SARS-CoV-2パンデミックに対して効果的な介入とは?
パンデミックを予防するためには、新興流行病に対する的を絞った公衆衛生介入が不可欠です。2020年から2022年にかけて、中国は、異なるSARS-CoV-2亜種によるさまざまな規模のアウトブレイクを封じ込めるために、厳格なゼロCOVID対策に多大な努力を傾けましたが、どの対策が有効であるのかについては充分に検証されていません。
そこで今回は、2020年4月から2022年5月までに中国で観測された131のアウトブレイクを含む複数年の実証的データセットとシミュレーションシナリオに基づき、瞬間的な再生産数の減少によって相対的な介入効果をランク付けした試験の結果をご紹介します。
試験結果から明らかになったことは?
瞬間的な再生産数の減少 | |
社会的距離(ソーシャルディスタンス) | 38%減少(95%予測区間 31~45%) |
フェイスマスク | 30%減少(95%予測区間 17~42%) |
濃厚接触者の追跡 | 28%減少(95%予測区間 24~31%) |
全体として、社会的距離(38%減少、95%予測区間 31~45%)、フェイスマスク(30%、17~42%)、濃厚接触者の追跡(28%、24~31%)が最も効果的であることが判明しました。
接触者追跡は初期段階におけるアウトブレイクを抑制する上で極めて重要でしたが、社会的距離は感染拡大が持続するにつれてますます顕著になりました。さらに、伝播性が高く潜伏期間が短い感染症は、これらの対策にとってより大きな課題となりました。
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2019年から流行を繰り返しているSARS-CoV-2による新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の収束は遠く、Withコロナ時代と呼ばれるような “共存・共生” が求められています。
感染症に対しては、基本的な感染予防対策の実施が求められています。これは感染・発症することで対策と比較して多くのリソースが割かれること、患者背景により重篤な転帰をむかえるためです。しかし、基本的な感染予防対策のうち、より効果的な施策には何が挙げられるのか、については充分に検証されていません。
さて、本試験結果によれば、SARS-CoV-2パンデミックに対する効果的な介入として、ソーシャルディスタンス、フェイスマスク、濃厚接触者の追跡であることが明らかとなりました。ただし、濃厚接触者の追跡は、感染流行初期におけるアウトブレイクに有効なようです。したがって、感染流行中においては、他の施策にリソースを割いた方が良いと考えられます。
ワクチンの効果については言及されていないことから、有効であったのか無効であったのかは本試験結果からは判断できませんが、これまでの研究結果からは、基本的な感染予防対策としてワクチンも有効であると考えられます。
社会的なインフラにも影響を及ぼす新型コロナウイルスの蔓延を良しするためにも、今一度、基本的な感染予防対策の実施が求められます。
✅まとめ✅ SARS-CoV-2パンデミックに対する効果的な介入として、ソーシャルディスタンス、フェイスマスク、濃厚接触者の追跡が挙げられた。
根拠となった試験の抄録
背景:パンデミックを予防するためには、新興流行病に対する的を絞った公衆衛生介入が不可欠である。2020年から2022年にかけて、中国は、異なるSARS-CoV-2亜種によるさまざまな規模のアウトブレイクを封じ込めるために、厳格なゼロCOVID対策に多大な努力を傾けた。
方法:2020年4月から2022年5月までに中国で観測された131のアウトブレイクを含む複数年の実証的データセットとシミュレーションシナリオに基づき、瞬間的な再生産数の減少によって相対的な介入効果をランク付けした。
結果:全体として、社会的距離(38%減少、95%予測区間 31~45%)、フェイスマスク(30%、17~42%)、濃厚接触者の追跡(28%、24~31%)が最も効果的であることが判明した。接触者追跡は初期段階におけるアウトブレイクを抑制する上で極めて重要であったが、社会的距離は感染拡大が持続するにつれてますます顕著になった。さらに、伝播性が高く潜伏期間が短い感染症は、これらの対策にとってより大きな課題となった。
結論:本研究で得られた知見は、さまざまな状況における新興伝染病の根絶のための公衆衛生対策の効果について、定量的な証拠を提供するものである。
引用文献
Effects of public-health measures for zeroing out different SARS-CoV-2 variants
Yong Ge et al. PMID: 37644012 PMCID: PMC10465600 DOI: 10.1038/s41467-023-40940-4
Nat Commun. 2023 Aug 29;14(1):5270. doi: 10.1038/s41467-023-40940-4.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37644012/
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