心不全(HFmrEF・HFpEF)を呈する心房細動患者
過去のランダム化試験で、駆出率(EF)が低下した心不全患者における心房細動(AF)に対するカテーテルアブレーションは、死亡または心不全の減少につながることが示されています。しかし、EFが中程度あるいは保たれている心不全(HFmrEF・HFpEF)患者における心房細動に対するカテーテルアブレーションの効果は不明です。
そこで今回は、心不全(HFmrEF・HFpEF)を呈する心房細動患者に対するカテーテルアブレーションと薬物療法の効果を検証したレジストリー研究の結果をご紹介します。
本試験では、2つの多施設共同心房細動登録から、心不全を有し、左室EF≧40%の心房細動患者899例(男性72.4%、平均年齢68.4歳)をスクリーニングしました。
・アブレーション群:AF Fibrillation registry to Follow the long-teRm Outcomes and use of aNTIcoagulants aftER Ablation (AF Frontier Ablation Registry)のアブレーションを受けた525例
・内科的治療(薬物療法)群:the Hokuriku-Plus AF Registryのアブレーションを受けなかった374例)。
本試験の主要エンドポイントは心血管死と心不全による入院の複合であった。
試験結果から明らかになったことは?
傾向スコアマッチングにより、106組のマッチした患者が得られました。
アブレーション群 (106例) | 内科的治療群 (106例) | ハザード比 HR (95%CI) | |
心血管死と心不全による入院 | 7例(3.0%) | 25例(9.1%) | HR 0.32 (0.13〜0.70) P=0.004 |
心血管死 | 1例(0.4%) | 13例(4.7%) | HR 0.10 (0.01〜0.45) P=0.001 |
心不全による入院 | 6例(2.6%) | 19例(6.9%) | HR 0.36 (0.13〜0.86) P=0.02 |
24.6ヵ月の時点で、アブレーション群は内科的治療群と比較して主要エンドポイントの発生率が有意に低かった(ハザード比 0.32、95%信頼区間 0.13〜0.70、P=0.004)。
コメント
心房細動治療において、カテーテルアブレーションは侵襲を伴うため、薬物療法が優先されますが、早期のアブレーションにより患者転帰が良好であるエビデンスが集積してきています。
心房細動は心不全を高率に合併するため、心不全を呈する心房細動患者を対象とした治療効果の検証が求められます。心不全は左室駆出率によりタイプが細分化されますが、このタイプごとでアブレーションの効果が異なるのかについては検証されていません。
さて、本試験結果によれば、駆出率が中等度または保たれている心不全(HFmrEF・HFpEF)を呈する心房細動に対するカテーテルアブレーションは、内科的治療と比較して、心血管死または心不全による入院の発生が有意に低いことが示されました。左室駆出率によれず、心不全を呈する高齢の心房細動患者(約70歳)に対してカテーテルアブレーションは、内科的治療より有益なのかもしれません。ただし、対象となったのは各群106例とやや小規模です。追試が求められます。
続報に期待。
☑まとめ☑ 駆出率が中等度または保たれている心不全(HFmrEF・HFpEF)を呈する心房細動に対するカテーテルアブレーションは、内科的治療と比較して、心血管死または心不全による入院の発生を減少させるかもしれない。
根拠となった試験の抄録
背景:最近の無作為化試験で,駆出率(EF)が低下した心不全患者における心房細動(AF)に対するカテーテルアブレーションは,死亡または心不全の減少につながることが示された。しかし,EFが中程度あるいは保たれている心不全患者における心房細動に対するカテーテルアブレーションの効果は不明である。
方法:2つの多施設共同心房細動登録から、心不全を有し、左室EF≧40%の心房細動患者899例(男性72.4%、平均年齢68.4歳)をスクリーニングした。
・アブレーション群:AF Fibrillation registry to Follow the long-teRm Outcomes and use of aNTIcoagulants aftER Ablation (AF Frontier Ablation Registry)のアブレーションを受けた525例
・内科的治療(薬物療法)群:the Hokuriku-Plus AF Registryのアブレーションを受けなかった374例)。
この2つのレジストリで傾向スコアマッチングが行われ、106組のマッチした患者が得られた。
主要エンドポイントは心血管死と心不全による入院の複合であった。
結果:24.6ヵ月の時点で、アブレーション群は内科的治療群と比較して主要エンドポイントの発生率が有意に低かった(ハザード比 0.32、95%信頼区間 0.13〜0.70、P=0.004)。
結論:駆出率が中等度または保たれている心不全を呈する心房細動に対するカテーテルアブレーションは、内科的治療と比較して、心血管死または心不全による入院の発生を有意に減少させた。
キーワード:心房細動、心血管死、カテーテルアブレーション、心不全
引用文献
Effect of Catheter Ablation for Atrial Fibrillation in Heart Failure With Mid-Range or Preserved Ejection Fraction – Pooled Analysis of the AF Frontier Ablation Registry and Hokuriku-Plus AF Registry
Toyonobu Tsuda et al. PMID: 36464278 DOI: 10.1253/circj.CJ-22-0461
Circ J. 2022 Dec 2. doi: 10.1253/circj.CJ-22-0461. Online ahead of print.
— 読み進める https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36464278/
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