― PSGで検証したランダム化二重盲検プラセボ対照試験(J Clin Neurol. 2018)
臨床疑問
不眠症状を訴える成人に、発酵米胚芽由来GABA 300mg/日を4週間摂取すると、プラセボと比較して客観的・主観的な睡眠状態は改善するのか?
研究の背景
ベンゾジアゼピン受容体作動薬などの睡眠薬は、GABA_A受容体を介する抑制性神経伝達を増強し、入眠潜時や睡眠維持を改善します。一方、耐性、依存、日中の鎮静、せん妄、運動失調、記憶障害などが問題となり得ます。
GABAは食品にも含まれ、これまで動物やヒトで睡眠への影響が研究されていました。しかし著者らによれば、従来のヒト研究は主として自己記入式質問票による主観的睡眠評価であり、客観的な睡眠構造や睡眠効率については十分明らかではありませんでした。
そこで本研究では、PSGを治療前後に実施するRCTによって、発酵米胚芽由来GABA(RFE-GABA)の効果を検証しました。
PICO
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| P:対象 | 不眠症状を有する18歳超の成人 |
| I:介入 | 発酵米胚芽抽出物由来GABA 300mg/日 |
| C:比較 | 外観を同一にしたプラセボ |
| O:主要評価項目 | PSGによる入眠潜時(sleep latency)の変化 |
| 副次評価項目 | 睡眠効率、睡眠構造、PSQI、ISIなど |
| 期間 | 4週間 |
| デザイン | 前向き・ランダム化・二重盲検・プラセボ対照試験 |
対象患者
不眠症状として、入眠困難、睡眠維持困難、早朝覚醒のいずれかを過去1カ月に認める成人が候補となりました。
さらに、PSQI >5 かつISI >8を満たす患者が対象です。
※ PSQI(Pittsburgh Sleep Quality Index:ピッツバーグ睡眠質問票)
※ ISI(Insomnia Severity Index:不眠重症度質問票)
重度のうつ・不安、神経疾患、他の睡眠障害、重篤な身体疾患、交替勤務、睡眠に影響する睡眠薬・鎮静薬使用などは除外されました。
最初に43人が登録され、3人が重度睡眠時無呼吸のため除外されました。最終的に40人が、GABA群30人、プラセボ群10人に3:1でランダム割付されました。平均年齢は49±14歳、男性は25%でした。
この30対10という非常に小さく不均衡な割付は、後ほど説明する重要な試験の限界になります。
どんなGABAを使用したのか?
単に「GABA 300 mg」だけではありません。使用されたのは以下を含む発酵米胚芽エキス GABA(RFE-GABA)です。発酵米胚芽抽出培地で Lactobacillus sakei B2-16を培養して作られ、製剤は15% GABAを含有していました。
このRFE-GABAとして、GABA量が300mg/日となるよう投与されました。摂取時刻は就寝1時間前です。プラセボにはマルトデキストリンが使用され、外観は同一でした。
したがって、この研究結果を市販されているすべての「GABA含有食品」へそのまま一般化することはできません。
PSGで睡眠を客観的に評価
本研究の面白いところです。治療前と4週間後に一般的な終夜睡眠ポリグラフ(standard overnight polysomnography:PSG)を行いました。
評価項目には総睡眠時間、N1・N2・N3睡眠、REM睡眠、入眠後覚醒時間(Wake After Sleep Onset:WASO)、入眠潜時、REM潜時、睡眠効率、arousal index(アロウスルインデックス、覚醒反応指数)などが含まれます。
さらに主観評価として、ピッツバーグ睡眠質問票(Pittsburgh Sleep Quality Index:PSQI)、不眠重症度質問票(Insomnia Severity Index:ISI)も測定されました。
試験結果から明らかになったことは?

主要評価項目:入眠潜時は短縮
GABA群では、4週間後にPSGによる入眠潜時が13.4 ± 15.7分 → 5.7 ± 6.2分へ短縮しました。群内比較では有意でした。さらに重要なのが、反復測定ANOVAにおける時間 × 群 交互作用:F(1,38)=7.510、P=0.009です。
一方、プラセボ群では7.0 ± 4.9分 → 15.2 ± 24.6分で、有意な群内変化は認められませんでした。
したがって、本研究で最も確かな陽性所見は、GABA群とプラセボ群で入眠潜時の経時変化が異なったことです。
単に「GABA群で前後差が有意、プラセボ群では非有意」だっただけではなく、主要評価項目について群×時間の交互作用そのものがP=0.009だったことは重要です。
睡眠効率もGABA群では改善したが……
抄録では79.4 ± 12.9% → 86.1 ± 10.5%、P=0.018と、GABA群の睡眠効率が改善したことが強調されています。しかし、全文のTable 2まで確認すると重要な注意点があります。
睡眠効率について、時間 × 群 交互作用は有意ではありませんでした。つまり、GABA群内では有意に改善したことと、プラセボよりGABAの改善効果が有意に優れていたことは同じではありません。
これは臨床試験を読むうえで非常に重要なポイントです。
PSGの結果を整理
| PSG指標 | GABA群:開始前 | 4週後 | 群×時間交互作用 |
|---|---|---|---|
| 入眠潜時 | 13.4±15.7分 | 5.7±6.2分 | P=0.009 |
| 睡眠効率 | 79.4±12.9% | 86.1±10.5% | 有意差なし |
| 総睡眠時間 | 312.0±52.1分 | 320.6±55.7分 | 有意差なし |
| WASO | 65.0±46.8分 | 45.4±47.0分 | 有意差なし |
| N1睡眠 | 15.2±7.5% | 12.6±8.8% | 有意差なし |
| N3睡眠 | 31.8±9.7% | 33.3±11.8% | 有意差なし |
| REM睡眠 | 16.3±6.8% | 18.3±6.8% | 有意差なし |
したがって「GABAによって睡眠構造全体が改善した」というデータではありません。
客観的PSGでプラセボとの差を支持する中心的な結果は、入眠潜時です。
主観的にはPSQI・ISIも改善
GABA群では4週間でPSQI 11.0±2.2 → 9.8±2.5(群内 P=0.003)、ISI 14.6±4.6 → 11.5±4.3(群内 P<0.0001)へ改善しました。これだけなら「GABAは主観的睡眠の質や不眠症状も改善した」と考えたくなります。
ところが、ここでも全文の解析が重要です。
著者らは「PSQI、ISIについて有意な群間効果または群 × 時間 交互作用を認めなかった」と報告しています。
つまり、GABA群内で改善したことは事実ですが、プラセボに対する優越性は統計学的に明確ではありません。
「群内では有意、群間差は非有意」の意味
この論文を読むうえで、かなり重要なポイントです。
例えばGABA群 P<0.05、プラセボ群 P>0.05 だったとしても「だからGABAはプラセボより効く」とは限りません。
介入効果を判断するには、両群の変化量そのものが違うかを見る必要があります。今回、入眠潜時 → 群×時間 P=0.009なので、群間差を支持します。
一方、睡眠効率 → 交互作用で有意差なし、PSQI → 交互作用で有意差なし、ISI → 交互作用で有意差なし です。
したがって結果をかなり単純化すると、入眠潜時:プラセボとの差を支持、睡眠効率・PSQI・ISI:GABA群内では改善したが、プラセボとの差は明確ではないと整理できます。
これは抄録だけを読むより、かなり慎重な結論になります。
有害事象はどうだった?
40人中4人(10%)に有害事象が認められました。内訳はGABA群3/30(10%)、軽度腹部不快感2人、頭痛1人、傾眠1人。プラセボ群1/10(10%)、傾眠:1人でした。
※1人が複数症状を報告しているため、症状件数と患者数は一致しません。
すべてGrade 1または2(軽度~中等度)で、Grade 3以上の重篤な有害事象は報告されませんでした。
ただし、わずか40人・4週間です。したがって「GABAは安全であることが証明された」とは言えません。
稀な有害事象や長期安全性を評価できる規模ではありません。
結果をまとめると
| 評価項目 | GABA群の変化 | プラセボとの差を支持? |
|---|---|---|
| PSG入眠潜時 | 13.4 → 5.7分 | ○ 交互作用のP=0.009 |
| PSG睡眠効率 | 79.4 → 86.1% | △ 群内改善のみ |
| PSQI | 11.0 → 9.8 | △ 群内改善のみ |
| ISI | 14.6 → 11.5 | △ 群内改善のみ |
| 睡眠構造 | 大きな変化なし | × 明確な群間差なし |
| 有害事象 | 3/30(10%) | プラセボ 1/10(10%) |
批判的吟味(研究の限界)
1.最大の問題はN=40という小規模試験
本試験における最大の限界です。GABA 30人 vs プラセボ10人、特に対照群が10人というのは非常に小さく、推定値が不安定になります。
実際、プラセボ群の4週後入眠潜時は、15.2±24.6分とSDが平均値を大きく上回っています。
少数の患者による変動の影響を受けやすいことが分かります。
2.3:1という不均衡割付
30対10という割付は、介入群の情報量を増やす一方で、介入効果を比較するための対照群情報が少なくなるという欠点があります。
著者ら自身もプラセボ群の患者数が少ないを主要な試験の限界として挙げています。
3.ベースラインPSGが完全には揃っていない
ランダム化したにもかかわらず、N1睡眠 9.4±4.7% vs 15.2±7.5%(P=0.022)、arousal index(覚醒反応指数) 17.6±8.5 vs 28.0±14.1(P=0.042)と、開始時点ですでに群間差がありました。
これは小規模RCTでは起こり得る問題です。
著者ら自身もベースライン時の睡眠特性の違いを試験の限界として認めています。
4.群内比較を過大評価しやすい
今回の研究で最も注意すべき統計的ポイントです。抄録だけを見ると睡眠効率 P=0.018などが目立ちます。しかしこれはGABA群の前後比較です。
全文の群×時間 交互作用では、睡眠効率に有意差はありませんでした。PSQIとISIについても同様です。したがって「GABAで改善した」と「GABAがプラセボより改善した」
を明確に区別する必要があります。
主要評価項目の入眠潜時では後者を支持する結果でしたが、その他の多くの指標ではそこまで示されていません。
5.4週間しか評価していない
不眠は慢性的な問題になり得ますが、本研究の介入期間は4週間です。したがって、長期的に効果が持続するか、耐性が生じるか、依存性があるか、中止後どうなるか、長期安全性、認知機能への影響は分かりません。
著者らも長期間の追跡が必要としています。
6.「不眠症患者」と一般化するには注意
対象者は不眠症状を有し、PSQI >5、ISI >8を満たしていました。しかし、この研究の組入基準は「不眠症状」を中心としており、現行の国際診断基準で厳密に診断された慢性不眠症患者全般への有効性を確立した大規模試験ではありません。
したがって「GABA 300mgは不眠症治療として有効」と一般化するにはエビデンスが不足しています。
7.特定の発酵米胚芽由来製剤
今回使用されたのは、特定の方法で製造されたRFE-GABAです。したがって「GABAと書いてあるサプリなら何でも同じ効果」とは言えません。
製剤、GABA量、併存成分、摂取時刻などが異なれば、同じ結果になる保証はありません。
8.作用機序は証明されていない
著者らはGABA作動性神経伝達などを作用機序として考察しています。しかし、経口GABAがBBBをどの程度通過するかについては研究間で見解が一致していません。
しかも今回、血中GABA、髄液GABA、脳内GABAなどを測定していません。したがって、
経口GABA → BBB通過 → 中枢GABA増加 → 睡眠改善 という機序をこのRCTが証明したわけではありません。
9.企業資金提供
本研究は、RFE-GABAを供給したNatural Way Co. Ltd.から資金提供を受けています。一方、著者らは金銭的な利益相反なしと申告しています。企業資金提供だけを理由に研究結果を否定することはできませんが、小規模試験でもあるため、独立した研究グループによる再現性確認は重要です。
この研究の強み
限界は多いものの、良い点もあります。特に、ランダム化+二重盲検+プラセボ対照であることに加えて、治療前後にPSGを実施したことは大きな強みです。
「GABAを飲んだらよく眠れた気がする」という主観評価だけではなく、客観的睡眠指標を評価しています。
さらに主要評価項目の入眠潜時については、単なるGABA群内の前後差だけでなく、時間 × 群 交互作用P=0.009が確認されています。
したがって、この研究を「全部プラセボ効果かもしれない」と切り捨てるのも適切ではありません。
より正確には「客観的入眠潜時についてはGABA 300 mg/日の短期的効果を支持する小規模RCTシグナルが得られたが、その他の睡眠指標についてプラセボを上回る効果は十分確立していない」と評価するのが妥当でしょう。
「GABAで睡眠効率が上がった」はどこまで言える?
抄録の結論には “improved not only the subjective sleep quality but also the objective sleep efficacy” (主観的な睡眠の質だけでなく、客観的な睡眠効率も改善した)とあります。
しかし、全文の統計解析まで考慮すると、この表現は少し強く見えます。
睡眠効率はGABA群内で 79.4% → 86.1% へ有意に改善しました。しかし、群×時間 交互作用は有意ではありません。
したがって「GABA群では睡眠効率が改善したが、プラセボに対する統計学的な優越性は明確ではなかった」と捉える方が、研究結果をより正確に反映しています。
薬剤師としてどう読むか
患者から「GABAって本当に眠れるんですか?」と聞かれた場合、「小規模ですが、GABA 300mgを就寝1時間前に4週間摂取すると、プラセボと比べてPSGで測った入眠までの時間が短くなった試験データがあります。ただし40人だけの研究で、睡眠効率や不眠症の質問票についてはGABA群内では改善したものの、プラセボとの差は明確ではありません。長期的な有効性・安全性も分かっていません」くらいの表現にとどめるのが、研究から言える範囲として適切です。
「GABAには睡眠改善効果が科学的に証明されている」と一括りにするには、この試験はあまりに小さいでしょう。
まとめ
Byunらは、不眠症状を有する成人40人をGABA300 mg/日群30人、プラセボ群10人に3:1で無作為化し、4週間の摂取前後でPSGと睡眠質問票を評価しました。主要評価項目のPSG入眠潜時はGABA群で 13.4±15.7分 → 5.7±6.2分 に短縮し、群×時間 交互作用P=0.009と有意でした。
一方、睡眠効率は79.4±12.9%から86.1±10.5%、PSQIは11.0から9.8、ISIは14.6から11.5へGABA群内で改善しましたが、これらについてプラセボとの差を示す有意な群×時間 交互作用は認められませんでした。
有害事象はGABA群3/30、プラセボ群1/10で、すべてGrade 1~2でした。ただし40人・4週間では長期安全性や稀な有害事象は評価できません。
したがって、一文でまとめるなら「発酵米胚芽由来GABA 300mg/日を4週間摂取した小規模二重盲検RCTでは、プラセボと比較してPSGで測定した入眠潜時の短縮を支持する結果が得られた。一方、睡眠効率や主観的睡眠指標はGABA群内では改善したもののプラセボに対する優越性は明確ではなく、対象40人・4週間という規模から、一般的なGABAサプリメントの有効性や長期安全性まで確立したとはいえない」という評価が、抄録だけでなく原著全文の解析結果まで踏まえた、より慎重な解釈になります。
いずれにせよ、本試験結果からだけでは確定的なことは言えません。再現性の確認を含めて更なる検証が求められます。
続報に期待。

✅まとめ✅ 二重盲検ランダム化比較試験の結果、精白していない米胚芽由来のGABAによる治療は、プラセボと比較して重篤な有害事象を伴わずに、主観的な睡眠の質だけでなく、客観的な睡眠効率も改善した。
根拠となった試験の抄録
背景と目的:本研究は、玄米胚芽から抽出されたγ-アミノ酪酸(GABA;1日300 mg)による治療後の睡眠の質の主観的および客観的な改善を明らかにすることを目的とした。
方法:本研究は、前向き無作為化二重盲検プラセボ対照試験として実施された。不眠症状を訴える患者計40名を登録し、GABA投与群(n=30)またはプラセボ群(n=10)に無作為に割り付けた。治療前および4週間の治療後に、睡眠ポリソムノグラフィーを実施し、睡眠に関する質問票の回答を収集した。
結果:4週間の治療後、入眠潜時が短縮した[治療前:13.4±15.7分 対 治療後:5.7±6.2分(平均±標準偏差)、 p=0.001]し、睡眠効率も向上した(79.4±12.9% 対 86.1±10.5%、p=0.018)。これらの改善はGABA治療群でのみ認められた。有害事象は4例(10%)に発生した。
結論:本研究は、精白していない米胚芽由来のGABAによる治療が、重篤な有害事象を伴わずに、主観的な睡眠の質だけでなく、客観的な睡眠効率も改善したことを示している。
キーワード:発酵米胚芽エキス;γ-アミノ酪酸;不眠症;治療
引用文献
Safety and Efficacy of Gamma-Aminobutyric Acid from Fermented Rice Germ in Patients with Insomnia Symptoms: A Randomized, Double-Blind Trial
Jung Ick Byun et al. PMID: 29856155 PMCID: PMC6031986 DOI: 10.3988/jcn.2018.14.3.291
J Clin Neurol. 2018 Jul;14(3):291-295. doi: 10.3988/jcn.2018.14.3.291.Epub 2018 Apr 27.
― 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29856155/

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