SARS-CoV-2自然感染後のomicron変異株に対する感染予防効果は?
重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2型(SARS-CoV-2)の自然感染では、B.1.1.7(α)(PMID: 34910864、PMID: 34914711)、B.1.351(β)(PMID: 34910864) および B.1.617.2 (δ)(PMID: 34864907)、これら変異株の再感染に対する強い防御力が発揮されることが報告されました。しかし、B.1.1.529(omicron、ο変異株)変異株は、免疫回避を媒介することができる複数の変異を保有しています。そのため、過去にCOVID-19を経験した感染既往患者における再感染予防効果の検証が求められます。
そこで今回は、カタールで行われたtest negative case-control(試験陰性症例対象)研究デザインを用いた人口ベース研究の結果をご紹介します。
本試験ではカタールにおけるο変異株および他のSARS-CoV-2変種株による症候性新規感染者の予防における既感染の有効性を推定されました。本研究では、カタール全国SARS-CoV-2データベースから、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の検査結果、ワクチン接種、臨床感染データ、関連する人口動態に関するデータが抽出されました。このデータベースには、パンデミックの開始以降カタールで行われたCOVID-19に関するポリメラーゼ鎖反応(PCR)検査結果、ワクチン接種、入院および死亡の全件が含まれています。
本試験において、SARS-CoV-2の再感染予防効果は、感染から回復した集団における感染感受性について、感染していない集団との比較による減少率として定義されました(プレプリント)。このような比較のための頑健な推定値を導き出すために最近研究・検証された方法(プレプリント)に基づいて、再感染を防ぐための感染既往の有効性を評価するために試験陰性症例対象研究デザインが使用されました。さらに、ワクチン接種有無の調整を含む感度分析を行うために、ワクチン接種者が分析から除外されました。カタールにおけるSARS-CoV-2感染への曝露リスクにおける既知の差異を制御するために、症例患者(PCR陽性者と定義)と対照者(PCR陰性者と定義)は、性別、年齢(10歳毎)、国籍、PCR検査の暦年間によりマッチングされました(プレプリント)。
疫学的に重要な再感染を確実に解析に含めるため、PCRサイクル閾値(Ct)値が30以下の文書化された感染のみが症例として本研究に含められました(PMID: 35087035)。また、再感染による入院や死亡を予防するための既往感染の有効性も推定されました。
試験結果から明らかになったことは?
研究集団全体はカタールの総人口をほぼ代表しており、研究サンプル全体の年齢の中央値は31~35歳でした。症例と対照群における過去の感染からPCR検査までの間隔の中央値は、α変異体の分析では279日(四分位範囲[IQR] 194〜313)、β変異株の分析では285日(IQR 213〜314)、δ変異株の分析では254日(IQR 159〜376)、ο変異株の分析では314日(IQR 268〜487)でした。
既感染による再感染予防効果 | COVID-19の重症、重篤、 致命的な症状に対する有効性 | 重篤なCOVID-19への進行 | |
α変異株 | 90.2% (95%CI 60.2~97.6) | 69.4% (95%CI -143.6~96.2) | 1例 |
β変異株 | 85.7% (95%CI 75.8~91.7) | 88.0% (95%CI 50.7~97.1) | 2例 |
δ変異株 | 92.0% (95%CI 87.9~94.7) | 100% (95%CI 43.3~100) | 0例 |
ο変異株 | 56.0% (95%CI 50.6~60.9) | 87.8% (95%CI 47.5~97.1) | 2例 |
再感染を防ぐための既感染の効果は、α変異株に対して90.2%(95%信頼区間[CI] 60.2~97.6)、β変異株に対して85.7%(95%CI 75.8~91.7)、δ変異株に対して92.0%(95%CI 87.9~94.7)、ο変異株に対しては56.0%(95%CI 50.6~60.9)だったと推測される。感度分析でも研究結果が確認され、この研究デザインは、ワクチン誘発免疫を制御するために使用されるアプローチに関係なく堅牢であることが予想されました(プレプリント)。
再感染した患者のうち、重篤なCOVID-19への進行は、α変異株の患者1例、β変異株の患者2例、δ変異株で0例、ο変異株の患者2例で起こりました。再感染が重症または致死的なCOVID-19に進行した症例は認められませんでした。COVID-19の重症、重篤、致命的な症状に対する有効性は、α変異株に対して69.4%(95%CI -143.6~96.2)、β変異株に対して88.0%(95%CI 50.7~97.1)、δ変異株に対して100%(95%CI 43.3~100)、ο変異株に対しては87.8%(95%CI 47.5~97.1)だと推測されました。
推定値の限界については、例えば、カタールの人口が比較的若いことなどが挙げられます。
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感染症において、自然感染時の免疫獲得は再感染リスクを低下させることが知られています。ただし、獲得した免疫は免疫は生涯持続するものばかりではありません。一度の感染で得られる強い免疫を終生免疫と呼び、これにはジフテリア、猩紅熱、百日咳、流行性耳下腺炎などがあります。一方、感染後に数年〜数ヵ月の免疫が得られる感染症として破傷風、赤痢、流行性髄膜炎、ポリオ、デング熱、そしてインフルエンザがあります。これまでの報告から、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)も感染後に数年〜数ヵ月の免疫が得られると考えられます。
さて、カタールで実施された研究結果によれば、SARS-CoV-2のα、β変異株への再感染を防ぐための既感染の効果は約90%でした。ο変異株については56.0%と、やや低い値でしたが、再感染による予防効果が示されました。再感染までの期間は9〜11ヵ月であることから、感染後6〜8ヵ月までにワクチン接種を受けた方が良いと考えられます。
✅まとめ✅ カタールの全国データベース研究において、SARS-CoV-2のα、β、δ変異株への再感染を防ぐための過去の感染の効果は約90%と強固であり、これは以前の推定を裏付ける所見であった。さらに、再感染による入院や死亡に対して既感染による防御は、変異株に関係なく強固であると思われた。
根拠となった試験の抄録
重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2型(SARS-CoV-2)の自然感染では、B.1.1.7(α)(PMID: 34910864、PMID: 34914711)、B.1.351(β)(PMID: 34910864) および B.1.617.2 (δ)(PMID: 34864907)、これら変異株の再感染に対する強い防御力が発揮されることが報告された。しかし、B.1.1.529(omicron)変異株は、免疫回避を媒介することができる複数の変異を保有している。カタールにおけるomicronおよび他のSARS-CoV-2変種による症候性新規感染者の予防における既感染の有効性を推定した。本研究では、全国SARS-CoV-2データベースから、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の検査結果、ワクチン接種、臨床感染データ、関連する人口動態に関するデータを抽出した。このデータベースには、パンデミックの開始以降カタールで行われたCOVID-19に関するポリメラーゼ鎖反応(PCR)検査結果、ワクチン接種、入院および死亡の全件が含まれている。
SARS-CoV-2の再感染予防効果は、感染から回復した集団における感染感受性について、感染していない集団との比較による減少率として定義されました(プレプリント)。このような比較のための頑健な推定値を導き出すために最近研究・検証された方法(プレプリント)に基づいて、再感染を防ぐための感染既往の有効性を評価するためにtest negative case-control(試験陰性症例対象)研究デザインを使用した。さらに、ワクチン接種有無の調整を含む感度分析を行い、ワクチン接種者を分析から除外しました。カタールにおけるSARS-CoV-2感染への曝露リスクにおける既知の差異を制御するために、症例患者(PCR陽性者と定義)と対照者(PCR陰性者と定義)は、性別、年齢(10歳毎)、国籍、PCR検査の暦年間によりマッチングされました(プレプリント)。
疫学的に重要な再感染を確実に解析に含めるため、PCRサイクル閾値(Ct)値が30以下の文書化された感染のみを症例として本研究に含めた(PMID: 35087035)。また、再感染による入院や死亡を予防するための既往感染の有効性を推定した。
研究集団全体はカタールの総人口をほぼ代表しており、研究サンプル全体の年齢の中央値は31~35歳であった。症例と対照群における過去の感染からPCR検査までの間隔の中央値は、α変異体の分析では279日(四分位範囲[IQR] 194〜313)、β変異株の分析では285日(IQR 213〜314)、δ変異株の分析では254日(IQR 159〜376)、ο変異株の分析では314日(IQR 268〜487)であった。
再感染を防ぐための既感染の効果は、α変異株に対して90.2%(95%信頼区間[CI] 60.2~97.6)、β変異株に対して85.7%(95%CI 75.8~91.7)、δ変異株に対して92.0%(95%CI 87.9~94.7)、ο変異株に対しては56.0%(95%CI 50.6~60.9)だったと推測される。感度分析でも研究結果が確認され、この研究デザインは、ワクチン誘発免疫を制御するために使用されるアプローチに関係なく堅牢であることが予想される(プレプリント)。
再感染した患者のうち、重篤なCOVID-19への進行は、α変異株の患者1例、β変異株の患者2例、δ変異株での患者なし、ο変異株の患者2例で起こった。再感染が重症または致死的なCOVID-19に進行した症例はなかった。COVID-19の重症、重篤、致命的な症状に対する有効性は、α変異株に対して69.4%(95%CI -143.6~96.2)、β変異株に対して88.0%(95%CI 50.7~97.1)、δ変異株に対して100%(95%CI 43.3~100)、ο変異株に対しては87.8%(95%CI 47.5~97.1)だと推測された。推定値の限界については、例えば、カタールの人口が比較的若いことなどが挙げられる。
カタールの全国データベース研究において、SARS-CoV-2のα、β、δ変異株への再感染を防ぐための過去の感染の効果は強固であり(約90%)、これは以前の推定を裏付ける所見であった(PMID: 34910864、PMID: 34914711、PMID: 34910864)。さらに、再感染による入院や死亡に対して既感染による防御は、変異株に関係なく強固であると思われた。
引用文献
Protection against the Omicron Variant from Previous SARS-CoV-2 Infection
Heba N Altarawneh et al. PMID: 35139269 PMCID: PMC8849180 DOI: 10.1056/NEJMc2200133
N Engl J Med. 2022 Feb 9;NEJMc2200133. doi: 10.1056/NEJMc2200133. Online ahead of print.
— 読み進める pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35139269/
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