学校でのSARS-CoV-2伝播リスクに関連する因子とは?
学校関連でのSARS-CoV-2感染はまれであるとされていますが、実際の感染率は不明です。
そこで今回は、学校におけるSARS-CoV-2の二次感染率(secondary attack rate, SAR)および感染に関連する因子を明らかにすることを目的に実施されたコホート研究の結果をご紹介します。
本試験は、2020年秋/2021年春(fall 2020/spring 2021, F20/S21)および2021年秋(fall 2021, F21)の2期間に、マサチューセッツ州の10の学区の幼稚園児から12年生までの生徒および職員を対象に、SARS-CoV-2の学校での伝播リスクが調査されました。学校職員がSARS-CoV-2指標症例と学校内接触者のデータを収集し、SARは接触者がSARS-CoV-2感染を獲得した割合と定義されました。
曝露はSARS-CoV-2、伝播に関連する可能性のある因子(学年、マスク着用、曝露場所、ワクチン接種歴、社会的脆弱性指数(SVI)など)を、単変量および多変量のロジスティック回帰モデルを用い解析されました。
試験結果から明らかになったことは?
2020年秋/2021年春では、8学区(70校、生徒数33,000人以上)が対象となり、435例の指標症例(職員151例、生徒216例、役割不明68例)と1,771例の学校内接触者(職員278例、生徒1,492例、役割不明1例)が報告されました。2021年秋では、5地区(34校、生徒数18,000人以上)が参加し、309例の指標事例(職員37例、生徒207例、役割不明65例)、1,673例の学校からの連絡(職員107例、生徒1,566例)が報告されました。
2020年秋/2021年春のSARは2.2%(下限1.6%、上限26.7%)、2021年秋のSARは2.8%(下限2.6%、上限7.4%)でした。
感染リスクのオッズ比 OR (95%CI) | |
(2020年秋/2021年春) マスク着用した場合 vs. マスクをしなかった場合 | OR 0.12 (0.04〜0.40) P<0.001) |
(2021年秋) 教室での接触 vs. 教室外での接触 | OR 2.47 (1.07〜5.66) P=0.02 |
(2021年秋) 完全ワクチン接種者との接触 vs. ワクチン未接種者との接触 | OR 0.04 (0.00〜0.62) P<0.001 |
多変量解析では、2020年秋/2021年春において、マスク着用は、マスクをしなかった場合と比較して、感染オッズの低下と関連していました(オッズ比[OR] 0.12、95%CI 0.04〜0.40;P<0.001)。2021年秋では、教室での接触と教室外での接触は、感染のオッズ増加と関連していました(OR 2.47、95%CI 1.07〜5.66;P=0.02);完全ワクチン接種者とワクチン未接種者との接触は、感染のオッズ減少と関連していました(OR 0.04、95%CI 0.00〜0.62;P<0.001)。
いずれの期間においても、社会的脆弱性指数が高いほど伝播のオッズが高いことが示されました。
コメント
学校環境におけるSARS-CoV-2感染伝播は稀とされているようです。また、伝播に関連する因子については充分に検討されていません。
さて、マサチューセッツ州の学校を対象とした観察研究の結果、マスクの着用とワクチンの完全接種はSARS-CoV-2感染リスクの低減と関連していました。一方、教室での接触は感染リスクの増加と関連していることも示されました。
SARS-CoV-2は一本鎖RNAであることから変異スピードが早く、より感染伝播しやすいように、免疫逃避するように変異していきます。ワクチン開発がなかなか追いつかない状況ではありますが、ターゲットのウイルス株だけでなく、他の変異型にも有効性が示されるケースが多いことから、ワクチンの接種を継続することが求められます。また、集団環境におけるマスクの着用が有効であると考えられます。
どのような場面で、どのような感染予防対策が必要とされるのか、エビデンスを基に判断が求められるのではないでしょうか。
✅まとめ✅ マサチューセッツ州の学校を対象とした観察研究の結果、マスクの着用とワクチンの完全接種はSARS-CoV-2感染リスクの低減と関連していた。一方、教室での接触は感染リスクの増加と関連していた。
根拠となった試験の抄録
試験の重要性:学校関連でのSARS-CoV-2感染はまれであるとされているが、実際の感染率は不明である。
目的:学校におけるSARS-CoV-2の二次感染率(secondary attack rate, SAR)および感染に関連する因子を明らかにすること。
試験デザイン、設定、参加者:このコホート研究では、2020年秋/2021年春(fall 2020/spring 2021, F20/S21)および2021年秋(fall 2021, F21)の2期間に、マサチューセッツ州の10の学区の幼稚園児から12年生までの生徒および職員を対象に、SARS-CoV-2の学校での伝播リスクを調査した。学校職員がSARS-CoV-2指標症例と学校内接触者のデータを収集し、SARは接触者がSARS-CoV-2感染を獲得した割合と定義した。
曝露:SARS-CoV-2。
主要転帰と評価基準:学年、マスク着用、曝露場所、ワクチン接種歴、社会的脆弱性指数(SVI)など、伝播に関連する可能性のある因子を、単変量および多変量のロジスティック回帰モデルを用いて解析した。
結果:F20/S21では、8学区(70校、生徒数33,000人以上)が対象となり、435例の指標症例(職員151例、生徒216例、役割不明68例)と1,771例の学校内接触者(職員278例、生徒1,492例、役割不明1例)が報告された。F21では、5地区(34校、生徒数18,000人以上)が参加し、309例の指標事例(職員37例、生徒207例、役割不明65例)、1,673例の学校からの連絡(職員107例、生徒1,566例)が報告された。F20/S21のSARは2.2%(下限1.6%、上限26.7%)、F21のSARは2.8%(下限2.6%、上限7.4%)であった。多変量解析では、F20/S21において、マスク着用は、マスクをしなかった場合と比較して、感染オッズの低下と関連していた(オッズ比[OR] 0.12、95%CI 0.04〜0.40;P<0.001)。F21では、教室での接触と教室外での接触は、感染のオッズ増加と関連していた(OR 2.47、95%CI 1.07〜5.66;P=0.02);完全ワクチン接種者とワクチン未接種者との接触は、感染のオッズ減少と関連していた(OR 0.04、95%CI 0.00〜0.62;P<0.001)。いずれの期間においても、SVIが高いほど伝播のオッズが高かった。
結論と関連性:マサチューセッツ州の学校を対象としたこの研究では、2つの期間において、学校を拠点とする接触者におけるSARS-CoV-2のSARは低く、伝播リスクに関連する因子は時間によって変化した。これらの所見から、疾病予防のための資源と緩和策の両方が最適かつ適切であり続けるためには、継続的なサーベイランスの取り組みが不可欠であることが示唆される。
引用文献
Prevalence and Risk Factors for School-Associated Transmission of SARS-CoV-2
Sandra B Nelson et al. PMID: 37540523 PMCID: PMC10403780 DOI: 10.1001/jamahealthforum.2023.2310
JAMA Health Forum. 2023 Aug 4;4(8):e232310. doi: 10.1001/jamahealthforum.2023.2310.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37540523/
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