残薬が生じる要因は年齢によって違う?

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― 36,340人のPBPMデータからみた「残薬」のライフスパン解析(J Pharm Pharm Sci. 2026)

臨床疑問

外来患者で残薬が生じる要因は年齢によって異なるのか?また、薬剤数、処方日数、受診診療科数と残薬との関連は年代によってどのように変化するのか?

薬局で残薬というと「高齢者」、「多剤服用」、「飲み忘れ」を思い浮かべがちでしょう。

しかし実際には、若年者にも残薬は生じます。そして20~40歳代の患者と70~80歳代の患者で、残薬が生じる背景が同じとは限りません。

本研究はこの点を、10歳刻みのライフスパン解析によって検討しています。


研究の背景

服薬アドヒアランス不良は、薬物治療の有効性低下だけでなく医療費増加にもつながる重要な問題です。その手掛かりの一つがleftover drugs(残薬)です。

ただし、この論文を読むうえで最初に押さえておきたいのは残薬 ≠ 服薬アドヒアランス不良という点です。

残薬は飲み忘れだけでなく、医師による用量変更、治療中止、入院、治療完了、減処方(deprescribing)などによっても発生します。著者ら自身も、残薬を直接的な服薬アドヒアランス不良の測定値ではなく、服薬遵守に関連する潜在的な課題を示す多因子的な指標(proxy)として扱う必要があると論じています。

本研究施設では2016年4月から、地域薬局薬剤師が患者の残薬を確認し、事前に合意されたプロトコルに基づいて処方日数調整につなげるプロトコルに基づく薬物療法の管理(PBPM:protocol-based pharmacotherapy management)による残薬調整プロトコルを運用していました。

この実際のPBPM報告データを利用し「どの年代で、何が残薬と関連しているのか?」を検討したのが今回の研究です。

研究デザイン

単施設・後ろ向き観察コホート研究(single-center retrospective observational cohort study)です。

2016年4月1日~2021年3月31日に日立製作所ひたちなか総合病院を受診して処方箋が発行された外来患者42,122人から、非経口薬のみ、または頓用薬のみの患者5,782人を除外しました。

最終解析対象は36,340人でした。PBPMに基づく残薬報告が研究期間中に1回以上あった患者を残薬あり群 3,472人、報告が一度もなかった患者を残薬なし群 32,868人としています。

項目内容
研究デザイン単施設・後ろ向き観察コホート
期間2016年4月~2021年3月
対象定期的な経口薬処方を受ける外来患者
解析対象36,340人
残薬あり3,472人(9.6%)
残薬なし32,868人(90.4%)
残薬判定PBPMに基づく地域薬局からの客観的残薬報告
主な説明変数年齢、薬剤数、処方日数、受診診療科数、性別
主解析多変量ロジスティック回帰+交互作用解析
追加解析年代別ロジスティック回帰、予測確率モデル

年齢は10歳刻み

年齢は初診時年齢として、10歳未満、10歳代、20歳代、30歳代、40歳代、50歳代、60歳代、70歳代、80歳代、90歳以上の10群に分類しました。

さらに主要な処方関連因子は、薬剤数:5剤未満 vs 5剤以上、処方日数:30日未満、30~59日、60日以上、受診診療科数:1科、2科、3科以上にカテゴリー化されています。


試験結果から明らかになったことは?

結果① 残薬は全体の9.6%

36,340人中、3,472人(9.6%)に1回以上の残薬報告がありました。さらに残薬あり3,472人のうち、1回のみの報告は1,608人(46.3%)、2回以上の複数回報告は53.7%でした。

若年者では単回報告の割合が比較的高かった一方、中高年では複数回報告の割合が増え、40歳以上では半数を超えました。

結果② 残薬あり患者は「高齢・多剤・長期処方・多診療科」

全体比較では性別に有意差はありませんでした。一方、残薬あり群では残薬なし群と比較して、年齢が高く、薬剤数が多く、処方期間が長く、受診診療科数も多いという特徴がありました。これらはいずれもP<0.0001でした。性別についてはP=0.261で有意差を認めませんでした。

項目残薬あり残薬なし
平均年齢67.9歳51.3歳
平均薬剤数4.5剤2.3剤
平均処方日数75.6日38.1日
平均受診診療科数2.1科1.4科

結果③ 残薬割合は年齢とともに増加――ただし90歳以上では低下

実測された残薬割合は10歳未満 0.4%から年齢とともに段階的に増加し、80歳代 15.9%に達しました。ところが、90歳以上 10.5%へ低下しています。

したがって、単純な「年齢が上がれば上がるほど残薬が増える」という直線的関係ではありません。

ただし、90歳以上で低下した理由を本研究から断定することもできません。介護者による服薬管理などは考えられる仮説ですが、本研究では直接測定されていないため、ここを事実として説明するのは避けるべきでしょう。


結果④ 全体解析では「60日以上処方」が強く関連

多変量ロジスティック回帰の全体モデルでは、次の関連が認められました。

因子調整OR(95% CI)P値
男性 vs 女性0.89(0.75–1.05)0.166
5剤以上 vs 5剤未満3.11(2.58–3.76)<0.0001
30~59日 vs 30日未満11.10(7.07–17.44)<0.0001
60日以上 vs 30日未満28.89(19.53–42.74)<0.0001
2診療科 vs 1診療科1.44(1.18–1.76)0.0004
3診療科以上 vs 1診療科2.09(1.59–2.76)<0.0001

モデルのgeneralized R²は0.323、AUCは0.858でした。特に目を引くのは60日以上の長期処方で、30日未満と比較して全体AORは28.89です。

ただし、この数字だけを取り出して「60日処方にすると残薬が約29倍になる」と因果的に解釈してはいけません。

後述するように、年齢との有意な交互作用が認められているからです。

結果⑤ 最大のポイント――「残薬に関連する因子」が年齢によって変わる

今回の論文で最も重要なのはここでしょう。著者らは、各因子と年齢群との交互作用(interaction)を検討しました。

年齢との交互作用P値
性別 × 年齢0.554
薬剤数 × 年齢0.016
処方日数 × 年齢<0.0001
受診診療科数 × 年齢0.002

薬剤数・処方日数・受診診療科数と残薬との関連の強さは、年齢によって異なることが統計学的にも示されています。

性別についてはこのような年齢依存性は確認されませんでした。


若年者では「長期処方」が重要

20~40歳代では長期処方が残薬と最も強く関連する因子として現れました。著者らは年代別解析について、20~40歳代では60日以上の長期処方のAORが100を超えるほど強い関連を示したと報告しています。

これは非常に大きなORです。ただし「60日以上処方すると若年者の残薬が100倍になる」とそのまま臨床的な因果効果として解釈するのは適切ではありません。

観察研究ですし、年代別の一部カテゴリーでは症例数が少なく、ORが極端に大きくなり得ます。また、処方日数は研究期間中の最大処方日数として定義されています。

それでも、若年成人の残薬を考える場合、多剤服用だけを見るのではなく「何日分処方されているか」に注目する必要があるという仮説は、薬局実務上かなり興味深いものです。


高齢者では「多剤」と「複数診療科」が前面に出る

一方、高齢者ではリスク構造が変化しました。若年者ほど長期処方の影響が突出せず、polypharmacy(多剤服用)とmultidepartment visits(複数診療科受診)が残薬と関連する主要因として目立つようになりました。

これは、若年者 処方期間という「時間的負荷」に対し、高齢者 薬剤数+複数診療科という「治療複雑性」という異なる構造が存在する可能性を示しています。

ここが本研究の非常に面白いところです。


「5剤未満」は全年代で残薬が少ない方向

予測確率モデルでは、性別・年齢・診療科数・薬剤数・処方日数の全360パターンを用いて残薬発生確率を可視化しました。その結果、5剤未満であることは、すべての年代で一貫して残薬発生確率が低いことと関連していました。

つまり薬剤数の影響の大きさ自体には年齢差があるものの、薬剤負担を小さくすることが重要かもしれないという方向性は全年代に共通していました。

ただし、ここでも「薬を5剤未満に減らせば残薬が減る」と介入効果まで証明されたわけではありません。


この研究から考えられる年齢別アプローチ

著者らの結果を実務的に整理すると、次のようになります。

年代目立った関連因子薬局で考えたいポイント
20~40歳代長期処方処方日数は生活状況に合っているか、長期処方中の服薬実態を確認
中年期複数因子が重なる処方日数+薬剤数+受診先を総合的に確認
高齢者多剤服用・複数診療科処方一元化、薬剤整理、重複・不要薬、医療機関間連携
全年代5剤以上で残薬が多い方向薬剤数と服薬負担を定期的に再評価

これは本研究から導かれる実務的示唆であり、各介入によって残薬が減ることをRCT等で実証した結果ではありません。


批判的吟味(研究の限界)

1.単施設・後ろ向き観察研究

最大の制約は、単一医療機関の後ろ向き研究であることです。36,340人という大規模データではありますが、日本全国の薬局利用者を無作為に抽出した研究ではありません。

病院の患者構成、処方習慣、周辺薬局とのPBPM体制などが結果に影響している可能性があり、他施設・他地域へそのまま一般化することには注意が必要です。著者ら自身も選択バイアスを限界として挙げています。

2.「残薬なし」は、本当に残薬ゼロとは限らない

残薬あり群は、PBPMに基づいて地域薬局から残薬報告が1回以上あった患者です。したがって残薬を、患者が薬剤師に申告しなかった、来局前に廃棄した、診察時点ですでに処方調整されたといったケースは把握できない可能性があります。

つまり本研究が測定しているのは厳密には、すべての実在する残薬ではなく、PBPMの運用を通じて把握・報告された残薬です。

これは重要な測定・選定に関する問題です。

3.残薬は「ノンアドヒアランス」そのものではない

この点は著者も明確に注意しています。残薬は、飲み忘れ、自己調節、用量変更、治療中止、入院、治療完了、減処方(deprescribing)など、複数の経路で発生します。

したがって、残薬9.6% = 9.6%が服薬不遵守ではありません。この研究を「服薬アドヒアランス不良の危険因子研究」とだけ紹介すると、アウトカムを過度に単純化してしまいます。

4.重要な交絡因子が含まれていない

モデルに含まれた主要因子は、年齢、性別、薬剤数、処方日数、診療科数です。一方、疾患、認知機能、ADL、独居・同居、介護者の服薬管理、一包化、薬剤クラス、服用回数、経済状況、健康リテラシー自己調節しやすい充分などは十分に評価されていません。

著者らも、向精神薬など特定薬剤クラスが年代別の関連を修飾した可能性を指摘しています。したがって残存交絡はかなり重要です。

5.極端に大きなORには注意

特に若年者で60日以上処方のAOR >100という非常に大きな推定値が得られています。これは確かに興味深い結果ですが、ORはリスク比そのものではありません。

また若年層では残薬イベントそのものが少なく、たとえば10歳未満では残薬ありはわずか14人です。年代×処方カテゴリーへ細分化するとさらにデータが疎になります。

したがって、若年成人では、他の処方関連因子と比較して長期処方との関連が非常に強く観察されたと読むのが妥当でしょう。

6.「5剤未満にすれば残薬が減る」のかは不明

5剤未満では全年代で残薬の予測確率が低い結果でした。しかし、薬剤数を減らす介入を行って残薬が減少した研究ではありません。

多剤服用は疾患数や治療複雑性のマーカーでもあります。

著者らも結論で、服薬負担を減らすこと自体が残薬を減少させるのか、それとも処方期間や診療科数など他のリスク因子を反映しているだけなのかについて、前向き研究が必要としています。


この研究の強み

一方で、本研究には薬局研究として面白い強みがあります。第一に、単純なアンケートによる「飲み忘れはありますか?」ではなく、実際のPBPM残薬調整業務から得られた36,340人のデータを使用しています。第二に、年齢を「65歳未満/以上」のように大きく二分するのではなく、10歳刻みでライフスパン全体を解析しました。そして第三に、年齢 × 薬剤数、年齢 × 処方日数、年齢 × 診療科数という交互作用を検定しています。

単に「若者では有意、高齢者では有意」というサブグループの有意性の比較ではなく、因子の関連が年齢によって変化するかを交互作用として検証した点は重要です。


薬剤師として本論文をどう読むか

この研究から最も実務に持ち帰りやすいメッセージは「残薬がありますか?」だけで終わらず、「なぜ残ったのか」を年代に応じて考えることではないでしょうか。

20~40歳代で残薬が見つかった場合には、多剤服用だけを疑うのではなく「90日分出ていますが、途中で余ってきませんか?」、「長期処方になってから飲み忘れは増えていませんか?」という処方期間に着目した確認が候補になります。

一方、高齢患者では「何剤飲んでいるか」だけでなく「何科から薬が出ているか」を確認する価値が高くなります。

複数診療科・複数医療機関にまたがる場合には、お薬手帳、服薬情報提供、処方整理、医師間・薬局間連携などが重要になる可能性があります。

ただし、これらは今回の関連解析から考えられる介入候補であり、本研究がその介入効果を検証したわけではありません。


「残薬=患者が薬を飲まなかった」という発想から離れる

この論文で個人的に重要だと思うのは、残薬を患者個人の「飲み忘れ」という問題だけに還元しなくてよいことです。

今回関連したのは薬剤数、処方日数、診療科数でした。つまり残薬は、患者の行動だけでなく、処方設計や医療提供体制の複雑さとも関連している可能性があります。

とりわけ高齢者で複数診療科と多剤服用が関連していたことは「患者に、薬をもっときちんと飲んでもらう」だけでなく「そもそも服用しやすい処方になっているか」、「薬物治療全体を整理できないか」というメディケーション・レビューの視点にもつながります。

ただし、ここも本研究から因果関係として証明されたわけではなく、実務への解釈です。

まとめ

本研究は、PBPMに基づく残薬調整データを用いて、外来患者36,340人における残薬関連因子を10歳刻みで検討した単施設・後ろ向き観察研究です。残薬報告は3,472人(9.6%)に認められました。

全体では、残薬あり患者は高齢で、薬剤数が多く、処方期間が長く、受診診療科数も多いという特徴がありました。一方で、薬剤数(交互作用のP=0.016)、処方日数(P<0.0001)、診療科数(P=0.002)には年齢との有意な交互作用があり、残薬と関連する要因の構造そのものが年代によって異なることが示されました。

特に20~40歳代では長期処方との関連が強く、高齢者では多剤服用と複数診療科受診がより重要な関連因子となりました。また5剤未満では、全年代を通じて残薬の予測確率が低い傾向が認められました。

一方、本研究は単施設の観察研究であり、PBPMで把握された残薬だけを評価しています。さらに、残薬は服薬アドヒアランス不良そのものではありません。 処方変更、入院、治療中止、減処方などでも生じます。薬剤数を減らす、あるいは若年者の処方日数を短縮することで実際に残薬が減るかについては、この研究からは判断できません。

したがって、この研究のメッセージを一文で表すなら「残薬は単純な “高齢者の飲み忘れ” の問題ではなく、その関連因子はライフステージによって変化する可能性がある。若年成人では長期処方、高齢者では多剤服用と複数診療科という異なる背景に目を向けることが、年齢に応じた残薬対策を考える手掛かりになる。ただし、今回示されたのは関連であり、これらを修正することで残薬が減少するという因果効果については今後の前向き研究が必要である」というところでしょう。

日本で実施された研究であることから、結果の外挿性は高く、個々の患者の服薬アドヒアランス不良に対する介入を考える上で、参考になるデータであると考えます。

続報に期待。

paper decoration and variety of pills scattered on the surface

✅まとめ✅ 単一施設の後方視的コホート研究の結果、残薬に対する臨床的特徴の影響が年齢とともに大きく変化することが明らかになった。効果的な管理には、薬剤数の最小化を中心とした年齢層に応じた介入が必要であり、若年成人では処方期間の最適化を、高齢者では服薬の簡素化と医療機関間の連携の促進に重点を置いた方が良いのかもしれない。

根拠となった試験の抄録

はじめに:服薬アドヒアランスは、不十分なアドヒアランスが治療効果を低下させ、医療費を増加させるため、世界的に重要な課題である。残薬はアドヒアランスに関連する潜在的な課題を示す重要な指標であるが、その発生に寄与する年齢固有の要因、特に生涯にわたる要因については、依然として十分に解明されていない。本研究は、地域薬局におけるプロトコルに基づく薬物療法管理(PBPM)から得られた大規模な客観的データを用いて、残薬に関連する年齢層別の要因を明らかにすることを目的とした。

方法:本研究は、36,340名の外来患者を対象とした単一施設での後ろ向き観察コホート研究である。2016年から2021年にかけて地域薬局で実施されたPBPMに基づく客観的なデータ報告を分析した。多変量ロジスティック回帰分析および予測確率モデルを用いて、年齢(10歳刻み)と、薬剤数、処方期間、処方診療科数、性別の4つの主要な臨床的要因との相互作用を評価した。

結果:残薬の全体的な割合は9.6%(n = 3,472)であった。全対象集団の比較では、性別による有意な差は認められなかったが、残薬群の患者は有意に高齢であり、服薬数、処方期間、処方診療科数が多かった。多変量解析により、年齢と3つの主要な処方関連要因のそれぞれとの間に有意な相互作用が明らかになった。臨床的特徴が未服用薬の割合に及ぼす影響は、人生の各段階によって明らかに異なっていた。具体的には、若年成人(20代~40代)においては長期処方こそが最も強力なリスク因子であったのに対し、高齢患者においては多剤併用および複数診療科の受診が未服用薬に関連する主要な因子であった。予測確率モデルによると、処方薬が5種類未満であることは、すべての年齢層において一貫して未服用薬の発生確率が低いことと関連していた。

結論:本研究は、残薬に対する臨床的特徴の影響が年齢とともに大きく変化することを浮き彫りにしている。したがって、効果的な管理には、薬剤数の最小化を中心とした年齢層に応じた介入が必要であり、若年成人では処方期間の最適化を、高齢者では服薬の簡素化と医療機関間の連携の促進に重点を置くべきである。

キーワード:年齢層に応じた要因;地域薬局;残薬;服薬遵守;多剤併用

引用文献

Age-related risk factors for leftover drugs: a lifespan analysis in community pharmacies
Toshiyuki Hirai et al. PMID: 42761558 PMCID: PMC13586776 DOI: 10.3389/jpps.2026.16879
J Pharm Pharm Sci. 2026 Sep 4:29:16879. doi: 10.3389/jpps.2026.16879.eCollection 2026.
― 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42761558/

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