急性心不全で入院中の患者におけるエンパグリフロジン使用は有用ですか?(RCT; EMPULSE試験; Nat Med. 2022)

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エンパグリフロジンは急性心不全に対しても有効なのか?

急性心不全は、65歳以上の高齢者における入院の最も一般的な原因であり、重大な罹患率、死亡率、QOLの低下と関連しています(PMID: 26673558PMID: 30496103PMID: 32087174)。急性心不全で入院した患者に対する薬物療法を検証した複数のランダム化比較試験では、退院後の転帰の改善は認められず、重大なアンメットニーズが浮き彫りになっています(PMID: 31433919PMID: 20925544PMID: 17384437PMID: 28402745PMID: 31846016)。

ナトリウム・グルコース共輸送体2(SGLT2)阻害剤であるエンパグリフロジンおよびダパグリフロジンは、左室駆出率(LVEF)が低下した慢性心不全患者において、心血管死または心不全による入院のリスクを大幅に減少させます(PMID: 33283207PMID: 31535829)。また、エンパグリフロジンは、LVEFが保たれている慢性心不全患者において、心血管死または心不全による入院のリスクを有意に減少させる(PMID: 34449189)。SGLT1/2阻害剤であるソタグリフロジンは、糖尿病と最近悪化した心不全イベント(HFE)(PMID: 33200892)を有する患者さんの臨床転帰を改善することが示されています。

SGLT2阻害薬であるエンパグリフロジンが、急性心不全で入院した患者に対して臨床的な有用性をもたらすかどうかは不明でした。心不全による入院の初期には、血行動態の変化だけでなく、体液や電解質の大幅なシフトが定期的に起こります。このような時期にSGLT2阻害薬による治療を開始することが安全であるかどうかは、依然として不明でした。また、これまでのSGLT2阻害剤を用いた臨床試験では、新規発症(de novo)の心不全患者を対象とした試験は行われていませんでした。急性心不全で入院し、背景となる心不全治療がまだ行われていないde novo患者にエンパグリフロジンを投与開始した場合の有効性と安全性についても、まだ確立されていないのが現状でした。

今回ご紹介するのは、急性心不全で入院した患者の治療の3つの基本目標である生存率の向上、HFEsの減少、症状の改善に対するエンパグリフロジンの効果を評価したEMPULSE試験の結果をご紹介します。

試験結果から明らかになったことは?

2020年6月から2021年2月にかけて、15ヵ国118施設で合計566例の患者をスクリーニングし、530例の患者をエンパグリフロジン(n=265)またはプラセボ(n=265)にランダム割り付けされました。年齢中央値は71歳(四分位範囲 61〜78歳)、女性が34%、白人が78%でした。入院からランダム化までの期間の中央値は3日(四分位範囲 2〜4日)であり、その他の患者特性やベースライン時の薬物療法は、治療群間でバランスがとれていました。

エンパグリフロジン群11例(4.2%)、プラセボ群22例(8.3%)、計33例(6.2%)が死亡しました。67例(12.6%)の患者が少なくとも1つのHFEを有していました(エンパグリフロジン 28例、10.6%;プラセボ 39例、14.7%)。ベースラインから90日までのKansas City Cardiomyopathy Questionnaire Total Symptom Score(KCCQ-TSS)の調整済み平均変化量は、エンパグリフロジン群で36.2(95%信頼区間(CI) 33.3〜39.1)、プラセボ群で31.7(95% CI 28.8〜34.7) であり、エンパグリフロジン群はプラセボ群に比べ、有意に良好であることが示されました。

エンパグリフロジン投与群では、プラセボ投与群と比較してより多くの患者で臨床的有用性が認められ(層別勝率 1.36、95%信頼区間 1.09〜1.68;P=0.0054)、主要評価項目が達成されました。臨床的有用性は、急性心不全(新規発症)と慢性心不全(増悪)の両方で認められ、駆出率や糖尿病の有無に関係なく観察されました。また、エンパグリフロジンは忍容性が高く、重篤な有害事象はエンパグリフロジン投与群の32.3%、プラセボ投与群の43.6%で報告されました。

コメント

これまで左室駆出率(EF)の値を基に各心不全患者を対象にエンパグリフロジンの有用性について検証されてきましたが、急性心不全で入院した患者に対して臨床的な有用性をもたらすかどうかは不明でした。

さて、本試験結果によれば、急性心不全で入院中の患者へのエンパグリフロジンの投与開始は、忍容性が高く、投与開始後90日間に有意な臨床的有用性をもたらすことが示されました。主要評価項目は複合アウトカムでしたが、個々のアウトカムにおいても同様に、エンパグリフロジンの方がプラセボよりも優れていました。慢性心不全だけでなく、急性心不全に対してもエンパグリフロジンは有用なようです。

エンパグリフロジンについては、進行中だったEMPA-KIDNEY試験において、プラセボに対して有益性が認められたため早期中止となっています。様々な対象でエンパグリフロジンの有益性が認められていますね。続報に期待。

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✅まとめ✅ 急性心不全で入院中の患者へのエンパグリフロジンの投与開始は、忍容性が高く、投与開始後90日間に有意な臨床的有用性をもたらすことが示された。

根拠となった試験の抄録

背景:ナトリウム・グルコース共輸送体2(SGLT2)阻害薬であるエンパグリフロジンは、慢性心不全患者における心血管死や心不全入院のリスクを低減しますが、急性心不全で入院した患者にエンパグリフロジンを開始した場合に臨床転帰も向上するかどうかは不明です。

方法:本二重盲検試験(EMPULSE;NCT04157751)では、左室駆出率に関係なく急性心不全または代償性慢性心不全と診断された患者530例を、エンパグリフロジン10mg1日1回投与群またはプラセボ群にランダムに割り付けまた。患者は、臨床的に安定した状態で病院内でランダム化され(入院からランダム化までの期間の中央値は3日)、最長で90日間治療が行われた。本試験の主要評価項目は、臨床的有用性であり、死因別死亡、心不全イベント発生回数、心不全イベント初発までの期間の階層的複合、または90日後のKansas City Cardiomyopathy Questionnaire Total Symptom Scoreのベースラインからの変化が5点以上の差であり、勝率(win ratio)を用いて評価された。

結果:Intention-to-treatの原則に基づき、合計530例の患者が有効性解析に組み込まれた。そのうち524例が少なくとも薬剤投与を1回受けました(エンパグリフロジン群 260例、プラセボ群 264例)。これらの患者は、その後、安全性解析に組み込まれました。早期投与中止は114例(21.8%)に認められ、その内訳はエンパグリフロジン群52例(20.0%)、プラセボ群62例(23.5%)であり、エンパグリフロジン群と比較して、プラセボ群では投与中止の割合が有意に高いことが示されました。また、11例(2.1%)の患者が追跡調査を受けられなくなりました。
エンパグリフロジン投与群では、プラセボ投与群と比較してより多くの患者で臨床的有用性が認められ(層別勝率 1.36、95%信頼区間 1.09〜1.68;P=0.0054)、主要評価項目が達成された。臨床的有用性は、急性心不全(新規発症, de novo)と慢性心不全(増悪, decompensated)の両方で認められ、駆出率や糖尿病の有無に関係なく観察された。また、エンパグリフロジンは忍容性が高く、重篤な有害事象はエンパグリフロジン投与群の32.3%、プラセボ投与群の43.6%で報告された。

結論:これらの結果から、急性心不全で入院中の患者へのエンパグリフロジンの投与開始は、忍容性が高く、投与開始後90日間に有意な臨床的有用性をもたらすことが示された。

引用文献

The SGLT2 inhibitor empagliflozin in patients hospitalized for acute heart failure: a multinational randomized trial
Adriaan A Voors et al. PMID: 35228754 DOI: 10.1038/s41591-021-01659-1
Nat Med. 2022 Feb 28. doi: 10.1038/s41591-021-01659-1. Online ahead of print.
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