プロトンポンプ阻害剤の使用と健康上の有害転帰との関連性はどのくらいなのか?
プロトンポンプ阻害薬(PPI)の使用と有害事象の発生に関しては、コホート研究や症例対象研究で示されています。具体的には、“認知症”、”低 Mg血症”、”骨粗鬆症・骨折”、”ビタミン B12の欠乏”、”鉄の欠乏”、”間質性腎炎”、”市中肺炎”、”感染性腸炎” 等です。しかし、いずれも相関関係が示されたに過ぎず、質の高い検証が求められます。
そこで今回は、PPIの使用と有害事象に関する既存のエビデンスを要約し、エビデンスの確実性を評価するためにアンブレラレビューとメタ解析を実施した試験の結果をご紹介します。
試験結果から明らかになったことは?
コホート研究のメタ解析では、検討された91の関連性のうち52が統計的に有意でした(P≤0.05)。主解析では、高齢者集団におけるPPI使用とすべての部位の骨折および慢性腎臓病のリスクとの関連について説得力のあるエビデンスが示されました。しかし、感度分析の結果、いずれの関連も説得力のあるエビデンスにとどまりませんでした。PPIの使用は、COVID-19感染による死亡率およびその他の関連する有害事象のリスク増加とも関連していますが、エビデンスの質は弱いものでした。
RCTのメタ解析では、検討された63の関連性のうち38が統計的に有意でした。しかし、高質または中質のエビデンスによって支持された関連はありませんでした。
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PPIは胃酸の分泌を抑えることから、感染症リスクの増加や骨密度の低下、死亡等との関連性が報告されています。しかし、いずれも相関関係が認められたに過ぎません。
さて、本試験結果によれば、コホート研究のメタ解析では、高齢者集団におけるPPI使用とすべての部位の骨折および慢性腎臓病のリスクとの関連、COVID-19感染による死亡率およびその他の関連する有害事象のリスク増加との関連が示されましたが、いずれもエビデンスの質は低いようでした。RCTのメタ解析では、検討された63の関連性のうち38が統計的に有意でしたが、こちらもエビデンスの質は低いようでした。
PPI使用と有害事象の関連性について、明確な結果は得られませんでしたが、有害事象の発生するリスクが増加する可能性もあることから、漫然と投与することは避けた方が良いと考えられます。
✅まとめ✅ PPI使用と関連するとされるほとんどの有害事象は、質の高いエビデンスによって裏付けられていない可能性があり、根本的な交絡因子によって影響を受けている可能性が高いことを示唆している。
根拠となった試験の抄録
目的:プロトンポンプ阻害薬(PPI)の使用と有害事象に関する既存のエビデンスを要約し、エビデンスの確実性を評価するためにアンブレラレビューを実施することを目的とした。
方法:2021年7月までに、コホート研究及び/又はランダム化対照試験(RCT)のメタアナリシスについて、電子データベースを検索した。ランダム効果モデルによる要約効果量、研究間異質性、95%予測区間、小規模研究効果、過剰有意性、信頼性天井を考案し、コホート研究のメタアナリシスからのエビデンスの信頼性を分類し、RCTのメタアナリシスにはGRADEアプローチを使用した。
結果:コホート研究のメタアナリシスでは、検討された91の関連性のうち52が統計的に有意であった(P≤0.05)。主解析では、高齢者集団におけるPPI使用とすべての部位の骨折および慢性腎臓病のリスクとの関連について説得力のあるエビデンスが示された。しかし、感度分析の結果、いずれの関連も説得力のあるエビデンスにとどまらなかった。PPIの使用は、COVID-19感染による死亡率およびその他の関連する有害事象のリスク増加とも関連しているが、エビデンスの質は弱いものであった。RCTのメタアナリシスでは、検討された63の関連性のうち38が統計的に有意であった。しかし、高質または中質のエビデンスによって支持された関連はなかった。
結論:本研究の結果は、PPI使用と関連するとされるほとんどの有害事象は、質の高いエビデンスによって裏付けられていない可能性があり、根本的な交絡因子によって影響を受けている可能性が高いことを示唆している。PPI使用と骨折や慢性腎臓病のリスクとの因果関係を確認するためには、今後の研究が必要である。
キーワード:有害事象、コホート研究、メタアナリシス、プロトンポンプ阻害薬、ランダム化比較試験、アンブレラレビュー
引用文献
Association of proton-pump inhibitor use with adverse health outcomes: A systematic umbrella review of meta-analyses of cohort studies and randomised controlled trials
Sajesh K Veettil et al. PMID: 34622475 DOI: 10.1111/bcp.15103
Br J Clin Pharmacol. 2021 Oct 7. doi: 10.1111/bcp.15103. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34622475/
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