心不全におけるMR拮抗薬とSGLT-2阻害薬の併用効果はどのくらい?(SR&MA; Eur Heart J. 2023)

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MR拮抗薬とSGLT-2阻害薬の併用による影響は?

レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(RAAS)は、主に炎症経路を介した動脈血圧の調節や心血管疾患および腎疾患の発症に重要な役割を果たしています。アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)やアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)は、アンジオテンシンIIを介したアルドステロンの放出を抑制しますが、これらの薬物は「アルドステロンエスケープ」のため、RAASを一様に抑制することはできません(PMID: 11835920)。さらに、RAASは組織レベルでアップレギュレーションされ、血行動態に影響を及ぼすことなく、冠動脈内皮機能障害、心筋アポトーシス、反応性心筋線維症を引き起こすことがあります(PMID: 25368026)。それにもかかわらず、SGLT2iとは異なり、スピロノラクトンやエプレレノンなどの従来のMRAは、LVEFの範囲にわたってHFの死亡率を低下させることに対しては使用が推奨されていません(PMID: 35363499)。これらの薬剤は、駆出率が低下したHF(HFrEF)に対する使用が強く推奨(クラス1A)されていますが、ガイドラインでは、軽度の駆出率(EF)低下を伴うHFの選択された患者にのみMRAの使用が推奨されています(PMID: 35363499)。

MRAの有益なエビデンスは、世界的にHFの主流となっている駆出率が維持されたHF(HFpEF)ではまだ乏しいとされています。さらに、MRAは、特に禁忌とされていない推定糸球体濾過量(eGFR)30~59.9mL/min/1.73m2の範囲において、高カリウム血症や腎有害事象の懸念があるため、ガイドラインで指示された薬物療法の中で最も充分に活用されていないのが現状です。SGLT2iとMRAの相補的な作用機序を考慮すると、これら両剤の併用はHFにおいて相加的な臨床的利益をもたらす可能性があると考えられます。

これまで、HFpEF患者におけるSGLT2iとMRAの併用療法の効果は確認されておらず、HF集団全体においても、心血管系および安全性に関する相加的な有益性は報告されていません(PMID: 35938308)。

そこで今回は、EFに関係なくHF患者におけるSGLT2iの心血管効果に対するMRA使用の影響を調査するために実施されたメタ解析の結果をご紹介します。SGLT2iとMRAの併用に伴う高カリウム血症、体液量減少、腎有害事象のリスクを検討することも目的とされました。

PubMed/MEDLINE、Web of Science、Embase、臨床試験登録から、MRA使用の有無にかかわらずHFにおけるSGLT2iを評価したランダム化比較試験/事後解析が検索されました(PROSPERO:CRD42023397129)。

本試験の主要アウトカムは、HFによる初回入院または緊急受診/心血管死(HHF/CVD)、HHF、CVDの複合でした。その他、全死亡、腎複合アウトカム、安全性アウトカムについても検証されました。

ハザード比(HR)/リスク比が抽出され、固定効果メタ解析とサブグループ解析が行われました。

試験結果から明らかになったことは?

21,947例のHF患者(2型糖尿病、n=10,805)のデータがプールされ、5つの研究が適格とされました。プラセボと比較し、SGLT2iへのランダム割り付けは、MRAを使用している人、使用していない人において、HHF/CVDおよびHHFの同程度の減少を示しました。

MRA併用MRAなし
HHF/CV死亡HR 0.75
(95%CI 0.68〜0.81
HR 0.79
(95%CI 0.72〜0.86
交互作用のP=0.43
 HHFHR 0.74
(95%CI 0.67〜0.83
HR 0.71
(95%CI 0.63〜0.80
交互作用のP=0.53
 CV死亡HR 0.81
(95%CI 0.72〜0.91
HR 0.98
(95%CI 0.86〜1.13
交互作用のP=0.034

【HHF/CV死亡】ハザード比(HR)0.75、95%信頼区間(CI)0.68〜0.81 vs. HR 0.79、95%CI 0.72〜0.86;交互作用のP=0.43
【HHF】HR 0.74、95%CI 0.67〜0.83 vs. HR 0.71、95%CI 0.63〜0.80;交互作用のP=0.53

EFに関係なくSGLT2iにランダムに割り付けられMRAを使用している慢性HF患者では、CV死亡の相対的減少がより大きいことが示唆されました(HR 0.81、95%CI 0.72〜0.91 vs. HR 0.98、95%CI 0.86〜1.13; 交互作用のP=0.034)。

SGLT2iは、MRAを併用すると体液量減少のリスクが高くなる(交互作用のP=0.082)にもかかわらず、MRAの使用に関係なく(交互作用のP=0.73)、全死亡(交互作用のP=0.27)と腎関連の有害エンドポイントを減少させました。

SGLT2iはMRAの使用に関連した軽度の高カリウム血症(交互作用のP<0.001)と重度の高カリウム血症(交互作用のP=0.051)のリスクを減少させました。

コメント

ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬による心不全患者の予後への影響については充分に検証されていません。

さて、システマティックレビュー・メタ解析の結果、MRAはHHF/CVD、HHF、全死亡の複合に対するSGLT2iの効果に影響を与えませんでした。MRA併用により駆出率にかかわらず心血管死亡リスクが低減する可能性が示唆されました。まだまだ検証が充分ではありませんが、MRAを併用した方が患者予後が良好となる可能性があります。

診療ガイドラインでは、患者背景にもよりますが、β遮断薬、ACEI阻害薬/ARB、MR拮抗薬を使用してもなお、死亡や心血管リスクが高い患者に対してSGLT-2阻害薬の併用が推奨されています。従って、MR拮抗薬が使用できない場合を除いては、基本的にSGLT2阻害薬を併用する前にMR拮抗薬の使用が求められることになります。

SGLT-2阻害薬の使用にあたって、臨床試験がどのように行われてきたのか、患者背景として併用薬には何が使用されていたのかなど、歴史的な背景もおさえておく必要があるのではないでしょうか。薬価の観点からも、SGLT-2阻害薬の導入は切り札として取っておいた方が良いように考えられます。

続報に期待。

medical stethoscope with red paper heart on white surface

✅まとめ✅ メタ解析の結果、MRAはHHF/心血管死亡、HHF、全死亡の複合に対するSGLT2iの効果に影響を与えなかったが、MRA併用により駆出率にかかわらず心血管死亡リスクが低減する可能性が示唆された。

根拠となった試験の抄録

背景と目的:駆出率(EF)に関係なく心不全(HF)において、ナトリウム-グルコース共輸送体-2阻害薬(SGLT2i)とミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)の併用による心血管への影響を検討し、SGLT2iとプラセボに無作為に割り付けられた患者におけるMRAに関連した有害事象のリスクを探索すること。

方法は以下の通り: PubMed/MEDLINE、Web of Science、Embase、臨床試験登録から、MRA使用の有無にかかわらずHFにおけるSGLT2iを評価したランダム化比較試験/事後解析を検索した(PROSPERO:CRD42023397129)。
主要アウトカムは、HFによる初回入院または緊急受診/心血管死(HHF/CVD)、HHF、CVDの複合とした。その他、全死亡、腎複合アウトカム、安全性アウトカムとした。ハザード比(HR)/リスク比が抽出された。固定効果メタ解析とサブグループ解析を行った。

結果:21,947例のHF患者(2型糖尿病、n=10,805)のデータがプールされ、5つの研究が適格とされた。プラセボと比較し、SGLT2iへのランダム割り付けは、MRAを使用している人、使用していない人において、HHF/CVDおよびHHFの同程度の減少を示した[HHF/CVDのハザード比(HR)0.75、95%信頼区間(CI)0.68〜0.81 vs. HR 0.79、95%CI 0.72〜0.86;交互作用のP=0.43;HHFのHR 0.74、95%CI 0.67〜0.83 vs. HR 0.71、95%CI 0.63〜0.80;交互作用のP=0.53]、EFに関係なくSGLT2iにランダムに割り付けられMRAを使用している慢性HF患者では、CVDの相対的減少がより大きいことが示唆された(HR 0.81、95%CI 0.72〜0.91 vs. HR 0.98、95%CI 0.86〜1.13; 交互作用のP=0.034)。SGLT2iは、MRAを併用すると体液量減少のリスクが高くなる(交互作用のP=0.082)にもかかわらず、MRAの使用に関係なく(交互作用のP=0.73)、全死亡(交互作用のP=0.27)と腎関連の有害エンドポイントを減少させた。SGLT2iはMRAの使用に関連した軽度の高カリウム血症(交互作用のP<0.001)と重度の高カリウム血症(交互作用のP=0.051)のリスクを減少させた。

結論:MRAはHHF/CVD、HHF、全死亡の複合に対するSGLT2iの効果に影響を与えなかったが、SGLT2iにランダムに割り付けられMRAを投与された慢性HF患者では、SGLT2iにランダムに割り付けられMRAを投与されなかった患者と比較して、EFにかかわらずCVDの相対的減少がより顕著であることを示唆する所見が得られた。SGLT2iはMRAに関連した治療誘発性高カリウム血症のリスクを減少させた。これらの所見は、十分にデザインされたランダム化比較試験でさらに検証する必要がある。

キーワード:ダパグリフロジン、エンパグリフロジン、エプレレノン、ファインレノン、心不全、死亡率、スピロノラクトン、2型糖尿病

引用文献

Mineralocorticoid receptor antagonists with sodium-glucose co-transporter-2 inhibitors in heart failure: a meta-analysis
Mainak Banerjee et al. PMID: 37605637 DOI: 10.1093/eurheartj/ehad522
Eur Heart J. 2023 Aug 22;ehad522. doi: 10.1093/eurheartj/ehad522. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37605637/

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