SARS-CoV-2の感染と心不全リスクとの関連性は?
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の累積感染者数は7億5,400万人を超え、死亡者数は2023年2月時点で680万人に達しています。SARS-CoV-2の変異株は引き続きBA.5株(オミクロン株)が支配的であるとされています。
心臓におけるACE2の発現は、他の臓器よりも高いことが報告されています。さらに、心不全患者では心筋細胞におけるACE2の発現が健常対照者よりも高いことがいくつかの文献で報告されています。心臓がSARS-CoV-2感染に対して感受性が高く、心不全のような有害な条件下ではより顕著になることを示唆しています。
COVID-19のパンデミックは、SARS-CoV-2の持続感染による将来の心不全のリスク人口が指数関数的に増加すると予想されるため、状況を劇的に変えた可能性があります。SARS-CoV-2の持続感染が心機能の低下と関連するという決定的な臨床的証拠は今のところ報告されていません。
そこで今回は、ヒトiPS細胞由来の心臓微小組織(CMT)を用いて、SARS-CoV-2持続感染モデルを作成し、SARS-CoV-2感染が心臓組織に与える影響の予測を試みた研究結果をご紹介します。
試験結果から明らかになったことは?
SARS-CoV-2の軽度感染では、1ヵ月間有意な機能障害を起こすことなくウイルスの存在が維持し、持続感染を示しました。しかし、虚血性心疾患を模倣した低酸素条件にさらされると、心筋細胞における細胞内SARS-CoV-2の再活性化と血管網形成の破綻とともに、心機能が悪化することが示されました。
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SARS-CoV-2感染の収束が困難であり、”COVID-19パンデミック”から”ポストCOVID-19”へと移行し、急性期の症状だけでなく、慢性的な健康問題にも注目するよう促されています。
さて、ヒトiPS細胞由来の心臓微小組織を用いたSARS-CoV-2持続感染モデルでの検証結果によれば、虚血性心疾患を模倣した低酸素条件にさらされると、心筋細胞における細胞内SARS-CoV-2の再活性化と血管網形成の破綻とともに心機能が悪化することが示されました。
あくまでも心臓モデルを用いた基礎研究の結果ではありますが、COVID-19により心筋および心膜炎・心筋障害・不整脈・静脈血栓塞栓症/肺塞栓症・脳卒中・心不全/心原性ショック・急性冠症候群など、様々な心血管イベントの発症リスク増加が報告されていることから、現象を裏付けるデータとしては有用であると考えられます。
ただし、今後の感染状況やウイルス流行株によりリスクは異なることから、継続的な検証が求められます。
続報に期待。
✅まとめ✅ ヒトiPS細胞由来の心臓微小組織を用いたSARS-CoV-2持続感染モデルでの検証結果によれば、虚血性心疾患を模倣した低酸素条件にさらされると、心筋細胞における細胞内SARS-CoV-2の再活性化と血管網形成の破綻とともに心機能が悪化することが示されました。
根拠となった試験の抄録
ハイライト
- ヒト心臓組織のSARS-CoV-2持続感染モデルが確立された
- 持続感染モデルに対する低酸素ストレスが心機能障害を引き起こした
- 低酸素ストレス後、ACE2およびSARS-CoV-2のS蛋白発現が上昇した。
- この研究は、ポストCOVID-19時代の “心不全パンデミック “を予言するかもしれない。
背景:慢性心筋症患者の心臓にはウイルス感染が持続している可能性があり、特にSARS-CoV-2はヒトの心臓に高発現しているACE2受容体を標的としている。このことは、近い将来、COVID-19、SARS-CoV-2パンデミックに起因する世界的な心不全パンデミックの可能性を懸念させる。このような医療上の問題に直面しているにもかかわらず、持続性ウイルス性心臓感染症に関する研究は限られており、モデルも確立されていない。
方法:本研究では、ヒトiPS細胞由来の心臓微小組織(CMT)を用いて、SARS-CoV-2持続感染モデルを作成した。
結果:軽度の感染では、1ヵ月間有意な機能障害を起こすことなくウイルスの存在を維持し、持続感染を示した。しかし、虚血性心疾患を模倣した低酸素条件にさらされると、心筋細胞における細胞内SARS-CoV-2の再活性化と血管網形成の破綻とともに、心機能が悪化した。
結論:この研究は、SARS-CoV-2が持続的に心臓に感染し、虚血のような有害な刺激によって引き起こされる心機能障害を日和見的に引き起こすことを示しており、COVID-19後の心不全パンデミックを予見させる可能性がある。
引用文献
Predicted risk of heart failure pandemic due to persistent SARS-CoV-2 infection using a three-dimensional cardiac model
Kozue Murata et al.
Cell. 2023. Available online 22 December 2023, 108641
ー 続きを読む https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2589004223027189
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