透析患者においてもスタチンは有効なのか?
スタチンは動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)の二次予防における標準治療として位置づけられています。しかし、透析導入患者ではスタチンの有効性が明確でないことから、現在の国際的なガイドラインでは一律の使用は推奨されていません。
そこで今回は、透析を受けているASCVD患者におけるスタチンの有効性を評価したメタ解析の結果をご紹介します。
試験結果から明らかになったことは?
■方法
- 対象データベース:PubMed、Scopus、Web of Science
- 検索期間:データベース開設から2025年4月20日まで
- 解析手法:RevMan 5.4を用いたハザード比(HR)およびオッズ比(OR)の統合
- 対象研究:観察研究7件、総患者数116,535人
- 評価項目:
- 主要アウトカム:全死亡、主要心血管イベント(MACE)
- 副次アウトカム:心血管死亡、心筋梗塞、脳卒中
■主な結果
評価項目 | 効果指標(95%CI) | 有意差 |
---|---|---|
全死亡 | HR 0.94(0.89–0.98) | p=0.004 |
MACE | HR 0.89(0.80–0.98) | p=0.02 |
心血管死亡 | HR 0.92(0.69–1.24) | p=0.60 |
心筋梗塞 | OR 1.23(0.99–1.53) | p=0.06 |
脳卒中 | HR 0.99(0.79–1.24) | p=0.92 |
コメント
透析患者のうちASCVDを有する症例では、スタチン投与が全死亡およびMACEを減少させる可能性が示されました。ただし、心血管死亡や個別イベント(心筋梗塞・脳卒中)には有意な影響が認められませんでした。
観察研究のみを対象とした解析であるため、因果関係を断定することはできません。にもかかわらず、現行ガイドラインの「透析患者ではスタチンは推奨されない」という立場を再検討する必要性を示唆する結果といえます。
◆試験の限界
- 解析対象は観察研究のみであり、交絡因子の影響を完全に排除できない
- スタチンの種類・用量・投与期間に関する詳細な層別解析が不足
- 透析導入時期や併用療法の差異が結果に影響している可能性
- 心筋梗塞や脳卒中のアウトカムについては統計学的に境界的な結果であり、解釈に注意が必要
◆今後の検討課題
- ランダム化比較試験(RCT)による再評価が不可欠
- スタチンの種類別効果(例:アトルバスタチン vs. ロスバスタチン)の検証
- 透析導入早期・長期透析患者での効果の違いの検討
- 他の脂質低下薬(PCSK9阻害薬など)との比較研究
◆まとめ
- 透析患者におけるスタチン療法は、全死亡およびMACEを有意に減少させる可能性が示されました。
- 一方で、心血管死亡や個別のイベント(心筋梗塞・脳卒中)には有意差がみられませんでした。
- ガイドラインの変更を検討する上で重要なエビデンスですが、RCTを含めた更なる検証が不可欠です。
透析患者は心血管イベントの発症リスクが高いことから、スタチン治療による益が得られやすいと考えられますが、一貫した結果が得られていません。現時点でルーティン使用は推奨できませんが、スタチン使用を否定するほどの結果でもありません。個々の患者に合わせた対応が求められます。
再現性の確認を含めて更なる検証が求められます。
続報に期待。

✅まとめ✅ システマティックレビュー・メタ解析の結果、スタチン療法が透析依存ASCVD患者の全死亡率およびMACEを低下させることが示唆された。しかし、心血管疾患による死亡率、心筋梗塞、脳卒中への有意な影響は示していない。
根拠となった試験の抄録
背景:スタチンは、動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)患者の心血管リスク低減の基盤となる薬剤です。しかしながら、現在の臨床ガイドラインでは、決定的なエビデンスが得られていないため、維持透析を受けている患者へのスタチンの使用は推奨されていません。本研究では、確立されたASCVDを有し透析を受けている患者におけるスタチンの臨床的有効性を評価するため、メタアナリシスを実施しました。
方法:PubMed、Scopus、Web of Scienceを、開始から2025年4月20日まで体系的に検索しました。Review Manager(RevMan 5.4 for Windows)を使用して、ハザード比(HR)とオッズ比(OR)、およびそれぞれの95%信頼区間(CI)を算出しました。
結果:116,535人の患者を対象とした7件の観察研究が、メタアナリシスの包含基準を満たしました。スタチン療法は、全死亡率(HR 0.94、95%CI 0.89~0.98、p=0.004)および主要心血管イベント(MACE)(HR 0.89、95%CI 0.80~0.98、p=0.02)の有意な減少と関連していた。しかし、心血管疾患による死亡率(HR 0.92、95%CI 0.69~1.24、p=0.60)、心筋梗塞(OR 1.23、95%CI 0.99~1.53、p=0.06)、および脳卒中(HR 0.99、95%CI 0.79~1.24、p=0.92)については有意な関連は認められなかった。
結論:本メタアナリシスは、スタチン療法が透析依存ASCVD患者の全死亡率およびMACEを低下させることを示唆している。しかしながら、心血管疾患による死亡率、心筋梗塞、脳卒中への有意な影響は示していない。対象研究は観察研究であるため、現行のガイドラインを再評価し、治療推奨事項を精緻化するために、質の高い前向き試験を実施することが不可欠である。
キーワード: アテローム性動脈硬化性心血管疾患 (ASCVD)、透析、死亡率、スタチン
引用文献
Impact of Statins on Mortality and Cardiovascular Outcomes in Dialysis Patients With Atherosclerotic Cardiovascular Disease: A Systematic Review and Meta-Analysis
Omar Elkoumi et al. PMID: 40669550 DOI: 10.1016/j.amjcard.2025.07.010
Am J Cardiol. 2025 Jul 14:256:49-59. doi: 10.1016/j.amjcard.2025.07.010. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40669550/
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