COVID-19発症後の心血管リスクの種類とリスクの程度はどのくらいなのか?
重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2型(SARS-CoV-2)による新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の急性後遺症は、肺および心血管系を含むいくつかの肺外臓器に及ぶことがあります(PMID: 33887749)。COVID-19の急性期後の心血管アウトカムを調査した研究はいくつかありますが、そのほとんどは(COVID-19感染者の少数派である)入院患者に限られており、いずれも追跡期間が短く、心血管アウトカムの選択幅が狭いものでした(PMID: 33789877、PMID: 33428867、PMID: 32644129、PMID: 34011492)。COVID-19の急性期後遺症である12ヵ月時点での包括的な心血管系の評価はまだ行われておらず、急性期感染のケア環境(非入院、入院、集中治療室への入院)のスペクトラムにまたがるCOVID-19急性期後遺症の研究も不足しています。この知識ギャップに対処することは、COVID-19急性期後のケア戦略に情報を提供することになります。
そこで今回は、米国の退役軍人データベースを用い、COVID-19発症後の新血管疾患リスクについて検証したコホート研究の結果をご紹介します。
本研究では、米国退役軍人省の全国医療データベースを用いて、COVID-19発症後の最初の30日間を生き延びた米国退役軍人153,760例のコホートと、SARS-CoV-2感染の証拠がない米国退役軍人保健局(VHA)のシステム利用者5,637,647例からなる現代のコホートと、2017年の間にCOVID-19非感染VHA利用者5,859,411例からなる過去のコホート(COVID-19パンデミック前)、2グループを作成されました。これらのコホートを縦断的に追跡し、コホート全体および急性感染症のケア設定(非入院、入院、集中治療室への入院)に応じて、事前に規定した心血管アウトカムのリスクと12か月負担を推定しています。
試験結果から明らかになったことは?
COVID-19感染者は、感染後30日以降、脳血管障害、不整脈、虚血性および非虚血性心疾患、心膜炎、心筋炎、心不全、血栓塞栓症など、いくつかのカテゴリーにわたる心血管疾患の発症リスクが増加することが示されました。これらのリスクと負担は、感染症の急性期に入院していない人でも明らかであり、急性期の治療環境(非入院、入院、集中治療室への入院)に応じて段階的に増加しました。
脳血管障害
ハザード比 (95%CI) | 12ヵ月後の負担 (1万人あたり) | |
脳卒中 | 1.52 (1.43〜1.62) | 4.03 (3.32〜4.79) |
一過性虚血発作(TIA) | 1.49 (1.37〜1.62) | 1.84 (1.38〜2.34) |
脳血管の複合アウトカム | 1.53 (1.45〜1.61) | 5.48 (4.65〜6.35) |
COVID-19発症後の最初の30日間を生き延びた人は、脳卒中(ハザード比(HR) 1.52(1.43〜1.62)、12ヵ月後の負担は1万人当たり4.03(3.32〜4.79);一過性虚血発作(TIA)(HR 1.49(1.37〜1.62)、負担1.84(1.38〜2.34)のリスクが上昇した。これらの脳血管アウトカムを複合した場合のリスクと負担は、1.53(1.45〜1.61)および5.48(4.65〜6.35)でした。
不整脈
ハザード比 (95%CI) | 12ヵ月後の負担 (1万人あたり) | |
心房細動 | 1.71 (1.64〜1.79) | 10.74 (9.61〜11.91) |
洞性頻脈 | 1.84 (1.74〜1.95) | 5.78 (5.07〜6.53) |
洞性徐脈 | 1.53 (1.45〜1.62) | 4.62 (3.90〜5.38) |
心室性不整脈 | 1.84 (1.72〜1.98) | 4.18 (3.56〜4.85) |
心房粗動 | 1.80 (1.66〜1.96) | 3.10 (2.55〜3.69) |
不整脈の複合アウトカム | 1.69 (1.64〜1.75) | 19.86 (18.31〜21.46) |
心房細動(HR 1.71(1.64〜1.79); 負担 10.74(9.61〜11.91))、洞性頻脈(HR 1.84(1.74〜1.95); 負担 5.78(5.07〜6.53))、洞性徐脈 (HR 1.53(1.45〜1.62); 負担 4.62(3.90〜5.38))、 心室性不整脈(HR 1.84(1.72〜1.98); 負担 4.18(3.56〜4.85)); 及び心房粗動(HR 1.80(1.66〜1.96); 負担 3.10(2.55〜3.69))のリスク増加が示されました。これらの不整脈の複合アウトカムのリスクと負担は、1.69(1.64〜1.75)、19.86(18.31〜21.46)でした。
心臓または心膜の炎症性疾患
ハザード比 (95%CI) | 12ヵ月後の負担 (1万人あたり) | |
心膜炎 | 1.85 (1.61〜2.13) | 0.98 (0.70〜1.30) |
心筋炎 | 5.38 (3.80〜7.59) | 0.31 (0.20〜0.46) |
心臓または心膜の炎症性疾患の複合アウトカム | 2.02 (1.77〜2.30) | 1.23 (0.93〜1.57) |
心臓または心膜の炎症性疾患には、心膜炎(HR 1.85(1.61〜2.13); 負担 0.98(0.70〜1.30)と心筋炎(HR 5.38(3.80〜7.59); 負担 0.31(0.20〜0.46))が示されました。これらの心臓または心膜の炎症性疾患を複合した場合のリスクと負担は、2.02(1.77〜2.30)および1.23(0.93〜1.57)でした。
虚血性心疾患
ハザード比 (95%CI) | 12ヵ月後の負担 (1万人あたり) | |
急性冠動脈疾患 | 1.72 (1.56〜1.90) | 5.35 (4.13〜6.70) |
心筋梗塞 | 1.63 (1.51〜1.75) | 2.91 (2.38〜3.49) |
虚血性心筋症 | 1.75 (1.44〜2.13) | 2.34 (1.37〜3.51) |
狭心症 | 1.52 (1.42〜1.64) | 2.50 (2.00〜3.03) |
虚血性心疾患の複合アウトカム | 1.66 (1.52〜1.80) | 7.28 (5.80〜8.88) |
虚血性心疾患には、急性冠動脈疾患(HR 1.72(1.56〜1.90); 負担 5.35(4.13〜6.70))、心筋梗塞(HR 1.63(1.51〜1.75); 負担 2.91(2.38〜3.49))、虚血性心筋症(HR 1.75(1.44〜2.13); 負担 2.34(1.37〜3.51))、狭心症(HR 1.52(1.42〜1.64); 負担 2.50(2.00〜3.03))が示されました。これらの虚血性心疾患の複合アウトカムのリスクと負担は、1.66(1.52〜1.80)および7.28(5.80〜8.88)でした。
その他の心血管系疾患
ハザード比 (95%CI) | 12ヵ月後の負担 (1万人あたり) | |
心不全 | 1.72 (1.65〜1.80) | 11.61 (10.47〜12.78) |
非虚血性心筋症 | 1.62 (1.52〜1.73) | 3.56 (2.97〜4.20) |
心停止 | 2.45 (2.08〜2.89) | 0.71 (0.53〜0.93) |
心原性ショック | 2.43 (1.86〜3.16) | 0.51 (0.31〜0.77) |
その他の心血管障害の複合アウトカム | 1.72 (1.65〜1.79) | 12.72 (11.54〜13.96) |
その他の心血管障害には、心不全(HR 1.72(1.65〜1.80); 負担 11.61(10.47〜12.78))、非虚血性心筋症(HR 1.62(1.52〜1.73); 負担 3.56(2.97〜4.20))、心停止(HR 2.45(2.08〜2.89); 負担 0.71(0.53〜0.93))、心原性ショック(HR 2.43(1.86〜3.16); 負担 0.51(0.31〜0.77))が挙げられた。これらの他の心血管障害の複合のリスクと負担は、1.72(1.65〜1.79)および12.72(11.54〜13.96)でした。
血栓塞栓症
ハザード比 (95%CI) | 12ヵ月後の負担 (1万人あたり) | |
肺塞栓症 | 2.93 (2.73〜3.15) | 5.47 (4.90〜6.08) |
深部静脈血栓症 | 2.09 (1.94〜2.24) | 4.18 (3.62〜4.79) |
表在静脈血栓症 | 1.95 (1.80〜2.12) | 2.61 (2.20〜3.07) |
血栓塞栓性障害の複合アウトカム | 2.39 (2.27〜2.51) | 9.88 (9.05〜10.74) |
血栓塞栓症には、肺塞栓症(HR 2.93(2.73〜3.15); 負担 5.47(4.90〜6.08))、深部静脈血栓症(HR 2.09(1.94〜2.24); 負担 4.18(3.62〜4.79))と表在静脈血栓症 (HR 1.95(1.80〜2.12); 負担 2.61(2.20〜3.07)) が含まれる。これらの血栓塞栓性障害の複合のリスクと負担は2.39(2.27〜2.51)および9.88(9.05〜10.74)であった。
複合エンドポイントの追加
ハザード比 (95%CI) | 12ヵ月後の負担 (1万人あたり) | |
MACE | 1.55 (1.50〜1.60) | 23.48 (21.54〜25.48) |
深部静脈血栓症 | 1.63 (1.59〜1.68) | 45.29 (42.22〜48.45) |
次に、心筋梗塞、脳卒中、全死亡の複合である主要有害心血管イベント(MACE)、および任意の心血管系アウトカム(本調査で事前に指定した任意の心血管系転帰の発生と定義)の2つの複合エンドポイントのリスクと負担を検討した。対照群と比較して、MACEのリスクと負担が増加し(HR 1.55(1.50〜1.60); 負担 23.48(21.54〜25.48))、あらゆる心血管系転帰のリスクが増加した(HR 1.63(1.59〜1.68); 負担 45.29(42.22〜48.45))。
コメント
米国の退役軍人デーベースを用いた研究結果によれば、急性COVID-19生存者における心血管疾患のリスクと1年間の負担が大きいことが示されました。特に注目したいのは、心膜炎(HR 1.85)や心筋炎(HR 5.38)リスクです。このリスク増加は、mRNAワクチン接種よりも大きい可能性が高いです。
ただし本試験で用いられたデータは2020年3月1日までのデータですので、デルタやオミクロン流行期におけるリスクの程度については不明です。
続報に期待。
✅まとめ✅ 米国の退役軍人データベース研究の結果、急性COVID-19生存者における心血管疾患のリスクと1年間の負担が大きいようである。
根拠となった試験の抄録
背景:急性コロナウイルス症2019(COVID-19)の心血管合併症はよく知られているが、COVID-19の急性期以降の心血管症状についてはまだ包括的な特徴が得られていない。
方法:米国退役軍人省の全国医療データベースを用いて、COVID-19患者153,760例のコホートと、5,637,647例(現代対照)および5,859,411例(歴史対照)の2セットの対照コホートを構築し、事前に特定した一連の心血管疾患の発生リスクと1年間の負担を推定した。
結果:COVID-19感染者は、感染後30日以降、脳血管障害、不整脈、虚血性および非虚血性心疾患、心膜炎、心筋炎、心不全、血栓塞栓症など、いくつかのカテゴリーにわたる心血管疾患の発症リスクが増加することが示された。これらのリスクと負担は、感染症の急性期に入院していない人でも明らかであり、急性期の治療環境(非入院、入院、集中治療室への入院)に応じて段階的に増加した。
結論:我々の結果は、急性COVID-19生存者における心血管疾患のリスクと1年間の負担が大きいことを示すエビデンスとなる。COVID-19の急性期エピソードを生き延びた人々のケアとして、心血管疾患に対する注意を払う必要がある。
引用文献
Long-term cardiovascular outcomes of COVID-19
Yan Xie et al. PMID: 35132265 DOI: 10.1038/s41591-022-01689-3
Nat Med. 2022 Feb 7. doi: 10.1038/s41591-022-01689-3. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35132265/
関連記事
【イスラエルのワクチン接種状況とCOVID後遺症との関連性(横断研究; プレプリント; medRxiv 2022)】
【COVID-19入院患者における退院後の感染後症候群には何がありますか?(後向き研究; BMJ. 2021)】
コメント