誤った情報を評価するためのオンライン検索は、誤報の信憑性を高める可能性がある?(Nature. 2023)

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オンライン検索はニュース記事の真実性を評価できるのか?

ソーシャルネットワークを中心に、ネット上の誤情報に対する理解には、学術的にかなりの注意が払われてきました。しかし、情報の信憑性を評価するためにオンライン検索を利用することは、メディアリテラシー介入の中心的な要素であるにもかかわらず、情報環境における検索エンジンの支配的な役割については、まだ充分に研究されていません。

従来の常識では、誤った情報を評価する際にオンライン検索を行えば、その情報に対する信頼が低下すると考えられていますが、この主張を評価する実証的証拠はほとんどありません。

そこで今回は、虚偽のニュース記事の真実性を評価するためのオンライン検索が、実際に虚偽のニュース記事を信じる確率を増加させるか検証した研究結果をご紹介します。

本研究では、この関係を明らかにするために、調査データとカスタムブラウザ拡張機能を使って収集したデジタル痕跡データを組み合わせられました。

試験結果から明らかになったことは?

試験デザイン対照群処置群回答者が虚偽または誤解を招く記事を真実と評価する確率知覚された真実性
(7段階の順序尺度)
研究1虚偽/誤解を招くようなニュース記事13件を対象に回答者を2群にランダム割付け876例
評価:1,145
872例
評価:1,130
19%増加
0.057(P=0.037、cohen’s D=0.12、n=2,275)
016増加
(P=0.154、Cohen’s D=0.09、n=2,275)
研究2回答者内評価1,010例同1,010例22%増加
0.071(P<0.0001、Cohen’s D=0.15、n=2,020)
0.24増加
(P=0.0004、Cohen’s D=0.13、n=2,020)
研究3研究2を再現し結果の堅牢性を評価982例同982例18%増加
0.066(P=0.0018、Cohen’s D=0.14、n=1,964)
0.23増加
(P=0.0038、Cohen’s D=0.13、n=1,964)
研究4COVID-19の健康、経済、政治、社会的影響を主な主張とする最も人気のある記事のみを対象386例同386例20%増加
0.067(P=0.0452、Cohen’s D=0.14、n=772)
0.26増加
(P=0.0054、Cohen’s D=0.14、n=772)

検索効果は、検索エンジンがより質の低い情報を返す個人の間に集中していることが明らかとなりました。これらの結果から、誤った情報を評価するためにオンライン検索をする人は、データの空白、つまり低品質な情報源からの裏付けとなる証拠を提示される情報空間に陥るリスクがあることがわかりました。

また、ニュースを評価するためにオンライン検索をすると、質の低い情報源からの真実のニュースに対する信憑性が高まるという一貫した証拠が得られましたが、主流情報源からの真実のニュースに対する信憑性が高まるという一貫した証拠は得られませんでした。

コメント

誤情報の影響に対する懸念は増大の一途をたどっており、米国では誤情報に対する信奉が民主主義の正統性を脅かし、COVID-19パンデミックの際には世界の公衆衛生を脅かしました(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33547453/)。学者、メディア、政策立案者の間では、誤報の拡散や誤報信仰におけるソーシャルメディア・プラットフォームの役割にかなりの注目が集まっていますが、ニュースを評価するためのオンライン検索(searching online to evaluate news, SOTEN)が誤報を信じることにどのような影響を与えるかという、基本的でありながらあまり研究されていない問題については比較的知られていません。

さて、本試験結果によれば、誤った情報を評価するためにオンライン検索をする人は、データの空白、つまり低品質な情報源からの裏付けとなる証拠を提示される情報空間に陥るリスクがあることが明らかとりました。具体的には、回答者が虚偽または誤解を招く記事を真実と評価する確率が約20%増加することと関連していました。

一貫した結果が得られなかったものの、ニュース記事を評価するためにオンライン検索をする際には、質の低い情報源よりも、主流情報源から検索した方が良いかもしれません。

続報に期待。

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✅まとめ✅ 誤った情報を評価するためにオンライン検索をする人は、データの空白、つまり低品質な情報源からの裏付けとなる証拠を提示される情報空間に陥るリスクがあることが明らかとなり、これは回答者が虚偽または誤解を招く記事を真実と評価する確率が約20%増加することと関連した。

根拠となった試験の抄録

背景:ソーシャルネットワークを中心に、ネット上の誤情報に対する理解には、学術的にかなりの注意が払われてきた。しかし、情報の信憑性を評価するためにオンライン検索を利用することは、メディアリテラシー介入の中心的な要素であるにもかかわらず、情報環境における検索エンジンの支配的な役割については、まだ十分に研究されていない。従来の常識では、誤った情報を評価する際にオンライン検索を行えば、その情報に対する信頼が低下すると考えられているが、この主張を評価する実証的証拠はほとんどない。ここでは、5つの実験を通じて、虚偽のニュース記事の真実性を評価するためのオンライン検索が、実際に虚偽のニュース記事を信じる確率を増加させるという一貫した証拠を示す。

方法:この関係を明らかにするために、調査データとカスタムブラウザ拡張機能を使って収集したデジタル痕跡データを組み合わせた。
研究1:オンライン調査会社Qualtricsを通じて、米国在住の回答者3,006例を10日間かけて募集し、発表から48時間以内に主流と低品質の情報源から3つの記事を参加者に提示した。参加者は、送られたすべての論文を評価するために役立つようにオンライン検索を促される群(処置群)と、オンライン検索を促されない群(対照群)にランダムに割り付けられた。その後、回答者全員に、カテゴリー尺度(真実、虚偽/誤解を招く、判断できない)と7段階の順序尺度の両方を用いて、記事の真実性を評価するよう求めた。重要な課題は、ファクトチェック機関からの評価が得にくい時期である出版直後の記事の真実性を立証することであった。このため、記事を送付し、国内の主要な報道機関のプロのファクトチェッカー6人のグループによる評価を同時に受けた。ファクトチェッカーは、記事を「真実」、「虚偽または誤解を招く」、「判断できない」のいずれかに評価した。

結果:検索効果は、検索エンジンがより質の低い情報を返す個人の間に集中していることがわかった。この結果から、誤った情報を評価するためにオンライン検索をする人は、データの空白、つまり低品質な情報源からの裏付けとなる証拠がある情報空間に陥るリスクがあることがわかる。また、ニュースを評価するためにオンライン検索をすると、質の低い情報源からの真実のニュースに対する信憑性が高まるという一貫した証拠が得られたが、主流情報源からの真実のニュースに対する信憑性が高まるという一貫した証拠は得られなかった。
研究1:13件の虚偽/誤解を招くようなニュース記事について、対照群では876例のユニークな回答者から1,145の評価を、処置群では872例のユニークな回答者から1,130の評価を集めた。オンライン検索を奨励されることの治療効果を推定するために、記事レベルの固定効果と標準誤差を回答者と記事レベルでクラスター化した通常の最小二乗(OLS)回帰モデルを当てはめ、誤情報に対する信念(つまり、虚偽または誤解を招く記事を真実と評価すること)を予測した。基本的な人口統計学的要因(年齢、教育、所得、イデオロギー的一致、性別)を統制しており、特に断りのない限り、本稿のモデルはすべてこれらの仕様に従っている。オンライン検索を勧められると、回答者が虚偽または誤解を招く記事を真実と評価する確率が0.057増加することを示している(P=0.037、cohen’s D=0.12、n=2,275)。これは、回答者が虚偽または誤解を招く記事を真実と評価する確率が19%増加したことを表している。7段階の順序尺度を使用した場合、知覚された真実性が0.16増加したことを示している(P=0.154、Cohen’s D=0.09、n=2,275)。
研究2:次に、すでにニュース記事の信憑性を評価した後に、検索効果が個人の評価を変えるほど強いかどうかを調べた。そのために、まず回答者にネット検索を勧めずに記事を評価してもらい、次に回答者にネット検索を勧めずに同じ記事を再度評価してもらうという、回答者内調査を行った。回答者が一貫性に対してバイアスを持っていると仮定すると、検索効果を見つけるためには、回答者が前回の評価を変えなければならないので、これは研究1よりもさらに強力なテストとなる。この研究を実施するために、33日間に渡ってクオルトリックスを通じて4,252例のアメリカ人回答者を募集し、そのうち1,010例に、公開から48時間以内に1つの偽/誤解を招くような人気オンライン記事を提示した。そして、ネット検索を促す前の評価(対照)と、促した後の評価(処置)を比較した。注目すべきは、研究2において、ネット検索をすると、回答者が虚偽/誤解を招く記事を真実と評価する確率が0.071(P<0.0001、Cohen’s D=0.15、n=2,020)増加することである。これは、回答者が虚偽のニュース記事を真実と考える可能性が22%増加し、7段階の順序尺度で0.24(P=0.0004、Cohen’s D=0.13、n=2,020)増加することに相当する。その結果、虚偽/誤解を招く記事を最初に虚偽/誤解を招くと正しく評価した人のうち、17.6%がネット検索を促された後に評価を真に変更した(比較として、記事を最初に真と誤って評価した人のうち、ネット検索を求められた後に評価を虚偽/誤解を招くに変更したのはわずか5.8%であった)。最初に虚偽の記事の真偽を判断できなかった人のうち、ネットで検索するよう促された後に、虚偽/誤解を招くよりも真実に評価を誤った人の方が多かった。このことは、虚偽/誤解を招くようなニュースを評価するためにオンライン検索をすると、その真実性に対する信頼が誤って高まる可能性があることを示唆している。これら最初の2つの研究は、オンライン検索が誤報に対する信頼性を、その発表後直接高めるという一貫した証拠を示しているが、場合によっては、誤報が発表後数週間から数ヵ月経ってから広まることもある。このような場合、誤報を取り巻くネット上の情報環境は、最初の48時間に遭遇したものとは異なっている可能性がある。専門家によるファクトチェックが公表されるまでに数日から数週間かかることが多いため28、誤報が公表された直後には、検索エンジンは同様の誤報を返し、信頼できる情報はほとんど返されない可能性がある。したがって、出版後時間が経過するにつれて、オンライン検索を行う個人は、より多くの専門的な事実確認や信頼できる情報に接するようになり、研究1と2で確認された検索効果がなくなるか、あるいはさらに楽観的な方向に変化する可能性があると予想される。
研究3:論文発表後、さらに時間が経過した場合の研究1と2の結果の頑健性を検証するため、研究2を再現する第3の研究(研究3)を実施した。この研究では、論文発表後3ヵ月から6ヵ月の間に、新しい回答者に同じ論文を評価してもらった。研究3では、クオルトリックスを通じて1ヶ月にわたって4,042例のアメリカ人回答者を募集し、そのうち982例が、まず1つの虚偽/誤解を招く記事を、ネット検索を勧められることなく評価し、次にネット検索を勧められると再度評価した。オンラインで検索すると、回答者が虚偽/誤解を招く記事を真実と評価する確率が0.066増加することがわかった(P=0.0018、Cohen’s D=0.14、n=1,964)。これは、同じ虚偽/誤解を招く記事を、その記事が発表されてから数ヵ月後であっても、治療後に再評価するよう求められた後では、18%多くの回答者が真実と評価したことを意味する。また、オンラインで検索すると、7段階評価で0.23ポイント上昇することもわかった(P=0.0038、Cohen’s D=0.13、n=1,964)。回答者が出版から数ヵ月後に、より信頼性の高い情報に接した可能性はあるが、searching online to evaluate news(SOTEN)効果が誤報に対する信念に与えた影響を否定するものではなさそうである。
研究4:注目すべき出来事に関する誤報を調査したときにも、誤報を信じることに対するSOTENの効果が維持されるかどうかを調べるために、COVID-19の流行期に4番目の研究(研究4)を実施した。この研究は、研究2および3と似ているが、COVID-19の健康、経済、政治、社会的影響を主な主張とする最も人気のある記事のみを対象としたものである。2020年6月に8日間にわたって行われたこの研究では、Qualtricsを通じて1,130例の回答者を募集した。これらの回答者のうち合計386例は、発表から72時間以内にCOVID-19に関連する虚偽/誤解を招くようなオンライン記事を1つ提示された。オンラインで検索すると、回答者が虚偽/誤解を招く記事を真実と評価する確率が0.067(P=0.0452、Cohen’s D=0.14、n=772)、つまり虚偽/誤解を招く記事を真実と信じる可能性が20%増加し、7段階の順序尺度で0.26増加することがわかった(P=0.0054、Cohen’s D=0.14、n=772)。

結論:われわれの発見は、メディア・リテラシー・プログラムが経験的に検証された戦略に基づいて推奨を行う必要性と、検索エンジンがここで明らかになった課題に対する解決策に投資する必要性を強調している。

引用文献

Online searches to evaluate misinformation can increase its perceived veracity
Kevin Aslett et al. PMID: 38123685 DOI: 10.1038/s41586-023-06883-y
Nature. 2023 Dec 20. doi: 10.1038/s41586-023-06883-y. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38123685/

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