心不全(HFrEF)におけるSGLT2阻害薬の副作用と治療開始の障壁とは?(SR&MA; Eur J Heart Fail. 2022)

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駆出率が低下した心不全(HFrEF)に対するSGLT2阻害薬の治療開始を妨げる要因とは?

ナトリウム・グルコース共輸送体2(SGLT2)阻害薬はユニークな作用機序からさまざまな効果を示すことで、糖尿病だけでなく慢性腎臓病(CKD)や心不全にも使用されています。心不全のタイプはNYHAクラス分類の他、左室駆出率(LVEF)で分けられます。

駆出率が低下した心不全患者(HFrEF)に対して、医師は有害事象を懸念してガイドラインに沿った治療を開始することに躊躇することがあります。

そこで今回は、HFrEF患者におけるSGLT2阻害薬の使用と、低血圧、体液量減少、急性腎障害(AKI)のリスクについて検討したメタ解析の結果をご紹介します。本試験では、ランダム化比較試験で報告されたSGLT2阻害剤による前述の有害事象(AE)についてメタ解析を行い、要約リスク比(RR)を求めています。各アウトカムについて、fragility and reverse fragility index(FIまたはRFI)とそれに対応するfragility quotient(FQまたはRFQ)を計算し、メタ解析の頑健性を検討しました。

試験結果から明らかになったことは?

最終的にHFrEF患者 10,050例がメタ解析の対象となりました。

SGLT2阻害薬群プラセボ群要約リスク比(RR)
低血圧4.5%
(219/4,836例)
4.1%
(202/4,846例)
RR 1.09
(95%CI 0.91〜1.31
p=0.36
RFI 21、RFQ 0.002

低血圧は、SGLT2阻害薬では4.5%(219/4,836例)、プラセボでは4.1%(202/4,846例)に認められた(RR 1.09、95%CI 0.91〜1.31、p=0.36)。RFIは21、RFQは0.002であり、低血圧に関する所見は強固であることが示されました。

SGLT2阻害薬群プラセボ群要約リスク比(RR)
体液量減少9.4%
(473/5,019例)
8.7%
(438/5.031例)
RR 1.07
(95%CI 0.95〜1.21
p=0.25
RFI 19、RFQ 0.001

体液量減少はSGLT2阻害薬で9.4%(473/5,019例)、プラセボで8.7%(438/5.031例)に発生した(RR 1.07、95%CI 0.95〜1.21、p=0.25)。RFIは19、RFQは0.001であり、体液量減少に関する所見は中程度に頑健であることが示されました。

SGLT2阻害薬群プラセボ群要約リスク比(RR)
AKI1.9%
(95/4,888例)
2.8%
(140/4,899例)
RR 0.69
(95%CI 0.51〜0.93
p=0.02
FIは14、RFQは0.001

SGLT2阻害剤投与群(1.9%、95/4,888例)では、プラセボ投与群(2.8%、140/4,899例)に比べ、AKI発生率が低く(RR 0.69、95%CI 0.51〜0.93、p=0.02)、FIは14、RFQは0.001であり、AKIに関する知見は中程度に頑健であることが示されました。

コメント

ナトリウム・グルコース共輸送体2(sodium glucose cotransporter 2;SGLT2)阻害薬は、近位尿細管に存在するSGLT2を阻害し、SGLT2を介したグルコースの再吸収を抑制することで、尿糖排泄量を増加させます。これにより、インスリンの作用を必要としない血糖低下作用の他、尿排泄量の増加に伴う血圧の低下作用を示すこともあります。この作用機序から、低血圧や体液量減少、そして急性腎障害(AKI)のリスクが懸念されるため、SGLT2阻害薬の使用に際し慎重になるケースがあります。しかし、これらの有害事象(あるいは副作用)に関し、患者背景が多分に影響することから、薬剤による正味のリスクについて検証することが求められます。

SGLT2阻害薬使用開始時に認められる一時的なeGFR低下はfirst dipとも呼ばれ、既知の現象であることから、AKIのリスク増加を懸念する要因となっていると考えられます。しかし、これまでの研究結果を踏まえると、早期のSGLT2阻害薬の開始により、長期的にはeGFR低下のスロープは緩やかになること、つまり腎保護的に作用することが示されています。ただし、治療開始時のeGFRが30mL/min/1.73m2未満の患者集団における検討は充分に行われていません。

さて、本試験結果によれば、SGLT2阻害薬治療は、心不全(HFrEF)患者における低血圧および体液量減少のリスクとは関係していませんでした。一方、急性腎障害(AKI)リスクについては、低減することが示されました。過度に薬剤性有害事象のリスクを懸念するよりも、どのような患者で低血圧および体液量減少のリスクが起こりやすいのかについて注意しておくことが肝要出ると考えます。

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✅まとめ✅ SGLT2阻害薬治療は、HFrEF患者における低血圧および体液量減少リスクとは関係していなかった一方で、急性腎障害(AKI)リスクを低減することが示された。

根拠となった試験の抄録

目的:心不全で駆出率が低下した患者(HFrEF)に対して、医師は有害事象を懸念してガイドラインに沿った治療を開始することに躊躇することがある。我々は、HFrEF患者におけるナトリウム・グルコース共輸送体2(SGLT2)阻害剤の低血圧、体液量減少、急性腎障害(AKI)のリスクについて検討した。

方法:ランダム化比較試験で報告されたSGLT2阻害剤による前述の有害事象(AE)についてメタ解析を行い、要約リスク比(RR)を求めた。各アウトカムについて、fragility and reverse fragility index(FIまたはRFI)とそれに対応するfragility quotient(FQまたはRFQ)を計算し、メタ解析の頑健性を検討した。

結果:最終的にHFrEF患者 10,050例がメタ解析の対象となった。低血圧は、SGLT2阻害薬では4.5%(219/4,836例)、プラセボでは4.1%(202/4,846例)に認められた(RR 1.09、95%CI 0.91〜1.31、p=0.36)。RFIは21、RFQは0.002であり、低血圧に関する所見は強固であることが示唆された。体積減少はSGLT2阻害薬で9.4%(473/5,019例)、プラセボで8.7%(438/5.031例)に発生した(RR 1.07、95%CI 0.95〜1.21、p=0.25)。RFIは19、RFQは0.001であり、体液量減少に関する所見は中程度に頑健であることが示唆された。SGLT2阻害剤投与群(1.9%、95/4,888例)では、プラセボ投与群(2.8%、140/4,899例)に比べ、AKI発生率が低く(RR 0.69、95%CI 0.51〜0.93、p=0.02)、FIは14、RFQは0.001であり、AKIに関する知見は中程度に頑健であることが示唆された。

結論:SGLT2阻害薬治療は、低血圧および体液量減少の臨床的に関連するリスクとは無関係である。その使用は、AKIのリスクを低減する。この解析は、SGLT2阻害薬の早期使用に関する現在のガイドラインの推奨を支持するものである。

引用文献

Side effects and treatment initiation barriers of SGLT2 inhibitors in heart failure: A systematic review and meta-analysis
Davor Vukadinović et al. PMID: 35730422 DOI: 10.1002/ejhf.2584
Eur J Heart Fail. 2022 Jun 22. doi: 10.1002/ejhf.2584. Online ahead of print.
— 続きを読む pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35730422/

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