻痒感改善 |
試験デザイン
研究デザイン
- 第II相試験
- 単施設
- オープンラベル
- 単群試験
- 非ランダム化臨床試験
実施施設
中国 浙江省のQuzhou People’s Hospital
登録期間
2025年2月~2025年7月
登録患者数
33例
治療内容
ウパダシチニブ15mg/日、28日間投与
以下の併用は禁止された;
- 全身性ステロイド
- 免疫抑制薬
- 抗ヒスタミン薬
患者背景
| 項目 | 結果 |
|---|---|
| 年齢中央値 | 61歳 |
| 男性 | 57.6% |
| Grade 3皮膚炎 | 87.9%(29例) |
| Grade 4皮膚炎 | 12.1%(4例) |
| 掻痒感あり | 100% |
主な癌種は、肺癌(33.3%)、食道癌(15.2%)、胃癌(12.1%)、胆嚢癌(9.1%)であった。
主要評価項目
皮膚炎改善率
改善はGrade 1以下まで軽快と定義された。
- Grade 0:完全消失
- Grade 1:部分改善
試験結果から明らかになったことは?

主要評価項目
皮膚炎改善率
| 項目 | Grade 1以下まで軽快した割合 | 95%CI |
|---|---|---|
| 皮膚炎改善率 | 100%(33/33例) | 89%~100% |
全例でGrade 1以下まで改善した。
皮膚炎改善までの期間
| 改善時期 | 割合 |
|---|---|
| 3~5日 | 51.5% |
| 5~7日 | 18.2% |
| 7~14日 | 9.1% |
完全寛解率
| 項目 | 結果 |
|---|---|
| Grade 0(完全消失) | 90.9% |
| Grade 1(部分改善) | 9.1% |
掻痒感改善
全患者で投与開始後1日以内に改善が認められた。
Peak Pruritus Numerical Rating Scale(PP-NRS)は4ポイント超改善した。
※PP-NRSの臨床的に意義のある差(MCID)は、ベースラインから2~4ポイント以上の改善と報告されています。
ICI継続率
| 項目 | 結果 |
|---|---|
| ICI継続 | 31例(93.9%) |
| ICI中止 | 2例(6.1%) |
Grade 4皮膚炎の2例のみICI再開に至らなかった。
安全性
ウパダシチニブ関連有害事象
| 有害事象 | 頻度 |
|---|---|
| CK上昇 | 15.2% |
| 疲労 | 12.1% |
| ざ瘡 | 9.1% |
重篤な有害事象
| 項目 | 結果 |
|---|---|
| Grade 3~5有害事象 | 0例 |
| 治療中止 | 0例 |
この研究から何が言えるか?
本試験では、重症ICI関連皮膚炎患者33例全例で症状改善が認められました。また、掻痒感は1日以内に改善、発疹は数日以内に改善、ICI継続率94%という非常に良好な結果が得られました。
著者らによると、過去の報告では全身性ステロイドによる皮膚炎改善までの中央値は55日とされており、本試験の改善速度は極めて速いといえます。
そのため、ウパダシチニブはICI関連皮膚炎に対するステロイド代替療法となる可能性が示唆された。
批判的吟味(研究の限界)
① 対照群が存在しない
最大の限界は単群試験である点。ステロイド治療群やプラセボ群との比較が行われていないため、改善が自然経過によるものか、ウパダシチニブによる効果かを厳密には判定できません。
とはいえ、皮膚炎改善までの期間やGradeの改善度を踏まえると、前後比較ではあるもののウパダシチニブ投与による効果であると考える方が妥当です。
② サンプルサイズが小さい
症例数は33例のみ。稀な有害事象や効果のばらつきを評価するには不十分です。
③ 単施設研究
中国1施設のみで実施されており、一般化可能性には限界があります。
④ 長期安全性が不明
追跡期間は短く、感染症、心血管イベント、血栓症などJAK阻害薬特有の長期安全性は評価できません。
⑤ Grade 4症例は少数
Grade 4皮膚炎は4例のみであり、最重症患者に対する有効性は十分検証されていない。
薬剤師への臨床的示唆
ICI関連皮膚炎は近年増加しており、その治療薬としてステロイドが使用されています。しかし、標準治療であるステロイドには問題点も多く、アンメットニーズでした。
本研究は、JAK1阻害薬ウパダシチニブが迅速な症状改善、高いICI継続率、良好な忍容性を示した初期エビデンスとして注目されます。
ただし現時点では単施設、小数例、非ランダム化、非対象、単群試験であり、標準治療を置き換える根拠にはまだ不十分です。
今後のランダム化比較試験の結果が待たれます。
まとめ
✅ Grade 3~4のICI関連皮膚炎33例を対象とした第II相単群試験
✅ ウパダシチニブ15mg/日を28日間投与
✅ 皮膚炎改善率は100%
✅ 90.9%で完全消失(Grade 0)
✅ 掻痒感は1日以内に改善
✅ 93.9%でICI治療継続が可能
✅ 重篤な有害事象は認められなかった
✅ 今後はランダム化比較試験による検証が必要
非常に有望な結果です。その一方で、試験の限界が多く、試験結果の一般化が困難です。
本試験は第II相であることから、第III層、第IV相など再現性の確認を含めて更なる検証が求められます。
続報に期待。

✅まとめ✅ 単施設における単盲検第II相試験の結果、ウパダシチニブはICI関連皮膚炎の管理における潜在的な治療選択肢となり得る。とはいえ、今後の無作為化臨床試験が求められる。
根拠となった試験の抄録
背景:重度の免疫チェックポイント阻害剤(ICI)関連皮膚炎に対する従来の第一選択治療には、高用量の全身性コルチコステロイドが用いられる。コルチコステロイドは通常、重篤な感染症や消化管出血などの重大なリスクを伴う。さらに、ICIの抗腫瘍効果を弱める。選択的ヤヌスキナーゼ(JAK)1阻害剤であるウパダシチニブは、JAK-STAT経路におけるJAK1を抑制する。本剤は、自己免疫性皮膚炎およびアトピー性皮膚炎の適応がある。本研究において、研究者らは、重度(グレード3~4)のICI関連皮膚炎を発症した各種固形がん患者における皮膚症状の解消率を評価するための第2相臨床試験を設計した。
方法:この単施設、非盲検、単群、第2相非無作為化臨床試験は、中国浙江省の衢州人民病院において、施設内審査委員会および独立倫理委員会の承認を得て実施された(NCT06715982)。全参加者は書面によるインフォームド・コンセントを提供した。本試験は、サイモン法に基づく2段階臨床試験として設計された。すべての解析はRバージョン4.2.0(R Foundation)を用いて実施された。プロトコルおよび統計解析計画書は、それぞれ補足資料1および2に記載されている。
グレード3~4のICI関連皮膚炎と診断された患者には、グルココルチコイド、免疫抑制剤、抗ヒスタミン薬の併用なしに、28日間、経口ウパダシチニブ(15 mg/日)が投与された。皮膚炎が改善した(グレード1以下に軽減したと定義)患者は、元の抗腫瘍療法を再開することが許可された。
主要評価項目は、ウパダシチニブの安全性およびICI関連皮膚炎の解消であった。解消は、28日目までに発疹がグレード1以下となったことを指す。グレード0は完全解消、グレード1は部分解消を示した。有害事象(AE)が記録された。副次評価項目には、28日目にICIを継続している患者の割合、およびピーク掻痒感数値評価尺度(Peak Pruritus Numerical Rating Scale)によって評価された掻痒感の重症度の変化が含まれた。95%信頼区間(CI)はジェニソン・ターンブル法を用いて算出され、両側α水準は0.05に設定された。
結果:2025年2月から7月にかけて、スクリーニングを受けた50名の患者のうち33名が登録された。第1段階(2025年2月~4月)において、試験継続のためのあらかじめ定義された基準が満たされ、最初の参加者14名全員で発疹の消失が認められた。これを受けて、第2段階(2025年4月~8月)において、さらに19名の患者が登録された。全患者は未治療であり、コルチコステロイドやその他の免疫抑制剤の既往歴はなかった(表1)。
全体として、9名の患者(27.3%)が1つ以上のウパダシチニブ関連有害事象(AE)を経験した。最も頻度の高かったAEはクレアチンキナーゼ値の上昇であり、5名の患者(15.2%)に認められた。ウパダシチニブに関連する重篤なAE(グレード3~5)は認められなかった。有害事象を理由にウパダシチニブの投与を中止した患者はいなかった。表2にウパダシチニブ関連の有害事象をまとめた。
ウパダシチニブの投与開始後、全患者で発疹の著明な改善が認められた。28日目の発疹消失率は100%(95%信頼区間:89%~100%)であった。発疹の消失は、51.5%の患者(33人中17人)で3~5日以内、18.2%(33人中6人)で5~7日以内、9.1%(33人中3人)で7~14日以内に認められた。皮膚発疹の急速な改善により、31名の患者(93.9%)は予定通りICI治療を継続したが、ICI関連皮膚炎(グレード4)を呈した2名の患者は継続しなかった。全患者において、1日以内に掻痒感の著しい改善が認められ、ピーク掻痒感数値評価尺度(Peak Pruritus Numerical Rating Scale)で4ポイント以上の減少が見られた。
考察:本研究の調査担当者の知る限り、ICI関連皮膚炎に対する経口JAK阻害薬の使用を検証した臨床試験は本研究が初めてである。本研究の患者のほとんどはウパダシチニブに迅速に反応し、治療開始後1日以内に掻痒感がほぼ消失し、4日以内に皮膚発疹が著明に軽減し、7日以内にほぼ完全な解消(グレード≤1)が認められた。対照的に、全身性コルチコステロイドやその他の免疫抑制剤で治療されたICI関連皮膚炎の消失までの期間の中央値は55日であると報告されている。
有害事象(AE)は、これまでのウパダシチニブに関する研究に比べて有意に少なく、重篤なAEは認められなかった。5 これは、本研究における低用量および短期投与レジメンに起因する可能性がある。
本試験の限界としては、無作為化対照試験を不可能にした単群デザイン、サンプルサイズの小ささ、および長期追跡調査の欠如が挙げられる。
結論として、ウパダシチニブはICI関連皮膚炎の管理における潜在的な治療選択肢となり得る。とはいえ、今後の無作為化臨床試験が求められる。
引用文献
Upadacitinib for Immune Checkpoint Inhibitor-Related Dermatitis: A Nonrandomized Clinical Trial
Chengshui Chen et al. PMID: 41784992 PMCID: PMC12964249 DOI: 10.1001/jamaoncol.2026.0136
JAMA Oncol. 2026 May 1;12(5):526-528. doi: 10.1001/jamaoncol.2026.0136.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41784992/

コメント